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第1話 日常 アステリズモ全員集合

「いや、お嬢。すまねぇ。熱中してやってたら思いのほか時間がたっていたようでな。気づいたら真っ白でぶっ倒れてた。しかし、やっぱ駄目だな、二機稼働させるとあの整備場はサウナになっちまうから機体もオーバーヒートおこしちまいますな。それにしても、助かりましたぜ、申し訳ない。」


 整備用のつなぎが非常に似合うがたいの良い壮年の男は短めにそろえた白い毛の混じったひげを触りながら申し訳なさそうに謝った。


「どうせ、ファルフリードがぼうっとしていたのが悪いんでしょ、アルガス。だから謝らないで。」


 アルガスと呼ばれた男はその大きな体を縮め、それでもまだ申し訳なさそうにしていた。

 刈りそろえた頭と短めにそろえた髭は両方に白さが目立つ。アルガスは年季の入ったところどころつぎあてされているオレンジのつなぎを上だけはだけ、その盛り上がった筋肉から湯気をたたせながらファルフリードを扇いでいる。その姿は50を超えた姿にはとても思えない。


「うん、どうせファルフリードだし。おやっさんのせいじゃないよ。」

「そうそう、どうせファルフリードでしょ。仕方ないわ。」


 ニコとケイティの遠慮のないフォローに逆に恐縮するアルガス。先代社長のころから整備士を務める男はため息をついた。


「お前さんがたよ、一応、稼ぎ頭なんだからもう少し大事にしてやれぃ。」

「私はそう思ってないよ、一応、大事にしているよ!」


 いっしょくたに注意されていると思ったアイーシャがあわてて否定するが、


「いや、担架じゃなくて台車につめようって一番最初に言ったのは社長。」


 とニコにとどめを刺されてうなだれるのであった。



・・・-・・・


「それにしても、やっぱり物価は全体的にあがっているわね。」


 休憩スペースはソファーが占領されると全員は入れないため、業務机からケイティが声を上げる。


「そうなんかい?機体の部品は結構な額値上がりしているってのは最近聞いてたんじゃが。」

「食料品も上がってるのよね?やっぱり六番街の抗議活動というかテロが原因?」


 難しい顔をして端末を眺め、ケイティはうなずく。


「そうみたいね。そもそも社長が巻き込まれたテロも要するにホームへの抗議活動の一環らしいから。」

「ねぇ、何で六番街の人はテロなんか起こしてるの?」


ソファーの端の肘掛けに腰をかけ、お茶菓子をつまみながらニコが声を上げたのに対して呆れたようにケイティが説明する。


「ニコ。ニュースは見た方が良いわよ。そもそも六番街そのものがホームによる直接の配給を受けていないのよ。普通の住民登録している人たちはホームからの定期食料を貰ったうえで稼ぎによって別のものを買ってるけど、六番街は全て自分たちで賄っているみたい。それで、最近六番街は食料品や日用品をよその街に売ることで盛り上がってきたんだけど、あまりに稼ぎすぎたせいでホームから他の街に仕入れる際に関税、あーと、要するに追加料金をかけるようになっちゃったのよ。それで六番街の物があまり売れなくなってしまったから抗議するために行っているらしいわ。」

「私は興味あるニュースだけで十分。必要な情報はケイティたちに聞くからいいの。」


 悪びれもせずにニコは嘯いた。皆は苦笑し、アイーシャも茶菓子をほおばりながらつぶやく。


「それにしても、確かに流通を滞らせて品薄になれば高くても他の人は買うのだろうし、運よくそれでホームが税を撤廃すればいいかもしれないけど、六番街としてテロを起こすなんてあまり理性的とは言えないわよね。普通に考えたらホームに目を着けられていいことなんて一つもないのに・・・。」

「そうなのよね。ホームからの支給の際にテロを起こすことで物を不足させて、自分たちの物を売る。随分短期的な視点なのよね。」


 ほうとため息をついてアイーシャが呟いたことに、ケイティが同意する。


「質問。その六番街に行くって聞いているけど本当なの?」

「本当は街区と街区の間の物資輸送で稼ぎたいところなんだけど、今回はホワイトヘザーから直接、それも断れない形で仕事の依頼が来たの。今、クルガンに組合に行ってきちんと内容を詰めてきてってお願いしているわ。詳しい内容はそれでわかると思う。」

「さっき、アイーシャからもらった依頼書を見ると業務自体は救出救護みたいなんだけど、安全性とか疑問残るのよね。」


 ニコが手をあげて質問したところ、アイーシャとケイティは眉間にしわを寄せて答えた。その答えを聞くとニコが珍しく難しい顔をして押し黙ったのが見えた。


―・・・?ホワイトヘザーという言葉に反応したのかしら?ニコに身の上話を聞いてもはぐらかされるばかりでいまいち、よくわからないのよね。


 そもそも、いきなり雇い入れたからとはいえ多少、警戒はしているものの、特に外部と連絡は取っていないようであるため、アステリズモ内でも信用し始めているが、やはり謎は多い。


「それにしても、クルガンの奴遅いんじゃないですかい?午前中に出て行ったんじゃな?」


 いきなり妙に重くなった空気を払うようにアルガスが話題を変えると、その話題を待っていたのかごとく事務所の階段を上ってくる音が聞こえた。


「お待たせしました!クルガンただ今戻りました!ってあれ?僕暑い中一生懸命働いてたのにみんなして休憩してるなんてずるい!?」


 短めの金髪をたたえた第一印象は気弱そうな汗まみれのクルガンと呼ばれた優男は事務所内を見て声を上げた。


「クルガン、うるさいわよ。」


 何とも空気の読めないクルガンにケイティはタオルを投げつけ黙らせるのであった。


「皆さんひどいです。僕頑張ったんですよ。ちゃんと複数の組合事務所に確認したうえで、ホワイトヘザーの担当者と話してきちんと依頼内容の確認をしてきたんですから。だから僕にもお茶下さい。」


 にこにこしながら汗を拭くクルガンにため息をつき、ケイティは黙ってお茶を注いだ。


「って熱い!?泣きますよ!泣いていいんですか!?」


 一通り、クルガンをからかったところ、やっとソファーで寝ていたファルフリードが起き上がるのであった。


「気持ち悪い。ちょっと体が冷え切った。温かいお茶が飲みたい。」


 ファルフリードはクルガンが持っていたお茶を奪い取りすすって、どっかりとソファーに座り直して「あ゛あ゛」とマイペースに一息つくのであった。

 ひとまず、事務所にはこれでアステリズモのすべての職員が集まった。

 社長アイーシャ、戦闘員ファルフリード、経理兼整備士ケイティ、整備士ニコ、主任整備士アルガス、営業兼整備士クルガンの六人がアステリズモの全社員である。




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