第2話 幕間 襲撃者たち
砂塵を巻き上げて多くのスカベンジャータイプが野を走る。
近くまでは九番街組織『解放同盟』と呼ばれる団体が持つトレーラーで走り、七番街の生産施設まで30km程度になったところで降ろされて今、機体を直接操り機体を走らせている。
スカベンジャータイプの特徴と言えば操縦者それぞれが自分に使いやすいように改造されたところであるが、今回はまあ仕方がない。
そもそも通常どうやっても手に入れられないはずの操縦するためのプログラムやエンジンから何から何まで手に入れられているのだ。これに不満を言っては罰が当たろうというものだ。九番街による競争を勝ち抜きやっと手に入れた機体を初めて動かしたときは心が躍った。今までの機体では手に入らなかった全能感ともいうべき圧倒的なまでの戦力を手にしたのであった。
そして、それを正式に手に入れるためにこの戦場で必ずや戦果を上げなければならないと心へ誓いを新たにするのであった。
この機体作戦番号3番を駆る男は元は七番街の傭兵だった。さらに遡れば五番街で軍務に属していた。贔屓目に見ても真面目という男ではなかったこの男は定期的に行われる適性試験をのらりくらりと躱せばいいと考えていたが、ある時とうとうそのツケを払うことになり、五番街から七番街へ異動が決まった。
異動の決定が降りた時はかなり荒れたものであった。この男自体は戦技の成績には申し分なく、むしろ戦技のみに注視すれば上から数えた方が早い場所にいたものであった。だが、ある時自分の鼻柱を折るために上官が模擬戦闘をかけた時に倒してから色々と自分の成績が低く見られるようになってしまったのだ。
その大幅な降格を契機として多くの組織を渡り歩くことになった。だが、懸命に這い上がろうとすればするほど足を引っ張られまた元いた場所よりさらに悪くなる環境に嫌気がさしたともいえる、また、自分の本性に気付いたともいえるが、とうとう彼は非合法組織に身を置くようになった。暴力は全てを早期解決に導く手段だと気付いた彼は裸一貫から九番街にて頭角を現し、今やこの場にいる部隊の中では一目を置かれる存在となった。
政府は言った。闘争を否定しない。争い、競い続けることでより良い人材が産まれるのだと。その争う方法を政府は指定していない。ならば自分が武力に頼り相手を撃ち滅ぼして得たものは自分の力であり勝ち取った物だ。
七番街の生産施設が近づいてきた。この世の真理に気付かさせてくれた恩義ある場所ともいえるが、怨念抱く場所ともいえるため暗い感情が胸を満たすことを感じる。
本来、これだけの戦力がいれば奇襲すれば確実に大打撃を与えられただろうがそれでは意味がない。
「何も考えず安穏と生き、いざ上がろうとする人間がいれば足を引っ張られる。そう、これは世直しだ!」
血走った目をしながら湧きあがった思いを、衝動のまま叫びながら男は操縦桿を握り直した。一人では無理だが、今回は多くの同じ意思を持つ仲間たちがいる。仲間たちは皆一様にこの世界を正すために、力による、本来の実力による選別が行われる世界を求めているのだ。だからこそ正面から堂々と戦力をぶつけ、完膚なきまでに打ちのめしてこそ意味がある。
走らせて数分、迎撃行動による砲弾が降り注ぐが、大盾を構えて一直線に走る。機体足部のローラーの向きを微妙に調整し盾ができるだけ自機を覆うように、そして砲撃に対して一直線に走らなければならないが、そういうことが不出来な奴ほど先にやられていく。一発食らいバランスを崩し、バランスを崩せばさらによろけた場所に砲弾が集中し戦闘不能に陥る。
力による優劣争いは時に運に作用される、哀れだが、戦うことは運も含めそういうことなのだ。あと少しで乱戦に持ち込める。乱戦に持ち込めれば数の力でこちらが有利だ。
「何より、安穏とした飼い犬暮らしの奴らに負ける気はしないがな!」
砲撃の雨の中一心不乱に走っていると、左右から敵機体がまばらに走ってきているのが見えた。恐らくこちらの足並みを崩すための奇襲だろうが、そんなことはこちらも織り込み済みだ。
当初125機いた部隊が砲撃により106機となったがそれを概ね5分割し、3個分隊である60機を正面に、残りを左右に均等に振り分けて突進を続ける。自分の立ち位置はこの部隊では3番手であったため左翼にまわりその部隊の指揮を執ることになっている。
左右から襲撃してくる機体は全てがスカベンジャータイプであるようだが、数は4機だ。性能としては若干劣るものの数はこちらが23機と圧倒的有利ならば負けることなどありはしないだろう。相手もそれを分かっているだろう一撃離脱を目標にしているだろうが、そうはさせまいと返り討ちを目指す。
こちらに来た4機は装備や機体構成を見ると近距離戦特化の軽量級の機体が2機、中距離戦型の中量級が1機、見た目がゲテモノな重量級が1機だ。
「重量級には67番から70番の3機で、回避主体に足止め。中量級には71番から75番で同様に足止め。残りで軽量級を包囲して動きを止め、一気にケリをつけるぞ!多少無理してでも押しつぶせ!」
こちらの部隊が一糸乱れぬ姿で役割分担して各個撃破を目指した姿を見て相手が動揺したのが見える。
それもそうだろう、これまで襲撃に参加していた奴らは九番街の新参者に当たるため技量も無い上に統率もあったものではない。あくまで奴らは目先の金と力に目がくらんだだけの奴らだ。
狙い通りでもあるのだが、ここにいるのは確かな意思のもとに戦うことを選んだものだ、一緒にしてもらっては困る。
軽量級の機体は突撃しようとしたがこちらの動きを受けて、1機は突撃を止めて後ろに即刻退き、もう1機はこちらを翻弄するように右にかけぬけようとする。退いた機体に向けては牽制射撃を繰り出し、残りの1機体を全員で囲むように移動する。飛び上がってこちらの機体の上を抜けるが、こちらも機動性では大きく劣るものではないため、相手の逃げ道をふさぐように追い詰め、とうとうこちらの高威力ライフルによる弾丸が相手機体を捉えた。
軽量級はその速さのためにバランスと防御をそぎ落としているため、大口径ライフルであれば1発の直撃が命取りとなる。弾き飛ばされ大きくバランスを崩して体を傾けるが、そこはスカベンジャーを駆るものということかうまく片足で弧を描くよう機動して機体を立て直し、包囲を抜けてみせる。バランスを崩しながら行われた銃撃でこちらの1機も致命傷とまではいかないが駆動系にダメ―ジを受けてしまう。
当初の予定通りにいかず、なかなかどうして押し込めないことに焦燥を感じるが、陣形を立て直してもう一度向き直る。
「隊長!すいませ、わぁっ!」
重量級を足止めしていた味方から撃墜されたと通信が入る。このわずかな時間で足止めをかけた3機がやられたらしい。
―馬鹿なっ!なんという速さか!
重量級の機体は付近の岩と同じ塗装にするかのように赤茶けた色をしており、装甲を大量に加えられた影響だろうが通常の2本の脚に加え、4本の脚が機体から支えるように伸びている。その足は節の部分が膨らんでおりその部分に駆動部品が取り付けられていると見え、速度は思いのほか早い。頭部には平たい装甲版が乗せられており胴体全体で見ると幅広な卵形のように膨らんでいる。
見るからに鈍重そうな機体だが、背面にある追加ブースターを吹かして加速すると弧を描くような軌道を描いて縦横無尽に回避機動をとりつつ、こちらの牽制射撃をものともせずに近づく。その装甲には多くの火器が取り付けられており、移動するに当たり正面に機体を捉えたと見るや一斉に砲撃してくる。おかげで近くにいた数機で足止めしようにも銃弾の雨を避けるため陣形は崩れきってしまっており、効果的な対処ができていない。機体の正面に立てば砲火にさらされるため回り込むしかないが、近くで回り込もうとすると背面ブースターを軽く一つだけ吹かして機体を急速旋回させることで正面に強引に向き直らせてくるため砲撃を食らってしまう。急速旋回の隙を狙おうにも今度はブースターを大きく蒸かして速度を上げ、うまく囲まれないように位置取りをしてくる。一つ一つの動きに対して思い切りが良いため、トップスピードで負けるこちらでは追随することすらできていない。
こちらの追い込みを避けるために逃げるような動きをしたと思えば機体をその場で横回転させて振り返り、追いかけるために加速していた1機が落とされる。
「隊長!こちらも・・・!」
爆発音が響く。足止めをしていたもう1機の中距離専用の装備をした中量級機体に差し向けていた部隊がいつの間にか半分に減っている。
中距離を避けるために肉薄してかく乱させる機体と遠距離から攻撃を加える機体に分けて戦っていたはずだが、地雷などを巧みに使い距離を取ったかと思えば遠距離用高威力ライフルで遠距離の機体に致命傷を与えたのちは余裕を持って近距離攻撃を捌くことでまた有利な状況を作り出していく。
自分の失敗だ。まさか、熟練の腕と繊細な操作を必要とする軽量級よりも基本に忠実な構成をした中量級と邪道な重量級が手ごわいとは予想できなかった。
状況を把握しようと相手の戦力を見極めている間に着々とこちらの数の優位が失われていくことに焦燥を感じる。
「俺と17番で重量級の足止めをする。軽量級だけでも片づけるんだ!少しでも敵戦力を減らせ!」
この部隊の中で最も腕が立ち、自分と連携している17番で決着をつけようと躍りかかる。できるだけ二手に分かれて相手に照準を合わせられないように動き、牽制する。相手機体のブースターには連続的に使用できないという欠点があることは見えたため、短いブーストを使わざるを得ないような状況に持ち込み2機で相手の動きを制限し、射撃を加えていく。
しかしながら補助脚の分、的が広いはずなのだが重量級はこちらの射撃の呼吸を読み、上手く加速と減速を繰り返して致命傷を的確に避ける。その間にもこちらの陣営は七番街のスカベンジャーによって数を減らされていく。
「ぐうっ!もう少しっ、近づけばっ!!」
ペダルを踏み込んでさらに加速を続け、少しでもダメージを与えるために機体を走らせる。
―もらった・・・!!
相手のブースターの旋回が追いつかない方向から限界まで近づきつつ、射撃を加えようと腕を持ち上げた。まだ、負けていないとトリガーを押し込むその瞬間、横から強大な力により衝撃を受けて操縦者は意識を落とすのであった。




