誰にも言わない
「真司くん…」
誰だ?
「ねぇ、真司くん。起きて」
誰だ。どこにいる?
「ここだよ。真司くん」
はっと目を開ける。
「真司くん。あそぼ」
体が動かない。
「ねぇ、遊ぼうよ。真司くーん」
さくら!
「あーそーぼー」
「うわぁっ!」
真司は大声をあげて飛び起きた。
夢か―
カーテンの隙間から光が差し込む。
真司はTシャツで額の汗を拭った。
何だったんだ、今の夢は―
まだ心臓がドキドキしている。
喉はカラカラだ。
時計を見る。
もうすぐおばさんが朝食を持ってくる時間だ。
真司は大きくため息をついた。
カサッ―
思わず音の方へ目をやる。
「お前…」
「真司くん。あそぼ」
さくらだ!
部屋の隅にしゃがみ込んでメロンパンを食べている。
「お前、いったい誰なんだ?」
「…」
「おい!」
「誰にも言わない?」
どういう意味だ?
「ねぇ、誰にも言わない?」
さくらは今にも泣き出しそうに言った。
「わかった。誰にも言わない」
コンコン―
「真司くん。開けるよ?」
ドアが開いて、おばさんが朝食を持って入ってきた。
真司はおばさんを見た。
「どうしたの?」
おばさんが真司に尋ねる。
真司はさくらがいた方に目をやった。
「真司くん?」
さくらは?
「あの…」
さくらの姿はどこにもなかった。
今のも夢だったのか?
「朝ごはん、食べようか?」
おばさんの言葉に、真司は黙ってうなずいた。
机の上には、食べかけのメロンパンが無造作に置かれていた。




