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第1話 日常 ブリーフィング

 事務所2階の窓から来る光が赤みを帯び始めた時間、アステリズモの事務所の会議室では6人の社員が集まっている中、プロジェクターの光がスクリーンを明るく照らす。5人は真面目な顔でスクリーンをにらみ、クルガンの話を聞いていた。


「まとめますが、僕が確認とれるあらゆる方法でこの依頼書は正規のものであることが確認を取ることができ、また、ホワイトヘザーの担当者は本当のことを言っていると判断できますね。」


 依頼書をスクリーンに映し、クルガンが肩をすくめてひとまず、報告を区切る。


「そう、ありがとう、クルガン。つまり、この依頼は必ず受けなければならない、ということね。」

「その通りですね。社長。僕も皆さんの懸念通り、ホワイトヘザーが緩やかな形で戦力分析をしてくる今のうちに依頼を受けるべきだと思いますね。そして、実は依頼内容の話をしている最中もそれを隠すことなく臭わせてきています。不測の事態の解決にはあなたたちの戦力に期待してますよ、とかですね。」

「・・・このミッションの適法性と安全性はどうなの?」


 クルガンが言い終えたのち、ケイティが質問した。


「この依頼の依頼者はホームであることは確認できましたのでいわゆる適法性はあるといえます。しかしながら正直に申し上げますと、安全性は低く、また、危険性は非常に高い、と思われます。理由ですが、私はホワイトヘザーがトラブルをわざと私たちが戦闘せざるを得ない状況に持ち込む可能性があるとみています。後で詳しくお話ししますが、少なくとも6番街には複数機のM,Aだけでなく5機のスカベンジャーがいることが確認されています。」

「・・・そう。反対したいけど・・・。これまでの状況を聞いていると反対できないわよね。」


 その答えにケイティはほぞを噛み、眉間のしわを指でなでながら呟く。同じような表情を浮かべつつクルガンも首肯する。


「僕も全く同じ気持ちですよ。正直、危険に直接飛び込むような真似はしたくないです。」


 クルガン、ケイティ、アルガスが苦い顔をしている。


「この状況だと、どうしてもパルサーが必要になることは想像できるわ。そして、パルサーを使用するということは社長が現場に行かなければならないということでもあるのよね。」

「えぇ。むしろ、パルサーが必要だとホワイトヘザーは述べています。」


 ケイティが絞り出すようにつぶやき、それに首肯するクルガン。苦い顔をして俯く社員の顔を見て脳裏に浮かぶのはいつかのこの会社の姿であった。大好きな場所が今にも崩れてしまいそうにそうなったあの時に自分は覚悟を決めたのだ。あの時好きだったこの景色を命の限り守り抜いていくと。

 だからこそ心によぎる不安を潰して、いつものように明るく声を上げた。


「みんな。いつかみたいになってる。ちゃんと、正面を向いて前向きに考えようよ。だって、このまま普通に仕事していたとしても予期しないタイミングでトラブルに巻き込まれるかもしれないんでしょ?でも今回は自分たちが選んで危険に飛び込むことができる。それなら、用意のしようもあるというものよ。」


 皆の顔を見渡して話す。いつか、追いかけた先代の社長の背中を思い出す。


「この依頼は巻き込まれたんじゃなくて、自分たちのために自分たちの意思で受けるの。そもそも、ファルフリードの腕とうちの機体、パルサーと通常持ちえない戦力がそろってしまっている以上いつかこうなることはわかっていたはずよ。・・・えーと、あ、でも本当に身の危険を感じるのならファルフリード以外は休んでも大丈夫よ?」


 勢い勇んで笑って話しを続けてみたものの自信がなくなり、尻すぼみになってしまい、手を振り俯きそうになる。


「何言ってるの?大丈夫よ。アイーシャが行くなら私も行くわ。」

「そうですぜ。お嬢を一人にさせることはしませんよ、必ず。」

「僕も同じです。社長が行く場所が僕の行く場所ですから。」


 そんな自分にケイティ、アルガスとクルガンは即答で返してきたことが少し勇気をくれる。


「私も、行く。他に行くところはない、帰るところもない。今はここが私の居場所。」


 俯いていたニコが正面を向き、目を合せてきた。


「俺はアステリズモの戦闘員ですから、社長を守ります。」


 最初から最後までファルフリードはまっすぐこちらを見据えて宣言するのであった。


―ありがとう。


 心の中で自分の言葉に頷いてくれる皆に感謝し、ファルフリードの宣言と皆からもらった勇気を込めて改めて宣言した。


「じゃあ、決定ね。この仕事を、受けることにするわ。受けるからには必ず成功させようね。」



「それでは、気を取り直して僕から作戦目標について説明させていただきますね。」


 改めてスクリーンに六番街の地図が表示される。


「実は今回の任務に当たり、当日にホームからS,Aが2機出動し武力制圧がされる予定です。また、一応、制圧宣言がなされるとも聞いています。制圧宣言されてから3日後に制圧行動に移るそうですが、私たちは同時間帯に現地へ別の場所から進行します。S,Aの制圧活動中にホワイトヘザーは戦闘前から戦闘中にかけて救助活動を複数回行うそうです。そして、避難完了していない人々を収容し、ホワイトヘザーの待機部隊に引き渡すことが主な任務となります。」


 S,A2機のそれぞれの進行ルートとそれとは反対にある任務に使用される別のルートが表示された。


「救出作戦は2段階に分かれます。大型人員輸送用フロート戦車で迎え移動する段階と、特殊走行輸送車で運ぶ段階です。フロート戦車はその名の通り移動が素早いことがメリットですが小回りが効かないため、第一段階として使用し、8つの拠点施設に迎えに行き、大味で救助していくとのことです。そして、救助の際に6時間後に改めて迎えに行くメッセージを残し、一度六番街から避難し、六番街の外に待機している航空機に引き渡します。実行部隊は補給完了後に、同地点に向かい小道を使用しつつ避難者がいれば救助し、先ほどの拠点施設をもう一度訪問し、訪問完了後、また改めて六番街の外に待機している航空機に引渡しミッション完了となります。ちなみに同様の部隊が他に2隊いるとのことです。」

「かなりの距離の移動が必要になりそうなのね。パルサーと私も一緒に移動することを求められているの?」

「ええ、社長、その通りです。ホワイトヘザーから最終兵器としてパルサーを使用したい、と連絡が来ています。」


 つまり、生体認証の必要なパルサーが最前線に行くということは私が現場の最前線にいることを指す。自分が最前線に行くこと自体はファルフリードがいるから心配はないけどかける命は少ない方がいいのに私の命を守るため他の社員が現場に来てしまう。


「自前のものを持っているじゃないの。アイーシャが行く必要ないんじゃない?」

「それを含めての報酬であり、前金だというのがホワイトヘザーの言い分です。粘ったんですがね・・・。」

「いいわ。構わない。恐らくホワイトヘザーも私たちの保有戦力を調べたいのだったらどうせ使わせるはずよ。それに電子機器にダメージが大きいから拠点で使わされるより現場でこちらの判断で使う方がそのあとのトラブルに対して優位性がとれるわ。」


 社員の命がかかることに手が震えるがそれを隠し、強気に言い切る。

 すると、スクリーンが一度暗転し、今度は敵対戦力の各機体が映し出される。


「次に敵対戦力になります。噂通り六番街は最近武装化を進めており、多数のM,Aだけでなくどうやらスカベンジャーを少なくとも6機配備を確認したと情報が入っています。S,Aによる制圧が行われますが当然戦闘が予想されます。スカベンジャーもそこまで質のいいものが入っていると情報は無いのですが、情報が取り切れていない以上どのような戦闘にも対応できるように準備が必要だと考えます。」

「ホワイトヘザーはなんて言ってるのかしら?」

「表面上は何も。むしろ戦力は用意しているため、戦闘行為をアステリズモに依頼することは考えていない、だそうですよ?ただし、特に第二次救助活動は戦闘区域内を最低戦力で通ることになるため、パルサーを最終兵器としたい、と。また、パルサーを最終兵器にすることからアステリズモは護衛対象に最も近い位置に配置する、だそうです。細かい情報はお手元の通りなのですが基本的な内容については以上となります。」


―『最も近い位置』とか『どのような戦闘』とか色々と嫌な予感を感じさせる言葉が気味が悪いわね。


「質問がある。」


 ファルフリードが手を挙げた。


「パルサーのタイミングはこちらに任されているのか?」

「基本的に部隊長に任されるそうです。ただし、自らに直接的な危険が降りかかることが予想される場合はその限りではないそうです。」

「なら、問題ない。俺の出撃も同じような感じか?」

「はい、同様です。基本は社長か私に連絡が来るのでその指示に従ってください。」

「了解。」

「他に質問はありますか?」


 クルガンは周りを見回し、質問がないことを確認すると最後に補足する。


「今回の出動はパルサーとスカベンジャーの両方が必要とされていますので、キャタピラー換装のトレーラーで現地に向かいます。ニコさんは現場に行きますか?」


 クルガンはニコに投げかけた。現場に来てニコにとってよいことは何もないから来なくてもいいと考え、来なくてもよいとアイーシャは声をあげようとしたところニコは即答した。


「みんな行くでしょ?なら、行く。みんなといたい。」

「そうですね、全員行きますが・・・、行く身で言うのは難ですが、これから行くところは普通に戦場ですし、来ていいことは一つもないと思いますよ?」


 ニコの即答に少し驚き、クルガンが忠告する。


「大丈夫。あまりできることは無いけど、いざとなったらM,Aも遠隔だけでなく乗り込んで操縦できるように訓練した経験がある。」

「それはだめ!M,Aだけは乗ることはうちの方針にはあり得ないわ。どんな状況でもM,Aは遠隔操縦のみよ。」


 アイーシャが声を荒げて反対したことに驚いたようだが、目を伏せて言葉を続けた。


「わかった。でも、ついていく。何かできることがあると思うから・・・。私も行きたい。短い期間だけどこの場所が好きになったから。」


 ニコは言い出すと妙に頑固だとアルガスやファルフリードがぼやいていたのを思い出す。ここでいくら押しとどめても恐らくついてきてしまうのだろう。


「わかったわ。あなたが来ることを許可するわ。現場も人手が足りないでしょうし・・・。ただし、自分の命を最優先にすること。それがうちの社訓だから。それができるならついてきて。」

「うん、社長、ありがとう。」


 ニコは決意を含んだ目でうなずき、礼を言うのであった。


「さて、意見はまとまったようですね。では出発は1週間後です、皆さんはご準備をお願いいたします。それでは社長、一言お願いします。」


クルガンが場の様子を見てまとめに入る。


「みんな。いつも通りよ。必ず自分の命を優先すること。戦闘はできるだけ避けること。生きて帰ること。がうちのルールだからね。どうか、力を貸して、そして成功させましょう。」


 アイーシャの言葉に皆がめいめい「了解」と声をあげ会議は終了した。


 そして、彼らの命を懸ける時間が始まる。




日常パート 終了。

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