第1話 戦闘 任務開始
この途切れなく続く振動は短い時間だけならば耐えられるが長時間に及ぶともはや搭乗者の三半規管を破壊するためだけに存在している・・・!
隣り合っている街同士の移動は陸路を行く場合は半日程度かかることが多いため、こういった業務についていると慣れてくるものなのだが、キャタピラによる移動だけはいつまでたっても慣れない。そのためファルフリードは無駄な思考を続けることで乗り物酔いから逃げるしかなかった。
出発から4時間半後、戦闘区域に入るため振動が劇的に少なくなるキャビンから移動し機体の中で待機を始めて30分。いつでも起動できるよう機体の電装のチェックを終えたのち、無駄な電力を使うことを避けるため、外部モニターも表示せずに機体を省電力状態で待機している。一応、無線は開くことができるがさりとてキャビンで警戒活動をしている仲間たちを邪魔するわけにもいかない。結局、することもないため一人暗闇の中で乗り物酔いと闘い続けるしかない。
現在地は六番街周辺、キャタピラで走る大型トレーラーは荒野の街道の中砂塵を巻き上げつつ、順調な速度で走る。大型トレーラーには二機の巨大な横に倒した円筒型のコンテナが連結されており、走っているだけで周囲に砂塵だけでなく巨大な振動をまき散らしながら時速80km近くの速度を出しながら進む。
「ファルフリード、大丈夫?」
あれからさらに酔いとの戦いを始めて30分後にモニターが光り、アイーシャの顔が映し出される。
「問題ない。いつでも行ける。」
自分の状態を言うのもなんとも気恥ずかしいためとりあえずやせ我慢で戦闘状態に入れることは伝える。
「そう、どうやら救助船団は到着しているみたい。そして、どうやら中の状況は決して良いとは言えないみたいなの。色々とごたつきがあるらしくて休憩なしで戦闘に入るかも。S,Aが来る前に救助活動を始めているみたいなんだけど、どうやらその出撃後に襲撃を受けたらしいわ。不可解だけど救出部隊と一緒に護衛部隊の本隊がいない状態で襲撃されて戦闘状態に入っている以上、身にふりかかるかもしれない火の粉は振り払う必要があるわ。むしろ、M,Aばかりのうちにうちが出撃してこちらの実績を作ってほしいの。ついでに追加報酬をせびるチャンスだと思って殲滅して。」
どうやら、社長たちは状況を考えた結果、戦力を出したほうが良いと判断したらしい。なら、戦闘員のやることは一つだ。
「了解、出撃する。」
「幸運を祈るわ。どうか、気を付けて。そして無理をしないで。」
普段あまり表に出さない気弱な声で幸運を祈られるが、いつものことだ。
「機体チェンバー開くぞ!うまくやってこい!」
トレーラーの作業場からアルガスの声が響く。
横に倒れた円筒型の機体チェンバーが中央を割れ目に開き、無骨なシルエットの人型機体が外気にさらされる。機体にはエネルギーが循環し始め、機体の顔の丁度目の部分にある左右に長い複眼構造のカメラに光が灯る。チェンバー内で起き上がった機体はそのままブーストを吹かし飛び上がり、脚から地面に着地すると同時にかかとの部分の車輪が高速回転する。砂埃を巻き上げながら高速で戦闘地域に向かうのであった。
「では、行ってくる。」
現地に到着すると、ちょうどM,Aの第二波が拠点に近づきつつあるところであった。
「アステリズモか!救難信号を拾ってくれたのか、助かった!こちらは救出部隊が街区の中に向かった後の戦力の少ないところを狙われた!こちらも反撃したいが何分戦力が足りない!力をかしてほしい!」
オープンチャンネルで拠点施設より通信が入る。救出を目的としており、特に物資もない拠点を襲う意味が分からないが、ひとまず戦況を好転させるために戦闘を始める。
街に近づくにつれ緑地が増えてくるため戦場には木々もあり、一対多の戦闘には非常に便利な地形である。
ファルフリードは機体足裏のローラーを回転させて敵の狙撃に備えて乱数軌道を織り交ぜつつ、敵戦力に近づいていく。
―M,Aは16機、か?とりあえず状況と機体性能のおかげでそこまで不利は感じないな。
レーダーに敵性機体の光点が表示され相手の大まかな布陣を見切る。迎撃能力がないことを前提に組んだのだろう布陣は横に広く、こちらとしては各個撃破が見込めるためありがたい。
「情報が来たわ。敵性機体の大半は土木工事用を改造した人型のM,Aね。さすがに全て人が乗っているわけではないと思うけど、こちらからは有人機がどれかわからないわ。あと、熱源反応等のデータからすると恐らくミサイルを装備していると予想、遠距離からの砲撃に気を付けて。装備構成からすると戦い慣れているようね。長引かせると応援が来る可能性があるわ。追加戦力が来る前に撃破して。」
敵機体は土木工事用の馬力にミサイルを装備することでバランスが取れた戦闘力を持っているようである。
ファルフリードは機体の右手にある強襲用アサルトライフルで威嚇射撃をしつつ、人の乗るM,Aの機動を探す。
―遠隔操縦するにしてもよく訓練している。なかなか戦闘機動にムラが無いように操るな。
レーダーだけでは遠隔起動の挙動が分からなかったため、各個撃破を目指す。ひとまず、部隊の左翼前部に配備されている機体が3機と少ないためそちらを強襲する。
機体を若干かがめて少しでも被弾面積を避けて肉薄すると相手は大ぶりの格闘攻撃で迎撃してくるが、機体を飛び上がらせ、周辺の木々を足場にして空振りさせる。脚部に格納されている炸裂ダガーを敵機体の頭部に投擲して1機目を撃破する。
「なんだ!もう1機撃破されたのか!?事前の情報では奴らの戦力は最低限のはずじゃないのか!?」
相手側は混乱しているのか、足並みが崩れている機体がいるが、足並みが崩れるということは恐怖を感じていることの証左でもあるため、有人の機体である可能性が高くなる。まずは優先して友人機体を狙い状況の優位を確保する。
ファルフリードはそのまま撃破した1機目を盾にして隣にいた相手機体の小銃による銃撃を受け流し、今度は腰部にマウントされている8m高振動ソードを相手機体の脚部と胴体の接続部にねじ込み真横に振りぬく。
本来、白兵戦用の装備は殺傷したくない相手や火器を使用できない環境で使う手加減用の兵装なのだが、戦力差がある状態で弾薬を節約しなければならない今の状況には非常に向いている。
続いて突出してきた1機に狙いを定め、遮蔽物を活用しながら敵機体が動かなくなるまで射撃を重ねる。
―よし、これでひとまず三機、か。
単純に戦闘を目的として作り上げられた人型巨大兵器と、元は別の戦闘用に使われるはずのない重機では機動性も火力も全てが足りないため、ある程度力量があれば大きな被害を受けずに同時に10機は相手できる。しかし、この後のことを考えるとできるだけこちらの戦力を消費したくないのが本音だ。補給が満足に受けられるならまだしも、予備パーツの数に限りがある今は・・・
―無傷で切り抜けなきゃいかんな・・・。しんどい戦いになりそうだ。
こちらがスカベンジャーであることに気付いたのか敵対勢力は重機としての性能に任せた近接攻撃をせずにミサイルによる攻撃へ切り替えた。10機近くのM,Aがミサイルを撃ってくる姿は壮観であるが、撃たれる側としてはたまったものではない。遠距離のままで数の力に押し負けるわけにはいかないため、ミサイルの雨をぎりぎりで避けて距離を詰めていく。機体の付近をミサイルの煙がとおり過ぎていく中、要所要所でジャマーをばらまいていくことで遠隔操作機の足止めやミサイルの誘導を妨害して、着々と近づきライフルで相手の戦力を削る。
「スカベンジャーと言えどたかが1機だ!撃て!撃て!」
敵指揮官はオープンチャンネルで激を飛ばすが、その声音は時間がたつにつれ悲鳴へと近づいていく。
有人機を射撃で足止めする中で隙を見て遠隔操作機の背後にまわり高周波振動ソードを一閃する。そのスピードを殺さずに体を横に流し、木を足場に飛び上がることで相手の視界から自らを外して近づき、有人機を縦一閃する。
また一機、また一機と撃破を重ね、残すところ遠隔操作機を含めて最後の3機となるが、相手は最早おびえるだけとなり逃げようと機体を後ろに向けているが、ファルフリードは攻撃を続ける。
―撤退は・・・させねぇよ!!
「ひぃぃぃゃぁぁ!!」
敵の悲鳴が響く中、1機には爆裂ダガーを投擲し、もう1機にはライフルで打ち抜き、最後の1機へは高振動ソードでとどめをさす。
急ぎ、周囲を索敵するが現状特に反応は無いようである。
「社長、どうだ?」
「1機恐らくスカベンジャーが近づいてきてる!ひとまず撤退して!」
アイーシャの緊張した警告が無線より響いてきた。
―っ!?
ファルフリードは機体を全速で翻し、拠点に戻るように走らせる。スカベンジャーを相手にした場合は1対1では無傷で済む保証が全くないため今はとにかく撤退するしかない。
逃げるのかと挑発的な内容の罵声がオープンチャンネルを通して流れてくるが、相手の土俵に乗るつもりはない。
―そもそもなぜ、S,Aが来るはずなのにこんなに強気でいられるのか・・・?
ひとまず、機体を安全圏に避難し、一息ついたところで拠点の状況を確認すると、どうやらアステリズモの他の面々は拠点につき救護活動を行っているようである。
「ファルフリード、お疲れ様。どうやら後続はないみたい。M,Aでもあれだけの数をほぼ無傷で切り抜けられるなんてさすがね。」
アイーシャの喜色のこもったねぎらいの声を聞くと顔がほころんでくる。どうやらこれ以上の戦闘は現時点では考えられないため緊張を弛緩させてため息をついた。
「今回は、本当に先が、思いやられるな・・・。」
機体の中では感じられないが、熱を帯びた風が渦巻く気配がする。
ちなみに作者が03-AALIYAHが好きなので複眼カメラが採用されています。
でも、設定上関節がほとんど動かないKMFみたいな動きするダグラムみたいなやつなので、あんなかっこよくないのが悩みですorz