真司
ここに連れてきた大人が帰ったあと、さっきのおばさんが、にこやかに真司に話しかけてきた。
「さ。今日から真司くんはこの家の家族。そしておばさんがママね」
「…」
「この家ではおばさんがママなの。本当のママにはなれないかもしれないけど、ママって呼んでもらったらうれしい。もちろん、すぐじゃなくていいからね」
そう言うと、おばさんは、この家で暮らすうえでの二つのルールを説明した。
一、この家で暮らす人は家族であること
二、なぜこの家に来たのかは絶対に聞かないこと
バカバカしい。
どうせそのうち他の施設に放り出すに決まっている。
真司は、おばさんを睨みつけた。
「真司くんの部屋はこっち」
おばさんは真司の目を見ながら言った。
そしてにっこりほほ笑むと「荷物片づけようか」と言って真司のリュックを持って真司の部屋に案内した。
広いとはいえない部屋には勉強机と小さなタンス、そしてベッドが置かれていた。
「自由に使っていいからね」
おばさんは荷物を置いて言った。
「夕飯まで好きにしててね」
おばさんが部屋から出ていくと、真司はベッドに横になった。
メシなんか食えるか。
真司はそっと目を閉じた。
誰も僕のことなんかわかってくれない。
どこにいっても一人ぼっちだ。
なんで僕だけ死ななかったんだろう。
涙が溢れそうになった。
ぐっと強く目を閉じて両手で顔を覆う。
歯をくいしばって大きく息をはく。
死にたい―
「死んじゃダメ」
真司は飛び起きた。
辺りを見渡す。
部屋は暗くなっていた。
夢か。
いつの間にか眠ってしまったのか。
机の上には、おにぎりとから揚げが置いてある。
―お腹空いたら食べてね―
真司は添えられていたメモをクシャクシャにしてゴミ箱に捨てた。
メシなんか食えるか。
真司はタオルケットを頭から被ってベッドに横になった。
さっきの夢。
女の子の声だった。
なんとなくどこかで聞いたことがある。
起き上がって窓を開ける。
カサッ。
生暖かい風が、机の上の何かを吹き飛ばした。
何だこれ。
思わず拾い上げたそれは、メロンパンの包み紙だった。