表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/41

第6話

 田部井は身支度整えて、どこか出掛けようとしていた。


 いつも彼のそばにいて護衛をしている、村山は疑問に思った。

「どこへ行くんです?」訊いてみた。


「俺か?」彼はジャケットに袖を通していた「少しな、外の空気でも吸いに行こうかと」


「車回しときますよ」


「必要ない。自分で運転するからな」

 村山が何かを読み取った表情をしたのを田部井は感じ取った。

「ああ。そうだな。車だけ回しといておくれ」


「わかりました」

 そう言うと彼は部屋から出て行き、駐車場へ向かった。


——会長は何がしたいのだろう? ここまで俺らに秘密にすることがあるのだろうか?


 いつも出かけるときは、この俺が運転をしていつも見守っていたのに……。


 ここ最近は、一人行動が多い気がした。


 渋野会の池田会長が慕っていた二人が死んで、その他の数人の怪我人が出たことよりも、出頭させた若い奴らのことしか首を突っ込まなかった。でもなぜ身代わり出頭なんてさせたのだろうか? 


「お前警察に行って来い」

なんて言ったのには、何か秘密を知っているに違いはない。しかも、ならば殺った者も知っているはずだ……。もしかして会長自身が……。

 そんなことを考えながら車を回して、田部井が来るのを待っていたら彼が出てきた。


「本当に一人もつけなくて大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ」


 彼はそう言うと、早々に車を発進させて行ってしまった。

 村山は反射的に近くを通ったタクシーを拾って、田部井の後を追ってしまった。


 田部井が運転している車は、村山が知っている彼の行動範囲を外れて行った。そうかと思うといつもの彼の寄る喫茶店に入って行った。


——いつもと変わらない行動なのか? 確かにドライブと言えばドライブにはなるけどな……。


 田部井は、たまに一人で寄る喫茶店でマスターと話していた、と言ってもいつもは一人で時間を潰してはいるが、外には何人かの護衛はいた。


「いらっしゃい」マスターはコップの手入れをしていながら言った。「田部井さんじゃないですか」


「おう。あの若い奴はどこに行った?」田部井はカウンターに座った。


「若い奴ですか? なに飲みます?」


「名前は、なんて言ったかな?」田部井は、よそよそしかった。「コーヒーで」


「きっと、神田じゃないですかね?」マスターはコーヒーを丁寧に入れ始めて良い香りが充満した。


「彼は辞めましたよ。やだなー田部井さんも人の名前を忘れるなんて。あなたじゃないですか! ここで、こいつの面倒を見てくれって言ったのは」彼はコーヒーを田部井の前に置いた。


「そうだったな」温かいコーヒーを優しく飲んだ。「いつ辞めたんだ?」


「最近ですよ。え? 待ってください。あなたに挨拶しに行かなったのですか?」


「いやいや来たんだ。そうだそうだった。最近は、すぐ忘れてしまってね。いつものようにここに来たら、あの坊やに会えると思ったんだ。記憶というのは、いつも自分の好きなことしか覚えていないものだな」と田部井は微笑んで、コーヒーをすすった。「なんか言っていたかね? その……」


「神田ですか?」

 

 田部井は頷いた。


「彼は『もうこの街に来ることはないかも知れない』とかなんとか。それで僕は『なんかやらかしたのか?』って訊いたら『いいや。なにもやってないですよ』って少し浮かれてましたかね」


 田部井は、鼻を鳴らして微笑んだ。


「それからすぐですよ。急に連絡がつかなくなってね」


「そうだったのか」


「言っといてくださいよ! 田部井さん! 少しは大人のルールに従えって」


「わかったよ」田部井は口元を緩ませて微笑んだ。「一応聞いておくが、神田の住んでいたところは、まだ変わっていないか?」


「変わってないですよ。今は住んでいないでしょうけどね」


「そうか」——どこへ行ったんだ? 田部井は眉をひそめた。


「僕も神田と連絡がつかなくなった時に行ってみたんですけどね。夜逃げみたいになってましたよ」


「どういうことかな」


「夜逃げですよ。あなた達の職業には、よくあることじゃないのですか。引っ越し、した痕跡もないんですよ」


——そうだ。それだけの金はあいつに渡した。きっとやり直せられる金くらい与えてしまったのかもな。


「あ、でも少しだけ不自然な……不自然ではないのかも知れませんが、神田の住む部屋のアパートの鍵が壊されていたんですよ。あいつ金に困ってどっかの野郎から汚い金でも借りてたんすかね? 部屋の中も荒らされていたし」


「さあな。どうだろうな」


「あいつが借りてたアパートが俺の名義だったんで、修理だの、部屋の物の処理も俺の財布から出ることになって困ってて」


「もう帰るよ」と、田部井は言うと残っていたコーヒーをクイッと飲み干した。


「いやー良かったですよ。最近は神田がいなくなって本当のところ寂しかったんですよ。久々に話せて良かったですよ」


「金ここに置いとくぞ」と言い、五百円玉をテーブルに置いて「領収書」と言った。


「領収書ですか?」マスターは、いつも彼の口から聞かない言葉を聞いてびっくりした。


「そんな顔するな」と田部井は優しく言った。「神田の金のことだ。部屋の色んな事に金が必要なんだろ?」


「そうですけど……」


「俺に請求してくれ。その変わり人に訊かれるまで神田のことは黙っていろ」


 田部井の急な堅気ではない顔に驚いた。

「はい。わかりました」と一生懸命に作り笑顔をして出て行く田部井の背中に「ありがとうございました」と言った。


マスターは振り向いて——今の俺の笑顔はうまく笑えただろうか? と鏡に向かって、さっきと同じ顔を作ってみた。大丈夫だ。さあ仕事の続きだ、と仕切り直して、またコップの手入れをし始めた。


 その間、外で待っていた村山はタクシーに乗って田部井の後を追うのは危険だと思い、どうしようかと思いタクシーを降りることにした。

 彼は田部井が何しているのか見当もつかなかった。


——おせーな。何してるんだろう。

 会長はいつもここに来ていたことは知っていたけど、いつも俺はここで待たせられていたんだった。


 買い物や食事、誰かと会っているときは、いつもこうやって外で待っているようにと指示されていたから、この小さなこの喫茶店も中のことは詳しくなかった。


 十分は経ったろうな。いや十五分か?


 その喫茶店を道を挟んだ反対の陰に隠れて待っていたが、ドアが開く音で田部井が出てくるのに気が付いた。

 彼は俯いて考え事をしている様子だった。


——あいつが、やり直せるくらいの金を与えてしまったのは失敗だった。しかし、なぜ夜逃げのように姿を消したのだ? 金はいつも俺が貸してやっていたのに……とりあえず、あのボロアパートに行って見るか……。田部井はそう思い車に乗った。


 それを見ていた村山は焦りに焦った。

——しまった次のことを考えてなかった! 俺から見て右に行けば会長は事務所に帰るだろう、と考えていたが真反対のほうへ行ってしまった。


 その頃には会長の車は、もう見えなくなるほど進んで行ってしまった。


 村山は、さっきまで会長がいた喫茶店に入って行った。

「いらっしゃい」

 と、マスターはコップの手入れをしながら言った。


「あーあなた田部井さんの運転手さんでしょ」彼は村山の首を見ながら言った。


 村山は、首まで刺青が入っていたからだ。


 彼は、ここはうまくマスターに合わせたらうまいこと何か聞き出せるのではと調子を合わせた。


「あー良く分かりますね」彼は笑顔で、そう言いマスターからの次の言葉を待っていたが何も言わないので、またニコッと笑って見せた。


「あー! 次は住所ですか! 待ってくださいね」そう言うと彼は黙って記憶の中に行ってしまった。


 村山は咳ばらいをして早くしろと促した。


「住所なんて行き場所がわかっていれば、暗記なんかしませんからね」とマスターは言い紙に地図を描いて渡した。


「ありがとうございます。助かりましたよ。ほら会長はプライドの高い人でしょ? 自分が行き場所の行き方なんて忘れたら恥ずかしいから『お前、マスターに聞いて来い!』なんてそれだけしか言わないもんだから……困っちゃて」


 と彼はまたもや作り笑いをしてマスターの顔色を伺った。そして頭をかいた。


——大丈夫だ。ばれてない。俺、営業マン向きだったかもな——-と自惚れた。


 村山は、お礼を言いドアを開け出て行った。

 

 さて会長が行くとこは、キャッチ出来た。今、行こうか? でも会長に鉢合わせするかも知れないし。


 彼は事務所に戻ることにして、時間が巧い時に行くことにした。


【作者からのお願い】


ブクマの登録をよろしくお願いします。

広告の下にある評価もお願いします。


最後の一行まで楽しんでください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ