第5話
徹は、ドキドキしていた。
——本当に、こんな俺に出来るのか?
拳銃は持ったし、セリフもしっかり覚えた。大丈夫だ。計画通りに進んで行けば、あの人は、僕を信じてくれるだろう。
徹は、ネイビーの3ピースのスーツを身にまとい、ピカピカに磨いたネイビーの革靴を履いていた。
彼は歩を止めた——ここか。
彼は、少し離れた所から三階建てのビルを眺めていた。左わきに仕込んだ拳銃に慣れなくて邪魔だった。
——大丈夫だよ。心配ない。そう自分に言い聞かせて決心した。
コツコツ音を出して歩き出した。彼は大袈裟なくらいメンチ切って、昨日カットしたオールバックを手で撫で付けた。
「見ねえ顔だな」護衛に立っていたガタイの良い男が言った。
「お? 誰に口きいてんだ? お前よ? 今日は、ここの会長さんに、お呼ばれしてわざわざ来てやったんだよ。テメーの親分に恥かかせるつもりか? お?」彼は唾を相手の顔に飛ばす勢いで言った。
——こうに言えばこの馬鹿どもは信じ込むんだ。なんせ頭が悪いからな。
護衛の男は、徹をつま先から頭の先まで見た。
——おい。こいつマジかよ……彼は唖然としてしまった。こんな若造を仕入れてきたんか? きっと不良あがりだぜ?
「そうか。まあ。そこまで自信満々に言うならいいぞ」
徹は、型眉を上げて挑発した。
徹は侵入に成功しても、心臓の鼓動は大きく耳障りなだけだった。
コツコツと新しい革靴の音が階段でリズムを刻む。そのリズムに乗るように鼓動が跳ねる。後少しだ……計画通りに行けばいいんだ。
徹は池田の部屋の前に立ち、一呼吸をおいてから勢いよく中に入り込んだ。
運良く渋野会の池田は一人だった。池田は、ボヤボヤする目で徹の姿を確認した。
——誰だ? なぜこんな小僧なんか通したんだ?
ベスト姿の池田は、露わになっている左脇の下に釣るっていたショルダーホールから、拳銃を抜き銃口を徹に向けた。
「誰だ? お前?」池田はカチッと拳銃のハンマーをかけた。
徹は、自分の拳銃を床に置き、自分はそれ以外の武器を一つも持っていないことを証明して見せた。
彼は来客用の——池田の机の前に置いてある——椅子に座った。ゆっくりと……。
「なんなんだ? てめーは」池田の息は荒くり興奮していた。
徹は、池田を凝視して自分の胸ポケットに手を入れた。それを見ていた池田は彼の頭に拳銃を当て付けた。
「おい。そこから手を出せ」
徹は指示に従った。池田は、彼の内胸ポケットに手を入れた。
「なんだ? これ」出てきたのは東川が死んだ時の写真だった。
「これをどうしたんだ」
徹は、まだ彼の目を見続けていた。
「聞いてんだよ!! あ!?」池田は拳銃をもっと強く彼の頭に押し付けた。
「池田会長。聞いてください。僕はあなたがピンチだと言うことを耳にしてこちらに来ました」
池田は、眉と眉を寄せて話に耳を立てた。徹は続けた。
「僕の知り合いに警察がいましてね。渋野会が今、危機に陥っているってね。この写真は、その人に貰ったんですよ」
徹は低い声で威圧的な態度で話し続けた。
「警察に出頭した、奴らが殺ったなんてあなたも思ってないでしょ? そんな怖い顔しないで下さいよ。僕は、あなたの助けになりたくて……」
池田は徹の顔スレスレに発砲した。
——まじかよ。撃ちやがった!!
徹は石のように固まって瞳も動けないままだった。
「速く、簡単に、詳しく、分かり易く話せ。何が望みだ?」
しかも彼は気張ってた態度も維持が出来なくなり、いつものナヨナヨした青年に戻ってしまった。
「本当に撃つなんて!! 何するんですか」
池田は銃口を、また彼に向けた。
「死にたいか?」
徹は唾を飲みこんだ。
「次は外さないぞ。今ちょうど酒が切れててな。手が震えてんだ」
「はい。ごめんなさい。ただこの組に入れて欲しいんです」
「泣くんじゃねえ!」
徹は大袈裟に今にでもしょんべんをちびりそうになりすすり泣いた。
「東川さんは死んじゃった——僕はこの組に入らなきゃいけないんです」
「なんでだ」
「僕は東川さんに助けて貰ったんです」
「なんだてめえは——ヤクザとやりあったって言うのか?」
「そうとも言えるかも知れません……けど……だから東川さんの敵を討つ必要があるんです!」
銃声を聞きつけた見張りをしていたガタイの良い男が入ってきた。
「どうしたんすか! 会長!」
「なんでもない。お前は外にいろ」
——このチンピラは何をしたんだ? こいつ……やばい匂いがするな。
「わかりました」と言い出て行った。
「で? なんなんだ?」
池田は、いつもの椅子に座り拳銃を、いつもの位置に収納した。
「はい。だから今言ったことは本当です。だからこの組に入れてください。僕が必ず池田会長を犯人のところへ連れて行きますんで」
徹は床におでこをつけた。
池田は——このヘンテコを俺の下に置けだと……ふざけてんのか? 頭も悪そうだし、体も大きくない、喧嘩だってしたことがあるのか? しかし事実、今、俺の下には信頼に置ける人間はいない。二人とも逝っちまった。こいつに賭けてみるか? ああ、上手く考えられない……。
「おい。名前はなんだ?」
「徹って言います」
「そうか。お前車の免許は持っているのか?」
「はい。そうに言われると思ったんで一昨日に免許取れたんですよ! あ、でも一つだけ嘘が……東川さんの写真は……本当はネットに落ちててのを現像したんです」
「じゃ警察の友達は?」
「……いないです」
池田はもう一度、徹に銃口を向けて
「出て行け! 今すぐだ。お前なんか信用ならん。うちには、たくさんお前みたいな使えなさそうな小僧がたくさんいるんだ。死ぬほどな!」と怒鳴った。
「いやでも……」
池田は天井に向けて発砲した。またガタイの良い男が入ってきた。池田は彼に言った。
「こいつを摘み出してくれ」
「わかりました」
ガタイの良い男は、徹を片方の肩に背負って持ち上げ、事務所の外で放り投げた。体を打ち付けた彼は、仁王立ちしているガタイの良い男を見上げた。
——くっそ……駄目だったか。流石に今日は帰るかな。今日は……。
池田は帰って行った徹を二階の窓から見下ろしていた。
——あの野郎ふざけてんのか。
それから彼は、徹が置いていった東川が死んだ時の写真に目を移した。こんなにも大勢の前で殺されたにも関わらず、警察は目撃証言を聞いていないのだろうか……そんなことをさせる前に松山会が若い衆を出頭させて、この件がなかったことにしようとしたのは、わかっている。
けれども、俺を誤魔化せるとは、思うなよ。
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