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第1話 日常 帰り道 関所にて

日常パートは文字多めにするはずですけど、文章の区切りの関係で今日は短めです。

 一から九までの街区で数字が小さいほどインフラ設備が整えられている上、治安も良くなっているのだが、自分たちの暮らす七番街に比べると五番街は公的施設の建物は派手さや真新しさはないがしっかりした作りで掃除が行き届いているなと変なところに感心しつつ、アイーシャは昔馴染みで顔見知りの小太りの役人のところに向かったのであった。

 アイーシャは受付に向かい取り次ぎを頼むと、奥からのそのそと男が出てきた。その男はでっぷりと下腹が出て無精髭を生やし、更には制服を着崩した姿をしており、その顔もあいまり、十人中十人が悪人と表現するような男であった。アイーシャからの伝言を聞いたのかにこにこと施設の非常階段に案内してきた。

 大きく『禁煙』と書いてあるのだが、お構いもせずに煙草に火をつけてアイーシャの言葉を聞くのであった。

 アイーシャは関所を出たいのだが通してくれないかと話を聞いたその男は、その振る舞いや見た目に反して面倒見が良いともいえるが、しゃがれた声で二人には思いとどまるよう呼びかけてきた。


「いやいやアイーシャ嬢、今そこで戦闘行為起きてたんだぞ!?正気か!?やめておけ!」

「聞いてみただけよ。それにこの状態が何を目的としてやってたのか分からないことも気になるの。トラブルは調べておくに限るし…。それにほら、『これまでのこと』もあるし聞くだけだならいいかな、ってね?」

「まぁ、そりゃぁしゃぁねぇよな・・・。」


 賄賂をこれまで父親が渡し続けてきたことを臭わせて情報を求めると、もらったことをとぼけずに考え始めた男に対し、アイーシャは心の中で微笑した。

―やっぱり見た目によらず誠実な人物なのよね。変わってないわね。ま、でもチップをもらってる時点で誠実や真面目という言葉には程遠いか。

 2年ぶりに会うこの男の変わらない対応に安堵しつつ、アイーシャは微笑みかけた。


「アイーシャこの人は?」


 ファルフリードはアイーシャがいきなりオフィスに入ったと思えば、慣れた動作で人を裏口に呼び出すと顔見知りだと言って話し始めた二人の状況に驚いているようだ。


「この人はビングス。父さんの知り合いよ。賄賂は貰うし、ルールも破るけど顔も広くて信頼できる人よ。顔は怖いけど・・・。

 で、ビングス、こっちはファルフリード。アステリズモの従業員よ。よろしくね。」


 ビングスと呼ばれた男は膨れた腹を揺らしながら笑いアイーシャの頭をガシガシと撫でる。


「なっはっは。よろしくな。・・・それにしても最近みねぇと思ったらいきなりな挨拶だな、本当に。ところでバスカードの親父はどうした?元気か?」

「あ・・・。えーと、・・・父さんは実はテロに巻き込まれて死んじゃったの・・・。母さんといっしょに。」

「それは・・・すまん。

・・・そうか。バスカードの野郎、アデラを守れなかったのか。しかも、お前さんを一人残して・・・。・・・しかしそりゃあ、アイーシャ嬢よ、大変だったな。」


 ビングスはガシガシと撫でていた手をぴたりと停め、ものすごく申し訳なさそうな顔になり、帽子を脱いで、目をつぶって哀悼の意を示した。


「今は大丈夫。皆に助けてもらってアステリズモも盛り返してきたの。だって、五番市に観に来ることができるくらいになっているのよ。」


 笑って、ビングスに話しかける。


「そうか、驚いたよ。さすがはあいつとアデラの娘だな。二人の良いところを持ってる。」


 アイーシャの笑顔にビングスは驚いたような顔をして目を細めて今度はガシガシとではなく、優しくアイーシャの頭を撫でた。


「言うの忘れてたけど、レディの頭をなでるのってどうかと思うわ。」

「がっはっは。まだまだ嬢ちゃんさ。お前さんが3歳のころから知ってるんだぞ?せめてウィンクが似合うようになってから言いな。」


 不満げな顔をしてビングスの顔を目を細めてにらんでたしなめるが、どこ吹く風と堪えた様子はない。


「っと。まぁしゃぁねぇ。昔馴染みのよしみだ。情報を教えてやるよ。一応これはオフレコだが、今回は第六街区にある自治区による締め付けに対する抗議テロ活動だってよ。ちなみに実行犯はもう対処済み、だ。まぁ、今回の件にはついでに五番市に対するやっかみってのもあんだろうが・・・。その辺はいずれ声明文が発表されんじゃないか?」


アイーシャはその言葉を聞き、口元に手を当てて考え込んだ。

―これ以上の情報はビングスも持ってないだろうし・・・、情報通りなら会社の方に被害は無い、かな?それなら無理して戻らないでもよいのかしら?


「ありがと、自治区ってそんなに好戦的だっけ?」

「最近、武装化が激しいってもっぱらの噂だし、ホームに目を着けられてるってのは確かだな。変な疑いがかからないようお前らも街区の移動には気をつけろよ?特に今後しばらくは第六街区の出入りは控えた方がいいぞ。

で、テロの目的が判明しても通りたいか?」

「とりあえず、鎮圧済みっていうなら近日中に開門されるでしょ?いいわ。危ない橋わたることになってしまいそうだし、そのままでいいわ。」

「聞き分けがよくて助かるよ。今後ともよろしくな。今回は市の関係で人が多い。恐らく上もこれだけ多くの人間がいる状態は望んでないだろうからすぐに通れるようになるさ。」

「ありがとう。それじゃあ、今日は町で一泊させてもらえるところを探させてもらうわ。早く通常営業に戻れるよう祈っているわ。」


 得られるだけ情報を得たアイーシャはウインクしてとびっきりの営業スマイルで笑い、さらに握手と同時に少し優雅な晩御飯程度のチップを渡し、踵を返した。


「っ!・・・がっはっは!ウインクが似合うようになったな。一人前だったなアイーシャ、無事を祈るよ。」


 アイーシャの笑顔をみて照れたような表情をしたのちに、豪快に笑って送り返すビングスの姿にアイーシャは舌を出して微笑をしつつ、確信した。

―ほんと、笑い方と声とやってることは誠実さとほど遠いんだけど、どこか真面目なのよね。


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