私にとってのキミ
狼は孤立しても強く生きていける。
だから狼の獣人もそうだろう。なんてよく言われているけれど。
事実は残念ながらだいぶ異なっている。
実際の狼は本来4から8頭の群れで生活をするし、単独で活動する狼はその多くがリーダー争いに敗れた者だ。
つまるところ、狼の獣人も強く逞しいだけではない.......目の前の幼なじみのように。
ひっく、ひっくと喉を鳴らしながらひたすら泣き続けるこの男は私の番。名前はフィール。
大切な、大好きな私の番はとっても泣き虫だ。
私たちの親は仲が良かったから、私たちは産まれたその時から一緒に過ごす未来が用意されていた。
お互いに番ができるまで.......と親も思っていたようで私が意識するよりもはるか前から、手には暖かな手が触れていたし、いつだってお互いの呼吸音や微かな鳴き声さえも耳に届いていた。
心地いいと感じていたそれが、自分の番だからだと気づいたのはお互いが他の異性にあった日だった。
午後。ふといつもは心地いいはずの彼から鼻につくような匂いを感じて私は眉を顰めた。
「ねぇ、ちょっと。」
鼻を手で摘んで匂いをなるべく遮断しながら近づいていく。
「ナディア、ナディ.......」
いつもはピンと立っている耳をへにゃりと折り曲げ、大きな瞳からボロボロと涙を零しながら、彼はまるでそれ以外の言葉を忘れてしまったかのように繰り返し私の名前を口にする。
傍から見れば情けないその姿に、胸にストンと答えが落ちてきた。
---あぁ、これは私の番だ。誰にも渡さない。
「私の番は泣き虫くんだね。」
私がわらうと彼も大きい目をさらにひらいて、それからまた泣いた。
「嬉しい。嬉しい。」
そういいながら、笑いながら泣いたのだ。
それからの彼もやっぱり泣き虫だった。
「お前みたいな弱いやつが番なんて」と私が言われているのを見てはごめんと泣いて。
番の契約を交わした夜にも泣いて。
私が好きだと言った日も嬉しいと泣いた。
何度も泣く彼をみて、笑う彼をみて。
それでもやっぱり泣いた方がきっと多いだろうけれど。
情けないと笑われることも多いけれど、私にとってはかけがえのない番だ。
今日も今日とて、私の番は泣いている。
「いっ、いっしょに.......ぼ、く。」
私の番は優しくて、
悪口を言われた時戦うよりも、まず私が傷つくことを厭うのが先で。
いつだって傍にいてくれて、
私を裏切ることは絶対ないと言いきれる、そんな誠実さを持っていて。
それでいてやっぱり.......
「私の番は泣き虫ね」