プロローグ
ピチャッ・・・
水滴が落ち、波紋が広がる。その波紋が広がる音すらも聞こえてきそうな空間・・・洞窟。その静かで繊細な空間に似合わぬ、人の身の丈の三倍はあろうかという大きな扉。その今にも動き出しそうな扉の真ん中には封魔の石。それを囲むように勾玉が三つ埋まっている。さらにそれを囲むようにして彫られている符陣。その巨大で禍々しい扉の奥には和室が広がっている。床の間には刀が堂々としたその姿をみせつけるように置かれている。そしてその刀の奥にひっそりと佇む掛け軸が一巻き不気味に掛かっている。
『村正』
刀は異様な妖気を放っていた。
一見この『村正』が封印されているかのように見えるこの部屋には隠された仕掛けがあった。この仕掛けを作動させれば、横に三枚、縦に五枚敷き詰められた十五畳の縦に細長い部屋の真ん中の畳が階段となり、新たな部屋へと繋がっている。その部屋には見るからに呪われている殺気と妖気が入り混じった氣を放つ、禍々しい刀があった。柄の辺りから覗かせる不気味な髑髏、ザラついている土でできた地面、無音で無味無臭なその空間は、とても通常とはいえない。髑髏が特徴的な屍は刀の鞘と柄をそれぞれの手で、今にも刀身を曝け出しそうに握っていた。刀には鎖が繋がれていて、部屋の四方八方に止められていた。さらに部屋全体に符術が掛けられていた。厳重に封印されている刀を守っているかのようにも見える不気味かつ凄惨な屍。この屍こそが・・・
『邪神ヴァルキュリア』
・・・神殺しの神と呼ばれる存在。