- トワイライト - 霧に沈む村(短章)
前書き
旅の道すがら、一行が見つけたのは地図に載っていない小さな村。
だがそこは霧に覆われ、入るたびに何かが違っていた。
――まるで村そのものが、生きているかのように。
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I 白い入口
夜明け前、濃い霧が谷を覆っていた。
ヨハンが足を止め、逆薔薇を肩に掛けて周囲を見渡す。
「……こんな地に、村があるのか?」
霧の奥に、確かに屋根が並んでいた。
低い鐘楼と、いくつかの農家。その間に灯りはなく、ただ乳白色の霞に浮かぶ。
ボミエが耳を動かす。
「ニャ……おかしいニャ。足音が一つ多いニャ」
数えてみると、確かに七人で歩いているはずなのに、影は八つ伸びていた。
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II 村の人々
村の中は静かだった。
だが扉はすべて開いていて、中には人々がいた。
老人が薪を割っている。
子供が歌を口ずさんでいる。
女が水桶を運んでいる。
ただ――彼らは誰もこちらを見なかった。
まるで一行が存在しないかのように。
ナディアが低く呟く。
「……聞こえる。けど、呼んでも返事がない」
ミナが首をかしげる。
「声が“過去”に沈んでる……今ここにいない」
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III ずれる
霧が濃くなった。
振り返ると、村に入る前にはいなかった教会が立っていた。
尖塔が高く、扉に十字のような印が刻まれている。
ルーシアンが眉をひそめる。
「……建物が増えてる。さっきはなかったぞ」
ヨハンが低く吐息を洩らす。
「順番が狂っている。ここは“時”が正しく並んでいない」
ボミエの耳が震える。
「ニャ……村が“こっちを覚えてない”ニャ」
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IV 消える
一行は宿屋を見つけた。
中には食事が並んでいた。
だが席は一つ空いている。
数えると――仲間が一人、いない。
ミレイユが名録を開いた。
ページには確かに名前があった。
けれど、筆跡がにじんで読めない。
「……座は残ってる。けど“誰”かが抜けてる」
ヨハンが強く拳を握る。
「出るぞ。これ以上は留まれん」
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V 出口
村を抜け、霧を割った。
だが谷を出てもなお、背後には村の屋根が見えていた。
遠くで鐘が鳴った。
ぽん/ちり/こ/く――。
順番は乱れていて、最後の音が最初に戻っていた。
ボミエが呟いた。
「ニャ……あれは、まだ終わってないニャ」
ヨハンは仲間を見渡した。
人数は揃っていた。
だが、誰もが胸の奥で一瞬「自分が本当にいたか」を確かめた。
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