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第1話 幕間 射手の見つめるもの

「どうやら、仕留められなかったようね。」


 鼻持ちならない女の声が通信機より届く。


「冷静なつもりだったのだが俺も頭に血が上っていたようだ、奴の性格を考えて撤退できるのならば撤退を選ぶということも当然だ。しょうがあるまい。」

「あら、『サジタリウス』としては随分弱気ね。」


 依頼人とはいえ、人の気を逆撫でするようなことを言われると通信を切りたくなってくる。かなり本気で通信機のスイッチに手をかける。正直、帰投してから話を聞けばいい。今は昂っている感情とこの余韻をぶち壊されたくない。


「・・・冗談よ、本気にしないで。・・・それで楽しかった?」


 思い返すと血がわき肉が躍る感覚が手の中に残っている。

 噂には聞いていたが『ブレイドアーツ』とアステリズモの戦いを見てその噂と強さが本物であると確信できた。


「ああ、やはりすばらしい、負けるとは思わなかったが、勝てるとも思えなかったよ。」

「そう。では次のチャンスで当たればまた会えるわよ。でも、次は別の人に倒されてしまうかもしれないわね。」


 ひどく楽しそうな声で嫌味を言ってくる。だが、手の中に残る感覚を思い出せばそれは些末な問題だ。


「そういう契約だ、理解している。だが、まぁ、無理だろうな。」


 自分の声が楽しそうな声であることに自分が驚く。しかし、無理もない。集まったスカベンジャー乗りはどれも優秀だが、奴には及ばない。


「そうかしら・・・、それなら残念としか言いようがないわね。全く、『傭兵の王者』、スカベンジャーなんて肩すかしもいいとこね。」


 この女が言う『傭兵の王者』とはスカベンジャーが傭兵組織で最も力のある兵器であるとしてつけられた名称だが、そんなものに意味など無い。そもそも、単純に兵器としてスカベンジャーは欠陥品なのだ。兵器として運用するには弱点が多すぎる。装甲の薄さ、安定感、操作性、どれをとっても他の兵器に対して見劣りする。そもそも、人が人型を動かすのにレバー、ペダルとボタンだけでは満足な操作などできるわけがない。スカベンジャーが優秀なのはM,Aの中で換装が容易であることと大きさによる出力の高さぐらいしか取り柄が無い。

 それでもその名がつけられたのは初めにそれを運用した者の圧倒的な腕による伝説が原因だ。S,Aと同じ姿をしたM,Aが圧倒的な腕をもって向かってくるのだ。誰もが畏怖と恐怖の念を込めてスカベンジャーと呼んでいたのだ。

 所詮、自分も含めて今のスカベンジャー乗りは伝説にあやかったまがい物にすぎない。そんな伝説と伝説に立ち向かおうという腕の立つ愚か者によって傭兵社会にスカベンジャーというブランドが立ったのだ。それでも『傭兵の王者』と呼ばれるだけの戦力はあるのだろうが、自分にとってスカベンジャーという名はそういうものではないのだ。


「すまんな。期待に応えられずに。」


 その名の経緯を知る自分の謝罪は皮肉に映ったのだろう、依頼者が憮然としているのが無線機越しに分かる。そのさまを想像すればこれまでの溜飲が下がるというものだ。


 「そう、では、結構。帰投してくださいな。それならばあなたがもう一度出撃する目もあろうというものですね。その大口期待しているわ。」


 途端に声色に表情が無くなって帰投を促される。苦笑して、通信を切り火照る体を冷まそうとコクピットを開放する。

 開放したとて外は灼風が吹きすさぶ六番街、体が冷えるはずもないが、自分の芯が覚めていくように感じる。


「やられてくれるなよ、アステリズモ。まだまだ楽しませろ。」


 ふと、作戦内容に記されている次の部隊の名前を見る。


「次は運試し、か。誰が当たるものだろうかな・・・。

む?こいつは・・・?あやつももう少し時間があればその名をとどろかせることはできるのだろうが、若すぎる。残念だ。」


 どうやら次に襲撃の役割を負うものの中に面白い名前を見つけたのだろう、残念と言いつつ『サジタリウス』の操縦者は獰猛な笑みを口元に浮かべて砂埃の向こうにいるアステリズモが避難した方向をにらみつけるのであった。



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