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火竜屋の歌声  作者: WS
2章 迷う
10/17

3



 「よし、これで大体終わったな……」


 倒れた堅竜(けんりゅう)の呼吸停止を確認してから、セルヴはゆっくりと腰を下ろした。周囲には堅竜の群れの死体があちこちに転がっている。


 人間自体に大きな被害を与えるわけではないが、草食ドラゴンの堅竜は牧草地に入り込んでは植物を食い荒らす。あまりにも群れると被害は甚大なものになる為、早々に狩りをする必要があるのだ。


 「ふぅ、思ったよりも多かったね……僕、肩が凝っちゃったかな」


 「あの程度でそんな泣き言言ってんじゃねぇぞ親父。亀の甲より年の功っつうだろうが!」


 「やだなぁサルシャちゃん、僕は永遠の18歳だからげふっ!」


 ディルクとサルシャの喧嘩はいつものことだ。これまたいつも通り放置を決め込んだセルヴは、手近な岩に腰を下ろして全員に声をかけた。


 「おい、そろそろ飯にしようや。さっさと帰らないと、陽が暮れたら面倒だろうが」


 ドラゴンの中には夜行性かつ凶暴なものも多く、夜に郊外を歩くのは自殺行為となる。もし陽が暮れるまでにリャフルカの街に帰れなかった場合、近くの民宿に身を寄せることとなる。無論今までにはトラブルでそうなったこともあるし、そうそう問題ではない。が、今日ばかりは姉と居候が気になって仕方が無いのだ。何としてでも泊まりは避けたい。


 「せやな……リーダー、今日のお達しまであとどんぐらいや」


 「この辺りでは音竜(おんりゅう)がまだ2体ほど残ってるから、帰るならそいつらを狩ってからだな」


 「音竜か……僕、あれ苦手なんだよね。どうもうるさくって」


 「名前のままの感想ですね」


 軽口を叩きあいながら、面々は思い思いの場所に落ち着き、ポラーゼの作ったくれた握り飯にかじりつく。塩加減がとてもいい。


 「そういや、ポラーゼ君は元気にやってるのかな。僕は最近彼に会ってなくてねぇ」


 「何でだよ? 武器のメンテはどうしてんだ?」


 セルヴが尋ねると、親父はにやりと笑ってから三文字だけ返した。


 「秘密」


 「私、見ましたよ。ディルクさんが知らない女性と武器屋入っていくの」


 「そ、それ本当?」


 こういうちょっとでも色恋ネタが絡むと反応するのがサルシャだ。今まで彼氏は出来なかっただろう、と断言できる。


 「あれ、何でアドリアちゃんが知ってるの」


 「街のことで私の知らないことなんてありませんから。他にも色々知ってますよ?」


 「アドリア、個人情報で他人脅すのはやめとけや。あんまいい趣味とちゃうから」


 話はすぐにポラーゼの近況から脱線していく。彼らと話していると、最初に何を話しているのかが分からなくなるから苦手なのだ。


 先に標的の場所を見つけておこう、そうすると後々楽だ。そう考えたセルヴは、残った握り飯を一息に平らげてから立ち上がった。


 「あれ、どっか行くんか?」


 「水を汲んで来るんだよ」


 「音竜を見つけても手を出しちゃだめですよ? 彼らは群れて行動しますから。1対2じゃ、何かあった時に助かりませんし」


 「分かってるよ」


 ぶっきらぼうに答えてから、セルヴは斧を背中に引っ掛けた。



***



 セルヴたちが来ているのはリャフルカの街から北東に1時間ほどの、草原地帯だった。街から程近い草原には野生草食ドラゴンが発生することが多く、危険度は大して高くない。しかし稀にではあるが草食ドラゴンを狙った肉食ドラゴンが群れることもあるため、一概に安全とは言い切れない。しかし街から遠いとはいえない距離でもあるため、肉食ドラゴンが大量発生した時には、大規模な討伐部隊が組織されることもある。


 今日はいつも通り穏やかだ。音竜は肉食ではあるが、主食は魚。それほど危険なわけでもないが、発する音が不愉快極まりない。それはそれで被害になる。


 その音竜の独特な音も、広大な草原のどこからも聞こえてこない。草原地帯は北に50キロほどにも伸びる縦長地帯だ。捜すとなると骨が折れる。が、もっと厄介なのはやはり。


 「森にはいないでくれよな……」


 希望が思わず言葉となった。草原のすぐ東側には鬱蒼とした樹海となっている。もし音竜が樹海方面に移動しているとなると、もしかしたら今日一日捜しても見つからない可能性がある。かといって群れる音竜を分散して探すのは危険すぎる。一日捜して見つからない場合、街に戻って捜索部隊の編成希望を出さねばならないかもしれない。


 あまり戻るのが遅いと、仲間たちが動けない。いや、それよりもリーダーの機嫌の悪化が怖い。そろそろ戻る事にするか、と方向転換した時だった。


 「………………?」


 何かが聞こえた。音竜の出す威嚇音とは似ても似つかぬか細い何か。だがセルヴの危機感を煽るには十分な何か。多分、そう……人の悲鳴。


 再度耳を澄まし、目も閉じる。風が草木を揺らす音しか聞こえないが、それでも全神経を耳に傾ける。小さな悲鳴すら聞こえたのだ。もしあいつらなら、次の音は聞き逃さない。


 そして聞こえたのは……やはり、耳障りなトランペットのような音だった。


 間違いない。音竜が人を襲っている。

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