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第9話

 村山は、何も収穫がなくて残念で、落ち込んでいた。


 彼は、彼の下の者に事務所の戸締りを任せたり、他の事を任せたのを心配していて、急遽、事務所に戻ることにした。


 事務所の駐車場に車を止めて歩いていたら事務所の電気がついていることに気がついた。


——おかしいな。まだ電気が付いているぞ。まったく、頼むぞって言ったじゃないかよ。なんで電気くらい消せないんだ。


 彼はポケットから鍵を出して差し込んで鍵を回した……ドアノブを回して引っ張ったが、ドアは鍵がかかっていて開かなかった。

おいおい……鍵も閉められないのか。こんなとこを会長に見られたら……。彼は鍵を閉めてしまっていたのだった。


 彼は、もう一度鍵を出して鍵を回してドアを開けた。


 誰もいないと思った彼は、電気がついている部屋に向かった、扉を開き、すぐ近くの電気のスイッチに手をかけた。


「おい」と言う声に驚いて飛び跳ねた。


「なんで、こんなところにいるんですか」


「なんで? ここは、俺の事務所だぞ」


 そこには、いつものように田部井が椅子に座っていた。


 いつもと違ったところは、右手の人差し指で未使用の銃弾を、机の上でクルクルと回転させていた。


「お前こそ、なにしてんだ? 歯の痛みは消えたのか?」田部井は回っている銃弾を見つめたまま話していた。


 松山会の会長、田部井はここへ帰ってきていた。


 頭を悩ませていた事を忘れるために、酒を飲もうと夜の街に出かけようとしたが、何故だか誰も居ない静かな事務所に戻り、起きたことを整理しようとして帰って来ていたのだった。


「歯は——もう大丈夫ですよ」村山は気まずい空気のせいで顔が硬ってしまった。「じゃ俺、あの……たまたまここを通ったら電気付いていて、消し忘れたかと思って、戻って来たんですよ。それだけなんで、もう帰りますね」


 彼は、急いで逃げる様に出て行き、扉を背中の後ろで閉めようとした。


 それを見ていた田部井は、回っていた銃弾を村山の背中に目掛けて投げた。


 背中に、なにかを感じた村山は振り返ったが、それと同時に金属が落ちる音がして地面に視線を落とした。


 彼は回っている銃弾を見て冷や汗をかいた。


「嫌だな……会長」彼はしゃがんで、それを拾って言った。


「そんな暗いところにいないで、電気の下に来てよく見てみろ」


 村山は指示に従って、恐る恐る灯りの下に寄って行った。彼の頭は、まるで拳銃に撃たれた様に真っ白になっていた。


「松山?」


 彼は驚きを声にしたつもりだったが、彼の声は自分で感じているほどに大きくは無くて、むしろ声は出ていなくて口の形だけが『松山』と、動いただけだった。


「どう思う?」田部井はタバコに火を付けた。「驚くのも無理はないさ」


「これは、どこで? まさかここに届いたってことではないですよいね? それか、今日あのボロアパートで見つけたんですか?」


 田部井は、下に落ちていた目線を彼の方にやった。村山は、それと同時に目を逸させられたが、


「おい、なんで知ってんだ?」


「いや、その……」村山は、このことについて告白しようか迷ってしまったが口を勢いに任せた。「だって会長が、心配だったんですよ」


 これを聞いた田部井は、なにかを言おうとしたが、村山に遮られてしまった。


「だって、最近の様子が変だったじゃないですか! それが俺にバレていないとでも思っていたんですか? 一人行動は多くなっているし、うちの組が殺したかも定かじゃないのに、身代わり出頭させるし! 二回もですよ!」


 田部井は、入る隙を探していたが入れないでいた。


「どうなっているんですか?」


「やっと俺の話す機会を与えてくれたな。お前はどこまで俺の事を探ったんだ?」


「どこって……今日は、あなたについて行って……」

 

 村山は、田部井について行った事を話そうとした。けれども彼に、いつ怒られたりするのが気になって表情を伺っていた。


「会長の後に続いて、俺も喫茶店に入ったんですよ。上手くいきましたよ! 本当は俺、営業マン向きだったかもしれないんです」


 すぐに話すのに夢中になってしまって、田部井の表情の事を忘れてしまっていた。


「で? あのマスターが何から何まで教えてくれたんだな?」


 村山は、彼の表情から殺意が湧いているのを感じた。


「いや、そうでは無くて」


——俺が殺されるかもな……と恐怖を感じた。


「なんだ? 早く言え」


「俺が、とにかく上手くやったんですよ! 誰も傷つけない方法で」

 と彼は言った。ここも上手く行くと思った。


「まあいいだろ」と田部井は、掌を広げて村山に向けた「もうこんな事が起こってしまったんだからな」

 

 村山は彼の掌に銃弾を置いた。


「この文字がどんな、事を示しているかは知っているよな?」


「ええ。これはヤクザの戦争……」


「そうだ。俺があのアパートに行くと知っていてわざわざ置いてくれたんだろうな、あの渋野会の誰かが……」


「まさか、渋野会、とやり合うってわけじゃないですよね?」


「でも、お前も知っての通りな——今の渋野会は、もう力も何も残っていない。あの池田が死ねば、いい話だ」


「でも、待ってください。なんで、この文字が入った銃弾が神田の部屋にあったんですか?」


「おい。お前は生粋の馬鹿なヤクザ者だな」


 村山は瞳を大きく見開いた。


「いいか? 俺が、なんで二人も出頭させたと思っているんだ?」


 村山は、考えたけれども答えは出なかった。


「あのな、俺が仕組んだ事なんだよ。神田を使って東川を殺ったんだ」


「じゃ、車を爆発させたのも?」


「いや、それは俺の指示ではなかったんだ。あの野郎が勝手にした事だ」


「なんでそんな事したんですかね」


 田部井はため息をついて「知らないさ」と言った。それから一、二分間の間黙っていた。


「だから、この銃弾が神田の部屋にあったのなら、きっと俺の計画がバレて神田はきっともう……」ここで言葉を切った。「連れ去られて死んでんだろうな」


 村山は、何も言えなかった。


「で? お前は、あのボロのアパートに行ったのか?」


「行きましたよ。散々な荒らされようでしたね」


「俺は、神田に殺しの報酬として金を与えてやったんだが、あの荒らされ様じゃそれ以上に借金してたみたいだな」


「借金?」


「そうだよ。あいつの家具や、いろんな物が取られていたろ?」


「はい」村山の表情は曇っていた。


「どうしたんだ? なんでも話すマスターは、お前にその事は話してなかったのか?」


「ええ。まあ」彼は必死に作り笑顔をした。


「マスター曰くだな神田は、数日前にあの喫茶店をやめて、俺の金で違う人生を歩もうとしたんだ。でも俺がやつに金を出したことは知ってはいないだろうがな、マスターは」


「なるほど」


「でだな俺も、それもマスターが言っていた通りに、やつは飛んで新しい人生を行ったのだと、思ったんだ。この銃弾を見つけるまでは」彼は握っていた銃弾を見つめた。


「俺は、何も知らないから空き巣に入られただけだと思いましたよ」


「その線もあるな。けれども、神田が連れ去れて……死んだのか、死んでないのかは、どっちでもいいが、この文字を入れた銃弾を俺にわかる様に仕組んだ事は、もう彼ら——もしくは彼が——だけが、争いが起きても良いと言う事だろう」


「どうするんですか?」


「池田の野郎を探す以外にないだろう」


 彼はそういうと、左脇の下にしまってある拳銃を取り出して銃弾が中に入っているか確認して、脱いでいた上着を着た。

 

 村山も、彼と同じような行動をとった。


 彼らは、事務所を出て田部井の車まで二人で歩いて行き、田部井が運転席に座り村山が助手席に座った。


 田部井は、エンジンを付けライトを点灯させアクセルを踏んだ。


 彼らの車は、村山が止めていた車の横を通りすぎて行こうとしたが、


「あの、待ってください」


 村山は車を停止させるように言った。


「なんだよ!」田部井は、ここまで格好良く決まったいたのにと顔をしかめた。


 村山は車から出て行き自分の車のトランクを空けた。


 バックミラー越しに見ていた田部井は、彼の遅さに苛立っていた。


 村山は、なにか重たいものをトランクから出すと、助手席に戻ってきた。


 田部井は、瞳を見開き、拳を握って、彼の頬に一つ喰らわせた。


「てめー、それはトランクにしまえ! こんな、でけえマシンガン持ってるとこバレたらどうすんだ」と言い、今度は彼を車から押し出した。


「そうでしたよね」村山は、絶妙な馬鹿さ加減の微笑みを見せて、トランクにそれをしまって戻ってきた。


「どこで手に入れたんだ? あんな立派なマシンガン」


 田部井は、アクセルをまた踏み込んで発進させた。


「この間、ぶっ飛ばした相手が持っていたんで」と、彼は外国人のような満足した表情をして見せた。「どこに行くんです?」


「まずは、渋野会の事務所に訪問だな」


 田部井と村山は、男が同じ気持ちで、同じ方向に進む独特な感情と空気に包まれた。


 そして目を合わせて、片方の頬だけを上げて二人して微笑んだ。


 ——最高な瞬間だ、と闘争心に燃えた二人はそう感じた。


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