果てしなき正義
私はかつてより善というものにあこがれていた。
人の為、世界のためによくあろうと考えそれが正しくないことならだれであろうと正そうとしてきた。
自分でも思うに正義の行いだろう。
相手を問わず、人を問わず、例えそれが企業であろうともおかしなことを見つければ徹底的にそれを直させた。国も生まれのところだけではない。幸いにして移動の手段は色々あり、文字通り地球の裏側にも数えきれないほど行った。
そんな人生を送ってきたものだから、敵も多かった。
ある人の行為を咎めれば翌日には子分だか舎弟だかを引き連れてお礼参りをしてきたこともあった。またある時には企業の不正と環境汚染を見つけ、その改善を訴えれば命を狙う者たちが現れた。
だがそれに屈するようでは善を為すには足りないとその者たちを改心させるべく対話を続けた。言葉で、身体で、己の持てる術を全て使って彼らを善の道へと戻らせた。
そうやっていくうちに少しずつではあるが世界が変わっていった。
自分の見える範囲でか、あるいは全土でなのかはわからないがずっと善が増えていると、そう感じた。
それから私の行動が少し変わった。
これまではあふれる悪を善に変えることに腐心していた。
それを悪を生み出さない、善のままでいさせる、そんな行動を増やした。
そうやっていくうちにまた世界は善で満ちていった。
私の行いもずっと広まっており同じように悪を全の道に戻したり、悪を生み出すまいとする人間が増えた。
まだまだ遠いがかつて私の夢見た善なる世界がすぐそこに近づいている。それはもう疑いようがない。
だがほんの少し前に気になることがあった。
そこは閉ざされた村で、土着の宗教が根付く小さな集落だった。その村にいる大人も子供も全員、神様を信じていて死後は必ず天国のような場所に行けると心から思っていた。
そんな光景を見て私は困惑してしまった。
悩んでしまったのだ。
私はこの村をどうすればいいのかと。
それから暫く悩み続けたが答えは出ない。
これまでこんなことは無かった。自分の行いに迷いを感じるなど初だ。
そして一つ決めなくてはいけないこともできた。
そのために私はこの手記を書いておく。
これまでの事を示すために、そして一つだけ読んだ人に何かを齎すために。
それももう終わる。
丁度最後のページでちょうどいい。
決着にこれほどふさわしいものもないだろう。
紙についたインクがにじむ前にペンを机に置く。
これで良いのだろう。
自分が善であるために、世界の為に。
額に冷たい感覚。
部屋に轟音が響いた。
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