第1話 戦闘 VS『ガイア』
ぎりぎりの2対1を切り抜けてなんとか形だけでも1対1に持ち込めたことに安堵する。
正直、あの素早い奴との戦いは本当に紙一重の差による勝利だったと思う。最初は前衛の『骨機体』と後衛の狙撃機が連携をとれていなかったのだが、段々と連携がかみ合い始めて自分の逃げ場がどんどんなくなっていく様にはさすがに冷や汗が止まらなかった。なにかお互いにコンタクトを取っているかと予想して通信を傍受に割り当てていたのだが連絡を取り合っている様子もなく、即席の連携であったようだ。ケイティから常に地形データの読み上げをしてもらっていなかったらそこで鉄くずになっていたのはこの『骨機体』ではなく、自分であっただろうと思う。
『骨機体』は軽量化するために自分の使うアルトール社製の散弾銃「GSK-38」よりも弾薬量を増やすために炸薬量が少なく威力が小さめとなっているJ&B社の散弾銃を使っていた。そのおかげで最後に強引に追いすがって仕留めることができたともいえる。
―今回、本当に楽じゃないな・・・。
まだ、気は抜けない。正直、この後衛の狙撃機がいなかったらもっと早くに片を付けられていたはずだ。敵と味方の位置、逃げたい場所を想像しながら行ういやらしい狙撃というのを十分に心得ていた射撃であった。
「左腕肘部モーターに致命的な損傷。左肩部装甲破損。左脚部装甲破損。」
この1機を落とすのに与えられたダメージが機体のからアナウンスされる。先ほどの完全に不意を突かれた狙撃によって左腕の肘に深刻なダメージを負ってしまった。
「命令、左腕肘部を正面45度角で固定。」
―さて、どうするか。・・・電撃銃を壊したことで後が怖いな。ケイティに叱られるな、これは・・・。
ファルフリードは一瞬考え込んで判断する。
ひじが動かないということは正確な照準ができなくなることでもあるため、大味な命中精度の散弾銃で押し切るのも良いのだが、散弾銃は反動も大きいため今後の戦闘を考えると、左肩部のモーターにこれ以上負荷をかけることは恐ろしいと思う。なおかつ、相手の装備を見ると好む距離は中距離から遠距離だ。
ならば、右手に散弾銃を持って近接戦闘に特化させてなおかつ左手には弾幕用のアサルトライフルを構えるのが望ましいのだろう。
とにかく、中、遠距離戦機体に対しては遮蔽物を利用してとにかく相手の射撃を封じつつ近づかなければならない。護衛対象がいる以上、こちらは逃げることもままならないうえ、長期戦に持ち込まれても不利になるならば、と判断してそのまま多少強引にでも距離を詰めていく。遮蔽物から身を投げる際にはあらゆる回避技術をつぎ込みフェイントをかけつつ、更には左手のアサルトライフルで弾幕を張りつつ近づく。しかし、先ほどの『骨機体』の最後の迎撃に食らった散弾銃の衝撃の影響によるのか、脚部の反応が若干悪いためなかなか追いつくことがままならない。
相手の機体を見ると、重装甲タイプの脚部に中重量型の機体コア、そして軽量型の腕部とどこか機体コンセプトにちぐはぐさを感じさせる。頭部は赤のツインアイカメラ、カラーリングは基本に忠実に現場に合わせた砂漠戦仕様であるが、統一性のない機体構成であるためどの距離で戦闘するにも満足な機体性能を手に入れることができないだろう。
―・・・どうにも懐かしくなるな・・・。
先ほどよりは余裕があるからか、自分の思考があさっての方向に行くのを感じる。だが、あのようにちぐはぐな機体は資金が限られた中で初めてスカベンジャーを使おうとするならば誰もが通る道なのだ。自分もそのような時代があるので懐かしく思う。
―それにしても、いい腕だな、こいつ・・・!
正直、最初に機体構成を見て甘く判断していたことに自分を恥じる。できるだけ距離を近づけようとするものの巧みに携行地雷を使われたり、構造が薄い遮蔽物越しの射撃によって近づくことがままならない。
「右3棟は構造が厚いわ。遮蔽物に使える。でも、その先は遮蔽物が無いから気を付けて。」
ケイティから地形構造データを逐一入れてもらっているおかげでこちらは無理な攻めも多少できるので助かっているが、相手の巧みな操縦技術と脚部の不調によって攻めが長引かされる。いつ増援が来てもおかしくないため、焦りが募る。
「ちょうど、この建物の左裏は自然の丘よ、木も生えているからぎりぎり遮蔽物にすることができるはず、チャンスよ。」
―本当に・・・助かる!
アステリズモのサポーターはアイーシャ含めて全員かなり腕が良い。現場としてはものすごく助かる。戦況を先読みしてこちらがほしいと思われる建物と地形データを確認して瞬時に情報をくれるのだ。
フェイントをかませつつ、機体を限界まで傾けさせて踊るように丘の陰に隠れるように移動させる。相手は丘の死角でどこから攻めるかわからないため、少しは戸惑うだろう。
―ここまでの戦いぶりだと俺が強引に攻めてくるだろうと思っているだろうな!
散弾銃を瞬時に格納して炸裂ダガーを丘越しに放る。丘を斜めに駆け上がり機体を飛び上がらせて空中で相手機体の位置を確認して一気に近づく。どうやらこの戦いで初めてつかわれる炸裂ダガーに驚きこちらの位置を見失っているようだ。
左手に持っていたアサルトライフルで大雑把な照準だが銃撃を浴びせる。照準が甘く、これではとどめにならないだろうとアサルトライフルを撃ちながら散弾銃を取り出して有効射程に入ろうとした瞬間、足元に何か違和感のような危機感を感じさせる何かがあった。
―っ!!
その直感を信じて機体のジャンプブースターを使用して強引に着地位置を変える。先ほど着地しようとした場所に対M,A爆雷が置かれておりちょうど炸裂したのが見える。その位置では設置した狙撃機自身も被害を受けるかもしれないが、恐らくそれだけ近くになければこちらの放った炸裂ダガーの爆風から隠れられず、こちらが気付いてしまうであろうというぎりぎりの位置であった。急制動によるGに歯を食いしばって耐えながら操縦桿を握る。爆風により機体のバランスが崩れそうになるが機体の加速先にあった近くの建物を足蹴にバランスをなんとか取って、すぐさま散弾銃で攻撃を加えようと何とか射撃する。
こちらがぎりぎりの状態で撃った散弾は相手機体にかなり近い距離で命中したのだが、やはりとも言うが、どうやら機体の装甲が大きくはがれるが致命傷には至っていないという事実を確認し、ファルフリードは歯噛みする。
―仕留めきれなかった・・・!
しかし、相手は逃げることに切り替えたのだろう。機体を翻して一目散に戦闘領域からの退避を図っている。こちらが戦闘の継続が難しいことがばれても困るのでアサルトライフルでまばらに逃げた場所へ向かって射撃するが、特に効果は無いだろう。
気は抜かずに急ぎ、周囲を警戒するが特に大きな戦力は近くに存在していない様子であった。
「ファルフリード、お疲れ様。無事でよかったわ。もう少しで救助終了よ。整備もあるだろうから急いで戻ってきて。」
ケイティから通信が入り、やっと肩の力を抜く。前回の作戦と今回の作戦の困難さにため息が出る。
―紙一重、だったな・・・。
正直、ケイティの援護がなかったら万が一が生じてしまう可能性があったと思うと眉間にしわがよる。だがまだ、『サジタリウス』も残っているだろう。これからもまだまだ狙われる時間があるだろうと思うと整備に時間をかけていられないと思う。
まだ、命を懸ける時間は続いているのだ・・・。




