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合コンにて

随分と間が開いてしまい申し訳ありませんでした。

これからも不定期更新となりますが何卒よろしくお願いいたします。





「紬、今度の金曜なんだけど夜空いてる?」


 高橋先輩から唐突に予定を聞かれて私は身構えた。

 夜、という部分と高橋先輩の裏がありそうな笑顔を合わせて考えれば答えは簡単に出てくる。


「予定はないですが、行きません」

「やだ。まだなにも言ってないじゃない」

「それに“今度の金曜”って明日のことですよね?」


 ピンク色の唇を尖らせて不満そうな表情をされると、私に非が無くても何故かこっちが悪いような気持ちになるから美人は本当に性質が悪い。


「人数合わせのために呼ばれた上に引き立て役をさせられる方の身にもなってください」

「なによ。私は一度たりとも紬を引き立て役にしようと思って呼んだことないわよ。純粋に心配してんの!

 紬だってちゃんと可愛い服着て、ちょっとヘアーアレンジ変えたら見違えるくらい可愛くなるのに、もったいない!ね?そう思いますよね?社長、真琴さん」


 急に話を振られた社長と専務である奥さんの真琴さんが苦笑いしながら「そうだねぇ」と同意する。

 私が勤めている中山土木は事務員二人に現場に出る従業員十五人ほどの小さい会社なので営業職の人はいない。

 社長自ら営業で回って仕事を取って来るので事務所にいることは少ないんだけど、今日に限って社長用のデスク――そんなに儲かっているわけでもないので別室ではなく事務所内の奥に少し大きいデスクがある――に座って奥さんと和やかにお話ししてたところを不幸にも巻き込まれてしまった。


 申し訳ない。


「今時珍しいくらい真面目だし、いい子なのにね」


 私を褒めるために使える長所は限られているから、殆ど真面目とかおとなしいとかばっかりなんだけど。

 自分が特に真面目だと思っていないし、おとなしいかと聞かれたら速攻で否定する。

 お母さんからは「あんたはそそっかしい」って小さい頃から言われているので落ち着きがないって自覚はちゃんとある。

 無難で相手を傷つけない褒め言葉は裏を返せば、それ以外に特徴が無いってことでもあるんだよね。


「違いますよ!真琴さん、真面目なんじゃなくて枯れてるんですよ!まだ若いのに」

「枯れてるって、そりゃちょっと言い過ぎじゃ」

「いいえ!面倒くさがって自分を磨き上げない二十三なんて枯れてる以外のなにものでもないですよ!だいたい紬、あんたコンプレックス解消したいって思ってんでしょ?なら逃げないで努力しなさい」


 高橋先輩の“枯れてる”発言に社長が可哀想になったのか、一生懸命反論しようとしてくれたけどエクステのついたまつ毛越しにキッと睨まれてまごまごしながら結局口を噤む。


 分かります。


 いいんです、社長。

 スイッチが入った先輩は相手が社長でも意見は曲げないので……。


 憐れむような視線を受け止めて私が小さく頷くと、社長が眉を下げてくしゃりと笑う。

 最終的にこっちへと矛先を持ってくるので高橋先輩の真っ当でありがたい励ましをため息でやり過ごした後で「次の日は予定があって、三時半起きなんですってば」と最後の抵抗をした。


「大丈夫。楽しくなかったら一次会で解散でもいいし、七時開始だから遅くても九時過ぎくらいに一次会終わると思うから」

「えー…………」


 毎朝三時半起きが九日も続けばそのリズムに体が慣れて来てはいるものの、その弊害として十時には眠くなるという呪いにかかっている。

 なので一次会が九時過ぎに終わるとしても帰ったら十時だし、そこから着替えてメイクを落としてお風呂となるとベッドに入るのは十一時過ぎてしまう。


 できれば参加したくない。


 もう少し過酷な生活サイクルに馴染んでからか、早朝特訓が終わってから誘ってもらえれば――うん、それでもやっぱり断ったと思うけど。


「いいじゃないの。小宮山ちゃん。行くだけ行って、途中で嫌になったら途中で帰っちゃえばいいのよ」


 真琴さんに「難しく考えないで行ってらっしゃい」と勧められ、先輩も「それでもいいから」と必死で頷いてくれたので、これ以上行きたくないとは言えずに渋々、本当に渋々頷いたのだった。



 ★ ★ ★



 私は白いシフォンのスカート――なんと膝丈!――に紺色のノースリーブシャツの上に真希子さんからいただいたグレーのカーディガンを羽織ってお洒落なカフェレストランの前に立っていた。

 先輩に飲みに誘われたから夜ご飯いらないとお母さんに言ったのに、何故かゆいが部屋にやって来て妹の服を強引に着せられたんだけど――。


 すっごい恥ずかしい!


 髪は白い大きめのお花がついたゴムでざっと後ろでポニーテールにしてるだけなんだけど、いつもはクルンクルン巻いてあっちこっち絡んで言うこと聞かないのに今日はふわふわと風に揺れている。

 メイクもラメの入ったピンク強めのチークとか、絶対自分では選ばないオレンジ系の口紅とかで華やかにされてしまって、なんかもう、どうしていいのか全く分からない。


 なので。

 帰っていいでしょうか?


 姉思いの結が「ほら、ちゃんと可愛いじゃん」って言ってくれたけど、ここに来るまでに何人もの人が似合わないのに無理してという眼差しで振り返ってきたのを無かったことにできるほどメンタルは強くない。


 ごめんね、結。

 お姉ちゃんはこれ以上我慢できません。


「高橋先輩には、あとでお詫びの電話をかけ」

「なくていいから。さっさっと来なさい。往生際の悪い」


 くるりと入口に背を向けて帰ろうとしたのに鞄を後ろから掴まれてそのまま店内へと連行される。


 ああ、一足遅かった。


 綺麗な緑色のワンピースを着た高橋先輩は茶色の髪をおだんごにして、耳元に蝶の形をした金色のピアスを着けていた。

 襟元がざっくりと開いているけれどいやらしく見えないのは胸元に綺麗な刺繍があるからかもしれない。


 でも逆に白いうなじがセクシーでドキドキしてしまう。


 先輩みたいに美人がそんな格好したら男の欲望が刺激されて襲われちゃうと焦った私は「ここ座って」と案内してくれた席に用意されていた白いナプキンを掴んで広げ高橋先輩の首にぐるりと巻き付けた。


「なにしてんの?」

「隠さないと。目の毒です」

「はあ?また紬はわけわかんないことを」


 ペシッと額を叩かれて怯んだ私をしげしげと眺めた後で先輩はにやりと笑う。


「可愛いじゃない。あんだけ嫌がってたくせに気合入れて来たってことはお持ち帰りされる覚悟もしてきたわよね?」

「いっ!?張り切ったのは妹で、私は全然!それにここまで来る間に“残念な子”って目で振り返ってまで見られた私を誰が好き好んでお、お持ち、かえりなぞしますかっ!」


 ぶるぶる震えながら動揺して言葉をつっかえる無様な後輩を「じゃあ妹さんに感謝しなさい」と適当に諌めて先輩は既に座っていた女性二人を紹介してくれた。


「アンナとミハル。こっちは紬。よろしくね」

「こんばんは、紬ちゃん」

「今日は楽しもうね」

「は、はい」


 アンナさんは小麦色の肌に白いニットがよく似合うスポーティな美人さんだった。

 あっさりとした性格なのか挨拶した後はスマホを弄って時間を潰している。


 ミハルさんは逆に雪のように白い肌の愛らしい人だった。

 ピンク色のふんわりとしたブラウスにはリボンやレースがついていて「今日のコース美味しいといいね」と無邪気に料理を楽しみにしている。


 どちらさまもこういうことに慣れているんだと分かる空気感がそこにはあって、帰りたいと切実に思っている私は完全に浮いていた。


 短大時代に何度か誘われて合コンに参加したことはあるけど、あの時はいつも通りの格好だったし、明らかに引き立て役として呼ばれていたから黙って食べて飲んでいれば良かったんだけど――ちらりと合コン相手に電話をしている高橋先輩を見てため息を吐く。


 多分今日はその場にいるだけの空気にはさせてもらえないんだろうな……。


 本当にいるのが辛くなったら帰ろう。

 それでもいいって先輩だって言ってくれたし。

 最初の頭数が揃えば地味で面白くもない女が途中で消えようが問題はないはず。


 逆に喜ばれるかもしれないし。

 うん。


「もう店の前まで来てるみたい……あ!こっち、こっち!」


 通話を切って直ぐに高橋先輩は入口へ向かって手を振った。

 それに応えるようにやって来たのは三人の男性。


 ん?

 三人……?

 あれ、これ私いらなくない?


 今からでも急用入ったからって帰ってもいいんじゃないかな?


 腰を浮かしかけた私の肩をぐっと掴んで先輩が一睨みした後で「一人足りないんじゃない?」と低い声で席に座る男たちを責める。


「ちゃんと後から来るって。心配すんなよ」

「ほんとでしょうね?」

「疑い深いなぁ。あかりは。後から来るヤツが一番イケメンだからさ。楽しみにしといてよ」


 高橋先輩の名前を呼び捨てするくらいだから、きっとこの人が主催者なんだろう。

 明るめの茶髪にブルーのシャツ、その上にざっくり編みの紺色のカーディガンを着ている爽やかな感じの人だ。

 一番手前の席で先輩の前に座っている。


 一番奥はお洒落な眼鏡をかけてジャケットを着ているインテリそうな男の人がアンナさんの前に。


 二番目に座った短髪にチェックのシャツにパーカーのカジュアル系の男の人はミハルさんの前。


 うん。

 一番イケメンかもしれないけど、来るかどうかも分からない男の人の前が私。

 絶賛空席中。

 ある意味やりやすい。


 ほっとしている私の横で先輩が呆れたように肩を竦めたけど、時計が七時をお知らせして合コンはなんだか微妙な感じで始まった。


 どんな料理が出るのかと楽しみにしていたんだけど生ハムが乗った香草がたっぷりのサラダのドレッシングは酸っぱすぎたし、茄子とミートソースのパスタは味が濃いのに更にトマトとバジルのピザにはたっぷりとチーズまで乗っていてこってりで胃が重い。

 ローストビーフと温野菜のお皿が運ばれてきた後で直ぐにアツアツのベーコンとかぼちゃのグラタンが出された時には既に悪酔いしてしまった後だった。


 匂いだけで気分が悪い。


「大丈夫?紬ちゃん」


 この合コンの主催者である男性(とおる)さんが心配そうに声をかけてくれる。

 隣の高橋先輩もさすがに青い顔して俯いている私を見て「トイレ行く?」と椅子を引いて立ち上がろうとした。


「あ、……大丈夫です。ひとりで行けますから」

「でも」

「少し、外で空気を吸ったら戻ってきます」

「いや、誘ったの私だし」

「……二人も抜けたらアンナさんとミハルさんが気にしちゃいますから」


 楽しそうに盛り上がっている奥の席の四人を見て私はそっと首を振る。


「そのまま、帰る?」


 言外に帰ってもいいと匂わせてくれるけどそれにも首を左右に動かした。

 本当はこのまま帰りたかったけど高橋先輩は本気で私のために合コンに誘ってくれたようで、自分のことよりも私がこの雰囲気に馴染めるようにとあれこれ気遣ってくれたから。

 せめて一次会が終わるまでは残るつもりだった。

 鞄からハンカチだけ取り出して席を立つ。


「あとで様子見に行くから、遠くには行かないでね」


 先輩の言葉に頷いてふらつく足になんとか力を入れながら入口へと早足で向かった。

 チョコレート色の扉にはお洒落な金属の把手がついていて、照明も天井からぶら下がった鈴蘭のようなランプから柔らかな灯りが落ちている。

 他のテーブルに料理を運ぶ途中のお店のスタッフがちらりと視線だけこちらに向けたので気力で苦笑いを浮かべ会釈だけして外へと出た。


 涼しい風がふわりと体を包んでほんの少しだけ楽になる。

 このお店は繁華街にあるけれど通りから一本入り込んでいる上に随分と歩かなきゃならないからか周囲に酔っ払いもいない。

 かといって薄暗いと心細く思うこともないくらいには人の気配もあるし、街灯だってたくさんある。

 グラグラする頭を右手で支えながらレストランの横にあるベンチへと深く腰かけた。

 背もたれに体重を預けて空を見上げるとぐるぐると星も月も回っているのは普段は飲まないシャンパンやワインのせいだと思う。


 どうもお洒落な飲み物や食べ物は苦手だ。


「お母さんのご飯が食べたい……」


 突飛な香辛料や不思議な香りのする野菜が無くても、繊細な盛り付けなんかしなくても素朴で安心するお母さんの手料理の方が何倍も美味しく感じるのだから仕方がない。

 お酒だってビールとか水で割れる焼酎とかの方が手軽だし、日本酒をちびちびと味わって飲む方がきっと性に合っている。


「あと、真希子さんのだし巻き卵も食べたい」


 毎朝お世話になっている真希子さんの丁寧な料理の数々の中で一番お気に入りなのがほんのり甘いだし巻き卵。

 きっと二日酔いの後だってあの優しい味なら身体も胃も喜んで受けいれられるに違いない。

 幸せな味を思い出しながら目を閉じている間にちょっと眠ってしまってたみたいで、ふっと気が付いた時にはベンチに横たわっていて眼鏡がひどくずれていた。


 だからなのか。

 近づいてきた人影の後ろに揺れる大きな尻尾が見えたのは。


「――――ふぇ?」


 横になったまま瞬きを繰り返すと、眼鏡の蔓にぶら下がって遊んでいた小人が慌てて飛び降りたのが目の端に写った。

 髪を引っ張ったり、スカートの裾にじゃれついていた小人たちもパッと逃げ出して気配が無くなる。

 のろのろと頭を上げると途端に吐き気が込み上げてきて急いで口元を押さえたが、呻き声と滲む涙は止められなかった。

 アルコールとさっき食べた料理が胃酸と一緒に暴れながら逆流しようとするのを必死で堪えて起き上がる途中の中途半端な姿勢のまま仕方なく固まる。

 冷や汗が噴き出して寒気がするし、血が下がっているのか指先が痺れて視野が狭くなってきた。


「店先でもどされたら迷惑」


 至極もっともだけど、吐き気と戦っている私に対してあんまりな言葉ではありませんか。

 誰かの目の前で嘔吐するという行為だけでも恥ずかしい。

 だから懸命に我慢しているのに――――。


 ん?

 そもそも、誰ですか?

 誰が私に声をかけて?


「だいたいこんなとこで女が酔っぱらって寝てる自体ヤッてくださいって言ってるようなもんだけど」


 あんた危機感無さすぎ。


「う――――っ!」


 色々と反論したいけど現状では無理なので、口を覆ったまま言葉なき声で抗議するしか方法はないわけで。


「おとなしくしてろよ」

「ん――――!?」


 なんか柔らかいような固いような感触の温かいものに包まれたと思った次の瞬間、ぐらりと眩暈がして目が開けていられなくなる。

 眉を寄せて瞼をぎゅっと閉じると今度はふわりと体が軽くなった。


 軽く、なった?――んなわけない!


 わけないけど、ベンチの素っ気なく硬い場所から解放されて空中に浮いているような心許なさが今私を襲っていて。


 なにがなんだか分からないうちにどこか遠くで「いらっしゃいませ」という声と「トイレどこ?」って聞いている会話が聞こえた。

 身体に感じる微かな揺れが吐き気を増長させるので、口から少しでもなにかが飛び出さないようにするので精一杯で。

 足先が床に触れたと思ったら上半身が勢いよく前に倒されて、押さえていた手を少し乱暴に外されたかと思ったら――。


「おえぇえええぐぅううっ」


 ぐっと指が突っ込まれる。

 口の中、というか喉の奥に。


 胃がひっくり返るような嫌な伸縮をして、我慢していたものがあっという間に逆流してきた。

 誰のか分からないけど、指!指は大丈夫なの!?と心配したんだけど危険を察知したのか引き抜かれた後だった……なんか、こういう状況慣れてる?


「う、あ………め、めがねっ!?」


 一応合わせて作り直してもらったけど、元々おじいちゃんのものだったからそれでも大きくて。

 下を向くと勝手にずり落ちそうになっちゃう眼鏡の心配を今更ながらしてみたんだけど、耳の後ろにも頬や鼻の上にも微かな重さすらなくなっていて今度は違う意味で青くなる。


「いやぁあ!おじいちゃん!?」


 自分が戻した汚物の中に沈んでしまった眼鏡を探すべく必死になって目を凝らしてみたけど見えるわけなくて。

 ぺたりと座り込んでしまった後で、ここトイレだったということに気づいたけどもうどうでもいい。

 ぼろぼろと涙を零しながら便座に縋りついていると後ろからトントンっと肩を叩かれた。


「ひぃいん、ほっといて。今、すごく後悔して落ち込んでるんだからっ」

「落ち込むのは勝手だけど、まずはなんか言うこと無い?」

「っく、言うこと……?」

「そう。ほら、水。口濯げば」


 渋々顔を上げるとずいっとコップが差し出された。

 それを受け取って漸く、この声の主がここまで運んで――だけじゃなく介抱までして――くれたのだと気づく。

 眼鏡が無いからあんまりよく見えないけど、彼は随分と若く大きな瞳をしていた。

 髪の毛も白っぽい。

 スポーツでもしているのか体つきもがっしりとしている。


「ありがと」

「ん」


 コップの水を口に含んで何度も濯ぐと随分と気分も良くなってきた。

 ふうっと息を吐いくと後ろから腕が伸びてきてレバーが回されて水が勢いよく流れていく。

 綺麗さっぱり、何事も無かったかのように――。


「ああ!眼鏡っ!おじいちゃんの、いや、おじいちゃんとの」


 繋がりが。


「落ち着けって。眼鏡ならあるって、ここに」

「うわっ」


 笑い声と共に突然眼鏡がやってきて思わず目を閉じる。

 蔓の先が頬を掠め少し冷たい鼻当て部分が私の低い鼻の鼻骨にこつりと当たったことで軽いのに重い、お祖父ちゃんの眼鏡が戻ってきたことを感じてほっと安心した。


「ありが、って、ちょ!?ちかいっ!!」


 目を開けると何故か目を伏せた凛々しいお顔の少年がいて更にその顔が近づいてくるものだから大声で叫んでしまう。

 両手を少年の肩に当てて力いっぱい押し返すと彼も本気ではなかったようでニヤニヤ笑いながら簡単に離れていく。


「あんた、良い匂いがする」

「は?」


 そんなことを知らない相手に言われて喜ぶような趣味は無いので、思いっきり顔を顰めて睨みつけた。

 だが少年は銀色の髪を揺らして楽しそうに笑い「気をつけろよ」と続ける。


「その匂い、特定の奴らにはたまらなくそそられるやつだ」

「――――そんな変な人たちとは関わり合いにならないから心配無用です!」

「ふ~ん。もう、無理そうだけど……?」

「無理って、どういう」


 ことなのか。


 分からないけど彼は背中を向けて出て行ったのでそれ以上聞けなかった。

 立ち上がりスカートや袖口、胸元などが汚れていないかを確認してから洗面所で手を洗い席へと戻るとずっと空席だった場所にさっきの少年が座っていてがっくりと力が抜けた。


酒の席での失敗は誰にでもあるかと思いますが、酔っぱらって外で寝ちゃうとか小宮山さん本当に危機感なさすぎです。

濡れたお姉さんの過去であれほど恐ろしいものを見たというのに、それが我が身に降りかかるとは思っていないのでした……。

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