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怪異喰らいの研究者  作者: 垂水沢 澪
Prologue:邂逅
3/13

小さな星々の守り

 ————約1千年前。


 人為的に生成された魔法原子(・・・・)の運用が世界を在り方から造り替えた。

 精霊やドラゴンを始めとした幻想種の顕現。

 地下には迷宮遺跡(ダンジョン)が広がり、敵対生物(バイオエネミー)跋扈(ばっこ)する。


 多くの人類が描いた夢の成れの果て。

 それがキャロルたちの暮らしている世界(オルヴィラント)だ。


 1つ目の(からす)もまた、魔法原子の影響下で生まれた敵対生物(バイオエネミー)の1種である。



「キャロルくん。1つ尋ねるが君は1つ目鴉(ワンアイドクロウ)(おそ)れているのかい?」


 ()いたとは言ってもまだ鳴き声が聞こえてる。

 安全とは言いがたい距離だ。

 移動するために立つよう促そうと口を開いたが先に問い掛けられて言葉を呑み込む。


「あんな(たか)って(ついば)むだけしか(のう)のない低級種を?」

「……奴らのことをどう認識してるかは知りませんが到底(さば)き切れる数じゃない……それに、例え追い払えたとしても親鳥(おやどり)が出てくるんです」

「デカいだけの無能だろう」

「それが厄介なんですよ」


 ベルゼクトの言う『デカいだけの無能』にどれだけの村人が食われたことか。

 立てた墓標の下に骨はない。

 血肉を(むさぼ)られ身動きが取れなくなると奴らは手足を押さえて巣に持ち帰る。

 親鳥が出て来た日はほとんどの者が丸呑みにされた。


「……ふむ」

「悪いことは言いません。早く森を出た方がいい」

「そうだな。用事を済ませたら出るとしよう」

「…………用事?」


 シャンテルくん。

 ベルゼクトに呼ばれた少女はトランクケースをその場に下ろすと地面に両手をついた。

 円形の術式が展開され、立ち昇った光が小さなドームを形成する。

 雪のように白く小さな星々が天井から降り注いでドーム内を照らす。


 唐突なことに反応の遅れたキャロルだったが、発生した光源が自分たちの居場所を知らせていることに思い至ると慌てて止めに入った。


「消してください、今すぐっ!」

「まあ落ち着きたまえ」

「これじゃ見つけてくれと言っているようなものだ!」


 人の話を聞いていたのか。

 それとも鴉たちのことを侮っている能天気なバカなのか。

 落ち着いていられるはずがない。

 術式に干渉しようと伸ばしたキャロルの手をシャンテルが掴んで阻む。


「外からは見えません」

「……は?」


 見えない?

 言葉の真偽を計るために視線を向ける。

 ————≪暗視(ナイトヴィジョン)≫が解かれて赤から灰色へ。

 術式の消えた彼女の双眼は真っ直ぐキャロルを写していた。


「そういうことだ。百聞は一見に如かずというし、術式(サークル)の外に出てみるといい」


 掴まれた手をそのまま引かれて術式の外に出る。


 振り返ると先程まで目にしていた星々の光はなく、それどころか内部に残っているベルゼクトの姿さえ見えなかった。

 暗いばかりの森と消音草(ミューラル)がひっそりと佇む。


「少し辺りを歩いてみてください」

「あ、ああ……」


 手を離したシャンテルに促されるまま術式が展開されていた場所を歩く。

 思い切ってベルゼクトがいた場所を探ってみるも手応えと言えるものは何らなかった。

 ……どういうことだ?


 シャンテルを振り返る。

 無言で伸ばされた手は繋ぎ直せということだろう。

 彼女の元へと戻って手を重ねた瞬間。

 星々の光とベルゼクトの姿が視界に戻る。


「正式名称を≪範囲指定型迷彩防御壁ランスプト・カディフォール≫と言うんだが、一般にはテントとか、安全地帯を略してアンチとか。呼びやすい呼称で知られているかな」


 ……ドームを形成し、星を降らせている術の説明か。

 一般に、と言うからには広く知られている常識(・・)なのだろう。

 顎に片手を添えて空を仰ぎながらベルゼクトはつらつらと言葉を並べる。


 しかし、キャロルに覚えはない。

 耳にしたことすらない名称に軽く眉をひそめる。

 

闇深き森の墓守ダークフォレスト・アンダーテイカー。君の知らない世界を授けよう」


 空から移された視線がキャロルを捉える。

 金色の光を溶かし込んだ瞳が優しげに弧を描く。


 そのために此処(ここ)へ来たのだと彼の視線が告げていた。


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