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1.なにこの子、可愛いっ!?

女暗殺者に、衝撃が走る。


面白いと思っていただけましたらブックマークなど!

創作の励みとなります!









「(あーあ、またお仕事なくなっちゃった……)」




 レーラはぼんやりとそう考えながら、夜の街を歩いていた。

 元雇い主の貴族からクビを言い渡されてから数刻が経過。ひとまず交渉の末に自分の存在は他言しないよう言質を取ったが、問題はそれよりも次の就職先だった。

 暗殺者という特殊な仕事ゆえに、競合相手はそこまで多くない。

 しかしながら、生活していくに十分な稼ぎがあるか、と問われれば否だった。



「(うーん、お給料を上げてほしい、ってお願いしただけなのに……)」



 氷のような無表情のまま、そんなことを考えるレーラ。

 暗殺稼業は、亡くなった両親の後釜として始めたものだった。元々、才能に満ちていたのだろう。彼女はあっという間に『最高の暗殺者』と裏世界で呼称されるようになった。

 しかし、それもこれも本人が望んでいたことではない。

 単純に生活費を稼ぐ手段に過ぎないのだ。



「(本当はもっと、女の子らしいことがしたいのになぁ……)」



 そう思い、歩いていると。

 レーラの視界に、女性ものの服を扱う店が入った。



「あぁ……」



 思わずため息が漏れる。

 暗がりでも夜目の利く彼女には、展示されている服の愛らしさは分かった。

 貴族の少女が着用するのであろう綺麗なドレスに、給仕向けのものであろう衣装まで。そこにあったのは、自分とは正反対の世界に生きる女の子の景色だった。


 ――いいなぁ、と。


 そう考えながら、レーラはしばし立ち止まってそれを眺めた。

 もし生まれた環境が異なっていたなら、自分はどんな仕事に就いていたのだろうか。毎日のように繰り返したそんな妄想に耽り、最後に彼女は小さくため息をついた。



「(ううん……。でも、私には――)」



 そして、後ろ髪を引かれる思いをしながら踵を返した時だ。




「誰か助けてください!!」

「…………!?」




 そんな男の子の声が、夜の街に木霊したのは。



「(そこまで遠くない……!)」



 そう判断すると、レーラの行動は早かった。

 声のした方へと向かって、最短距離を通って急行する。建物の屋根の上を走り、飛び、そしてついに助けを求めた少年の姿を視界に捉えた。

 仄暗い路地裏。

 身に着けているものからして、貴族の子息だろうか。

 年端もいかない彼は息を切らしながら、必死に走っていた。



「(あれは、追手……?)」



 レーラは気付く。

 その少年の背後に、数人の男が迫っているのを。

 みな一様に黒の装束姿をしており、十中八九、同業者だと思われた。



「あ……!」



 そう考えていると、少年の逃げ場がなくなる。

 行き止まりに捕まった彼は、恐怖に怯えながら男たちの方を振り返った。膝が笑っている様子は、見ていてとかく可哀想だ。

 そう思ったレーラは、考えるより先に――。



「ぐあ……!?」



 屋根から飛び降り、音もなく着地。

 そして、素早く集団最後方の賊を昏倒させた。



「な、誰だ……!?」



 相手も素人ではない。

 一人がやられたことを即座に察し、全員がレーラを見た。

 各々に武器を取り出し、彼女との距離を測ろうとする。だが、



「遅い……!」



 息つく暇すら与えない。

 レーラは短くそう呟くと、瞬く間に男たちの意識を刈り取った。

 無論、殺しなどしていない。このように幼い少年の手前、血を流すようなことはしたくなかった。彼女は周囲に敵がいないことを確認し、ゆっくりと男の子へと歩み寄る。


 そして、逡巡した後に手を差し出して。

 最大限に優しい声色で言った。



「……大丈夫、だった……?」――と。





 次の瞬間、雲の切れ間から月明かりが差し込んだ。

 明かりが少年の幼い顔を照らす。



「あ……(可愛いいいいいいいいいいいい!!)」








 それを見た瞬間、レーラの脳内に教会の鐘の音が鳴り響くのだった……。




 


次の更新は、22時頃!


面白かった

続きが気になる

更新がんばれ!



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― 新着の感想 ―
[一言] ほぼ即座にブックマーク、フル星献上。続きが楽しみです。
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