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第2話

 次の日、渋野会の事務所で毎週行われている会議が行われようとしていた。


 渋野会が牛耳る者たちが集まっていた。彼らの見た目は悪いが綺麗に髪をセットし綺麗にスーツを着こなしている者たちが集まってきた。

 

 玄関の車回しでは、その若い衆が、次々来る高級車のお出迎えで忙しかった。後部座席に、お偉いさんが乗っており車の形で誰が誰なのか記憶していた。


「そうそろ会長が見られる時間だな」と香川が出迎えのため出てきた。「会長だ。頭下げろ」と膝の上に両の掌をつき頭を下げて出迎えた。


「なあ。今日会長来るの早くないか」地面を見きながら一人が呟いた。


「確かにそうだな」と隣にいた者が答えた。

 

 香川にも、その話し声が聞こえた。彼も同じことを考えていた。なぜならいつも会長は、予定の時刻よりも早く来るってことは今までなかったからだ。

 

 けれどもそれとは別に、彼は何か嫌な予感を感じていた。

 会長が乗っている車の窓にはスモークが貼ってあり、本当に会長なのか不安だった。

 

 後部座席を開けて出迎えなければいけない。香川はドアを開けたが、誰も乗ってはいなかった。手榴弾以外は。


「逃げろ」と香川は叫んだが、時すでに遅かった。


 香川がドアを開けた時に、細工してあった手榴弾の栓も抜いてしまった。爆発は免れなかった。

 

 数多くの怪我人が出た。香川だけが、まともに爆発をくらってしまった……。


 男はグレーのスリーピーススーツと同じ色のハットに身を包み雨の中裏路地を歩いていた。


 彼はあたりを見渡して、廃墟ビルに入って行った。そこには、一人の男が立っていた。

 

 田部井はそこへ向かいながらグレースーツの内ポケットから茶封筒を取り出して「今回の報酬だ」と言った。


「うまくやりましたよ」田部井のことを待っていた者が言った。


「ああ。警察も、うちの松山会と、渋野会の揉め事だなんて言って片付けてくれてるよ」

 

 殺し屋の男は不気味にほほ笑んで「これで渋野会も終わりですかね」と言った。


「いや、周りから固めろって言うだろ」と言い田部井は傘を刺し廃墟ビルを後にした。

 

 その背中を目で追っていたこの男は、また不気味に口元を緩めた。そして茶封筒に視線を落とした……。


 簡単だったな。案外ちょろいんだな、あの人も。少しは生きていける金をもらった。どこへ身を隠そうか……。


 警察会議室では、早くも二日続けて臨時会議が行われた。その会議は早めに終わって杉田刑事と宮本刑事だけが残って話をしていた。


「また渋野会がやられたか」やる気のない声で杉田刑事が言った。


「今回は派手だったな。池田のマネージャー的な存在だった、香川も逝っちまった」宮本刑事は机に肘をつけて言った。


「ああ。今回も松山会の誰かが出頭してくるだろうな。今回は怪我人も多数出たから、我々警察も仕事せずにはいられないだろう」


「さすがにこれは現場に行って事情聴取でもしますか」宮本は重たい腰を上げた。


「一応な。仕事だ。ヤクザのことだ」と杉田は吐き出すように言った。


 二人の刑事は会議室を出て、飲んでいたコーヒーの空き缶をゴミ箱に捨てた。

 

 杉田刑事と宮本刑事は、去年入って間もない刑事だった。簡単に言えば新人だ。彼らはそんな新人であったが何故だか、今回は岡田警部に呼ばれて、この捜査に参加することになった。


 しかし警部は、ヤクザのことだ簡単な仕事をしてくれれば助かる、と彼らに言っただけだった。


 渋野会の池田会長は仕事部屋にいた。もう東川が死んでから、彼は家には帰っていなかった……。


 池田会長は、渋野会で最も信頼している二人中二人を失ったことを知った。そして部下の三人が病院送りとなった。


 池田は考え事をしながら、片手にウイスキーが入ったコップを口に近づけた。


  いったい誰の仕業で、何のために……と彼は自分の記憶の中を探ったが、このことについては、当てはまる人物は皆目、見当がつかなかった。


 そして、彼は自分の心にポッカリと穴が空いていることに気がついた……。それは、最も信頼していた部下を二人も失ったからなのだろうか……。彼はこう思った……抗争でも、何でもかかってこいと——だが、彼は思い止まった……今の渋野会には、戦力が全くなかった。


 そして彼は項垂れた……ここままで終わっていいのだろうかと……。


 それから、ウイキスーを舌の上で転がして味わった。

 

 なんて不味いんだ……今の俺には合わないな。


 彼は精神安定の薬を酒と一緒に流し込んで飲んだ。彼は鼻で笑った。

 

 こんなことをして……俺はどうするんだ。酒、薬——喪失感、絶望——頭が……頭が回らないなあ……。誰かになんか言われた覚えがあるな……彼はそのことを思い出した。

 

「そんな薬、飲んでどうすんだ? 人には脳汁が必要なんだぞ」

 

 喧嘩だ! 彼は若い頃の時のように喧嘩をすれば、この気持ちもすぐに晴れるだろうと考えた。


 喧嘩なんてこんな歳で勝てるわけがない、とすぐに判断はついた。

 

 池田の頭は重くなり瞼が重たくなった……。


 そうさ、俺は終わったんだ。


  新米刑事の杉田と宮本は、渋野会の本拠地となるビル3階建ての前に車を止めた。二人はそのビルを見上げていた。

 

 彼らは岡田警部が厳選した新人だった。彼らは暴力団について、あれやこれやを、簡単に学んでいたところ、東川が死んだことを知った。そして彼らは、この捜査に加わることになった。

 

 彼らは、品がない見た目のまさに貧乏臭い男に案内された。その男は、外についてある非常階段を使って二階に進んだ。それに刑事の二人もついて行った。貧乏臭い男は扉をノックすると中からの返事を待ったが返事が無かったので、ここで待つようにと伝えて、彼は中に入っていった。


 池田は大の字になってソファで死んだように寝ていた。


「会長! 起きてください! 今、警察が見えたんです」


 池田は頭痛のする重たい頭を持ち上げた。

——ああ……警察か。お前ら警察が何出来るんだ。結局、形だけの仕事だろ? 形だけなら俺も形だけさ。


 池田は頭痛のする頭を抱えて「入れてやれ」と言った。


 池田を呼んだ男は、いったん外に出て刑事二人を連れて入ってきた。


「失礼します」

 杉田刑事と宮本刑事は同時に言った。


 池田は彼らの様子を見るなり滑稽で思わず吹き出そうになった。


 着慣れないスーツに、青臭くて芯がしっかりとしていない細身な身体付きだった。後ろから見たら二人の違いを見つけるのがやっとだ。そして成長しきれていない……。まだ子供だろうな……。


 彼らも池田ありさまを見た。

——この組長も所詮は人間か——笑えるよ。人を殺す——脅す——卑怯な金儲けは簡単にするがな、と二人は同じよう考えてた。ヤクザの会長も……笑えるぜ。

 

 池田は彼らを見た。

——ああ? 水か? それともコーヒーか? 酒か? なんだそれにしてもスーツの似合わない若造だな。サイズも合っていないじゃないか。二人して死にそうなほど痩せこけているな。


「おい。お巡りさんにリンゴジュースを出してやれ」

 と池田は伝えた。


若い衆は思った——リンゴジュースなんてあるわけないだろ。このジジイとうとうおかしくなったか。まあこれもヤクザのやり方なのか? 勉強になるな。


「はい。わかりました」


「ほら。金だ、お釣りはいいからな」と池田は言って五千円札一枚を彼に渡した。

 

 お金を貰った男は、コンビニへ向かった。


 刑事の二人はリンゴジュースという言葉に驚いてお互いを見合った。

 

 池田はいつもの自分の会長席に座り二人を目の前の椅子に座るように言った。


 池田の机は扉から入って左側にあり全体を見渡せる位置に置いてあった、背後には二階から外を眺められる窓があった。


「そこへ。どうぞ」

 

二人の刑事は従って無言で座った。

 

 そこは、池田の目の前に設置してあるソファで低い膝までの高さのテーブルの両隣に黒の皮張りの三人用のソファが置いてあり、彼らは入り口側に近いところへ座り入り口に背を向けた。それから二人は初対面の池田に自己紹介をした。


「今回で、あなたの組員が一人と三人が重軽症を負いました。そのことに関して話を伺いにきたんです」

 と杉田刑事が真剣な眼差しで始めた。


「あの爆弾は、香川さんを狙った物として見ているんですが、あなたはどう思われますか」と宮本刑事が言った。


池田は——どう思うって? 本当にこいつら警察は……。池田の心は荒れていた……。しかし彼は切り替えて、そんな素振りを彼らには見せまいとした。


「本当に困ったことが起こったよ。お前らの方では、松山会の仕業だと思ってるらしいな?」


「そうですよ。けど、第一被害者の東川さんと、今回のことでは結びつきがありませんけどね」

と、杉田刑事が言った。


「東川を殺ったやつは、出頭してきたんだと?」


「はい、今は留置所に入れてありますよ」


「本当にあいつが東川を殺したのか」

 

 池田はどうしても信用ができなかった……警察も——松山会も。それはそうだ、彼も同じように若い衆を何人も警察に出頭させたことがる。


「彼は、そう言っていますがね」


 池田は杉田の言った言葉を感じ取った。

——私たちの暗黙の了解でしょう? と言いたいのか——本当の犯人を捜したきゃ自分で探せばいいさ……か?


「爆弾は、どうなっていたんだ?」池田は訊いた。


「後部座席を開けると、手榴弾のピンが抜けるように細工がしてあって、それを香川さんが扉を開けた拍子に爆発したんです。それで他の者にも影響が出たんです」杉田は説明した。


「運転手は、誰だったか知らないのか?」


「運転手は即死だったんですよ。車も爆発しましたからね。今は身元を調べている最中ですよ」


「でも良く考えましたよ。あなたと同じ車を使ってこんな手の込んだことなんか。しかもナンバーまで同じなんて」宮本刑事が言った。


「どーせ、車も盗難車ですよ。何もわかりません」杉田刑事が言った。


池田は——そんなことなんか分かっている。警察はいつも同じような考えをする。まるで個性を切り取られた子供のようだ。


「東川が殺られた時の監視カメラを見ましたがね。あの時は雨も降っていて、傘を指している者が多くて何も見えなかったんですよ。それに容疑者は、もう出頭していますしね」と言った杉田の言葉には投げやりのようすが感じ取れた。

 

 ドアからノックされた音が聞こえた。

「これリンゴジュースっす」二人の刑事の前に置かれた。「あのストロー挿して飲んでください」と言って出て行った。

 

 二人の刑事は目の前に置かれた飲み物を見た。


 宮本の眉間に皺が寄っていた——こんなものこんなところで飲めるわけがないだろう。


 杉田はチラッと池田の方を見た。


 彼らは刑事という自分らの職業を小馬鹿にされていると感じた。飲み物には手を付けないことにした。


「あなたは、何か知っているんじゃありませんか」と杉田が不意に言った。


「なにか知っていたら、うちの組員以外にも死者が出るかも知れないな」と言い池田は立ち上がり出口の扉を見た。


 それを察した杉田は、

「これで失礼しますよ」と言って、二人はリンゴジュースを持ち帰った。


 渋野会から出てきた二人の刑事は松山会に行こうとしていたが、杉田に署から電話がかかってきて話していた。


 電話を切ると「何だって?」宮本が訊いた。


「松山会の若いのが、出頭してきたみたいだ。署に戻って来いってよ」杉田は言った。


「仕事が早いぜ。松山会は」

 二人の刑事は車に乗って署に戻って行った。


 松山会の事務所では、連日続けて村山が田部井に耳打ちをしていた。


 田部井会長は、爆発で渋野会が襲撃されたことを訊いた。


 田部井の表情が曇った——なに? 爆破で香川も死んだと? あの野郎、余計な事なんかしやがって……と彼は思った。東川だけ殺ってくれって言ったじゃないかよ。


 田部井は、ソファに座りこんだ。


 くそ。戦争でも起きたらどうすんだ。あの野郎殺してやる。そうやって彼は胸の中で呟いた。それから冷静を装って村山に言った。


「おい。あいつ呼べ」


「え? 誰です?」


「お前もほんとわからん奴だな。誰でもいいんだよ」


「ああ……すみません。わかりました」


 彼は歩きながら——また適当なやつを出頭させる気か? 何考えてんだよ、と頭を抱えた。


 そして適当に見つけ出して戻ってきた。

「連れてきました」


 池田は、若い衆を見るなり言った。

「おい。お前、話は訊いてるな?」


 ダサいジャージを着て品のない髪型をしている者は言った。

「はい」


「いいか。俺がやったと言え。車も適当に盗みましたって言えよ」


「わかりました。じゃちょっくら行ってきます」と若い衆は警察へ向かった。


 彼は部屋を出るなり隠れて小さなガッツポーズをとった。これでこの仕事が終われば俺はいつか組くらい持たせてくれるんだろう! 簡単に務所からなんて出れるだろう……と彼は思っていたが、その考えは浅はかだった……。


 扉が閉まり若い衆が出ていくのを見届けてから、村山は口を開いた。彼は憤然としていた。

「会長! それはないですよ! 何を考えてるんすか! あいつは、もう一生出てこれないじゃないですか」


 田部井は微笑んだ——馬鹿な若造も仕入れておくのも使えるな。


「仕方ないだろ。嫌なら出て行くが良いさ、お前もな」


 村山は、勢いよく扉を開けて後ろ手に大きな音を立てて閉めて出て行った。


 何考えているんだ——東川さんの時といい——今回といい——最近の会長は全く分からない!


【作者からのお願い】


ブクマの登録をよろしくお願いします。

広告の下にある評価もお願いします。


最後の一行まで楽しんでください。

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