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その相手は




「なにこれ!マジヤバい!マジでウマいんですけど!?」

「ちょ、結」


 興奮している結の袖を横から引っ張りながら私はなんだか恥ずかしくて俯く。


 買ってきたおいなりさんを食べて喜んでもらえるのはありがたいし、真希子さんの手料理の美味しさを手放しで褒められるのも嬉しんだけど。


「もうちょっと落ち着いて食べてくれないかなぁ」


 いつものように無言でお食事を召し上がっている宗明さんと宗春さんを横目で見ながらとほほと肩を落とす。


「いいのよぉ。結ちゃんの元気さと素直さは食卓を賑やかにしてくれてるし」


 おっとりと微笑む真希子さんはホットプレートでお肉を焼いてはせっせと結のお皿に乗せてくれる。

 もちろん私にも同じようにしてくれるんだけど、なんだか申し訳なくて食がいつもより進まない。


「紬ちゃん具合でも悪いの?」

「え?いや、大丈夫です」

「ほんとに?」

「はい」


 これ以上心配させないように焼き海苔に酢飯を広げ、卵とサーモンとアボカドを具にしてくるっと巻く。

 それをぱくりと食べて「美味しいです」と笑うと真希子さんが小さく頷いてくれた。


「ヤバい、語彙なくなるくらいヤバい」


 お肉も野菜も手巻きずしもおいなりさんもモリモリ食べる結と競争するかのように大八さんもガツガツいっている。

 たくさんの材料とお肉や野菜が準備されているけど綺麗に無くなっちゃいそうだ。


 ヤバいを連呼していた結も半分ほど減った辺りでさすがにお腹いっぱいになって手を止めて、残りを大八さんが無心で食べているのをお茶を飲みながら眺める。


 真希子さんが使い終わったホットプレートを台所へと運ぶのを宗春さんが手伝って席を外したので右隣に座っている宗明さんにちらりと視線を向けた。


「この後、大丈夫ですか?」

「はい。では本堂で」


 約束を取り付けていた私を結がじっと見てたけどなにも言わなかった。

 もちろん大八さんだって気づいて黙っていてくれている。


 宗春さんと真希子さんが戻ってきて改めてごちそうさまをしてからお開きになり、結は片づけを手伝うと申し出て真希子さんと楽しそうに台所へと消えた。


 宗明さんが先に席を外し、すぐに追いかけたらまた宗春さんが面倒くさいことになりそうなので我慢する。

 そわそわしながらも一応それを出さないように慎重にお茶を啜っていると頬杖をついた宗春さんに話かけられた。


 ぎくりと心臓が跳ねあがり、呼吸が乱れた私を不思議そうに見ながらも指摘しない所がいつものことだしって思われているようで釈然としない。


「紬の妹さ」

「なんでしょう?」


 結がなにかしたんだろうか。

 二人っきりで車の中に長時間いれば生意気なこと言ったりしたりした可能性はある。


 それはそれでハラハラしながら宗春さんを見つめ返す。


「割と見込みある」

「え?見込みって」

「視るという点で言えば紬にはかなり劣るけど、それ以外の部分はかなり優秀ってこと」


 つまり。


「利用価値があるってことですか」

「そうだね」


 そんなの。

 そんなこと。


「させません。結を利用するのなら私は――」

「ふうん。どうするの?もうここへは来ない?」

「…………宗春さんを、許しません」


 具体的にどうするかなんてすぐには浮かんでこないけど、大事な妹をそんな風に言われて黙ってはいられなかった。


 だって結は。


「見えることで苦しんできて、拒絶することで生きてきたのに……その力を使えだなんて」


 そんなことさせられない。

 絶対にダメだ。


「あの子は私とは違うんです。だから」


 拳を握って宗春さんを睨む。

 涼しい顔で寧ろ楽しそうな顔をしている彼を。


「利用するなら私をすればいい」

「おい、紬……それは」


 大八さんが渋面で首を横に振るのを見ながら私はそれでも続けた。


「私がやります。だから結には手出ししないで」

「今の言葉忘れないで欲しいな。紬の頭は直ぐに仕事を放棄するから心配だけど今回は証人もいるしね」

「ぐっ」


 自分が居合わせたことで私が言い逃れできなくなったことを大八さんが悔やむ。

 大八さんは悪くない。

 こういう意地悪なことを言う宗春さんが悪いんだから気にしなくていい。


「話は終わりですよね?」

「うん」


 私は立ち上がり襖を開けて廊下へ出る。

 宗春さんの視線がずっと追いかけてくるのを断ち切るように襖を閉めた。


 渡り廊下を進み本堂が見えてくると蝋燭と灯篭の灯りでぼんやりと浮かび上がって幻想的だ。

 空と空気は澄んでいて星が綺麗に見えるし、月だって冴え冴えと青く輝いている。

 深い木々が落とす影と重なり合って濃くなる闇。

 静かな夜は時を忘れたようにゆっくりと沈んでいく。


「宗明さん」

「来ましたか」


 正面からでは無くて横側の戸が開いていたのでそこから入る。

 宗明さんは座禅を組んで目を閉じていたけど私のなのか、白のなのか――きっと両方だ――の気配を感じてそっと瞼を上げた。


「どうぞ」


 用意されていた座布団をすすめられて私はそこへ座る。

 宗明さんも座りなおして向き合う形になると二人の間に緊張した空気が流れた。


「お話とは?」


 深くてよく通る声を抑えているからか囁くように聞こえて余計に心拍が上がる。


 話したくてもタイミングを逃してしまった相談事を改めて口にするというのはすごく難しくてどうやって話したらいいのかとても悩む。


「どこから」


 話したらいいのか。


「どこからでも」

「どこからでも?」

「はい」


 大丈夫だというように頷いてくれるので私はまずは誰のことを話したいのかを口にした。


「実は宗春さんのことなんですけど」

「宗春のことですか。弟が」


 なにか失礼なことでも、と言いかけて途中で止めたのは失礼なのはいつもだからと気づいたからなのか。


「先週来た時に宗春さんの好きなものについて話をしたんです。案の定そんなものないって言われて。私すごく悔しくて、ちょっと意地になって好きなものみつけましょうって言ったら」


 興味ないって。


「何もかも……生きることも死ぬことも含めて全部」


 すごくすごく透明で綺麗な、なんの憂いも無い顔で笑って。


 悔しかった。


 あんな顔をさせる現実が。

 あんな風にしか考えられない宗春さんが。


「自分は予備スペアだって言ってました。宗明さんになにかあった時のために生かされているだけの存在だって」


 それ以下でもそれ以上でもない。

 自分の価値は宗明さんの命に関わるようなことが無い限りは無いんだと。


 そんなことないのに。

 そんなはずないのに。


「僕のことで思い悩む必要は無いっていうんです。くだらないって」

「こみ……紬さん」


 一瞬名字で呼びそうになったのを言い直して宗明さんがそっと手を差し出した。

 なんだろうって思いながら掌を見ると「使ってください」とハンカチを渡される。

 そこでようやく自分が泣いていることに気づいたんだから本当に間抜けだ。


「ありがとうございます……」


 目元を抑えて涙を拭うとハンカチから爽やかな甘い香りがする。

 気持ちを落ち着かせるような匂いだった。


「宗春が紬さんに自分のことをそこまで話せるようになったことを喜ぶべきなのでしょうが、そのせいで紬さんを思い悩ませ泣かせては意味もない」


 深いため息を吐いて宗明さんは目を伏せる。


「宗春が心配ですか?」

「……はい。でもそれは宗明さんだって同じじゃないんですか?」

「同じ、というのは?」


 困惑顔の宗明さんを見つめて私はあれ?と首を傾げた。


 なんだろうこの温度差は。


 私は一緒になって宗春さんがそんな考え方をしているなんて!てショックを受けてもらいたかったのに。


「え?だって自分のことを予備スペアだって思ってるんですよ?自分には価値が無いって」


 そう思っているのに。

 心配じゃないの?


 動揺しすぎて涙も止まっちゃったよ。


「申し訳ないのですが宗春の考え方は立場が逆だった場合、俺も同じように考え行動すると思うので疑問に思わないというか」

「はあ!?」


 ウソでしょ!?


「俺には宗春のように完璧に己を殺すことはできないでしょうが、後継者を全力で支援することに邁進するのが務めと理解していますから」


 宗明さんはじっと畳の目を見ているから視線が全然合わない。

 合わないからこそ本心から言っているとは思えなくて私はずいっと膝を進めて覗き込んだ。


「宗明さんや宗春さんが特殊な世界を生きていることは理解しているつもりです。でもだからってなにかを諦めたり、自分に価値が無いなんて思うのは違うと思います」


 だって自信を持てなかった私にも良い所はたくさんあるって教えてくれたのは真希子さんだけじゃない。

 宗明さんや宗春さんだって力を貸してくれたし、励ましてくれた。


「柘植さんが教えてくれました。親しい人を作るとそこが弱点になるから友だちも作れなかったって」

「修一が……」


 余計なことをと口の中で呟いたのを私は聞き逃さなかった。


「柘植さんは厳しいけどいい人です。宗明さんには柘植さんがいます。でも宗春さんには誰もいないんですよ」

「それは」

「はい。宗春さんは必要ないって思ってるので、それこそ余計なお世話かもしれません」


 でもね。

 宗明さん。


「宗春さんにも尊敬している人がいるんです」

「宗春に……そんな人が」


 信じられないという表情に私はにっこりと笑いかける。


「それはあなたですよ。宗明さん」

「は――?」

「尊敬しすぎて、好きすぎて、ちょっと歪んで神格化しているみたいですけどね。でもそれは宗明さんも悪いんですよ」


 会話が足りないから誤解が深まり拗れてるんだと伝えると、宗明さんは途方に暮れたように眉を下げた。


「私にとって宗春さんは代わりのきかない大切な人だって言っても全然届かないんです。だから宗春さんの考えを変えるためには宗明さんじゃないとダメだなって思って」


 だからもうちょっと歩み寄ってもらいたい。

 宗明さんの方から。


 そうお願いすると宗明さんは顔を歪めて、握りしめた腿の上の拳に更に力を入れた。


「あなたは残酷な人ですね」

「そうですかね。うん。そうかもしれません。ついでに言うと真希子さんともうちょっとお喋りしてもらえると嬉しいですね」

「……本当にあなたという人は」

「えへへ。ちょっと図々し過ぎました。すみません」


 頬を指で掻いて一応反省する。

 お願いしたことを後悔はしてないけど、調子に乗ったことは謝っておく。


 宗明さんは呆れた後で平常心を取り戻し、いつものように切れ長の澄んだ瞳で私を見つめた。


「あなたはいいんですか?」

「え?」

「人のことばかりで自分の頼み事はしていないでしょう」


 今ならなんでも聞きますよと言うように目線で促されたけど、私の望みは長年すれ違ってきた久世家の人たちがあるべき形になってもらえればそれでいいんだよね。


 それにいつも助けてもらっているのにこれ以上は求めすぎる気がするし。


 ああ。

 でもひとつだけ。

 許されるのなら。


「語り部ってなんですか?ずっと前にお花屋さんのお姉さんのことを宗春さんが語り部代理って呼んでて気になっていたんですけど、今日柘植さんも語り部がいたから妖や宗明さんに対して抵抗が無かったって言ってたので」

「……語り部について、ですか」

「はい。良ければ教えてもらいたいなって思って」


 今まで聞きそびれていたことだったので良い機会だとお願いすると宗明さんは眉を寄せてほんの少し迷っているようだった。


 それは私に教えてはいけないことだからっていうわけじゃなくて、自分が教えていいのだろうかという遠慮のような感じがしたので彼の負担を軽くするべく口を開く。


「もし宗春さんのことを気にしているのなら大丈夫です。私、宗春さんには怒られ慣れているので平気ですし、なんなら教えてもらったこと黙っておけばいいんですし」


 まあ結局上手く隠せずにお叱りを受けることになるんだろうけど、宗明さんは悪くないんだということは訴えるつもりだ。


 宗明さんには迷惑をかけませんからって続けると、彼はまたまた深~い溜息を吐いて小さく首を振った。


「いいえ。その時は一緒に宗春に謝りましょう」

「え?そんな、でも」

「いくらなんでも語り部のことを伝えたくらいで刃物を持ち出すことはしないはずですし」

「あはは」


 さてどうでしょうか。

 宗春さんの思考回路とか逆鱗がどこにあるのか本当にもうさっぱりなので安心はできないんだけど。


「でも宗明さんが一緒に謝ってくれるなら心強いです」

「そうですか」


 迷惑はかけないと言っておきながらだけど、やっぱりあの冷えた瞳にひとりで晒されるのと誰かが一緒にいてくれるのでは心強さが全く違う。


 しかも宗明さんが傍にいてくれるなら相手が対宗春さんなら百人力でもある。


「俺は紬さんと違って宗春が怖いので頼りにならないと思いますが」

「もう。だから言ってるじゃないですか。宗春さんは宗明さんのことが大好きなんですから戦う前から勝ちが決まってるようなもんなんですよ?」

「いや……とてもそう見えないんですが」


 自信が無さそうに宗明さんが口の端を下げるのがなんだかすごく可愛くて私はつい頬が緩んでしまう。

 笑われていることに気づいて右手で顔を覆った彼は俯こうとして思い留まった。


「紬さんはそう仰いますが、宗春がこれまで俺の意見に素直に従ったことなどないんです。いつも俺とは反対のことを主張し、邪魔はしないにしろ好きに動く。だからとても」

「信じられない?」

「……はい」


 確かに分かり辛いからなぁ。


「でもきっとそれも結果は宗明さんのためになるように宗春さんの考えから導かれたものなんだと思います。だってさっき宗明さん言ってたじゃないですか」

「俺が?」

「はい。もし自分が逆の立場だった時は後継者を全力で支えて協力を惜しまないだろうって」

「それは」


 宗明さんは視線を揺らしてなにか言おうと唇を開けたけど言葉にはしなかった。

 代わりに深く息を吸いこんで想いと共に心に収めてしまう。


 ゆっくりと時間をかけて。


「いいでしょう。これは俺たち兄弟のこと。紬さんが知りたいのは語り部についてでしたね」


 気持ちを切り替えた宗明さんの顔にはもう戸惑いも揺らぎも無い。

 いつものように背筋をまっすぐにした凛とした姿勢で私に向き直る。


「はい。教えてください」

「実際教えるというほどの秘密などないのですが」


 ただ商店街ここでは特別な存在であり重要な位置にあることは間違いないらしい。


「池の主に千秋寺の成り立ちは聞きましたね?」

「聞きました。元々この辺りを守護していた龍姫さまは好戦的な性質が仇になって住んでいる人たちに畏れられていた。荒ぶる力を抑えるために旅の僧侶に声をかけて天音さまを祀って欲しいと頼んだ」


 それが千秋寺の始まり。


「千秋寺ができてほどなく荒魂あらみたまは静まり和魂にぎみたまとなった池の主の元、村は繁栄し豊かになって行きました。そうすると他からも移り住む者が増え、龍神池に住む妖を崇める者も多くなり主の力は更に強くなる」


 そうなることで龍姫さまも村人たちも幸せになっていく。


 狒々の村も守護されていた時は災害も少なく食べる物にも困らなかったからみんな笑顔だった。

 あのまま狒々としてじゃなくてかみさまとして存在し続けていられたら、あの村もあわい商店街のように今も残っていたのかもしれない。


「ですが人は科学という力を手に入れ文明の利器によって暗闇を照らし、畏れていたはずの存在を追い出すことに成功した。そして人々は忘れていく」


 妖を。

 名前を。

 神秘なる力を。


「見えないものはいないのと同じなのだから畏れる必要はない」


 そうやってたくさんの妖が消えて行った。

 力を失う妖がいて、我を忘れて狂う妖もいた。


「本来なら妖は群れませんが今の世の中を生きて行くには群れることや協力することもやむなしと受け入れた」


 生きるため。

 隠れるため。


「龍神池の主は服従の意を示し、商店街の守りを強化するために力ある妖を抱えて住まわせています。住民には気づかれずにひっそりと」


 元々奔放で大らかな龍姫さまは悪さをしない妖たちとの交流を人々にも許していたそうで、違和感なくちょっと不思議なことは受け入れる土壌ができていたらしい。


「語り部は人と妖の橋渡しをする役目を担っています。昔語りをして商店街の子どもたちに不思議や妖に対する畏敬の念を忘れぬように育て、知恵を与え禁忌がなんたるかを教えることが主ですが」


 そこで言葉を切り宗明さんは視線を一段上の仏さまたちが並ぶ方へと向けた。


「語り部は妖にも人からも愛される者でなくてはならない」

「……もしかして次の語り部がいなかったからお花屋さんのお姉さんが代わりに?」

「いいえ……いや、そうですね。間違ってはいません」


 首を何度も振ってから認めたけど、単純に次の語り部がいなかったからっていう理由ではないみたいだ。


「先代の語り部の女性が亡くなったのは二年前。次代の候補として育てられていた娘さんは大学生でした。彼女は突然――というのはおかしいのでしょう。おそらくお付き合いされていた方がいたはずですが、誰もその相手のこともその事実も知らされていませんでした」


 とにかくと言葉を継いで話は続く。


「彼女は妊娠をし、親から勘当同然の状況で家を出ました。泣きながら、詫びながら。池の主は彼女にいつか怒りは静まる。必ず戻って来られる日が来るはずだからそれまで待つと」


 色々な偶然と状況が重なり。


「その場に居合わせた女性が語り部代理を引き受けてくれました。商店街で育っていない者が選ばれることは今までなかったのですが」


 幸か不幸か。

 適性があったから。


「しかし娘さんが許しを得ることも子どもを見せることもできなくなってしまいました」


 激しく反対していたという父親は先日亡くなりましたので。


「……まさか」

「はい。その語り部候補の名前は藤本多恵ふじもとたえ。亡くなったクリーニング屋の藤本康生ふじもとこうせいさんの娘さんです」

「……ああ」


 彼女が妊娠したのは二年前。

 生まれていれば一歳過ぎたくらいだろう。


 あの日商店街を見て泣いていた若いお母さんと赤ちゃんの姿が浮かぶ。


 お父さんのお葬式に参加できないこと。

 二度と会えないこと。

 子どもを抱いてもらえなかったこと。


 全ての後悔を抱えて少し離れた場所から見ていることしかできなかった彼女。


「言えるわけないです」

「紬さん?」

「赤ちゃんの父親が誰かなんて」


 だって愛した相手は人じゃない。

 だから言えなくて。


「私その多恵さん見ました。藤本さんが亡くなった日に商店街へと続く路地をじっと見つめて泣いてました。赤ちゃんを抱いて」

「そうでしたか」

「その子から虹色の光りが出てました。柔らかくて優しい木漏れ日のような……」


 人からも妖からも愛されるのなら。

 不思議と慣れ親しんだ彼女が人ではなく妖を愛することもきっと自然な流れだったんだろう。


 きっと。




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