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第4話

 杉田刑事と宮本刑事は松山会の前に車を止めた。


「まったくな。警部も形だけは仕事して来いだなんて、めんどくさいこと言うな!」宮本は車のドアを閉めて言った。


「どうせ本当に殺った奴なんて出てきやしねえんだからな」バンっと杉田も閉めた。「頼まれて本当に殺したのかもな」


「あんなチンピラがか? あんなにうまく仕事出来るかよ」


 杉田と宮本は松山会の事務所の前に立ちビジネススーツをうまく着こなしている男に事情を話した。彼は要件を聞くと待つようにと指示して中に入って言った。


「田部井会長! 警察が来ました」門番は言った。


——警察か。まあこんなことになっちまったんだ。俺のところに来るのは仕方ないか。

 田部井は、「通してやれ。それとジャスミンティーを出してやりなさい」


 松山会の事務所は古風な建物だった。平家で大きく入り口は木材で出来ていて開けるには二畳ほどもある観音扉の片方を開けなければいけなかった。邸内の玄関までは五十メートルもあった。


 二人の警官は、田部井の前に現れた。


「座っておくれ」田部井は勧めた。


 杉田と宮本は、畳の上に置いてある大理石のテーブルを挟んでソファーに座った。その正面に簡易的な着物を着ている田部井が座った。


「で、君が杉田刑事? だったかね」


「宮本です」


「ほう。すまないすまない。一応君らのことは把握しているんだよ。警察の内部——までとはいかないが我々暴力団を担当する刑事のことは把握しておく性質でね……で、今日はどういったご用件で」


「田部井さんね。困るんですよ。あんなに若い衆使われちゃ!」宮本は言った。


「そのことか!」田部井は冷ややかに言った。


「昨日ね、ここの組の者が、警察に来たんですよ。知ってるでしょ?」


「知ってるさ。彼らは、渋野会と松山会の平和を乱したんでね。警察に行けって言ったんですよ」


「僕らも一応仕事をしなければいけないのでね」


「警察の仕事ね」


「そうですよ」


「だからここに出向いたわけですよ」


「それで用件は、何かね? 僕も暇じゃないんでね」


「東川がなぜ死ななくてはならなかったか、このことについてどう思われます?」


「東川の野郎が死ぬ必要があったと、こう言う事かい? うちの者はなんて言ってたんだい?」


「彼の言い分を聞いてないんですか?」


「聞いたとしても忘れたな」


「その事は教えられないです。あなたの命令で殺させたんじゃないんですか?」


「そんなことはしないよ」


 そう言いながら田部井は考えながら思い出していた。


 そうだ俺が指示したことにはなるなあ。あいつは良くやってくれたよ。しかし車の爆発は頼んでないんだがな。


 東川は死ぬ必要があったんだよ。あいつは俺の目の前で父を殺したんだ。元々殺される運命だったんだ東川の野郎はさ。まあうちの組が殺ったように見せかけろと言ったが、あそこまで大胆にやるなんてな。


「東川を殺してくれ。ウチの組が殺ったように見せてくれよな」 あいつは嬉しそうな顔してたな。まるで久々の仕事だ、と言うみたいにな。


「いいですよ。いつどこでやればいいんですか」


「君に任せるよ。君がうまくやったら、うちの者が警察に行くようにするから、安心してくれ」


「いくらです?」


「そうだな、二でどうだ?」


「二百ですか? いいですね」


 しかし今考えてみたら、車を爆発させて香川を殺し重軽症者をたくさん出したことは……俺への裏切りなのか?


 コンコンとドアのノックの音が聞こえて、さっきとは違う若い衆がジャスミンティーを持って入ってきた。

 

 杉田はジャスミンティーの香りを嗅いで、不愉快な気持ちになった。その飲み物を運んできた男に一瞥を向けた。彼はその男に対して感服する感覚を覚えた。


 その男は軍人のようにテキパキと動いた。まるでこの道に入るのに専門的な学校を出て、特殊な訓練を受けたようだった。


——ヤクザは、俺らを舐めてるのか? このトイレの水のような……もしくはお風呂の湯船に溜まった水のようなものを出しやがって。

 杉田はジャスミンティーが苦手だった。


 その飲み物を置かれるところを杉田は見つめながら言った。

「田部井会長、一応聞きますがね。東川が死んだ日にあなたはどこにいたんですか」


 田部井は可笑しくなった——警察手帳なんか出しやがって。


 杉田と宮本はテレビで習ったようにメモを書くために警察手帳を出した。その傍ら宮本はその男のことを品定めした。


 その男は髪の毛を後ろに撫でつけてセットしてあった。しかしそれは不良感も出ていなくて、むしろこの世界には相応しくない真面目な人間に見えた……が、宮本はこうでもないと、この田部井の側には置いといてもらえないのだろうと結論を出して納得した。


「その日は、なにしていたかな……おい。お前、俺が何してたか覚えているか?」


 ジャスミンティをテーブルに置いていた若い衆は一瞬の間だけ警察を軽蔑するような視線を彼らに向けた。彼はその見た目には似つかわしくない口調で答えた。


「その日は、ここから一歩も出てねえっすよ。東川の野郎が死んだと報告を聞いた時は、俺もここにいたんで覚えてるっす」


「じゃその三月一一日の九時から十時の間頃は、どこで何を何をしてました?」


「おい。答えてやれ」


「はい。やはりここにいたっすね」


「そうですか」

 と、杉田は言いながら——こんなこと聞いても無駄なのはわかっている。”あくまでも俺は関わっていない”か!


「事を大きくした奴らは、もう警察に行ったんだから、もう仕事することはないでしょ?」池田の口調はまた冷ややかになっていた。


 二人の刑事は、その通りだった。


 ヘンテコなヤクザの下っ端が出頭してきたんだから、もう調べることも誰に何を訊いていいのかもわからなくなっていた。


 田部井は、まだ部屋にいた軍人風な若い衆に顎で合図して扉を開けさせた。彼はドアを開けた。田部井は立ち上がり、さようならの空気を出した。


 二人の刑事も、立ち上がり宮本が「お時間を頂戴しました」と言って、その場を去って行った。


 警察署に戻った杉田刑事と宮本刑事の二人は警部に呼ばれていた。


「渋野会と松山会の捜査は、これでもうお終いだ」警部は椅子に座り感情は何もこもっていなかった。


「ありがたいですよ」宮本は言った。


「そうですよ。松山会にも行きましたがね、私たちは何を訊いていいのか何を調べたらいいのかさえ、わからなくなっていたんですからね」杉田は安心した。


「じゃ君らはいつもの仕事に戻っていいぞ」警部は二人を開放した。二人の刑事は出て行った。


 それから警部は、自分が着ているスーツのポケットから弾丸を二つ取り出して考えていた。

——鑑識の若造はこの意味が理解できているのだろうか。最悪のことも考慮しなければ!

 彼は鑑識が言ったことを思い出した。


「警部、聞いてください。この二つの弾丸なんですが」


「どうしたんだね」


「この一つは潰れていて東川の死体から取り出したものなんですが、弾丸が潰れていたんで気になったから修復をしたんですよ」


「うん。それがどうしたんだい?」


「しかもこっちの新しい方を見てください。まだ未使用の方なんですが——これは爆発事件があった近くに落ちていたんですよ。うっすらと文字が見えません?」


 ここで警部の部屋のノックが鳴り彼の回想は停止された。


「どうぞ」


「失礼します。コーヒーが入りましたのでお持ちしました」


「そうか。ありがとう」

 警部はコーヒーを一口飲み、祈るだけだった。


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