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先輩の目が怖い



 商店街の妖さんたちの協力が無ければ上手くいかないから話が纏まるまで体調優先で、って宗明さんはいってくれたけど気づけば一体どうやって語り部さんと接触すればいいのかとか、どうやって説得したらいいんだろうってことばっかり考えてしまう。


 お布団に入っても私にできるのかな?なんて思い悩んでしまって良く眠れなかったし。


「――ぎ、つむぎ!大丈夫?ぼーっとしてるけど」

「へ?あ、すみません。仕事中だった……」


 いつから呼んでいたのか分からないけど、横から腕を掴んで揺さぶられて私ははっと我に返った。


 足元で丸くなっていた白が顔を上げて何事かと耳をぴくぴくと動かしているのが目に入り私の胸はツキンと痛む。


 その毛並みが前のように真っ白ではなく薄い灰色なっていることや、右目が赤茶色をしているのがすごく痛々しい。

 痛めた脚も歩くときは引きずっているし。


 それでも時間が経てば元のように白く、そして赤っぽい目も青くなるらしい上に私の匂いを嗅げば嗅ぐほど回復するから目いっぱい嗅がせてやったらいいって結から聞いたので一応はほっとしたんだけど。


 しかし私よりも白とのコミュニケーションというか、会話ができるのはどういうことだろう?


 羨ましいけど聞くことに関しては全くというほど素質がないので諦めるしかない。


「ちょっと、紬?聞いてんの?」


 反応を示したにも関わらず、またぼんやりと意識を余所にやってしまった私に先輩が尖った声を出す。


 いけない、いけない。

 今は白ではなく先輩との会話だ。


「すみません。聞こえてます」

「聞こえてますってなにそれ」


 呆れつつも心配そうな顔で高橋先輩が「ねえ?本当に大丈夫なの?」って念押ししてくるので作り笑いでもなんともなくて心からの笑顔で「はい」と頷く。


「休まずにちゃんと来たからショックは少ないのかって思ったけど、やっぱり好きな相手がもうすぐ結婚しちゃうってよっぽどだろうし」

「あー。いや、あはははは……」


 あれほどボロボロ泣いておきながらたったの三日間ですっかり立ち直った――しかも引きずって悲しかったのは最初の金曜日と土曜日のお昼くらいまで――なんていえずに私は誤魔化すように乾いた笑い声を上げる。


 普通なら仕事も手につかずに失恋した悲しみや寂しさ、そして苦しさにのたうち回るんだろうけど。


 いつまでもしくしく悲しむには私の情緒は鈍すぎるのかもしれない。


 こういう時はその方が助かる。

 慣れない痛みはあまり抱えておきたくはないから。


「あのさ。週末クリスマスパーティしようって話してるんだけど、よかったら紬も来ない?」

「え?それってとおるさんとするんですよね?」


 誘ってもらえるのは嬉しいけど参加できるわけがない。

 付き合って初めての大きな記念日というかイベントなんだからそこは二人っきりで楽しむべきだ。


「むりむり!無理ですよ!それに週末は私予定が入っているので」

「予定?なによ。家族でパーティでもするわけ?」

「ええっと」


 私に予定があるということを疑っているのか先輩は半眼になって追及してくる。


 さてどうやって言い訳しようかと言葉を探していると“家族とパーティ”から結の顔がぽわんと浮かんできた。


 そういえば高橋先輩には随分と相談に乗ってもらっていたんだよね。

 報告と一緒にお礼をいっておかないと。


「あの。先輩。私、結と仲直りできました。その節は本当にありがとうございました」

「え?結、ちゃんって紬の妹だったっけ?絶賛反抗期中の女子高生」

「はい。よくよく話を聞いてみたら私が鈍くて苛々したり、心配で怒ったりしてくれてたみたいで」


 えへへと笑いながら結のつんけんした態度の原因を話せばしみじみと「ああ、分かるわ。妹ちゃんの気持ちすっごい分かる」と高橋先輩が同情する。


 どうして結の気持ちが分かるのかちょっと聞いてみたいけど、聞いたら自己嫌悪に陥りそうで怖くて聞けない。


「でも、まあ。仲直りできてよかったわね」

「はい!」

「あらあら、嬉しそうな顔して。失恋して泣いてた紬はどこに行っちゃったのかしらね」

「あは。どこ行ったんでしょうね……」


 きっと先輩は土日の間ずっと私の心配をしてくれていたんだろう。

 好きな人がいても絶対その人とは付き合えなくて苦しんできた人だから。


 自分のことのように胸を痛めて。


 それなのに当の私がケロッとしてるんだから本当に申し訳ない。

 罪悪感がすごすぎる。


「ねえ。本当に大丈夫なの?予定あるの?」

「もちろんです。だから私のことは気にせず亨さんと二人っきりでゆっくりのんびりパーティしてください」

「むー……それならいいんだけど。だったらさ。今日帰りに亨のクリスマスプレゼント買いに行こうと思ってるんだけど付き合ってくれない?」

「ええっと」


 さてどうしよう?

 行くのは全然問題ないけど、夕飯の準備があるしなぁ。


 冷蔵庫中にある食材を頭の中で再生させながら結でも作れそうなものがあるか考えてみる。


 人参とじゃが芋は常備野菜でいつもおいてあるし、使いかけの白菜と牛蒡と長ネギ、大根はあったようななかったような?自信が無い。

 あと鶏肉と豆腐とハムとウィンナー、納豆と牛乳としらたき、くらいかな?

 それから冷凍うどんと肉団子も入ってた。


 結も料理できない子じゃないから適当に作って食べてっていっても大丈夫なんだと思うけど。


「ちょっと結にメールしてもいいですか?」

「ああ、そうだったわね。紬のお母さん今いないんだったか。無理ならいいんだけど」


 忘れてたって先輩が慌ててごめんと謝ってくれたので私は首を振る。


「いいえ。私もプレゼント買いたいので気にしないでください」

「え、ちょっ!誰に!?」

「だ、誰って――」


 結にと思ってたんだけど、いつもお世話になっている千秋寺の人たちに細やかな贈り物をしてもいいかもしれない。


 うん。

 いい考えだ。


 浮き浮きとしながら携帯を出し結のアドレスを選択して内容を打つ。


『今日は先輩とお買い物に行くので遅くなります。冷蔵庫にある材料で煮込みうどんかお鍋をして先に食べてください』


 よし。

 送信。


 携帯をポケットに入れていると細い腕が首にするりと回されてぐっと引き寄せられた。

 高橋先輩の使っている香水はスパイシーでいて華やかでエレガントないい香りがするんだけど、それに加えて柔らかいものが容赦なく頬に当たってくらくらする。


「紬!相手は誰!?男!?白状しなさい!」

「うわわっ!ちょ、先輩、くる、し」


 だんだんと興奮してきたのか腕にぎゅうぎゅう絞められて首が、息が!


 必死に先輩の腕を叩いてアピールすると「ついついエキサイティングしちゃったわ」と拘束を解いてくれた。


 し、死ぬかと思った。


「ん?」


 ポケットの中の携帯が微かに震えてメールの着信を告げる。

 ベストのポケットから引っ張り出し、開いて見ると結からだった。


『最悪。お父さんと二人でご飯とかマジかんべん』


 昨日車という密室の中で三時間も一緒にいたのに関係は相変わらずみたいだ。


 結は文句いってるけど照れくさいしなにを話していいか分からないからお父さんと二人きりになるのは嫌なだけなんだよね。


「まあ急にいわれてもね」


 今日は諦めようと返事を打ち始めた所でまた携帯が震える。


 あれ?

 結からだ。


『帰りにプリエーラのオペラ買ってきて。それから遅くならないように帰ってくること!』


 おっと。

 なにそれ。

 可愛すぎなんですけど。


「なに?妹ちゃんなんだって?」

「プリエーラでオペラ買ってきてくれたら許してくれるらしいです」

「あ!プリエーラのケーキ私も好き!」

「美味しいですよね」


 プリエーラは駅前にあるケーキ屋さんで割と遅くまで開いているので、家族の好感度を上げるためにお父さんたちが買って帰ってくることも多いらしく私たちも小さいころから馴染みがある人気のお店だ。


 結が好きなオペラは洋酒をたっぷり使ったチョコレートケーキで甘さ控えめ。

 甘いものが苦手な男の人もこのケーキなら食べれるっていう人もいるらしい。


 私の一押しは断然フランボワーズのタルト。

 タルトはサクサクで香ばしく、淡いピンクのフランボワーズのクリームの程よい甘さと上に乗っている木苺の甘酸っぱさがたまらなく美味しい。


 ああ。

 食べたくなってきた。


「私も帰りに寄って帰ろ」

「夜ご飯どうします?」

「紬がよければどっかで食べようか」


 お店をどこにしようかなんて楽しく話しながらちゃんと仕事を終えて向かった駅のすぐ傍にある大型商業施設にて私はぐぬぬと唸っていた。


「それとこっちの見せてもらってもいいですか?」

「かしこまりました」


 高級時計も扱っているショップで高橋先輩はガラスケースの中のキラキラ輝く時計を店員さんにお願いして出してもらっている。


 ちらりと盗み見ると十万近い金額だったんだけど――それって普通なの?


 恋人同士ってクリスマスにそんな高価なものをプレゼントするものなんだろうか。

 付き合い始めて最初のイベントだから奮発して思い出に残るものをってことなのかもしれないけど。


 ちょっと私には真似できない。


 店員さんが笑顔で高橋先輩が手に取って見ている時計の説明をここぞとばかりに始める。


「こちら人気のモデルでして、当点では最後のお品となっております。ブラックチタンの美しさとシンプルな文字盤は時間も見やすいと評判がいいんです。防塵防水機能もついてます」

「そうなんですか?ええ……どうしようかなぁ。私は好きだけど、亨が欲しがってたのはこっちの方だし」


 先輩の目が迷うようにもう一個の時計へと向けられると心得たように店員さんが頷いてお勧めである部分をぐいぐいと押してくる。


「こちらも大変人気ですよ。文字盤のお色が三色ありますし、ビジネスでもカジュアルでもお使いいただけるデザインなので飽きもこずに長くお使いしていただけるんじゃないかと思います」

「ああ、悩むぅ」


 そういいながらも高橋先輩はどこか楽しそうだったので私はそっと離れて他のケースの中を覗いた。


 どうやらレディース用らしく清楚で可愛らしい感じの時計がクリスマス風のディスプレイの中でぴかぴかと光っている。


「わぁ、かわいい」


 中でも目を惹いたのがピンクゴールドの土台が純白の文字盤を包んでいる時計。

 レースのような綺麗な模様が中心から放射状に描かれていて、繊細な模様も、時間を教えるための数字と二つの大小の針も土台と同じピンクゴールドなのがとっても愛らしい。

 ベルトの色はダークブルー、ピンク、レッド三色でどれも甲乙つけがたかった。


「あら。紬にしてはセンス良いじゃない」

「ほんとですか?」

「うん。可愛くて上品で似合いそう」


 あんなに悩んでいたのに先輩はどちらにするか決めてラッピングをしてもらっている所らしい。

 一緒にケースの中を見ながら軽い口調で「値段もそんなに高くないし買っちゃえば?」なんていってくる。


 高くはないといっても三万くらいなんだけど。


 高橋先輩がお買い上げした時計に比べたら安いものかもしれない。

 それに。


 最近はいつも厳しい言動をしてくる可愛い顔がふっと思い浮かぶ。


「そうですね。買っちゃいましょう」

「あらら。これもまた珍しい。いつもは自分にお金かけるの渋る方なのに即決なんて!」

「そりゃそうですよ。だって結へのプレゼントですから」

「はぁあ?あんたどれだけシスコンなのよ」


 呆れ果てている先輩を見上げて「私はピンクかなと思うんですけど先輩はどれがいいと思いますか?」と問う。


「……ピンクは無いわ。女子高校生なんでしょ?それならこっちの黒い方のがいい」

「え~?赤じゃなくて?」

「赤じゃなくて!その年頃は大人っぽいのが嬉しいんだから。特にこのピンクは白に近いから汚れも目立つし、赤だとちょっとチープに見える」


 だから黒いのにしなさい。


 自分のセンスに自信が無い私はいわれるがままダークブルーを選んで店員さんに包んでもらう。


 予定より高い買い物をしたけど私のせいで危険に巻きこんだり、迷惑をかけたのでこれくらいは全然惜しくない。


 問題は喜んでもらえるかどうかだけど。


 黒い小さな紙袋を受け取ってお店を出た所で先輩が「他に買うものある?」と聞いてくれたので正直に打ち明けることにした。


 年上の女性へのプレゼントなら私でも選べるけど、宗春さんや宗明さんへの贈り物となると見当もつかないから。


 ここは経験豊富な高橋先輩の力を借りるしかない。


「いつもお世話になっている二十代後半の男の人二人ともう少し年上の男の人にお礼がしたいんです。でもなにをあげたらいいか分からなくて。良かったら一緒に選んでもらいたいんですけど――先輩?聞いてます?」

「……聞いてる」


 額に手のひらを当てて俯いてしまった先輩の様子は驚いているというよりは、なんだろ?事実を受け入れられないって感じだろうか。


 まあ確かに今まで親しい友人もいなかった私に年上の、しかも男の人の知り合いが二人もいるなんて思わないよね。


「ねえ、あのさ。ちょっと怖いんだけど、お世話になってるってその人たち紬とどんな関係でどんな男なの?」

「え?どんなって」


 説明するの難しい。

 でもどんな人なのか分からないとプレゼントを選びようもないかもしれないし。


 うう。

 どうしよう。


「紬。教えなさい」

「あの」

「その男ちゃんとしている人なの?どんな仕事してる人?どこで知り合ったの?」


 ああ、まずい。

 先輩の目が怖い。


 でも私のことを心配してくれている気持ちが痛いほど伝わってくるから嘘をつくのも逃げることもできそうになかった。


「先輩。座って話してもいいですか」


 私は心を決める。

 信じてもらえないかもしれないけどちゃんと聞いてもらいたかった。


「分かった。じゃあ先にご飯にしよう」


 先に立って歩き出した先輩のヒールがコツコツとリズミカルな音を立てるのを追いかける。


 商業施設の最上階はレストラン街でたくさんの種類のお店が集まっていて、その中のラーメン屋さんの暖簾を潜り、威勢の良い声に迎えられながら先輩は店内を見渡して一番奥の席へと進んでいく。


「私、炙りチャーシュー特盛ラーメンを醤油で」

「私は酸辣湯を」


 ラーメン屋さんはメニューに悩まなくていい。


 お水を持ってきてくれた店員さんに注文をしてから水滴の浮いたコップを傾けて水を飲んでいる先輩の様子を窺う。

 視線を感じてか眉を右だけ上げ、コップをテーブルに置き「で?話してくれるんでしょ?」と促された。


「あの。こんなこといって頭おかしいんじゃないかって思われるかもしれないんですけど」


 そう前置きしてから突然霊が見えるようになったこと。

 不思議な現象専門のお寺である千秋寺に一か月以上前からお世話になっていること。

 ここ最近の体調の悪さは霊障であること。

 それから話すかどうか迷ったけど二週間前先輩の肩によからぬものが乗っていたことも伝えた。


「あの時携帯のアラームが鳴ってるって誤魔化したんですけど、あれ実は千秋寺のお坊さんからいただいたお守りの鈴が鳴ってて」


 ごめんなさいって頭を下げて謝っている最中にラーメンが運ばれて来たので顔を上げて場所を空けるしかなかった。


「本当は先輩に憑りついた霊をなんとかしたかったですけど、いきなりこんなこといわれても気持ち悪いだろうし、私ちょっとぱにくっちゃって、もう本当にすみませんでした」


 もう一回勢いよく下げようとした頭を向かいから先輩の手で止められる。

 二人の間にある二つのどんぶりからはもうもうと湯気が立ち上っていて、それが私の眼鏡を白く曇らせていく。


「謝らなくていいから。ラーメン冷めるし食べよ」

「……はい」


 箸とレンゲを掴んでしばらくは黙々と食べる。


 絶妙な酸味と刺激的な辛味を少し太い麺にからんで美味しい。

 暖房が利いた中で温かいもの――しかも私のは辛い――を食べることで新陳代謝が上がり薄らと汗をかくほど。


 鼻水を啜りながらはふはふと食べて残りが半分ほどになった時。


「ねえ。それ、まだ私に憑いてんの?」


 不安そうな声で先輩が私を縋るように見ていた。

 その目に怯えが宿っている。


 ああ。

 もう。

 私ってば!


「ないです!ないです!だってもう肩こりもないでしょ?夜だって眠れてるはずですし」

「まあ確かにそうなんだけど。なにもしないで去って行くようなもんなの?」

「それは霊次第だっていってました……。でも先輩のは榊さんが祓ってくれたので」

「は?なんで正吾くん?」


 剣呑な響きに私は必死になって説明した。


「榊さん特別なオーラみたいなのを放ってるんですよ。悪運や邪気や霊を跳ね除ける力が強い人が時々いるらしくて。宗春さんは『歩く魔除け』っていってました。榊さん本人は全くその能力に気づいてないみたいなんですけどね」

「ふうん。そういえば正吾くんの近くに行ったら肩こり楽になったわね。あの時」

「それです。それ。しかも先輩の肌艶もみるみるよくなって。榊さんの前向きエネルギーは本当にすごいんです!」


 ぎゅっと指を握り込んで力説する私を痛ましそうに眺めて先輩は「なるほど」とため息を吐く。


「そういうのが見えるようになったから紬は正吾くんに好意を持つようになったのね」

「ええっと。きっかけはそうかもしれません」


 私はそれだけじゃなく細やかな気遣いができるところとか、悩んでいる人や困っている人を放っておかずに励ましてくれるとことか、言葉使いや考え方全てに惹かれたんだって改めて口にすると胸の奥がきゅんっと締めつけられた。


「榊さんは周りの人たちを自然と幸せにできる本当に素敵な人ですから。誰だってきっと好きになっちゃいます」


 気づいた途端に終わっちゃったけど、それでも榊さんを好きな気持ちは大事に取っておきたいと思う。


「私、あの人を好きになって良かった――なんて、やだな。恥ずかしい」


 本人に伝えることはできない言葉をしみじみと呟いた後ではっと口を左手で覆って俯く。

 ラーメンを食べたせいではない熱が炙るように顔と首に集中する。


「恥ずかしがる必要ないわよ」

「でも」

「誰かを好きになるって自分ではどうにもできないものなんだけど、好きになって良かったって思えるような恋愛って案外少ないから」


 良かったわね。


「成就はしなくてもいい経験にはなったわよ。これで紬も良い女の階段をひとつ上ったってことだし」

「そうなんでしょうか?」

「そうよ。ほらさっさと食べましょう。三人分のプレゼント探すの大変よ?」

「はい」


 ちょっとのびた麺を啜りながらふと視線を上げる。

 大きなチャーシューをぱくりと食べた先輩が眉を上げて首を傾げたので口の中の麺を飲み込んでから私は口を開いた。


「こんな話、どうして信じてくれたんですか?」


 高橋先輩は怖い話が大嫌いなはずなのに。

 できれば頭から否定したいくらいだと思う。


「そりゃね。可愛い後輩だもの。紬がこういう話冗談でするような子じゃないって分かってるし。そもそも私がオカルト系の話が苦手なのはその存在を信じてるからだしね」


 だからこの話はもう終わり。


「急いで食べなさい」

「はい!」


 その後はひたすらどんぶりと向き合い急いで食べ終る。


 ここの会計はプレゼント選びに付き合ってもらうお詫びとして先輩の分も支払って意気揚々とメンズ売り場へと向かった。


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