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第1話

 街を歩く人々は意気消沈した表情をして仕事へと向かって歩いていた。


 大きな音の銃声が鼓膜に響いた。人々は倒れていく男に向かって視線をとっさに向けた。その他の周りにいた人々は足を止めて、音のした方を一斉に見た。


 信号は赤に変わったが、横断歩道を渡っている人々はまだ足が動けないままだった。


「おい! 大丈夫か」


 偶然居合わせた男が声をかけた。男はポケットからハンカチを取り出し倒れている者から血が出ている腹部を抑えた。


 撃たれて血を流している者は、何か言いたげに声を振り絞った。しかし声は出なく、震える手で自分の携帯を出し、文字を打ち始めた。


「救急車はもう呼んだから、何もするなよ」と、男は止めた。


 結局、撃たれた者は声も出せず、それに携帯を自分の血で汚せるだけだった。


 周りで見ていた者たちは持っていた傘で瀕死状態の男を濡らさないように努めた。


 村山は急いで松山会の田部井の部屋に入っていった。そして一目散に田部井のところへ行き耳打ちした。


 話している、村山の利口そうではない顔から汗が滲んできた。その汗は額から、線のように細い眉毛を伝って床に落ちた。


「なに!?」と、松山会の会長、田部井が立ち上がって言った。


 この松山会の会長である田部井は、この組をまとめてからもう二五年が経とうとしていた。


 彼は整っているとは言えない身体を震わせた。身長は百六十センチで四五歳とは思えない見た目だった。


「はい。スクランブル交差点で……」と、村山は状況を説明した。


「誰がやったんだ? うちの者か?」


 田部井は彼に背を向けるとまた身体を震わせた。


 村山は彼が怒っているばかりに彼の太い体が震えていると思った。


「いいえ。それは……」


「くっそ……めんどくせえな。こんな時期に」田部井は指を指し呼んだ。「おい! お前」


「はい」

 綺麗にスーツを着こなして護衛として立っていた若い衆が返事をした。


「あいつ呼んでこい」


「あいつ……ですか?」


「そうだ早くしろ」


「はい……誰でしょう」


「誰でもいいんだよ!! あいつだよ」

 と、田部井は自分の指先を出口の扉の方に振りかざした。 


 若い衆は急いで出て行き、息を切らして戻ってきた。


 彼が連れてきた若い衆は、色白で年齢はまだ二十歳になったばかりという顔つきだった。彼の服装は白ジャージ姿で、その腕と脚には金色の縦線が太く入っていた。


 田部井はその姿を見るなり「お前、警察行ってこい。東川を殺ったのは、俺です。拳銃は近くの海に捨てました、と言って来い」


「いや、それじゃ俺は今後どうなるんでしょう?」


「俺は、お前の母ちゃんも子供も知ってる。大丈夫だ」と田部井は家族の安全と約束し、歯向かったら脅すことを約束した。


「はい。わかりました」ヘンテコなジャージを着た若い衆は出て行った。


「兄貴! でもなんで俺らの組が、やったってことになるんですか」と山村が訊いた。


「いいんだよ。そんなことは! 警察も俺らの組が関与してるってことだと見てるだろ。一応殺った奴探しとけ。早めの対処はいつでも大切。こういう事はお前も慣れてるはずだろ」

 と、田部井は場の悪そうな態度をとった。


 ブラックスーツに身を包んでいた若い者が池田の部屋の前に立ち息を整えて扉をノックした。


 中から声がして彼は池田の顔を見れずに話だした。


「おう。そうか」と池田会長は話を持ってきた若い衆に歩み寄って「警察はなんて言ってる」と訊いた。


 この池田は渋野会の会長だ。この組は同じ地域にいる松山会とは折り合いがうまくいかない。長年の宿敵同士とでも言おうか。


 池田会長はこの渋野会の会長になってから、もう松山会の田部井よりは、はるかに長い。


 彼は、身長が一七六センチくらいで年齢は六九歳を過ぎようとしていた。しかし彼の身体能力や知能数は若かった頃より全くもって劣っていない。


 見た目では渋野会と松山会の会長たちは同じくらいの年齢と見られても仕方がなかった。


 もう彼は引退の身になってもいいのだろうけれども、彼を信頼して慕っている人間が多くいる彼はそのことを念頭に置いていた。


「はい。もう東川をやったやつは警察に出頭したみたいです」


「そんな訳あるか」と彼に唾を飛ばしながら言った。「誰なんだそいつは」


「松山会の若い奴です」

 

 池田は茫然とした……あいつが……殺られた?


 彼は項垂れて瞳は血走っていた。痩せている身体がさらに薄く見えた。


 警察会議室では緊急会議が行われていた。


「今日九時三十五分ころ、スクランブル交差点内で東川が射殺された」と岡田警部が会議を始めた。

 

 警部は目で杉田刑事に合図をした。彼はそれに気がついて話し出した。


「東川さんは、渋野会の会長、池田の右腕として知られていた男です」


「これは、渋野の池田も黙っちゃいないですね」と宮本刑事が言った。「きっとヤクザ同士の喧嘩でしょう。けどなぜ東川は護衛をつけてなかったんですかね」


「そんなのはどうでもいい。ヤクザ同士で納めてくれればいいがな」と警部が言った。


「最近は落ち着いてたと思ってたんですがね」杉田刑事が言った。


「これは被害者が持っていた携帯です」と下地しもじ刑事が写真を出した。


「こいつはスマホで何しようとしたんですかね」杉田刑事が言った。


「被害者はスマホで二点の血痕をつけて息絶えたと見ています。その血痕二つは左右上下と離れてついていました」と下地刑事が続けた。


「画面には、何が書かれていたんだ」と警部が訊いた。


「いやそれが、なにも映っていないんですよ。きっとスマホを開きそびれたんでしょう」


「聞いた話ですけど——結構前に渋野会と松山会が抗争を起こしたこともありましたよね」と宮本が言った。「たしか東川が池田会長の右腕までに上り詰めたのは、彼が撃たれるときに東川が身代わりになり弾を受けて、そこから会長が可愛がったんでしたよね」


「そうだ。東川は池田に憧れを抱いてこの世界に入ったらしい。それで会長を守って死ぬか生きるかの瀬戸際まで行って何とか生き残り、報酬として池田が少しの間だけ自分のそばに置いてやったんだ。そして彼は渋野会の上まで上り詰めた……」と警部が言った。


 警察取調室では松山会の品のない若い男が取り調べを受けていた。


「で、お前の仕業だと?」と宮本刑事が言った。その横では杉田刑事もいた。


「はい。拳銃は近くの海に捨てました」彼は脚を椅子の外に大きく投げ出して、腕は胸の前で組んで横柄な態度で言った。金色の縦の線が目立っていた。

 

 刑事の二人は顔を見やった。


「俺は背後からあの人に寄って行って撃ち殺してやりました」


「なんでそんなことしたんだ?」


「なんでって、そんなの決まってるじゃないですか」


「ああ。もういい」

 

 取り調べは簡単に終わり二人の刑事は部屋を出て廊下を歩いていた。


「本当にあのヘンテコの仕業か?」宮本刑事が言った。


「わからんが、でも松山会の会長は、これで沈めてくれとの意思表示なんだろ」と杉田刑事が言った。


「なんつってもヤクザのもめ事だ」


 渋野会、会長の池田はイライラしていた。この感情をどこへ放出したら良いかわからないでいた。


「親父。どうします?これから」

 と池田会長のマネージャーをしている香川が訊いた。


 池田は黙ったまんまだった。


「東川の兄貴がやられたんじゃ、これからの俺らもヤベーですって」


 池田はウイスキーをツーフィンガー分コップに入れて口いっぱいに一気に飲み干し、また同じようにコップに注いで金属製のタバコケースからタバコを出し一服した。


両の手を机に付け人に聞こえるように声が混じったため息をついた。


周りにいた組の者は緊張感と恐怖感で眼球すら動かせずに、手を腰で組み綺麗に立っている事しか出来ずにいた。


コップが机に着地する大きな音を出して池田は言った。


「お前以外出て行け」と香川に指を指した。


「おい」と香川は、部屋の隅々に立っていた二人の者に顎で出て行くように言った。

 

 車を出せと指示を受けた香川は事務所の前に車をつけて池田を乗せて車を発進させた。


 池田の目的地について車を止めて二人歩いていた。


「ここか東川が死んだところは」

 

 池田は足を止めて、その場に座り込んで魂と化した東川だけに聞こえるように囁いきながら、現場となった近くに花束と愛好していたウイキスーと煙草を置いて手を合わせた。


「なんでお前はこんなところを歩いていたんだ? これから俺はお前なしで、どうやっていけばいいんだ。俺がお前を殺ったやつ見つけ出すからな」と、伝えた。


 二人は簡素に現場を後にして車に戻った。


「あんな大勢の人が行きかう交差点だとは思いませんでしたよ。しかも雨も降っていて傘で誰一人顔が見えなかった、おまけにこの時期で皆マスクしてインフルエンザ予防ですか」バックミラー越しに香川が言った。「警察はどう処理するんですかね。この事件」


「ヤクザが殺されるなんて、ヤクザが殺すしかない話だろ。警察も身代わり出頭で話を済ませるだろうよ」


「親父は、どうお考えで?」


「その松山会の若い衆が殺ったって話か? それなら何もわからないな本当にやらせたのかもな。覚えてるか俺が東川に守られたこと?」


「はい。もう何年も前だったと思いますけど、親父が撃たれそうだったのを、東川さんが身代わりになりアニキを守ったんでしたよね? 撃ったのが松山会の先代、現会長の父親だったんでしたね。で、あなたは、その人を反射的に発砲して死なせてしまった……」


「ああ……そうさ——それから休戦になっていたんだが……この間、東川とキャバクラ行ったらな、あいつのお気に入りの女の子が違うお客さんの対応で忙しいってんで、なかなか彼女の手が空かなくてな。まあ俺の店だったから店のやつに誰なんだ、とその客を聞いても濁すばかりだったんだ。だから東川は、その男に後ろから殴りにかかってしまったんだ。その男は松山会の若造だったんだな。打たれたあいつはニヤッと不気味に笑ったよ。これで休戦は終わったな、と言わんばかりに」


「それじゃ戦争がまた起きるんですか」


「そんなわけないだろこの時代に。みんな死ぬか一生刑務所だぞ」


「そうですよね」香川はホッと安堵した様子だった。


「俺が先代の会長を、反射的に殺った時も、身代わり出頭させて収まったんだがな。まあ、お前も気を付けろよ」


「俺は大丈夫っすよ、親父」と香川は池田を安心せるように言った。

 

 バックミラーに映った池田は微笑んだ。

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最後の一行まで楽しんでください。

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