2.就職先が決まりました!
ちなみに、全話通してレーラは無表情の予定。
それを想像の上で、お読みください。
「いやぁ、助かりました。ありがとうございます」
「いえ、偶然ですので」
――少年を救出して、数分後。
彼の父親だという男性が姿を現わした。
少年は父の後ろに隠れてしまい、いまは表情をうかがい知れない。レーラは怖がらせてしまっただろう、と思いながらも平静を装って父親に訊ねた。
「この賊は、いったい?」
彼女が示したのは、簀巻きにされた同業者。
この暗殺者たちの様子を見る限り、少年を殺すつもりはなかったようだ。もしそうなら、叫び声を上げた頃には命を奪われてしまっていただろう。
「……おそらく、身代金目的でしょう」
「身代金……?」
レーラの問いに、父親は難しい声色で応えた。
「はい……。わたしの家は、それなりに有名ですから」
そして、深いため息をつく。
彼の反応を見る限り、これが初めて、というわけではないらしい。
それなりに有名という話だったが、あるいは名のある貴族なのだろうか。そう考えながらもう一度、レーラは少年の方へと視線をやった。
「…………!」
すると彼は、驚いたように顔を引っ込める。
さらさらとした金色の髪が揺れていた。やはり、怖がられている。
これ以上ここにいたら、きっとこの子の精神に大きな負担をかけるだろう。そう思って、レーラは短く断ってから踵を返した。
名残惜しいが、ここでお別れだ。
――そう、思っていたのだが。
「あ、あの……!」
「……え?」
不意打ちのように、少年が声を上げる。
彼女が驚き振り返ると、そこには勇気を振り絞った様子の少年の姿。
彼は胸の前で拳を握りしめて、緊張に蒼の瞳を揺らしながらこう続けた。
「あ、ありがとうございました! その、かっこよかったです!!」――と。
愛らしく幼い顔を淡く朱色に染めながら。
彼は真っすぐに、レーラへ感謝を述べたのだった。
「え、あ……?」
想定外の感謝を投げかけられ、彼女は困惑する。
返答に窮していると、やや息を荒くしている息子のことを見て、父親はしばし考えた後にこう言った。
「まさか、レオが初対面の人に心を開くとは。驚いたな……」
そして、再びレーラへと視線をやって頷く。
彼はゆっくりと彼女のもとへ歩み寄り、こう提案するのだった。
「もしよろしければ、レオのために働いてくれないかな? 給金は弾むし、衣食住も保証するよ」――と。
それは、願ってもない条件。
しかしレーラは迷い、答えられずに惑っていた。すると、
「あの、お姉さん……?」
「…………!?」
気付けば少年――レオがすぐ傍にきて、彼女の服の袖を掴んでいた。
どこか遠慮がちな上目遣いで、レーラを見ながら少年は言う。
「ボク、お姉さんと一緒にいたいです……!」――と。
それを耳にした瞬間。
レーラの中で何かが弾け飛んだ。
そして、今までの何もかもを殴り捨てる決意が固まる。
「わ、わかった……」
「ホント!?」
彼女が詰まりながらも答えると、レオの表情がパッと明るくなるのだった。
かくして『最高の暗殺者』と呼ばれた女性は、給仕となる。だがこの凸凹な関係が後に大きな問題になることは、誰もが予想していなかった。
これは己の素性を必死に隠す元暗殺者と、彼女を慕う少年の物語。
次回更新は、明日の昼頃を予定しています。
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