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ダブル・ブルスト  作者: 雪折小枝
6/8

5話

学校を出て、街に出ると、夕焼けが人々を照らしていく。既に学校を出てしまった以上、二人は一生徒ではない。

執行人(グロウ)の制服を着てしまった以上、生徒達を取り締まる者達であり規範となる存在だ。

彼らが歩き始めると、場の雰囲気が変わる。

みんなの視線が、和正とヴィルヘインに注がれているのが分かる。

はっきりと見ている訳ではない。だが、横目で時折、二人のことを見ているのだ。



「あの~……ヴィルヘインさん、ヴィルヘインさん。何かみんな見てこないか?」

「そりゃそうよ、私達に気にされたらどうなるか分からないんだから。でも、それでいいのよ。私達が見回りをすることによって……少しでも悲しい思いをする人が減らせるんだから」

「悲しい思いをする人が減るか……」



実際、心なしか普段の軽い空気よりも少しピリッとした緊張感が生まれていた。



「それで、見回りってこのまま歩いているだけ?」

「基本的にはね、問題があったらすぐ動くわよ」

「分かってるよ」



一応、やっている以上は真面目に取り組もうと。周囲を見回していると、和正のわき腹にヴィルヘインの肘が突き刺さった。



「けふっ!! な、なにするんだよ……」

「目が恐いわよ、緊張感を持たせるのは大事だけど。不快になるようなことをしては駄目じゃない」

「俺なりに真面目にやろうと思ったんだけどな」

「力が入りすぎなのよ。適度に力を抜いて。ほら、眉間にシワが寄ってるわ」



和正の眉間に人差し指を添えて、上と下に擦り上げ力を抜かせる。よし、と小さく呟いた彼女は納得したのか、笑顔を見せた。

にこり、と笑った彼女の顔は、日の光のような温かさと可愛らしさがあった。和正の心臓が、ドキリ、と鼓動して顔を熱くさせていく。



「どうしたの? 顔、赤いわよ」

「いや、可愛い……なって」

「えっ?」

「あっ」



ついつい心の声を漏らしてしまった和正は、ヴィルヘインから顔を逸らす。ヴィルヘインも頬をほんのりと赤くさせていき、二人の間に微妙な距離と沈黙が生まれた。

そんな二人は、大通りの見回りを離れ、小さな人通りが少ない道へと入る。人通りが少ないということは、人の目を気にせず、何か犯罪を起こせる可能性があるということだ。

実際、朝の和正のように、不良達に追い詰められ。助けを呼んでも、人通りが少ない為、助けが来ない場合だってあるのだ。

だが、今の二人には静かな場所は鬼門だった。

ただでさえ、変な空気が流れている二人には、静かで人々の喧騒を忘れ、落ち着く小さなこの道でさえ、むしろ空気を重くさせ、二人の間は遠くなる。

空気に耐えられなかった和正は、ヴィルヘインへと声を掛ける。



「な、なぁヴィルヘイン」

「何よ?」

「あのさ……。えっと、普段はこれを一人で?」

「そうね、だいたい一人が多いと思うわ。こうやって、見回って事件がないと……良かったって思う」

「ヴィルヘインってさ、本当に真面目だよな」

「そ、そう?」



ヴィルヘインは、照れたように、髪をイジる。



「そうだよ。しっかりと熱意を持って、執行人をやってんじゃん」

「和正に褒められても嬉しくないけど。ありがと」



徐々に二人の距離が、元通りになっていく。

だが、ヴィルヘインの思いとは裏腹に、平和な時間はそうは続かない。

小さな人通りが少ない道に、悲鳴が響く。

二人は、顔を見合わせて、悲鳴の聞こえた場所へと駆けていく。突き当たりを右に曲がり、ゴミ箱をぶちまけたことにも気にせず走る。

走った先には、寂れた工場があった。



「た、た、助けて!! あい……」



和正の足元に震えて、掴まろうとした少年の背中を空から降り注いだ光の矢が貫いた。体の中に詰まっていた血がゆっくりと地面に赤い染みを作っていく。恐怖で、目を開き、涙を浮かべながら痛みで気絶している。

だが、このままにしておくと、死んでしまうことは明白だった。

そんな光景に、和正の顔はひきつり、体は凍りつく。

一方のヴィルヘインは、耳に付けていた無線を押さえた。



「こちら、ヴィルヘイン!! 重傷者が一人、犯人は多分、工場の中にいる。救護班を頼む、場所は」



今、伝えられることをヴィルヘインは簡潔に分かりやすく伝えていく。

伝え終わると和正を真剣な目で見て言った。



「和正、お前はここにいなさい」

「いや、でもお前は?」



ヴィルヘインは、和正の返事を待たずに、工場の中へと入っていこうとする。



「私は、犯人の制圧に向かう。お前は、来た仲間に状況を伝えて保護してもらいなさい。それじゃ」

「いや、待てよ!!」



彼の話を聞かずに駆けていった彼女の背中は、とても勇敢で、任せても大丈夫という安心感を与えてくれる。だが、工場の中から伝わってくる圧力(プレッシャー)は、彼女のその勇敢な背中をも飲み込んでしまいそうに感じた。

和正は自然と震えていた両膝に、何発も殴り付け、顔を、パン、と叩いた。



「よし、震えは止まった。悪い、ヴィルヘイン。お前の命令には従えない。おい、あんた。もう少ししたら救護班が来るから……何とか耐えろよ。あと、胸を貸してもらう」



和正は、『胸を借りる(ブルスト)』を呼び出し、装着した。

すると彼の体を翻させ、胸へ手を優しく張り付け、少年の胸を円を描くように動かす。すると電気ショックを受けたように体が大きく跳ねる。

そして聖霊が、武器へと変化し、姿を現した。

その武器は、パチンコ――スリングショットと呼ばれる小石やパチンコ玉を打ち出すものだった。

血が流れている少年の腹をジャケットで縛り、少しでも流れ出てくる血を止める。

応急処置を済ませた和正は、スリングショットを手にして、彼女の背中を追いかけ、闇の中へと和正の姿も消えていった。





先行したヴィルヘインも重く苦しい圧力(プレッシャー)を感じていた。犯人へと近付くために、奥へと入っていくほど、心臓を握られたような息苦しさを感じる。

足が近づくな、と戻ろうとするのをこらえて。ヴィルヘインは、前へと進む。開けた場所へと出ると、心臓が潰れたような幻痛がヴィルヘインを襲い、彼女は膝をつく。

痛みに耐え、顔を挙げると、目を疑う光景が広がっていた。



「なっ、なによ……これ」



そこには、魂を抜かれたように。白目を向き、意識なく倒れている生徒が、四、五人倒れている。

そんな倒れていた者達の中心に、一人立っていた。

既に日の光は海へと消えていき、暗い闇と同化する黒く長い髪。こんな暑い場所なのに、漆黒のロングコートを身に纏い。闇の中で火のように灯る赤い目をしていた。

ヴィルヘインはその姿を見て、驚愕する。



「『強奪者(プランナー)』」



その名前を聞き。件の人物は、不適に笑みをこぼした。

やっと本題まで来れました。

読んでくれた方の期待を裏切らないように、更新を続けられるように楽しんでやっていきたいと思います!!

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