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花は散り急ぐ  作者: 夏冬春秋
籠の中の小鳥、月の遠さを知らず 
9/48

天 上

前編後編の二章編成のつもりです。

長くなりそうですがなるべく収拾がつくように頑張ります。



 自分は籠の中にいるのだ。取り籠の中だ。その中に閉じ込められている。飼われているのだ。


 真っ暗な闇。そのなかに独りぼっち。


 助けは来ない。呼んでも来ない。虚しさが来るだけだ。


 助けてほしい。うずくまる。うずくまるしかないのだ。


 どうしてこんな事になってしまったのだろう。この鳥籠の中に閉じ込められてから幾日が過ぎたのだろうか。時間も分からない。


 籠の中から光が漏れだした。夜だ。月の蒼白い光だもう何回目だろう。ここから見る夜は。最初は数えていた。でも、それも長くは続かなかった。無意味だったのだ。


 ここは現実の世界のだろうか。夢の世界のだろうか。もしも夢の世界なら早く覚めればいいのに。お父さんに会いたい。お母さんに会いたい。友達に会いたい。どうしてこんなところでうずくまっているしかないんだろう。どうしてあの人を待つしかないんだろう。


 もう限界だ。助けて。


 隙間から漏れる月光を眺める。助けを呼ぶが誰も来ない。泣くしかない。笑うしかない。怒るしかない。楽しむしかない。もう、どんなふうに感情を出せばいいのか分からない。無心になるしかないのか。もしくはさっきのように自分という存在を忘れない為に、感情を常に吐き続けていくしかないのか。


 疲れたよ。疲弊し続ける事にもう疲れたよ。


 外に出たい。外に出たい。あの光指す世界に出たい。


 月光に手を伸ばす。届きそうだ。もう少しであの光に手が届く。あの光を出している月に手が届く。


 そう信じつづけて、今日も虚空を掴みまた籠の中で眠る。




 夜遅くの出来事だった。それは人々が寝静まる時間だ。オレはとある家の中にいた。招待はされていない。勝手にハナと一緒に上がり込んだ。それだけだ。オレは静かなその家を散策する。目的地は決まっていた。というか、もうそこしかなかった。


 悪臭が漂う家の中でオレは、鼻をつまんでいた。耐えがたき異臭。オレは顔をしかめる。その臭いの元は、一階にある固く閉ざされた部屋だった。そこから悶々と漂う腐臭。鍵はかかっていなかったので簡単に入れた。そこを開けると今までの比ではないぐらいの臭いがオレを襲った。ハナも「うげー」と眉間に皺をよせる。


 そこには一つの死体があった。小汚い格好をして、うつ伏せにして倒れていた。オレはその死体を仰向けに転がす。フウカのように冷たかった。完全に死んでいた。男性だ。


 この男性はフウカと同じように腕と脚が切断されていた。物好きなものだと思った。一か月ぐらいの間でこの死体を見るのは二度目だ。流行っているだろうか。


 男性から遠く離れた所に、部屋の片隅にこの男性のものとおぼしきその腕と脚が放置されていた。それは腐り果てていた。ドロドロとしていた。臭いの原因は恐らくこれからだろう。


 オレはこれだけだと思っていたが実はそうでなかった。この監禁部屋には同居人がいたようだ。クローゼットの中にそいつはいた。クローゼットには太い鎖と錠がかけられていた。中からは出る事が出来ない。外からも同様だ。オレはハナに無理やりこじ開けてもらった。そして、そいつがいたのだ。


 そいつは真っ白い体をしていた。見る限り、小さな骨格だ。子供だろうか。もしくは小柄な女性か。肉があれば何とか見分けがつくのだが、肉も皮もなにもありはしなかった。白骨と化していた。


その白骨化した死体の足には足枷がかけられていた。満足に動くことを許されなかったのだろう。


 オレはこの家に住む犯人が頭の狂った輩だと推測した。もっとも誰でもその結論に至るだろうが。とにかく、このキチガイはハナのエサになるには十分な素質を持っていた。


 オレのハナの食材選びが何なのかというと、死んでもよい人間。万死に値する人間だ。それがいわゆる犯罪者など、そういった類の輩だ。なので、ここの住人は適正だ。


 しかし、その肝心の犯人さんが見当たらないのだ。家を空けているのか逃げてしまったか。


 オレはハナをこの部屋に残してこの家をさらに探した。


 犯人は綺麗好きなのか、埃一つない綺麗な家だった。しっかりと掃除が行き届いていた。オレは掃除の秘訣をご教授願いたい。


 オレは二階の部屋に来た。そこは子供部屋か、女の子の可愛らしい部屋だった。電気をつけると、部屋がピンク色で染まっていた。変な趣味だと笑ってしまった。まあ、人の感性にあれこれ言うつもりはないので、どうだっていいことだ。


 オレはこの部屋の持ち主が先ほどの白骨死体の部屋だと直感した。あの大きさは幼い少女だったのだろう。可哀想にな、と心にもない事を言った。


 しかし、オレは引っかかった。白骨化したという事は、当然この部屋は使われていないはずだ。それなのに、ここは綺麗すぎる。未だに使っているようなそんな雰囲気だ。もしかすると犯人はこの部屋を利用しているのだろう。、しかし他の部屋を見て回った時、掃除はされていなかった。まあ、当然か。でも全くなかったというわけではない。ここ以外には寝室だ。そこも丹念に掃除されていた。まあ、いいだろう。


 オレは勉強机に足を運ばせた。そこには破られた写真と日記があった。


 写真は縦に半分を千切られていた。そこには下で見た死体の男性と幼い娘が写っていた。娘は六、七歳ぐらいか。写真の二人は笑顔でピースしていた。娘が前にいて父親がその後ろにいた。二人の体はしっかりと写っていた。彼らにとって、今では見る事が叶わない思い出の一枚だ。


 日記の方も手に取り、流し読みをしていく。書き手は娘だった。オレはその内容に言葉も出なかった。オレは日記をそっと閉じた。


 そして、オレはそれらを持ち帰る事にした。持ち主にバレたとしてもかまいやしない。どうでもいいことだ。


 オレは下へ戻りハナと合流する。ハナは口元を汚していた。部屋を確認すると、そこにあったはずの死体が二つとも消失していた。食べてしまったのだろう。


 オレはハンカチでハナの口元を拭いてあげる。ハナは無邪気に笑った。


 この家にはオレ達が探し求めている犯人はいなかった。もうこの家を後にして逃げ出してしまったのだろうか。……いずれ解ることか。


 オレは目的を果たし、ここを去るのだった。





 オレらしくない事をやってしまった。正義感といおうか、そんな感じの。


 オレは電車に乗っていた。学校の帰りに、二駅先の所のでかいデパートへ買い物に出ていた。新しい家具とか、家事がもっと楽になるアイテム等を探していた。しかし、買わなかった。ただの品定めだ。欲しいものがあったので、それを休日にハナと買い出しに行くかと、そう予定を決めて、そこを出て電車に再び乗ったのだった。時間帯がまずかったのか、駅内はひどく混雑していた。オレは満員電車に苛立ちを覚えながら下車する駅を待っていた。


 その時、オレはある光景を目にした。現実にこんなのがあったんだな、と感心した。


 いわゆる、痴漢だ。中学生の女の子の太ももやらおしりやらを撫でまわしていた。その女の子は目を強くつぶり、耐え忍んでいた。声も出せずに怯えていた。


 オレは「何も見ていなかった」と見て見ぬふりを決め込もうとした。別に問題ではない。それが正しいとは決して言えないが間違いとも言えない。


 オレは正面を向いて無視していた。しかし気にはなる。だからもう一度少女を見てしまった。スカートの中にまで手が入れられていた。行くところまで行っていた。痴漢は大分手練れのようだ。何が楽しいのかオレにはさっぱりだ。


 オレは少女を見てしまったのが、失敗だった。ただ正面を見ていれば良かったのだ。オレは少女と目があってしまった。少女はオレに助けを求めていた。それは必死だった。初対面の人でも目で会話が出来てしまった。「見ているなら助けて。お願い」その訴えが聞こえた。


 オレは頭を悩ました。後悔した。そんな目でオレを見るな。


 オレは気が付いたとき、痴漢の手を握りしめていた。そして、「何をしているんだ?」とそのおっさんに睨みを利かしていた。


 四十ぐらいの禿げたおっさんだった。「何なんだ君は」と動揺していた。そうすると、少女が「この人、痴漢です」と大声で叫んだ。おっさんは弁明をするのだった。みっともなく否定する。


 次の駅で降りて駅員にそのおっさんをつきだした。事務所に呼ばれ、そこから取り調べが始まった。一時間ぐらいだろう。長いこと監禁されていた。


 細かいことは聞いていなかったのでよくわからなかったが、とりあえずおっさんの未来は破滅であるのは間違いなかった。会社に連絡がいき、クビ。世間からの目線が厳しくなるし、下手したら離婚。さらには慰謝料。これは大変だ。詰みだな。


 こんな高い代償がつくのは分かっているのに、なぜ、一時の気持ちに流されて行動してしまうのだろうか。欲とは恐いものだ。


 オレは少女に礼を言われた。何度も感謝された。どうやら最近触られるようになっていたらしい。オレは少女にぜひお礼をさせてほしいといわれた。中学生の子にそんな言葉が出るとは思いもしなかった。オレは面倒くさいからいい。と断った。そして、そのまま駅を後にした。運が良く、降りようと思っていた駅だったから、再び電車に乗る手間は必要なかった。


 オレは何やってんだと自分を罵倒した。後悔先に立たずとはまさしくこれの事だった。




「ただいま」


 ようやく家に帰れた。けっこう遅くなってしまった。ハナとか怒ってそうだなと心配する。「おかえりなさい」まず返してきたのがフウカだった。基本当たり前。「おかえり!」ちゃんと喋れるようになってきたハナが次に返事をした。「おつかれさま」


「遅くなってごめんな」


「セイイチ、いつも、それ」


 ハナがオレにダイブした。オレは受け止めきれずにハナに倒された。フウカが「大丈夫ですか?」と車いすを自力で漕いで、オレの傍に来た。


 加奈ちゃんとの事から二週間が経っていた。加奈ちゃんは元気にやっているそうだ。オレ達のみの変化として、ハナがマシに喋れるようになったことと、フウカが車いすを一人で漕げるようになったという事だ。大変喜ばしい事だ。


「おなか、すいた」


「わかった。今から作るから待ってろ」


「うん!」


 会話がスムーズにできるようになって嬉しい。これで楽しみの幅も広がるものだ。


 オレは台所に立ち、夕飯づくりを始めた。


「今日はどうされたのですか?」フウカが尋ねる。


「いやなに。家具とかを見ていたら遅くなってしまった」あの事については話すつもりはなかった。


「そうですか」フウカはニヤニヤしていた。何か企んでいるような、そんなあやしい顔だった。


「オレの顔に何かついているのか?」


 オレは自分の顔に触れる。しかし何もなかった。


「いや、気づきませんか?」


 オレは何を言っているんだろうと疑問に思ったが、すぐにわかった。ある違和感があったことを今知る。


「そういえば、一つ声が多かったよな」


 聞いたことのない声が混じっていた。淡々としていてどこか冷たい、そう、ロボットのような人工的な違和感がある声。オレは何故か気にも留めずにスルーしていた。


「そうです。この子です」


 フウカは膝の上に置いていた「コトリ」を掲げた。そして、フウカが腹話術でも始めたのか、その「コトリ」から声が漏れ出したのだ。


「どーも。コトリっす」


 その人形はフランスの人形であるが、そんなからくり仕掛けの人形だとは思いもよらなかった。コトリと名乗るその人形は自力で動いていた。フウカの頭の上に腰を下ろした。フウカは困った顔を見せるのだ。


「コトリ……?」


「とりあえず、そのナマエにした。おぼえてないから」


 なんだかヤル気のない気だるい声だった。コトリはぎこちなく足を組む。


「憶えてないって、どういうことだ?」


「ここでニンギョウをやっているのかがわからない。フツウのニンゲンだったのはわかるけれども、それイガイがサッパリ」


 落胆していたのが分かる。オレは稀有な輩がまた増えたなと思っていた。


「ところで、ハンノウがウスい。もうすこしオドロくかとおもった」


「いや。内心はドキドキしているよ。ただな、周りに様々なことが起きてて、これぐらいどうってことないんだよな」


「すこしはきいてる。カニバとゾンビ。それとイッショにスむヘンジン」オレを指さした。


「変人までは言っていませんよ」フウカは慌てて弁明する。


「それはどうでもいいけどさ、なるほど。そこにさらに幽霊も加わるわけだ」オレは肩を落とした。


「ユーレイか。そうか。シんでいるのか」表情は変わらないのでどんな顔をしたかは分からないが、関心しているようだ。


「多分ね。それでこの人形に魂が乗り移った」


「ふーん。それはそれとして、あたしのウシナったキオク、あたしのセイゼンについていろいろシりたいから、キョーリョクしてくれない?」


「いいけどさ……どこまで分かるんだ」


「オントになにもおぼえていない。シいてイうなら、ソトにデたい、このキモチかな」


「……参考にさせておくよ」何だよそれ。「名前も憶えていないのな」


「うんうん。だから、シャクヨウさせてもらってる」


「とりあえず、この家でしばらく預かるよ。よろしくな。コトリ」この人形の持ち主であるユウは望んではいないにしろ、許してはくれるだろう。それでいいか。


「よろしく」


 また新たな家族が増えたのだった。それにまた人外というか、変わり者。


「コトリ、よろしく」


 ハナがコトリを持ち上げ、振り回した。


「やめろ。おろせ」


 コトリはハナのその扱いに怒る。しかし、ハナはそれを無視する。


「それにしてもどういう仕組みで喋っているのか」


「いいじゃないですか。細かい所は。私の存在自体ツッコミ箇所が多いですよ」


「何か、ゲテモノばかりが集まったな」


「ちょっと、それはひどい言い方ですね」


「すまんすまん」


 でも、殺人歴があるヤツと人肉愛好家とゾンビと人形、この家の住人は奇怪な連中だ。これをゲテモノと言わず何というのか。


「人形に魂が宿るとは、世も末だね。歳は取りたくないね」


「年寄みたいなことを言わないでくださいよ」


「隕石が降って来てももう驚かないよ」


 オレは夕飯づくりをいったん止めて、戯れているハナとコトリを眺めた。そして、その間を割るようにして、テレビをつけた。


 それに驚いたハナはテレビに目線を向けた。その隙をついたコトリがハナの手をすり抜け、小さいからだでリビングを疾走する。しかし、足のリーチが短いため、奮闘虚しく、すぐにハナに捕らえられた。


 テレビはバラエティ番組を放送していた。オレはフウカにこれを見てな、とリモコンを渡した。


 その時、突然、番組が変わった。フウカがチャンネルを変えたわけではなかった。ニュースキャスターが突然画面に現れたのだった。そして、深刻な表情で、原稿を朗読する。


『現在放送中の番組を変更してニュースをお伝えします。先ほど、日本の○×山に隕石が落下した模様です。幸いなところけが人はおらず、現在隕石の落下の影響で大規模山火事が起きている様子です。ただいまその消火に当たっています』


 緊張感がこちらに伝わって来た。オレは唖然としていた。フウカと顔を見合わせた。お互いに開いた口が塞がらなかった。


 隕石が落ちてきたところはこの地域のわりと近くだった。何もかがつかなかった。


「本当に落ちて来てしまいましたね」


「やめてくれよ」


 この日はオレに様々な出来事が降りかかって来た。そしてこれらがオレにとある影響を及ぼす事をまだ知らなかった。






 オレは学校にいた。学生なのだから当たり前だ。オレは真面目に授業を受けて、休み時間になれば誰かとどうでもいいような話をして時間を潰し、また授業を受ける。その繰り返しをしていた。


 朝の時間は昨日の隕石落下の事件で話題が持ちきりだった。オレも当然、その話をクラスメイトからされたのだ。オレは「昨夜オレが、隕石が降って来ても驚かないと言ったから天からサプライズを貰ったんだ」と冗談で言おうとしたが、馬鹿馬鹿しい事に気づき、それを飲み込んだ。


 授業をすべて終え、オレは帰る支度をしていた。そうすると、クラスメイトから「一緒に帰らないか」と誘われた。オレは「まあいいよ」と不愛想な形でそれを受けた。


 その帰宅中、クラスメイト――立石(たていし)貴志(たかし)は飽きもせずに、隕石の話題をオレに振った。


「昨日のアレは、宇宙人が飛来してきたんだよ」立石は自信満々に自分の意見を述べていた。


 立石とは中学からの知り合いだ。たまたま同じ高校へ来た。まあそれだけだ。


「あっそ」オレは素っ気なくそれを受け流す。


 あれから、新情報も増えてきたのだ。だから、妄言に聴こえるこれはあながち的外れな意見ではない。


 隕石が落下した周囲に金属らしき謎の物質が発見されたようだ。今、それの解析にあたっているようなので、詳しいことはまだ分からない。でもそこから、UFOが墜落したのではないかという一説が浮上したのだ。その説を立石が豪語しているわけだ。


 オレは宇宙人だろうが何だろうが、もう何が来ても驚かない自信がある。というと更なる悲劇が待ち受けていそうなので、断言するのは控えるが。


 それにしても、立石のいう事には興味がある。宇宙人。いわゆる地球外生命体。昔から存在するこのミステリーは今でもなお論争の種をまいている。テレビで取り上げられているあれはCGの作り物か勘違いによるものだとオレは考えていた。要するにエンターテイメントの一つなのだ。無い物をでっち上げて、それをあるかないかと探求する。各々で議論を交わしたり、アマゾンの奥地とかまで探しに行ったりなどと、未知という娯楽を与えられ、それに現を抜かすのだ。


 ただの暇つぶしにしか過ぎないのだ。オレは馬鹿馬鹿しいと思いながらも、あったらいいなというぐらいに考えている程度だ。


 しかし、オレの価値観は変えさせられたのだ。あいつらのおかげで。特にコトリの存在がまさにそうだ。少なくともオレに、幽霊――というよりかは、「魂」の有無を結論づけたのだから。オレは世界がひっくり返ったかのようなひどい衝撃を受けたのだ。


 反論はやろうと思えば出来るのだろうが、オレにとってはその必要がない。もう認識してしまったのだから。認めてしまったのだからそれをする理由がない。


 その張本人のコトリはといつと、ハナやフウカと家でお留守番をしている。コトリは「外に出たい」と謎の記憶を残していた。それはどういう意味かは分からなかった。コトリ本人もそれが何なのか理解に苦しんでいるようだった。


 昨日の夜、試しに外へ出てみた。ハナやフウカも連れて。しかし、ダメだった。何か手がかりが見つかるかもと期待していたのだが、骨折り損だったようだ。


「コトリはどうしたいんだ?」これは、昨日のオレのセリフだ。夜の道を歩いていた時に、コトリに問いかけた。コトリが迷いに迷って出した答えは「自分の正体を知りたい」だった。


 オレが勝手に想像するコトリの人物像は、病死した人、だ。


 何故かというと、コトリは「外に出たい」という記憶しかないといっていた。それはつまり死ぬ間際に抱いた強い想い、願いなのだ。そこから連想できるのは、例えば病気とかで入院生活を強いられていて、病室から外を眺めるだけしかできない状態で、そのまま息絶えた。そんな感じだろう。


 大穴で、墜落した宇宙人の魂があの人形に宿ってしまった。これも無くはないが、オレは前文で述べた推理を推奨する。外れてはいるだろうが。


 話が少し逸れてしまったので、戻すことにする。


「あっそって、お前は興味がないのか?」


「無いわけではないけどな。確かに、それだったら面白いかもな」


「柴坂はこういうオカルトは好きだっけ?」


「最近はね」


「なんならさ、ちょっと問題の山、行ってみないか?」


「さすがに閉鎖されているだろう?」


「いやいや。大丈夫だって。何とかなる」根拠はないのだろうな。


「すまんな。それは断るわ。面倒くさいや。それに、家に帰りたいしな」


「がっかりだなぁ」


 立石は肩をガックリと落とした。オレはそれを横目に、スタスタと立石の前を歩く。立石は小走りでオレの後を追った。


「それよりさ、お前、本当に変わったな」


 オレに追いつき、横に並んだとき、立石が何かを言いだした。


「変わったって?」


 オレはドキッとした。


「家に帰りたがるなんてさ」


「……そうだな」


 オレは前までは立石や他のクラスメイトと遅くまで時間を潰していた。家に帰りたくなかったからだ。オレのクラスメイトはオレが家に帰りたくないという事を知っている。ただし、理由は知らなかった。相手は遠慮して深くまでそれを尋ねない。オレも触れられたくない事だからだ。


「それにさ、明るくなったような気がするぞ」


「明るくなった?」


「そう。表情が朗らかになったっていうか……。前までは仏頂面で常に不機嫌というか、負のオーラを醸し出していたんだが、今はそんなのが全くない」


「なるほどな。確かに、気持ちは楽になったからな」


「そういえば、両親が行方不明なんだってな」


 そういう事となっている。本当はオレが殺して死んでいるのだが、死体はハナが食べてしまったので、完全犯罪だ。届出を警察に出して適当に相手をして、行方不明というのをアピールした。多分、ずっとその扱いをされるのだろうな。


「もしかして、それなのか……?」


「まあ、当然だな。一生見つからなければいいがな」オレは笑った。冗談ではなかった。


「嫌っていたもんな。こう言うのは失礼かもしれないが、良かったな」


「まったくだ」オレはまた笑うのだった。


 オレ達は少しより道をした。コンビニで買い食いやゲーセンへ寄ったりして、放課後を満喫した。


 本来ならオレは家に早く帰らなければならなかった。数週間前まではそうだった。ハナを一人家に残していた時期もあれば、フウカも加えて二人で家に残していた時期もあった。身動きが取れないフウカや自由奔放なハナを家に放置するのが不安で仕方がなかったからだ。でも、ハナはある程度教養がついてきたし、フウカも車いすだが移動できるようになった。それに加えてあの二人の話し相手のコトリがそこに増えたのだ。だからこうして時間にゆとりが出来、遊べる時間が増えたのだ。


 しかし、それでも限度がある。五時ぐらいになり、オレは立石と別れようとした。スーパーで買い物をしたかったからだ。そう言うと立石はそれに同行した。家に帰っても暇だから、という理由だ。オレは断る理由が特にないので、そうした。


 スーパーでは今晩の夕食と明日の分を買った。立石に一人暮らしにしては量が多くないか、と疑われたが、よく食べるという事でその疑念を晴らした。そうして買い物を終えたのだ。


 その帰り道、立石に荷物を少し持ってもらい、路地を歩いていた。近道をするために、狭い道を使った。

「悪いな。持ってもらって」


「運動だよ。いい筋トレだ」


「お役に立てて何よりだ」


 オレ達は雑談していた。今日の番組の話とか、漫画の話とか、そんなどうでもいいような話。そんな風に歩いていると、なにやら不穏な空気を感じ取った。


 女性が路地裏に連れ込まれたのを見たのだ。オレはそれを見ていなかった。気づいたのは立石だった。立石がこっちだ、とその方角を指さした。オレは立石についていき、その路地に顔を覗かせた。


 姿は見えなかったが、声は確かにした。女性が抵抗している感じだ。オレは物騒だな。とため息をついただけだった。


「助けに行こうぜ」


 立石が無茶なことを言いだした。


「蛮勇という言葉は知っているか?」

 オレはまたこういう感じがと嫌気がさした。


「だけど、見過ごすわけにはいかないだろ? お前はなんだかんだ言ってそういうタイプだろ」


「……はあ」


 オレは深いため息をつく。そして、仕様がなく立石に着いていった。


 着いた先には三人組の男が、二十代前半ぐらいの女性を取り囲むようにしていた。その女性は赤みがかかった髪の毛だった。くせ毛風ロングだった。背は高く、ヒールを穿いているわけではなく、男性たちと同じぐらいだった。顔のつくりからすると、外国人だろう。ラテン系の感じだ。男たちとは言葉が通じずに、なにやらもめていた。


「どうするよ? 太刀打ちできないぞ」


 オレは立石にそう言った。男性はガタイが良く、服の上からも筋肉がすごいというのが分かる。強面で、ひ弱な高校生二人が敵う相手などではなかった。


 しかし、何を血迷ったのか、立石は迷うことなくその輪に入るのだった。


「やめろよ!」


 オレは頭痛がした。それと同時に危機感が強くなった。


 オレは喧嘩などしたことがない。当然、運動もしない。だから、もう負けが見えているのだ。ハナがいれば何とかなるのにな、と思ってしまう自分が情けなくなった。


 オレも、一歩前に出て「そういうのは良くないと思いますよ」と男性たちに言い放った。


 男性たちはオレ達を見た。そしてその内の一人のスキンヘッドな頭をした奴がオレ達に近づいてきた。そして、そいつはオレの目の前に立ち尽くす。背は向こうが十センチぐらい高く、見下ろされていた。


 そいつは、オレの腹を殴った。オレは、くの字に折れ曲がった。腹部を押さえ、倒れこんだ。ゲホゲホと咽て、地面に倒れこんだ。それから何度も蹴りを入れられる。


「そこまでにしろよ」


 立石はそいつの腕を掴んだ。男は立石を睨み付けると、掴まれていない手で立石を殴りつけた。こめかみにヒットし、立石は吹っ飛んだ。追い打ちをかけるようにして、立石を踏みつけた。


「何だコイツ、気絶してやがるぜ」


 男は足で立石を転がした。立石はだらんとしていて、力なく倒れていた。


 オレは口の中が切れたのか、血を口から出していた。鉄の味が広がっていく。オレは片膝をついて、男を見上げた。男はオレ達に興味を失くしたのか、楽しみの続きに入ろうとする。


 しかし、予期せぬことが起きた。オレ達の相手をしていたスキンヘッドの男ではない他の二人の男が一斉に倒れこんだのだ。立石と同様に気絶していた。


 男は激しく狼狽した。オレは唖然としていた。


〈――――〉


 女性は何を言っているかは分からなかった。外国語なのだろう。しかし英語ではないし、とにかく聞いたことがない言語だった。それはさておいて、女性があの男たちを倒したのだろう。


 スキンヘッドの男は女性に殴りかかった。しかし、女性はスキンヘッドの顔面を殴り飛ばした。そして、スキンヘッドじゃそのまま地面に転がった。


 圧巻だった。華奢な体つきのこの女性が大の男たちを一人でやっつけたのだから。


〈―――〉


 女性はオレの元へやって来て、しゃがみ込んで、オレにハンカチを渡してくれた。相変わらず、言葉は分からなかった。


 その女性はしばらくオレの顔をジッと眺めていた。そして、オレの両肩を掴んだと思ったら、匂いを嗅いできた。オレはこの時、何故かは知らないがハナと同じ気配を感じた。


 その女性はしばらくオレの顔をジッと眺めていた。そして、オレの両肩を掴んだと思ったら、匂いを嗅いできた。オレはこの時、何故かは知らないがハナと同じ気配を感じた。


 そして今度はおもむろに自分のポケットへ手をつっこみ、何かを取り出した。それは補聴器のようなものだった。それをオレに渡すのだ。オレはそれを指先でつまみ、眺めていた。すると女性は自分の耳をトントンと触る。つけろと言っているのだろうか。オレは訝しく思いながらもそれを耳に取りつけた。


《――キコエル?》


 声がした。女性の声だ。女性の口の動きと言葉数が合っていなかったが、オレはこれが彼女の声であると確信した。オレは「はい」と言った。


《――アリガトウ。キミノユウキハスゴイ》


 少し聞き取りづらいが、分からない訳ではない。


「ど、どうも……」


 さっきまで分からなかった言葉が通じるのは果たしてどういう訳だろう。多分、この補聴器のようなものが言葉の懸け橋となっているのだろう。


《ニオイ――。イイニオイ。ソレト……ワルイ、ニオイ、モ。アタシ、コマッテイル。タスケテ》


「ど、どういうことですか?」


《アタシ、ホカノ、ホシカラキタ。ダカラ、ワカラナイ。チキュウ。オシエテ》


 オレは「はい?」と言ってしまった。この人は何を言っているのかまるで理解が出来なかった。しかししばらくしてからオレは合点がいった。でも、信じられるわけもなかった。


 オレは「わかりました」と了解した。詳しくは家に帰ってから聞こうと思った。

 オレは彼女に支えられて、立ち上がる。彼女は気絶している立石の上体を起こした。そして軽く頬を叩いた。


「あ……」


 立石は目を覚ます。ゆっくりと目を開く。


「立石、立てるか? とりあえず、もう用事は済んだから帰ろう」


「えっ……?」


 状況を把握できていない立石はキョロキョロと辺りを見渡した。オレは立石に「歩きながら説明する」と言って立石に肩を貸してあげた。


 オレは立石にこの女性が先ほどの男たちを全滅させた、と説明した。それを聞いた立石は「何だか情けない」と嘲った。


 オレは立石を家まで送る。それから彼女をオレの家に連れていくのだった






 家に帰ると三人が仲良く人生ゲームをしていた。フウカが先にゴールしていて、他の二人の勝負の行方を見届けていた。ハナが十万$の借金をしていた。コトリはいたって平凡だった。結婚して子供が二人。ぼちぼちの家も持っており、借金はない。なので、勝ちはもう決まっているようなものだった。


 三人はオレを見ると、大層驚いていた。それもそうだろう。見知らぬ女性を家に連れてきたんだ。


「そちらはどなたですか?」


 フウカがまず尋ねた。


「ルナさんだそうだ」来るときに名前を聞いた。ルナ=ロロ=ラル=ティリレイラーというのが本名らしい。


「ガイジンだな」


 コトリはルーレットを回しながら言った。特に興味はないようだ。


「ちょっと突然だけどさ、この人、これからここに住むことになったんで、よろしく」


《ヨロシク》


 ルナさんはそう言った。しかし、この言葉が通じているのはオレだけなのだろう。この補聴器がその役割を果たしているのだから、それをしていない三人はルナさんのこの言葉を理解することが出来なかった。その証拠に、三人とも首を傾げていた。


 ルナさんはさっそく三人の元に駆け寄った。そして、ハナに抱き付いた。ハナは困惑し、その抱擁を振りほどく。そして、警戒を露わにする。


《キラワレタ》


 ルナさんは肩を落とした。


「すみません。セイイチさん。ちょっと説明をお願いできないでしょうか? サッパリです」


「だろうな。じゃあ、ルナさんの事と、今からフウカ、コトリにお願いすることを言うとするよ」


「あたしも?」


 コトリが物凄く嫌そうな声を出した。人形なので、表情は変わらないが、その言葉だけで、どんな顔をするのかが簡単に想像できた。


 オレはルナさんについて説明を始めた。




 彼女は簡単に言うと宇宙人だ。つい先日この地球にやって来たそうだ。いつ来たのかは誰だって知っている。あの隕石の事件だ。あれの原因がルナさんだったのだ。


 ルナさんはこう見えても二二八歳だそうだ。ルナさんの星は地球から物凄く離れた所で、別の銀河系に存在しているらしい。マト星という小さな星らしい。ルナさんは宇宙を回るのが趣味らしく、百年以上旅行を続けているらしい。


 ルナさん曰くこの地球は田舎らしい。遠く離れた、孤立した所にこの地球があるらしい。それにここの銀河系に生態が存在しているのは地球ぐらいのもので、それは珍しいものらしい。普通は百や二百はあってもおかしくはないそうだ。


 ルナさんがそんな辺鄙な星に来たのはとある夢を叶える為だったらしい。五〇年ぐらい前から考えていた計画らしい。その為に準備を色々と施してきたのだが、不測の事態が起きた。墜落だ。操作を誤り、地面に激突してしまったのだ。その所為で荷物も宇宙船も台無しになってしまったそうだ。辛うじて残ったのはオレに渡してくれた二個の翻訳機だけらしい。服はボロボロになってしまったのでどこかから盗んできたらしい。


 ルナさんはのんびりとこの星に馴染んでいこうとしたのだが、その余裕が一気に失われてしまったのだ。そんな時、理由は分からないが、オレを見つけオレに助けを求めたのだ。


 ルナさんは自分の夢が叶うまでここで世話になるつもりだった。


 ちなみに、ルナさんの言う夢というのは、「自分のお店を開く」という事らしい。料理が好きで、色々な星の食文化に触れていくたびに、それの興味がどんどんと強くなっていったらしい。ルナさんはこの地球が最後の旅らしい。そこで田舎の地球の料理を知り、自分のレパートリーを増やしていきたい。そう考えていたそうだ。


 そして、自分の星へ帰りお店を開く。それがルナさんの夢だったのだ。


 しかし、それももう叶わぬ夢となってしまった。儚く散ってしまったのだ。今までとっておいたレシピが全て紛失し、かつ宇宙船が壊れてしまったために星へ変える事もままならない状態に変貌してしまったのだ。




「話は分かりました。大変なことになってしまわれましたね」


「どうでもいい」


 大体の話を聞き終えた後のそれぞれの一声だった。ハナは先ほどまでの警戒がとけており、今はルナさんにひざまくらをしてもらって、そこでまどろんでいた。


「それで、私たちにお願いとは何でしょうか?」


「実はな、この人、分かる通りに言葉が通じないんだ。だから、ハナの時と同じで、言葉を一から教えてやってもらえないか?」


「私たちが、ですか?」


「メンドー」


「ある程度オレも協力するからさ」


「私は別にかまいませんが……」


 コトリは何も答えずに、ルーレットをひたすらまわしていた。


「すまないが、頼むよ」


 オレは半ば押し付けるようにしてフウカたちに頼んだ。フウカはともかくとして、コトリが協力してくれるかは分からなかった。


 こうしてオレ達の家に更なる新たな家族が加わることとなったのだ。




一応、ハナがヒロインです。何故かフウカがそれっぽくなっていますが。

あと、立石は物語にあまり絡まない予定です。あくまでも予定です。


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