なんで?
「どうしたの?」
今のは誰だ?
「真司くん?」
真司は気持ちを落ち着かせるために、大きく息を吐いた。
真司の様子に戸惑っているおばさんをよそに、ベッドに横になった。
おばさんは、心配そうに真司の顔を覗き込んでいる。
真司は、おばさんの背中にある少し開いたドアの方を睨みつけた。
誰だ?
その見覚えのある少女は、今にも泣きだしそうな瞳で真司を見ていた。
さくらだ!
やっぱりあいつだったのか。
「大丈夫?」
真司は頭からタオルケットを被った。
「大丈夫ならおばさん行くね」
おばさんは、パンダのぬいぐるみを机の上にそっと置いた。
真司はタオルケットの隙間から、おばさんが部屋から出ていくのを見送った。
ドアの外には誰もいない。
おばさんがドアを閉めるのを確認して、真司は起き上がった。
いた。
確かにさくらはそこにいた。
やはりさくらはここに住んでいる。
おばさんの子どもなのか。
それとも真司と同じ孤児なのか。
いや、そんなことはどうでもいい。
なぜおばさんは、さくらのことを何も話さないんだ。
真司はゴロンと横になった。
天井を見つめながら、さくらのことを思い浮かべた。
そして、そっと目を閉じた。
どれくらい時間が経っただろう。
真司は人の気配を感じた。
おばさんか?
真司は目を開けた。
「うわっ!」
目の前の顔に、真司は飛び上がって声をあげた。
思わず息をのむ。
「お前、ここで何やってんだ…」
頭が混乱する。
「何って?」
なぜさくらがここにいる。
「なんでここにいるんだ?」
「だって、ここさくらのお部屋だもん」
真司は慌てて部屋の中を見渡した。
間違いなく真司の部屋だ。
「ここは僕の部屋だ!勝手にひとの部屋に入ってくるな!」
「なんで?」
「ここはお前の部屋じゃない!」
「ねぇ、なんで?」
「うるさい!」
真司はさくらの細い左腕を掴み、無理やり引っ張って部屋のドアを開けた。
「自分の部屋に帰れ!」
真司はさくらを部屋から追い出し、乱暴にドアを閉めた。
くそっ!
なんなんだ!
「真司くん?」
ノックの音とともにおばさんの声が聞こえた。
「真司くん、開けるよ?」
真司は初めて自ら部屋のドアを開けた。
おばさんはちょっとビックリしたような顔で言った。
「お昼、食べようか」
真司の視線は、誰もいないドアの外に向けられていた。