プロローグ お仕事クビになっちゃった、あーあ……。
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「レーラ、お前はもう用済みだ」
――とある貴族の邸宅。
黒服に身を包んだ一人の女性の前で、椅子に腰かけた男性はそう言った。
葉巻をくわえ、偉そうに足を組んだ彼は侮蔑の色を浮かべて女性に視線を投げる。無表情のまま立つ彼女は、やがて短くこう返した。
「なぜ、ですか?」
見ればようやく、綺麗な顔に感情が浮かんでいる。
もっとも眉間に皺を寄せたそれは、おおよそ好意的なものと思えなかったが。
「なぜ、か……。そうだな、一つ教えてやろうか」
女性――レーラの言葉を受けて、相手の男性は一つ頷いた。
そして、大きく息をついてからふんぞり返る。
「お前は暗殺者、すなわち……トカゲの尻尾に過ぎないのだよ」――と。
彼がそう言った直後だ。
部屋の扉が一斉に開いたかと思えば、大勢の男性がなだれ込んできた。
みな一様に黒装束を身にまとい、手には暗器を持っている。一見して分かった。彼らは日の光を浴びる世界で生きている者たちではない、と。
すなわち、殺しを生業とする人間。
レーラにとっては、同業ともいえる存在だった。
「あはははははは! どうだ、さすがのお前もこの人数は無理だろう!?」
「……………………!」
元雇い主の笑い声を聞きながら、即座に自身の得物を構えるレーラ。
しかし、小型のナイフ一本で十数人の男を相手にするのは困難であるように思われた。絶望的な状況。確実とも思える死の瞬間が、すぐ目の前に迫っていた。
だが、しかし――。
「…………ふっ!」
――杞憂、というやつだろうか。
レーラがほんの微かに、身を屈めた瞬間だ。
男たちの視界から、彼女の姿が一瞬にして消え失せる。そして、
「がは……!?」
「なに!?」
最前列にいた暗殺者が、昏倒した。
糸の切れた人形のように崩れ落ちた彼を見て、他の者に動揺が走る。そうなると、もう完全に勝敗は決したようなものだった。
「う、うそだ……! どうなっている!?」
元雇い主の目には、信じられない光景が広がる。
今回雇った暗殺者たちは、全員が手練れのはずだった。
それにもかかわらず、その者たちはいとも容易く一人の女性暗殺者に倒されていく。なすすべなく、まるで赤子の手を捻るかのようにして。
「ひ……!?」
そうして、気付けば残るは彼一人になっていた。
レーラという暗殺者は一つ、小さく息をついてから無表情に元雇い主を見る。鋭い新緑の眼差しに射抜かれて、完全に腰を抜かしてしまう男性。
彼のもとに歩み寄って、レーラはその喉元にナイフを突きつけた。
「私の存在は今後一切、他言無用を約束いただけますか?」
そして、そう訊ねる。
「な、に……?」
「そうすれば、いまばかりは命はお取りしません。ただ、もし――」
彼女は抑揚のない声で、ハッキリと告げた。
「私の存在が漏れることがあれば、覚悟していただきます」――と。
鋭利な響きに、元雇い主は過呼吸寸前に追い込まれる。
しかし、ここで死にたくはない。
彼は情けない顔で、何度も頷きながらレーラに命乞いをするのだった。
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