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第3話

 池田京子が乗っている車は、夜遅くにビジネスホテルに戻ってきた。その車の扉をホテルマンが丁寧に開けて彼女の帰りを迎えいれた。


 京子は車を降りると、いつもの部屋へ帰って行き、その車を運転していた彼女のマネージャは車を駐車しに行った。


 このホテルは、京子と彼女のマネージャーをしている二人が寝泊りしている。

 

 そう彼女は、彼女の夫である、渋野会会長の池田雅とは別居中なのだ。


 京子は自分の部屋に入るなり、すぐに洋服を脱いで肌着姿になった。


——はあ……。今日はなんだか疲れたみたい……もう既に美味しいお酒をいただいたけど、もう少し酔いたい気分。だってうちの組が襲撃されたって聴いたし、大丈夫なのかしら? 


 彼女は部屋にある電話の元へ寄って「ああ。私よ。三十分くらいしたら、いつものワイン届けて頂ける? ええ、それよ。じゃ頼むわね」


 彼女は脱衣場まで行くのに順番に上から下着を脱いでいった。シャワーのノブを開いて水を出した。髪の毛を濡れないように縛った。立った状態で首から下を洗い流しながら鼻歌まじりに歌を歌っていた。


 この部屋の扉が開いた。風呂場の扉が開いて、彼女の背中から胸へ腕が伸びた。


「もう! 言ってよね。ビックリしたじゃないの。大悟ったら!」

 と、彼女は腕で胸を隠しながら言った。


——綺麗だよ。美しい。あのおっさんには勿体無いなあ、と大悟は彼女の体を、まじまじとみて改めて思った。


 京子は四十代に入って体の美貌を保つために努力を欠かさなかった。そんな体を二十代の大悟は好みだった。


「ちょっと待っててね。もうすぐ出るから! あとワインが届くけど私が出るから、あなたは出ないでよね」


「わかってるよ。誰が来るなんてわかんないよね」


 大悟はベットの隅に腰がけて天井を見つめて過去を回想し始めた。

 

 彼女は知らない——僕はあなたの旦那から頼まれていることを。


 池田会長は、僕にこう言ったんだ「お前。俺の女房の護衛してくれないか?」


「僕がですか?」


「そうだよ君にだよ。君だったら、あの糞尼も認めてくれるだろうしね。お前は身長も高くて顔も色男だ。知っての通り、あいつはまだ若いからな」


 彼女は会長の二番目の奥さんだ。多分、一人目の奥さんは亡くなったような? 彼女のマネージャーを務めていた女と不倫関係に落ちていたのが今の、この美しい人だ。


「僕と彼女が不倫でもしたらどうするんですか? 指詰めじゃ済まないでしょ? 僕は本当のところ、あなたの奥さんがタイプなんですよ。僕は惚れてしまいますよ」


「ああ。きっとあいつも惚れてしまうだろうな。それでもいいんだよ。俺はもう、あいつに未練はないんだよ。でも心は、あの女を求めている。不倫関係だった京子だったけど、本当に愛せるのは死んだあの女だったって気が付いたんだ……今でも夢に出てくるよ記憶に残っている彼女の言葉と、俺の新しい言葉で会話なんかしてる夢をね」

 池田の言葉は夢心地だった……。僕はないも言えなかった。


「もう父子心でね。あの子が心配なんだよ。頼むよ」


 京子は僕と会長が、こんな会話をしていたことなんて知らない。でも僕はもう君を無くす事が惜しい。本当に好きになってしまった。


 部屋の呼び出しベルが鳴って大悟の考え事は途絶えた。

 京子は急いでバスローブ姿になりワインを貰いに行った。


「さあ。飲み直しましょうよ」とワインを受け取ると、軽い足取りで京子は戻ってきた。


 ポンと音とともにワインが開いた。二つのワイングラスは、ワインの注ぐ音で綺麗な赤に染まって行った。


 そして彼らの愛情表現はワイングラスが当たり合う音で始まった。


 京子は谷間の見えるバスローブを肩まで肌を出して、ベットの隅に座っていた大悟に近寄った。


 彼女は彼のワイシャツのボタンを一個づつ丁寧に外した……。


朝になり彼らは昨日の残骸を片しながら服を着てコーヒーを飲み始めた。


「渋野会が窮地に陥っていることを君はどう思っているの」

 と、大悟は揺れるマグカップの水面を見ていた。


「知らないわよ。そんなこと」


 京子は絵のように日の当たる窓の景色に溶け込んでいた。乱れた髪が美しさを増していた。


「君の旦那さんは、困っているんじゃないの?」


「困っているでしょうね」


「僕には何が出来るかな」


「いいのよ。ほっとけば。あの人は勝手にやるわ。今までもそうにしてきたし」


「そうだけど……」


 京子は、背後にあった景色に体の正面を向けて苦い顔をした。


——私は関係ないわ。あの人はきっと私を捨てたのよ。私と再婚したのも、行き場の無くなった私に同情していただけ。わかってるのよ。


奥さんを亡くす前は、私が愚痴やら、なにやら訊いてあげたわ。あの人を支えたのは、この私よ。 死んだ後も支えてあげたじゃないの。なのに、亡くして気づいたみたいな顔して……。私が気づかないとでも思ったわけ? あなたのことなんて全てお見通しよ。どうせなら巻き込まれて死んだら良かったんだわ。


 そうしたら私は、この子と結婚して田舎に住むわ。畑なんて作って木々に囲まれるのよ。それとも。海の見えるところがいいかしら? でも塩は、全てを錆させる……。


「なあ。京子! 今日はどこに行くのかな?」


 京子は大悟の方を向き直って微笑んだ。

「冬の海でも見に行きたいわ」


「冬の海ね。いいじゃないか」


「じゃ、十一時に表に車回しといてちょうだい」


 彼はネクタイをピシッと絞めて、部屋から出て中に一礼をしてから扉を閉めた。

 

 誰に見られているかわからないから、彼はいつもこうして用心深くしていた。


 彼は自室に戻ると、服を脱いでシャワーを頭からかぶった。


——ああ……会長は何を考えて、何を感じているのかな?

他に出来る事は、ないだろうか? 会長の顔を見たいなあ。どんな顔をしているのかな? 少しだけ心配だ。でも、彼女は心配ないよ。僕がそばにいるからね。


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