その覚悟はあるか
お寺に帰り着き真希子さんに事情を話すと「それなら今日はもうお家に帰った方がいいかもしれないわね」ってことになった。
残っていても集中して本を読むこともできないだろうし、おばあちゃんになにかあった時にすぐ動けるように家で待機していた方がいいから。
「せめてお昼くらいは食べて帰って」
「はい。すみません」
結が来たことで余計に張り切って作っていてくれたらしいのでそこは素直に甘えることにした。
「座ってゆっくりしてていいのに」って言ってくれたけど、なにかしていた方が気がまぎれるから結と一緒にお皿を用意したりお箸を並べたりしてお手伝いをする。
黙々と。
殆どの準備が済み、出来上がっている料理も全部テーブルに運び終えた所でポケットの中に入れていた携帯が振動と共に鳴り始めた。
慌てて取り出し、結と真希子さんの視線を浴びながらフリップを開ける。
そこにお母さんの文字が浮かんでいるのを確認して通話ボタンを押した。
「もしもし」
『あ!紬!?あのね、おばあちゃんが倒れたって今、連絡が来て――』
いつも以上に大きなお母さんの声はそれだけで動揺していることが分かる。
お向かいに住んでるカヨおばあちゃんが見つけてくれたこと、そして発見が速かったので大事に至らなかったこと、それでも入院が必要であることを聞く。
私は「うん、うん」って相槌を打ちながら命に別状が無かったことに感謝し泣きそうになる。
『お父さんに連絡したら直ぐ帰ってくるって言うからお母さん一緒に病院に行ってくる』
「車で?」
おじいちゃんの家までは高速使って車で三時間近くかかる。
『そう。だから夜は――あんた今、お寺にいるのよね?』
「うん」
『今夜はそちらにお世話にならずに家に帰って結が帰ってきたら事情を伝えて欲しいんだけど』
あの子最近携帯に出ないからってぶつぶつ文句をいっている。
目の前でやり取りを見ている結を見て苦笑いしながら「結なら今一緒にいるよ」って伝えたら耳が痛くなるくらいの声で『えー!?』って叫ばれた。
『はあ!?なんでよぉ!?』
特に私に対してギスギスしていた結の態度を知っているお母さんからしたらそりゃあそういう反応になるだろうけど。
「なんでって。色々あって」
『そうなの。ああ……それならちょっとあれかね』
突然考えるように黙り込んだお母さんの様子に首を傾げていると『ちょっと奥さんに変わってもらえる?』って言い出した。
「奥さん?奥さんって真希子さんのこと?」
『そうそう。真希子さんに変わってよ』
「うん、ちょっと待って。あの、真希子さん、母が」
「大丈夫。任せて」
差し出した携帯を両手で受け取り真希子さんは安心させるように私たちに大きく頷いてみせた。
「もしもしお電話変わりました。いつもお世話になっております。あ、いえ。そんな。この間いただいた煮物本当に美味しくて今度作り方を教えてくださいな。え?ああ。いえいえ。うちは大丈夫です。はい。大事な娘さんですから。こちらのことは心配なさらずに。大変でしょうけど。はい、はい。道中お気をつけてくださいね」
では失礼します――で締めくくって真希子さんはにこりと笑って私の手に携帯を戻した。
「あの、どうなったの?」
『あんたと結はそちらで預かってもらうことにしたの。家に若い娘しかいないのは物騒だからね。お寺の方があんたも安全だろうし』
気を付けるべき相手が人間だけなら戸締りをしっかりしていればそう問題もないんだろうけど、相手が妖となるとそうもいかない。
「あー……うん。ごめん。気を使わせて」
『しょうがないわ。それは。じゃあ迷惑かけないようにね』
「うん。お母さんもお父さんも気を付けて。叔父さんや叔母さん、それからおばあちゃんによろしく」
『はい。じゃあね』
私と結の安全を確保できたことで随分と落ち着いたのか、お母さんはいつもの口調に戻っていた。
電話を切る時もあっさりとしてる。
「ねえねえ、どうなったの?」
「おばあちゃん発見が速かったから助かったって。意識もはっきりしてるし、会話もできるけどしばらく入院しなきゃいけないみたい。今日お父さんが早退してお母さんと一緒にむこうにいくから、私と結はお寺にお世話になりなさいってさ」
「……うん」
前半部分で安心して少し笑顔を見せた結だけど、家に帰らず千秋寺に泊まることになったと聞くとニットワンピースの裾を頻りに引っ張って俯いてしまう。
「結。どうしたの?言ってごらん。なにか不安なことがあるの?」
それとも不満かな。
確かによく知らない場所に急に泊まれって言われたら戸惑うし、できることなら家に帰りたいって思うだろう。
「……着替え、ないし」
「それだけ?」
小さな消え入るような声で結は答える。
一応確認すると目元を赤くしてコクンと頷く。
「着替えなら私が商店街に行って買ってくるよ」
「え!?お姉ちゃんのセンスで!?マジ止めて!」
「ええー……」
全力で否定されたけど最近はちゃんとお洒落頑張ってるのに。
傷つくなぁ。
「それなら結ちゃん。後で宗春に車出してもらったら?買い物に行くのも良いし、お家に着替えを取りに行っても良いし」
「どう?」って真希子さんににっこり微笑まれて結は一瞬ぽかんとしてから大きく頷いた。
「いいんですか?」
「いいのよ。午後から買い出しに行くのはいつものことだし。ちょっと足を延ばすくらいのことだもの。全然問題ないわ。問題があるのは運転手が宗春って所ね」
「あー……」
それは心配だなぁ。
午後から宗明さんとお話しする予定だったけど、これは結と一緒に行くべきだろう。
「すみません。お世話になりっぱなしで」
「いいのよ~。うふふ。女の子が二人もいるっていいわね!華やかで」
今夜はなにを作ろうかしらなんてまだお昼ご飯もまだなのにウキウキとそんなことを言う真希子さんは本当に楽しそうだ。
そこでちょっと思いついたのでおずおずと提案してみる。
「あの。夜、結にほのかのおいなりさん食べてもらいたいんですけど……ダメですかね?」
「ほのかの?ああ、いいわね。じゃあ他は手巻きずしにして、それから焼肉もいいかも!結ちゃんお肉好き?」
「はい!お肉も手巻きずしも大好きです!」
右手を挙げて目をキラキラさせている結の顔を見て真希子さんは「決まりね!」と手を叩く。
さっきまでの浮かない顔はどこへやら。
心配事も小さくなったから、美味しいものが食べられることを素直に喜んでいる。
現金だけど可愛いから許す。
「宗明も宗春もなにを作っても喜んでくれないから嬉しいわ!おばちゃん張り切っちゃう!」
「やたっ!あたし真希子さん好き!」
「ほんとぉ?ありがとう!私も結ちゃん大好き」
そうそうこういうところ。
昔から結は上手に甘えて大人の人に可愛がられるのが得意なんだよね。
すっかり真希子さんも結の虜だ。
「おお、賑やかだな」
「大八さん」
キャイキャイ騒いでいた声を聞いてちょっと引き気味の大八さんが部屋に入ってくる。
結がぱっと緊張したように笑顔を消して、私の斜め後ろに隠れた。
「改めて紹介します。妹の結です。今日は私と一緒にお泊りするのでよろしくお願いします」
「そうなのか。よろしくな。大八って呼んでくれ」
片手を上げ挨拶した後ニカッと笑ってからドカリと自分の席に着く。
結の返事や反応など一切気にもならないご様子。
目下の所一番大八さんの心を捕えて離さないのは目の前のご飯らしい。
「食べないのか?」
「いいえ。食べます」
「さあ結ちゃんは紬ちゃんの隣に座って」
神妙な顔で手を合わせてみんなで「いただきます」を唱和した。
ご飯の後で居間に顔を出した宗春さんにお願いして結は家へと着替えを取りに戻った。
一緒に行くよって何度も言ったんだけど大丈夫だからって断られたのでありがたく残ることにしたんだけど、宗明さんはなにやら忙しい様子でなかなか手が空きそうにない。
どうせお泊りするんだし、今夜がダメでも最悪明日時間を作って貰えばいいだけだしと割り切ってもう一度商店街へと向かった。
慣れてしまったからなのか、そもそもそれが当たり前だって認識があるからなのか、結のように歪みや恐怖は全く感じない。
いつも通りのんびりとした平和な商店街だ。
八百屋の菊乃さんに「こんにちは」って挨拶してから奥へと進む。
お花屋さんの前で一旦歩調を緩めて中を窺えば、配送中ってプレートがかかっていて店内も暗いのでお留守らしい。
あれっきりお姉さんに会えないからその存在自体が都市伝説なんじゃないかと思えてくる。
それくらい同じ人間であることが疑わしいほど美しくて魅力的で儚い人だったから。
「……またの機会にしよう」
お店が忙しいのは良いことだろうしね。
私はそのまま足先をほのかの方へ向けて道を横切った。
消防団の横長の建物に少し隠れるようにほのかは立っているんだけど、その店先に小さな女の子が座り込んで透明のパックからおいなりさんを美味しそうに食べているのが見える。
持って帰るまで待てずに食べたくなる気持ちは分かるので微笑ましく眺めていると、その女の子が顔を上げてにこりと笑った。
口いっぱいに頬張っているからほっぺたがハムスターみたいになってる。
丸い瞳をくりくりさせて私とそして白を見て会釈した。
「こんにちは」
「んぐ……っ、ちは」
なんとか口の中のを飲み込んで挨拶を返す女の子はローズピンクのダウンを着てデニムのタイトスカートを穿いている。
紺色と茶色のレギンスと黒いくしゅくしゅブーツの隙間から真っ黒な猫がひょっこりと顔を出して「にゃあ」とこちらも挨拶するように鳴いた。
「ここのおいなりさん美味しいよね。私も大好きなの」
「美味すぎて辛い。配達してくれればいいのだが、北の大地まではさすがにできませんって断られてね」
だからこうしてどうしても食べたくなったら飛んでくるんだと飛行機の翼のように両手を広げる。
「ええっと北の大地ってことは」
「お察しの通り」
「それはそれは遠い所をはるばるよくいらっしゃいました」
「近くに姉妹店出してくれたらいいのだけど、きっと手が変われば味も変わるからやっぱりコン汰を引き抜かないと意味が無いんだわね」
幼い見た目をしているけど大人びた話し方をするからこの子もきっと長い年月を生きているんだろう。
「コン汰、用意できたかい?」
「はいはい。お待たせいたしました。二十パックを袋四つに分けて入れてますからお気をつけて」
「うん。どうも」
ガラス戸の向こうに呼びかけると中から袋を四つ持ったコン汰さんが出てくる。
彼が私に気づいてぺこりと頭を下げたので私もぺこりとお返しした。
「んじゃまた来る」
「毎度ありがとうございました。一番遠い所からいらして下さるお客さまですからサービスしてますので」
「うんうん。よきに計らい給えよ」
袋を受け取り茶目っ気たっぷりに応じた後で「クロ帰るよ」と猫に声をかける。
猫は食べかけていた油揚げを慌てて咥えてとことこと女の子の足元へと駆け寄った。
「お嬢さん、わたしは応援しているよ。頑張りな」
「え?」
「妖のネットワーク侮ったらいけない。今妖ニュースでホットな話題はまさしくお嬢さんあなたのことだから」
「はわわ……えと、ありがとうございます」
侮っているつもりはなかったけど、さすがに訪れたこともない遠い大地で暮らす妖にも知られているということまでは想像もしていなかったので、まあ甘く見ていたと言われても仕方がないのかもしれない。
「あんまり小宮山さんをおどかさないでください。さあ早く帰らないと風向きが変わって、帰る方向とは真逆へと送られてしまいますよ」
「おお、それは困る」
女の子は「それではな」とにっこり笑うと猫と共に風に乗って帰って行った。
コン汰さんと二人で見送っていると中から「おい、さっさと作れ。品切れさせるな」というすごく不機嫌な声が聞こえてぬっと大きな影が出てくる。
「ひぃっ!?」
驚いて後ずさると柘植さんが嫌な顔をして舌打ちした。
「人を化けもんみたいに。本物の化けものには友好的なくせにお前は一体なんなんだ」
「す、すみません」
まさかいるとは思わなかった――って言うと問題がある気がする。
ほのかは柘植さんのお店だし、店長なんだからいて当たり前なはずなんだけどここで一度も見たことが無かったから。
「もたもたすんな。働け」
「はい。店長」
鋭い視線でコン汰さんを睨みつけて顎で急かす姿はちょっとどころかかなり感じが悪い。
まあ雇い主なんだししょうがない……のかな?
だって宗明さんのお札で無理やり言うこと聞かせてるんでしょ?
それって不当な扱いだし、そもそもお給料貰ってるのかどうかも疑わしいんだけど。
「なんだ。なんか文句ありそうな感じだな」
「ええっ!?いや、えっと」
じっとりと眺めていたのを睨んでいると勘違いされたのか、柘植さんが苛立たしげにポケットから煙草を取り出して咥えた。
なんとか誤魔化そうと話題をさがして視線を彷徨わせたところで煙草を出したのがほのかの赤いエプロンのポケットだったことに気が付く。
「あの、柘植さんがお店に出てるの……珍しいですね」
「あー?しょうがねえだろ。コン汰がアホ弟をぼっこぼこにして未だに人型に変化できねんだから」
「ええ!?ぼっこぼこって」
コン汰さんが!?
可愛がっている弟を変化できないほどに痛めつけるなんて想像つかないんだけど。
「来週くらいまでは出られんだろう。まあ自業自得だな」
「ちょっと行き過ぎな気がしますけど」
銀次さんがこらしめられた原因が私にセクハラまがいの発言をしたからというものなので、どう考えてもこれは過ぎた折檻にしか感じられないのですが。
そりゃもちろん傷ついたし腹も立ったけど、言いにくいことを言ってくれたんだと思えば、まあ、ねえ?
「んで?銀次に会いに来たわけじゃないんだろ?」
「あ!えっとおいなりさんを買いに来ました」
水を向けてくれたので注文しやすくなった。
「いくつだ」
「六人分なので十……じゃ足りないかな?えっと十五パックください」
足りないよりは多い方が良いだろうと悩んだ挙句に強気で頼む。
なのに柘植さんが中へ向かって「コン汰!急いで二十用意しろ」なんて言うから慌ててしまう。
「ええ!?ちょっと待ってください!十五ですよ!」
「遠慮するな。代金は十五で良い。おばさんにもあきにも世話になりっぱなしだから」
咥えた煙草に火を点けてにやりと笑いライターを持つ手をひらひらと振られたら引き下がるしかない。
「ええっと、それでは遠慮なくいただきます」
「おう」
なんとなく中へ入るタイミングを失い、ふうーっと空に向かって煙を吐き出している柘植さんの隣に所在無く立つ。
白は煙草の匂いが嫌なのかしきりに私のスカートに鼻を押し付けてピスピス鳴らしている。
小人さんたちはそんな白を不思議そうに見上げていて、中には私の方を見ては「どうしたの?」って感じで首を傾げる子もいた。
「えっと、私、中に――」
あんまりにもかわいそうなので店内に避難しようとしたんだけど、柘植さんがすごく怖い顔で私を見下ろしていたので最後まで言えずに口を噤んでしまった。
「お前、いつまで千秋寺に出入りを続けるつもりだ」
「いつまでって」
質問と言うよりもどちらかというと尋問のような威圧的な言い方に私は緊張してゴクリと喉を鳴らした。
どうしよう。
もう来るなって言われるのかな。
でもそれは柘植さんに言われる筋合いはない。
「許されるなら、ずっと」
「…………」
私の答えは柘植さんにとって嬉しいものじゃなかったのか、半分ほどになっていた煙草の残りをすごい勢いで吸い乱暴にタイルの上に放り投げて靴先で消す。
そして大きな上半身を前に倒し、腕を伸ばして吸殻を拾い上げ、掌の中でぎゅっと握りしめてから私へと視線を戻した。
「あきとはるは特殊な家柄だ」
“あき”が宗明さんなら“はる”は宗春さんだろう。
「妖に恨まれることが必然である生まれでありながら、人からも畏れられる」
因果な商売だ――そう呟き煙草を取り出して咥えた所で我に返り、唇から放して箱の中へと戻した。
「はるはまだしも、あきに友人と呼べる相手が俺だけなのはどうしてだと思う?」
問われて私はちょっと考える。
宗春さんはそもそも他人に興味が無いから友だちなんか必要としてない。
でも宗明さんはお坊さんとして厳しくあろうとしているけど、優しくて真面目で義理堅くて、それから人並みに悩みや不安を抱えている。
そんな彼がまだ子どもだった時に友だちができないなんてことは考えられない。
私にだって一緒に帰ったり遊んだりした友だちくらいいたんだから。
まあ親身につきあってこなかったから学校を離れた後に友だちとして残ってくれた子はいないんだけど。
宗明さんは人として魅力的だし、友だちでいたいって思う子は絶対いたはず。
なのに実際はいない。
柘植さん以外は。
つまり。
「宗明さんは友だちを作りたくても、作れなかった……?」
「そう。リスクがありすぎるんだ」
千秋寺へ仕返しの機会を窺っているものや、自分たちを脅かす力を持つ者を排除しようと虎視眈々と狙っている妖が多くいるらしい。
「近しい者を作ればそこを狙われる」
だから特別な相手を作らずに生きる。
その方が互いのためだと割り切って。
「そんなの辛すぎる」
「そもそも悪霊とかなら信じる奴もいるだろうが、妖なんてもんを相手にしている寺の人間をガキが理解できるわけがない」
生きている世界が違う。
取り巻いている状況が特異すぎて。
「あきはからかわれたり、バカにされても反論も反撃もせずにじっと耐えてたな」
凛と前を向いて。
「俺は商店街の生まれだから語り部に色々と話を聞いてたし、千秋寺の担う仕事についてすげぇなって思ってたから全く抵抗なかったが」
当の宗明さんが柘植さんを友だちとして受け入れようとしなかったんだろう。
冷たくあしらわれて意固地になる柘植さんの姿が想像できて口元が緩みそうになり慌てて両手で隠した。
「俺はあきと友人であり続ける為にこれを使うことを約束した」
そう言って出したのは宗明さんのお札だった。
私が持っているのと同じもの。
「コン汰を傍に置いているのも俺が他の妖に襲われた時のための保険だ。俺は躊躇わない。相手が何者であろうと利用できるものはとことん利用する」
宗明さんが安心して柘植さんと友達でいられるために。
「あいつらの傍にいるには覚悟と方法と努力が必要だ。あんたは」
その覚悟があるか?
「あんたは対抗するための方法は与えられている。なら後は」
「覚悟と努力……」
「中途半端な覚悟で出入りされちゃ困るんだよ。あきの足を引っ張るようなら俺はあんたを俺の覚悟と信念でもって排除する。手段は選ばない」
覚悟しておけと釘を指した後、柘植さんは身を屈めて中へと戸を潜って中へと消えた。
入れ代りに出てきたコン汰さんが「店長から意地悪なこと言われませんでしたか?」って心配してくれたけど私は首を振ってお金を渡す。
お釣りを用意するためにいったん引っ込んで、また出てきたコン汰さんは眉を下げている。
「大丈夫です。心構えを教えてもらっただけなので」
「そうですか……」
「銀次さんにお大事にって伝えてください」
「はい。伝えておきます」
じゃあってコン汰さんに会釈をして歩き出す。
おいなりさんが二十パック入った袋は重たくて、とても良い匂いがするのに気分は晴れなかった。




