第1話 幕間 ニコの疑問
会議後、めいめいに席を立ち時間も時間なので今日は適当に引き上げ帰ると言っている中、ニコは会議中に持った疑問をファルフリードにぶつけた。
「みんな、この会社がというより社長が好きなの?」
先程のブリーフィングを聞く限り、皆が社長が前線に行くことを非常に嫌がり、また、行くのであれば自分が必ずついて行くと述べるのはやはり不思議に思った。
「んー、そうだな。ま、あれだ。うちの社員は俺以外の全員がこの会社の先代に恩なり縁があってな。先代が死んだあとはその一人娘であるアイーシャを何らかしらの理由で助けたい、ってのがあるんだろうよ。」
後頭部をかきながらどうにも答えにくそうな表情でファルフリードが答える。どうやら皆の過去を他人が話すのはよくないと思っているようである。
この業界はあまり人の過去に詮索しないというのがルールのようであり、自分としてもなかなか聞きにくいものがある。でも、どうやらそれぞれが社長のために命を懸ける理由を持っていることが予測できた。
「確かに不思議に思うよな。うちの社長はこの業界の中ではあり得ないほど若い。知っている人には顔出しで対応することはあるけど、なめられないように基本的には電話越しで対応するぐらいだしな。まぁ、そんな社長について行くってのはみんな誰かしらなんか理由があんのさ。お前もここにいるお前だけの理由があるんだろ?」
確かに、ある。行き場所がないのも本当だし、実際に限りなく偶然に近かったがアステリズモには接触したかった。まさか、入れるとは思っていなかったしそれにこんなに居心地が良くていい人ばかりだなんてそれこそ夢にも思っていなかった。そして、実は何より自分が現場に行くと言い出すとは自分でも思ってもいなかった。
「ここは居心地がいい。」
ニコは曖昧に答え、つぶやく。それこそ、誰にも話せない理由が自分にもあるのだからこれ以上は踏み込めない。でも、そういえば・・・。
「ファルフリードも?ファルフリードは先代に恩がある人じゃないんでしょ。」
さっき「俺以外」と言っていた気がする。ということは別に理由が?
「俺はそれこそ俗っぽい理由さ。でもだから命を懸ける理由があるんだよ。俺は俺がよしと判断した生き方をするってことで戦うんだよ。それだけだ。」
理由を語っているんだか語っていないんだかよくわからない回答が返ってきた。自分が聞いても答えてくれるとは思ってなかったし、ぼかしつつも関係ないとは言わずに答えてくれたことに感謝をのべた。
「答えてくれて、教えてくれてありがとう。」
「驚いた。もっと事務所内でもそういう表情してやれよ。社長たちも分かりにくいって言ってたぞお前の表情。」
言っている意味が分からず、自分の顔を片手でさわり首をかしげた。
「いや、笑ってたぞ?お前。というかお前もよくわからんな。」
―・・・笑ってた、か。笑顔なんて、というかこうやって疑問を持って話しかけるのも久しぶりな経験のような気がする。
「自分でもよくわかんない。でも、表情変えられるようにがんばってみる。」
ただ、自分でもよい変化な気がするのは確かだ。
―出撃までもう日がない。できることはやっておきたいから今日はもう帰ろう。
話を切り上げ、改めて頭を下げて踵を返そうとしたところ、後ろから声がかかった。
「あーと、そうだ。とりあえず、うちの会社はぶっちゃけちまうと、良くも悪くも社長大好き軍団だ。だから社長に危害を与えそうになると、もれなくものすごいやばい奴らになるってのは気を付けとけ。」
「ありがとう。気を付ける。」
とりあえず、うちの会社は社長に対して過保護な集団だということがなんとなくわかった。
―でも現場で社長を見た人たちは甘く見て痛い目を見るってことなのかな?それはそれで面白い気がする。
お先に失礼、と事務所に声をかけて近くの自分の部屋に帰ることにした。
外を出るといつの間にか、空は暗くなり髪をなでる風は過ごしやすい風になっていた。その風の中、ニコはため息をつき、決意を新たにするのであった。