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女子力はメンドクサイでは育たない



 千秋寺の山門を出て長い階段の下を覗くと古ぼけた石碑の傍に黒い影が濃く固まっているのが見えた。


 階段を下り始めても動く気配が無いので違うのかなと不安に思い始めた時だった。


 諦め半分期待半分の視線が千秋寺を見上げて、小さな小さな瞳と視線が合い鍋の蓋ぐらいの大きさで寄り集まっていた彼らが一斉に一番下の石段に群がりはじめる。


 飛び跳ねている子、グルグル回っている子、抱き合って泣いている子、踊り出す子、手を振っている子――それぞれが全身を使って喜びを表してくれるから。


 こっちも泣きたいくらい嬉しくなっちゃって。


「みんな久しぶり、元気だった?」


 ポケットの中から真希子さんに貰ったビスケットの袋を出しながら呼びかけると目をうるうるさせてみんな一生懸命に頷いてくる。


「えっとね。これは力が暴走した時に助けてくれたお礼」


 小さく砕いて掌に乗せたものを差し出すと歓声を上げて――いるように見える――飛びついてきた。


 たくさんいるから出遅れた子たちが泣いて前の子たちを引っ張っているので、前列の子たちに行き渡ったのを確認してから手を上げる。


「もらった子は次の子に場所を開けてあげて……そうそう。はいどうぞ」


 ビスケットの欠片を持った子たちがとことこと退けて次の列の子たちがキラキラと瞳を輝かせて出てくる。

 そこへ手を下ろすと涎を垂らしながら欠片をひとつずつ取って行く。


「あ~可愛いなぁ。癒される」


 行儀よく列に並んでいる姿もビスケットを頬張る姿も本当に愛らしい。

 今度はミルクも持ってこようっと。


「みんなずっと待っててくれてありがとう。これから商店街に行くんだけと一緒に行く?」


 先に食べ終えた子は当然だと言いたげに靴にしがみつき、残りの子たちはせっかくのお菓子を一気に口の中に入れてうんうんと頷く。


「ごめんね。急がせちゃって。まだ残ってるから帰ってきたらあげるね」


 膝を伸ばして歩き出すと小人さんたちもご機嫌な様子で後をついてくる。


 一応は力を使いこなせるようになったということで宗春さんから商店街へ行くぶんには外出してもいいって許可は頂いた。


 それ以外の寄り道は一切ダメだし、三時前には帰ることという子どものようなお約束をさせられたけど。


 久しぶりの千秋寺以外の外だ。


 やっと亜紗美さんに会えるんだと思うとちょっと緊張するけど。

 亜紗美さんとコン汰さんのためにも誤解は解かなくちゃいけない。


 それからほのかに行って柘植さんのタオルを返して、銀次さんがいればご挨拶して、帰りに和菓子屋さんで宗明さんが好きな栗饅頭と塩豆大福を買う予定。


 露草は狒々との決着がついたので自分たちの住処に帰ったから今日のお供は小人さんたちだけだ。


「あとコン汰さんのおいなりさんも食べたいなぁ」


 お寺から離れた途端にあれもこれもと欲張っちゃうんだから本当に情けない。


 でも食べることが大好きなのは治らないし我慢はよくないんだからとほくほくしながら小道から商店街へと入ろうとしてチリチリっと肌に刺激がはしる。


 なんだろう?


 嫌な感じじゃないけど、微かな違和感がある。


 こんなに近くにいるのに明るいお日さまに照らされた商店街の景色と音が透明の幕を隔てて存在しているような。


 歩みを緩めた私の横を小人さんが追い抜いて先に商店街へと入る。

 どうしたのかと不思議そうに振り返る彼らに笑顔を返してえいやと進んだ。


 大丈夫。

 だってここは龍姫さまの力で守られている場所なんだから。


 なにも心配することはない。


「おや!久しぶりだね!」

「あ、こんにちは」


 抜け出た所は八百屋さんの横。

 前においなりさんのお使いを頼まれたおばちゃんがにこにこと笑って声をかけてくれた。

 今日も素敵なハイビスカス柄のバンダナをしていて眩しいやら明るいやら。


「今日もほのかにお使いかい?」

「そうですね。寄りますよ。良かったら買ってきましょうか?」


 なんとなくそう返すのがいい気がして聞いてみたらおばちゃん「いいのかい!」って満面の笑みでまたお札をぎゅっと握らせてくる。


 えっと確か。

 お花の名前だった気がするけど。

 覚えてない。

 まあ無理して名前を呼ぶ必要も無いか。


「じゃあ後でほのかのおいなりさん三パックお届けしますね」


 おばちゃんは「よろしく頼むよ」と私の肩を叩いてから仕事に戻って行く。

 預かったお札を鞄の内ポケットに入れてまずは亜紗美さんのいる雑貨屋さんへと向かった。


 平日のお昼少し前の商店街は人通りが少ない。


 通りに面して並ぶ色んなお店の様子を眺めながら歩けばすぐに白い板チョコの扉が見えてくる。


 お隣の鈴花(お花屋さん)をちらりと覗いたけどあの綺麗なお姉さんの姿はなく、四十代の女性が中にいたので店長さんなのかもしれない。


 配達にでも出ているのかも。

 もしお姉さんがいたら少しお話したかったんだけど残念だ。


 まあ今日の目的はお姉さんと親睦を深めるためじゃないからね。

 なんとしてでも私がコン汰さんが好きだという亜紗美さんの誤解に否!を突きつけなければ。


 またしてもえいや!と気合を入れてから白い扉を押し開けると雑貨屋特有のいい香りが迎えてくれた。


 十二月が目の前に近づいているからなのかディスプレイがクリスマス仕様になっている。

 赤や白や緑に彩られている店内の可愛い雑貨に目を奪われつつ亜紗美さんの姿を探せばレジの横で新しく入ってきた商品を箱から出していた。


「あのっあさ、亜紗美さんっ」

「はい、いらっしゃいま――せって、紬ちゃん!?久しぶりだね」


 呼びかけにぱっと顔を上げた亜紗美さんは相手が私だと分かると一瞬だけ固まってすぐに戻ってきた。


「あー……えっと、この間はごめんね?びっくりしたよね?」


 気まずそうに視線を下げつつ先に謝られてしまったので「いやっ!謝るのはこっちの方ですからっ!」と前のめり気味に駆け寄った。


「あの時、私が変な言い方してしまって誤解させてしまい本当に申し訳ありませんでした。本当はもっと早く謝りに来たかったんですが色々と立て込んでしまって……」


 来れなかった理由を詳しく説明できないのが辛い所なんだけど、必死で頭を下げてすみませんでしたを繰り返すしかない。


「あのあの……私、コン汰さんのことなんとも思ってないと言いますか、あ!いや、ちゃんと気を使える優しい方だなとは……、あわ、えっと、でも、それだけって言うか……」


 ああ、もうなんかごちゃごちゃしてきた。

 取り繕おうとするからきっといけないんだ。


 しっかりしろ!

 私!


「コン汰さんのこと良い人だなとは思いますが、それだけなんです。一緒にいたいなとか、手を繋ぎたいなとか、コン汰さん相手にそんなこと考えられないというか。なので私、コン汰さんのことは」

「あっは!紬ちゃん、分かったよ。分かったから」


 もう、いいよ。


「銀次からも私の誤解だって言われてたし、紬ちゃんがコン汰に特別な感情を持っているような雰囲気全くなかったし……ごめんね。私ほんと恥ずかしい」


 亜紗美さんが頬を染めて大人げなかったと謝ってくれた。

 それから頭を抱えて「あー、もう、バレちゃってるよね?」って悶え始めたので私は遠慮しながらも「はい」と返事する。


 ここはもう嘘をついてもメリットはなんにもない。


 素直に亜紗美さんの恋心がコン汰さんへと向けられていることを認めていた方がなにかと都合がいいから。


「だよね……ああ、ほんと恥ずかしいけど。私コン汰のことになるとどうも冷静でいられなくて。告白するつもりもないのに嫉妬とかさ」


 亜紗美さんは自己嫌悪に陥っていてうんうん唸っているけど――ちょっと待って!


「告白するつもりがないって!ほんとに!?なんでですか!?」


 いくらコン汰さんが妖であることを黙ってお付き合いすることはできないって言い張っていても、好きな人である亜紗美さんから気持ちを打ち明けられたら少しくらいは絆されてくれそうな気もするんだけどなぁ。


 んー……でもその辺り根深そうだからなんともいえないけども。


「なんでって、コン汰にとって商店街の人はみんな家族で、どう頑張ってもそれ以上にはなれないからかな」

「は?え?家族?ウソでしょ」


 コン汰さんが亜紗美さんを見つめる視線には家族に対する愛情よりも深くて強いものが込められているんだけど。


 鈍い私が分かるくらいなのに、亜紗美さんが気付かないとかあるのかな?


「えーっと、紬ちゃんにはいいにくいんだけど私銀次と付き合ってたことがあって。ある日突然別れようっていわれてなんでって聞いてもなかなか理由をいってくれなくてさ」


 言葉を一旦切ってため息を吐いた隙に銀次さんとお付き合いしていたことは当の銀次さんから聞いたことをお伝えすると「あ、聞いてたんだ。良かった」となぜかほっとされた。


「でね。別れた後もしつこく問いただしたわけ。でその理由が『商店街の女に手を出すつもりはなかったんだ』っていわれちゃって。なんで?って思うでしょう?理由になってないっていってもしょうがないだろって怒られてね」


 妖と人との考え方や決まりごとに大きなズレがあることを知っている身としてはコン汰さんや銀次さんの味方をしたくなるけど。


 亜紗美さんからしてみればそんな理由じゃ納得できないだろう。


それを押し通すんだから彼らにとってはそれだけ大事なことだって分かるけど、もっと上手い言い訳考えておいてよ!


 せめてお互いの傷が深く引きずらないでいいようなくらいの理由を準備しておいて欲しいなぁ。


「だからさ。きっと私が商店街の雑貨屋で働いているうちはそういう対象として見てもらえないってことなんだよね」

「そ、そうなんですかねぇ?」


 少なくともコン汰さんはそういう目であなたを見ていますよっていいたいけど。


 いえない!

 もどかしいけど。

 こういうことは本人がいわなくちゃダメなんだろうしさ。


「だから焦っちゃったんだよね。紬ちゃんは商店街に関係ない子で、素直ないい子だし。コン汰と自由に恋愛できる立場にいるんだって思ったらさ。やっぱりメラメラっとするわけだ」


 ごめんね。

 ヤな女で。


「――そんなことない!亜紗美さんは親切で可愛くてお洒落で、ぜんぜんヤな女の人じゃないです!」


 自虐的な言葉も笑い方も亜紗美さんには似合わない。


「私、亜紗美さんみたいなお洒落で素敵な女の人になりたいです」


 コンプレックスだらけの私にこういう服ならスタイル良く見えるよって教えてくれる亜紗美さんは華奢で小さくて可愛くて。


 憧れるくらいに魅力的な人だから。


「ありがとう。あ!紬ちゃん、私があげた服着てくれてる。嬉しい」


 色んな動揺から立ち直ったのか、私が着ている服が以前いただいたものだと気づいたらしい。

 指摘されてまだお礼をいっていないことに気づいて慌てる。


「あ、そうでした。可愛いお洋服たくさんありがとうございました。似合っているか自信ないんですけど、亜紗美さんのお洋服着てたらやっぱりウキウキしちゃいます。少しは女子力高く見えますかね?」


 いくら服が可愛くても着こなせるかどうかはセンスの問題だし、着ている本人が堂々とできていないからピタッときている感もないからなぁ。


「う~ん。あとはメイクと髪形かなぁ。紬ちゃんこっち来て座って」


 部外者がいいんだろうかと思いつつ手招きされるままカウンターの向こうにある椅子に座る。

 亜紗美さんはレジの下から鞄を出してその中から化粧ポーチを持って私の正面に立つ。


「今日は日焼け止めだけ?」

「あ、はい。面倒くさくて仕事の日以外は化粧しないんで」

「えー!?ダメだよ!女子力がどうこういうんなら休みだろうが仕事の日だろうが関係なくメイクはしなくちゃ!」


 ズボラを叱られて私は首を竦めて「ごめんなさい」と反射で謝る。

 だって、誰かと会うわけでもないのにお化粧するの勿体ない気がして。


 そんなに高い化粧品を使っているわけじゃないけど、やっぱり消耗品だからケチっちゃうんだよね。


 そこがまた女子力皆無の原因かもしれない。


「どこで好きな人と会うか分からないし、いつ運命の人と出会うか分からないんだからどんな時でも可愛くいなくちゃ」


 なるほど。


 そういうことを常に考えて行動できるからいつだって可愛い女子でいられるんだなぁ。


 ひとつ勉強になった。


 慣れた手つきでクリップ型のピンで前髪を止めて、そのついでに眼鏡が外される。

 いつもは隠れている額が剥き出しになっているのはなんとも心許なくてドキドキした。


「もしよかったら眉毛整えてもいい?」

「え?あ、はい。お願いします」


 自分ではどう手入れしていいのか分からずに放置状態にしていたことを恥じ入りつつも頷けば、亜紗美さんは小さなハサミでちょちょっと手早く切っていく。


 すごいなぁ。


「紬ちゃんは肌が綺麗だから下地とフェイスパウダーでナチュラルメイクがいいかな。ほら目を閉じて」


 いわれるがまま目を閉じるとクリーム状のものがおでこと両目の下、鼻筋顎の下にペタペタっと置かれる。

 ほんの少し冷たい亜紗美さんの指が丁寧に下地を塗り込んでいく。


 私はほんと適当にザーッとやるからこの辺りも見習わないといけないなぁ。

 いつも使っている下地より伸びがいいような気もするから後でどこのを使っているのかも聞いておかなくちゃ。


「じゃあ次はフェイスパウダーね」


 柔らかなパフが肌の上を少し押し付けるようにして撫でいく。

 ほんのりといい香りがして癒し効果が高いから、これならお化粧するのも楽しくなりそうだ。


 うん。

 これも後でどこの商品か聞いておこう。


「紬ちゃんはピンク系よりオレンジ系の方が似合いそうだから」


 そういって頬の上をブラシがささっと動いたのでチークかな?


 それから顎に亜紗美さんの指がかかって唇の上を小っちゃい刷毛が塗りぬりしているのは口紅なんだろう。


「あとはマスカラでお終い」


 ビューラーが瞼に当たってひんやりとするけどすぐに体温と混ざって気にならなくなる。

 自分でやるより綺麗に上がったまつ毛に驚いていると亜紗美さんが「慣れだよ、慣れ」とクスクス笑う。


 こちらも伸びのいいマスカラで掬うように毛先まで塗られ、はいどうぞと鏡を渡されて覗き込んだ先にいたのはいつもより目元パッチリで血色の良い私の顔だった。


「すごい……!まるで魔法みたい」

「そんな大げさだな。でも簡単だったでしょ?これならお休みの日でも面倒くさがらずできるはず」


 確かにメイクが終わるまで五分もかかってない。

 これなら私でもできそうだ。


「あの、さっき使った下地とパウダーってどこのを使ってるか教えてもらってもいいですか?」

「いいよ。っていうかそれ全部うちで扱ってる商品だから購入していただけると助かるかな」


 三つ編みを解いて櫛を入れながら亜紗美さんが商売人の顔でウィンクした。

 亜紗美さんは売り上げが上がる、私は女子力が上がるならウィンウィンだよね。


 ならば悩む必要はない。


「買います!買って帰ります!」

「えへへ。毎度あり」


 手際よく私の髪を後ろでひとつに束ねるとそのまま軽く捩じりながらアップにしようとしていた亜紗美さんが「あれ?」と不思議そうな声で手を止めた。


「なんですか?もしかして小っちゃなハゲとか、白髪でもありましたか?」

「あ、いや。そうじゃなくて……えっとごめん。違ったらごめんなんだけど、ここにね」


 と言って亜紗美さんが触れたのは左の耳の後ろ側だった。

 ちょうど耳たぶで隠れて見えないような場所。


 そんなところになにがあるんだろう?


「キスマークみたいな痣があるんだよね……紬ちゃん、彼氏いるの?」

「え!?いやいないですよっ!そんなまさかっ!きっと虫に刺されたか、ピンポイントでぶつけたのかも。私ほんと抜けてるから」


 なんか艶っぽいワードにひえっと飛び上がり、訳も無く赤面しながら首を振ると髪が引っ張られて少し痛い。


「ええぇ?普通こんなとこピンポイントで怪我なんかしないよ。でもそっか、誤解されちゃうから髪は下ろしてた方が――いや、うん。このままいこう」

「やっ、え?いや、ちょっ見えないようにしてくださいよ」

「だいじょぶ、だいじょぶ!だって違うんでしょ?キスマークじゃ。なら問題ないって」

「いやいや!あります!恥ずかしいですっ!」

「えーっ、銀次に見せつけてやればいいのに。少しくらい動揺させてやったらいいんだよ」


 亜紗美さんはなんかとんでもないことをいってるけど、私も銀次さんもそんな甘い間柄じゃないんだからさ。

 勘弁して欲しい。

 銀次さんもきっといい迷惑だよ。


「じゃあハーフアップにしとこうか」

「お願いします」


 髪が解放され亜紗美さんの指が横髪を梳きながら後ろへと持って行く。

 そのまま結わえられて、シンプルな紺色の細いリボンのついたピンで飾り付けられた。


「はいできあがり。紬ちゃんの髪って綺麗なウェーブが自然についてるんだから下ろしてても可愛いよ。いいなぁ」

「そうですかね?私には手が付けられない暴れん坊なんですけどねぇ」


 羨ましがられたけどあっちへ跳ね、こっちへ飛ぶ髪にはずっと苦労させられているので喜べない。


 人は自分にないものを欲しがるっていうけど本当なんだなぁ。

 だって。


「私は亜紗美さんのようなさらさらストレートが良かったです」

「ふふ。無い物ねだりだね」

「ですね」


 亜紗美さんは下地とフェイスパウダーを商品棚から持ってきて「これとこれでいい?」と確認してくれたのでお願いしますと頭を下げて会計を済ませた。


「あとね。部屋片付けてたらまた着ない服出て来たんだけどどう?」

「え?いいんですか?いただいてばかりで申し訳ないんで払いますよ」

「いいって、いいって。着てもらった方が洋服も私も嬉しいし。そのお金は今度うちの商品を買うのに使ってよ」


 奥から大きな紙袋を持ってきて亜紗美さんが差し出してくれる。

 しかも今度うちの商品を買ってってことは。


「また、来てもいいんですか?」

「もちろんだよ。なにいってんの」

「うう、私もう亜紗美さんに嫌われちゃたと思ってて」


 ぐすぐすと鼻を鳴らすと亜紗美さんは「大げさだなぁ」と苦笑する。


「嫌わないよ。だって紬ちゃんいい子なんだもん。そうだ。今度一緒にご飯か、飲めるんだったらお酒飲みに行こうよ」

「いいんですか!?」

「いいんですよ。紬ちゃんの意識改革してモテる女に成長させたいって野望がふつふつとわいてきてるから」

「いぎっ、なんか怖い野望……ですね」

「まあね。それだけじゃなく愚痴とかそういうのにも付き合ってもらいたいし。あ!もちろん私も付き合うからさ。愚痴とか恋の相談とか」


 仲良くしよっていわれたら嬉しくて。

 何度も何度も頷いて亜紗美さんの手をぎゅっと握りしめた。


「よろ、しくお願いします」

「こちらこそ」


 こうしてやっと誤解は解け、友だちとしての新しい関係が始まったのでした。




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