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花は散り急ぐ  作者: 夏冬春秋
明日に吹く風
6/48

周りと一緒に騒ぐより、一人で騒いでいた方が楽しいよね。

裏2


 私の両親は共働きだ。お父さんはクリエイター。お母さんはデザイナー。そんな二人が家にいる時間は少ない。いつも遅くに帰ってくる。わたしは眠ってしまっている事が多いので、顔を合わすのは朝ぐらいしかない。


 家にはわたししかいない。だから、学校から帰って来たとしても一人ぼっちだ。低学年の頃は児童保育にいて、お母さんが迎えに来てくれてはいた。でも、それがなくなると、わたしは一人で帰宅し、一人の時間を過ごさなければならなかった。


 なので、わたしの放課後は友達と遊ぶ時間にあてられていた。わたしは友達と公園で陽が落ちそうになるまで遊んでいた。それは孤独を忘れられる良い時間だった。しかし、その時間にも必ず終わりが来る。


 友達と別れ、友達は自分の家に帰っていく。その時、わたしは思い出すのだ。空白の時間を。


 わたしは暗くなった公園で、ブランコに乗ったり、砂場で山などをつくったりして、暇をつぶしていた。そして家から漏れる電気が目立つようになってきてから、わたしはようやく公園をでるのだ。


 家に向かって帰っていると、親といる子供を目にした。手をつないで楽しそうに話をしていた。わたしはそれをみて羨ましくもあり、妬ましくもあった。


 きっとあの子は、親に愛されているんだろうな、と。悲しさが込み上げてきた。


 わたしは両親に嫌われているんだ。わたしはそう考えた。二人ともわたしが大事じゃないんだ。わたしにとってのそれが不安の種になるのはそう不思議なことではなかった。わたしは怯えた。それが怖かったんだ。


 わたしは両親に嫌われているのではないかと思った。二人ともきっとわたしが大事じゃないんだ、と。わたしにとってのそれが不安の種になるのはそう不思議なことではなかった。わたしは怯えた。それが怖かったんだ。


 わたしはある時、家出をしたことがある。置手紙を置いて。どうせわたしがいなくなっても同じだろうと。そう思って家出した。どこかの倉庫でわたしは蹲っていた。静寂な何もかもがない空間。一人の空間。わたしは恐怖を覚えた。それがとてつもなくおぞましかった。化け物がわたしの傍らにいて、首を絞めてくるのだ。わたしはガタガタと震えていた。


 わたしが家に帰ると、両親はいなかった。当たり前だ。いるわけがない。わたしは自嘲した。


 両親が帰って来た。二人ともだ。わたしは素知らぬ顔でリビングにいた。両親がリビングに入ってくると、血相を変えてわたしに抱き付いて来たのだ。わたしは何事かと混乱した。両親はわたしの手紙を読んで探せてくれていたようだった。両親はわたしを強く抱きしめた。そして、叱られた。


 わたしは腹の中にたまっていた不安をぶちまけた。沢山泣いた。自分でも何といったか覚えてはいない。でも、それでも、気持ちは伝わったのだろう。


 わたしはこの時、両親はわたしが嫌いなんじゃない、というのを知った。わたしは嬉しかった。安堵した。わたしの心の渇きが少しだけ、潤ったようだ。




裏3



 ある日だった。


 わたしがいつも通りに公園で、一人で遊んでいると、そこに一匹の犬がわたしの傍にやって来たのだった。人に飼われていたのか、人懐っこかった。それがゴロウとの出逢いだった。


 ゴロウは首輪をしていなかった。首輪を自分で外し、逃げてしまったのだろうか。でも、仮に脱走した飼い犬だったとしても、わたしにはそんな事は関係がなかった。わたしの新しい遊び相手を見つけたのだ。その相手を失う訳にはいかなかった。


 わたしは親に説得を試みた。飼ってもいいか、という事を。最初、飼い犬ではないかと懐疑をかけられたが、何とかごまかした。というのも、わたしは両親のその疑念を晴らすために「飼い主を探しています」的なポスターを貼り、探すふりをした。わたしは見つからない事を祈っていたが、その祈りが通じたのか、いよいよ飼い主が見つからなかった

それに加えて、わたしが「一人だと寂しい」と本音を言ったら、両親は承諾してくれた。ただし、わたしがきちんと世話をすることが条件だった。よくありふれた、定番中の定番。もう、この時点でわたしの勝ちは揺るぎないものとなった。わたしは「うん」といい返事をした。


 そういう事があり、わたしはゴロウとずっと一緒にいられるようになった。エサやりや散歩、しつけだってわたしがやった。


 わたしは毎日が楽しくて仕方がなかった。草原を駆けまわるように、愉快で仕方がなかった。わたしは孤独という寂しさからようやく解放されたのだ。


 それから毎日わたしはゴロウと関係をより深くしていった。


 わたしは思う。きっとゴロウも一人だったのだろう。だから、逃げ出したのだろう。


 鎖に縛られ、たった数メートルしか動けない窮屈な自分の世界に嫌気がさしたのだろう。


 でもそれは、わたしが何とかしてみせる。そう決めた。わたしがゴロウの世界を作ってみせる広壮な世界にしてみせる。そして、ゴロウもわたしの世界をより素晴らしきものにしてくれる。


 わたしの傍にはいつもゴロウがいた。ゴロウの傍にもわたしがいた。


 わたしの中のゴロウはいつしか特別になっていった。何といおうか、両親に対して感じる気持ちと同じものもあれば、別の気持ちもある。とにかく色々な気持ちが混ざっているのだ。多分、ゴロウはわたしの中では大切な――家族というものになったのだろうな。


 何だろう。渇きが癒された、そんな感じだった。




表1



「オレはハナと調査しに行くから、留守番をよろしく頼む」


「たのむ!」


 昼食後にセイイチさんとハナちゃんは加奈ちゃんの両親を捜索しに出かけていきました。私と加奈ちゃんはお留守番を任されました。


 加奈ちゃんはそれに参加すると駄々をこねましたが、それをセイイチさんはとめました。唯一の目撃者である加奈ちゃんは捜査には重要であると私は考えますが、しかし加奈ちゃんをこの事件に深入りさせるのは得策ではありません。セイイチさんなりの配慮なのでしょう。


 加奈ちゃんは襲ってきた人たちに復讐をしたいといっていますが、それをさせてはいけませんから。それと、ハナちゃんの正体も知られるべきではありません。


「……ふうか」


 加奈ちゃんが私にお話しかけてきました。私は首だけを加奈ちゃんの方へ向けました。


「どうしたの?」


 加奈ちゃんは私の傍に近寄ってきます。そして私の車いすを押して、テーブルに私を移動させました。加奈ちゃんは椅子に座り、頬杖をつくのでした。不満を顔に書いていました。


「納得いかないの?」


 ゴロウが、加奈ちゃんの横をウロウロします。加奈ちゃんはゴロウの体を撫でると、ゴロウはその場で伏せをしました。尻尾は元気よく左右に動き続けています。


「うん。わたしは、あいつらを許せない」


 加奈ちゃんはドン! とテーブルを叩きました。ゴロウは勢いよく立ち上がり「ワン!」と吠えました。


「だめだよ。ゴロウが怯えているよ?」


「……ごめん」


「セイイチさんも考えがあって、加奈ちゃんをここに残したんだよ? 加奈ちゃんにもしものことがあれば、私も辛いし」


「そんなの、関係ない。家族が襲われて、冷静でいられるわけがないよ」


「よっぽど大事なんだね」


「それってどういう事ですか?」


「家族をそこまで心配するって事は、それぐらい好きだ、ということでしょ?」そうでなければ、このような言葉は使いません。


「……そう、だけど」加奈ちゃんは少しだけ顔を赤くし、そっぽを向きました。素直で可愛らしいです。「でも、それって、当たり前……でしょ?」照れた顔でそう言いました。


 私は言葉を考えてしまいました。それが無言に繋がってしまいました。加奈ちゃんはその私を怪訝そうに見ました。私は加奈ちゃんに、自分自身が言った言葉に間違いがあったのではないか、と考え込ませてしまいました。


「ごめんね。黙り込んじゃって」私は不安がらせないように笑顔を見せた。「それが当然だよ。加奈ちゃんは正しいよ」そうフォローをしました。


「本当に?」


「うん」私はちょっと失敗したかな、と苦笑いしてしまいました。


 私が黙ってしまったのは、加奈ちゃんが言った事と真逆の考えだったからです。いえ。語弊がありますね。私の心情のそれ(・・)が加奈ちゃんのそれ(・・)とは異なっていた、という事なのです。


 私は両親が嫌いでした。だから、その両親を好きだと心の底から言い張れる加奈ちゃんが羨ましくあります。私は加奈ちゃんのご両親に対する愛情を感じ、心がチクリと痛みました。


「でもわたし、ゴロウは無事で、一緒にいてくれて、よかった」加奈ちゃんは偽りのない優しい表情で、ゴロウを撫でるのでした。「ゴロウも、大切な家族だから」


「そうか。ゴロウが頑張って加奈ちゃんを守ったもんね」


「だから、ゴロウがいなければ、わたしもどうなっちゃってたんだろう。少し、身震いする」


「感謝、しないとね」


「うん。だから、落ち着いたら、いっぱい恩返しするんだ」


 加奈ちゃんは子供らしく笑った。


「ふうかは、家族は、どうなの?」


「好きだよ」


「ううん。あの、本当の家族の方」


 私はドキッとしました。私の心の中を読まれてしまった事に驚いてしまいました。


「そっちは……フフフ」


 私は答えたくありませんでした。だから、笑ってごまかすという安直な回避をしました。


「ちゃんと答えてよ」


 でもちょっと、厳しいようです。


「どうして、私たちが本当の家族ではないのが分かったの?」


 私は、苦肉の策に出ました。話のすり替えです。質問をし、話の腰を折るという手法です。通じるかどうかは相手次第です。


 それにしても、よく、見抜けたと思います。確かに、顔など似てはいませんから。


「だって、敬語じゃん」


 どうやら、成功したようです。一時的なものでしょうが、時間は稼げます。


「それだけで……。まあ、何というか……敬語を使うと、可愛らしさが上がる、そう考えていて、ついつい使っちゃうの」


「ふーん。お嬢様、みたいな感じ? 上品というか、そんなの」


「どちらかといえば、そんな感じなのかな?」私のイメージではお嬢様というよりはその召使い、といった方がしっくりくるような気がしますが、そういう事にしておきました。「加奈ちゃんは使わない?」


「わたしはいい。面倒くさいから」


「加奈ちゃんぐらいだと、それが一番いいよ」


 私は軽く頷いた。


「そのふうかが手に持っている、お人形も、もし喋れたら、ふうかみたいに敬語を使うの?」


 加奈ちゃんは私の膝に泰然として腰を落ち着かせているコトリちゃんを指さしました。


「コトリちゃんは「ですわ」みたいな口調かな」


「あ、何かそっちの方がお嬢様みたい。そういえば何で「コトリ」て名前にしたの?」


「この子は、セイイチさんがある女の子から預かったお人形だから、理由は分からないの」


「ふーん。でも、その子も、この人形に合った名前を付けた方が良かったよね。ゴロウみたいに」


「ゴロウは加奈ちゃんがつけたの?」


「似合ってるでしょ?」


「うん。似合っていると思うよ」


「このお人形は、「コトリ」じゃなくて、「セレスティーナ」とか「アンジョリーナ」みたいな。そんな名前が似合うと思うんだけどな」


 加奈ちゃんは腕を組んだ。


「でも、その子も、何かしらの想いを込めて、その名前にしたんだと思うよ。名前は、その人の願いを詰め込んでつけるものだと思うから」


「何だか小難しい。わたしは、ゴロウはゴロウだと思ったからゴロウにしたんだ」


「加奈ちゃんがそれでいいと思ったのなら、それでいいんだよ。ゴロウも、その名前で喜んでいるよ」


「ゴロウ、本当?」


「わん!」


 ゴロウは答えました。多分、肯定したのでしょう。


「何だか、嬉しいな」


 加奈ちゃんは歯を見せて陽気に笑いました。私もそれにつられて笑ってしまいました。


 私たちはそれからいろいろお話をしました。そして楽しい時間はあっさりと流れていきました。




表2



「ただいま」


「いま!」


 六時を少し過ぎた頃でした。セイイチさんとハナちゃんが帰って来ました。玄関の鍵が開く音がした時、それが分かりました。しばらく待つと、廊下から私たちがいるリビングに、セイイチさん達が姿を見せました。


「おかえりなさい」私はそう返しました。


 私と加奈ちゃんはトランプをして二人の帰りを待っていました。ちなみに、十枚の大富豪です。パスをすると一枚引くという特殊ルールの大富豪で名勝負を繰り広げていました。私はカードを引いたり置いたりすることが何とかできていたので、大した支障もなく遊ぶ事が出来ました。


「遅い」


 負けていた加奈ちゃんはカードを放り投げて試合放棄してしまいました。そして、セイイチさんに矛先を向けるのでした。


「すまない。中々手がかりが見つからなかったものでな」


 セイイチさんはビニル袋をハナちゃんに渡すと、ソファーに座りこみました。


「はい!」


 ハナちゃんはそれを台所へ持っていきました。そして、その袋の中から何かを探していました。見つけたのか、クルリと一回転しました。


「これ!」


 ハナちゃんは加奈ちゃんにチョコレートを渡しました。


「わたしにくれるの?」


「うん!」


「……ありがと」


 加奈ちゃんは素直にそれを受けとりました。そして、ハナちゃんはもう一つ、加奈ちゃんにプレゼントを渡しました。それはゴロウのエサでした。加奈ちゃんは自分がプレゼントを貰った時より、喜んでいました。それをすぐに受け取り、ゴロウに見せました。ゴロウは尻尾を振って大層喜んでいました。


「遅くなったお詫びのつもりだ」


 セイイチさんはテレビをつけて、くつろいでいました。


「ど、どうも……」


 私はくすりと笑ってしまいました。


「セイイチさん、結果はどうだったのでしょうか?」


「さっき言った通りに、さっぱりだ」


「そうですか」


「早く見つけた方がいいんだが、どうもな……」


「だから、わたしもついていった方が良かったじゃん」


「まあ、それは……おいておこう。とりあえず、ご飯にしよう」


 セイイチさんは立ち上がり背伸びをしました。そして、台所へ行き、準備を始めました。


 加奈ちゃんは仏頂面で頬杖をつくのでした。





「フウカ、少し話したいことがあるんだがいいか?」


 夕食が終わってから時間が経ちました。八時ぐらいでしょう。加奈ちゃんがお風呂に入っているときでした。セイイチさんが、相談を持ち掛けてきました。


「どうかしましたか?」


「実はな、手掛かりは見つけたんだ」


「そうだったんですか」


「ハナの嗅覚と、聞き込みを駆使して、場所は何となく目星がついたんだ」


「それなら……もしかして、今からそこへ向かうのですか?」


「そのつもりなんだが……」


 セイイチさんは目をそらしました。何か言いづらそうでした。気がかりがあるのでしょう。


「もしかして、加奈ちゃんの事を気にしていらっしゃるのですか」


「まあ……そうだな。フウカは、どう思う?」


「どう思うとは?」


「あれだ。あの子を連れていくべきか否か、をだ」


「そういう話ですか。私は……反対、ですね」


「理由は?」


「加奈ちゃんはまだ子供ですよ。……とは言っても、三つしか違いはありませんが。仮に加奈ちゃんを連れていきます。もしそこにご両親の遺体があったとしたのであれば、加奈ちゃんの精神が病んでしまいます。加奈ちゃんは何よりも家族を大事にしていらっしゃるのですから」


「……」


 セイイチさんは恐い顔をしました。私は思わず体が縮こんでしまいました。


「気に障りましたか?」


「あ、いやすまん。オレには理解が出来ない事だったからな。まあ、加奈ちゃんが普通なんだろうけどな」


 セイイチさんは苦笑いをしました。そして、天井を見上げました。セイイチさんの心境が私には少し理解できました。私もセイイチさんも、肉親に愛情などありもしないのですから。私たちにとって彼らは、私たちに「生きる」という楽しさを奪った張本人でもありますから。


「加奈ちゃんは私やセイイチさんとは、違うのですから。私は加奈ちゃんには私たちとは同じになってほしくはありません。そう思います」


 私はハッキリと言い張りました。


「…………」セイイチさんは眉間のしわを掴み、目を強くつむりました。そのままで「オレは加奈ちゃんが前に言っていたことが気がかりだ」と言いました。


「もしかして、復讐をしたい、ということですか?」


「そうだ。オレは、なるべく加奈ちゃんの意思を尊重してあげたいと考えている」


「私の意見は、変わりませんよ。セイイチさんがこっそり解決させるのが得策だと私は考えます」


「そうか……」セイイチさんは熟考します。頭を抱えて悩みに悩みます。


「あ、少し間違えました。一番得策なのは、警察にお任せする、ですよ」


 セイイチさんはすこしだけ笑いました。「そうだったな。すっかり忘れていたよ」頬を緩ませながら頭を掻きました。表情が柔らかくなり、私も少し一安心しました。


「とりあえず、フウカの意見は参考までにしておくよ」


 あくまでも、参考程度だそうです。私は念を押すように「加奈ちゃんは私たちと同じ道を歩むべきではありません。これは何度でも言いますよ」とセイイチさんに言いました。セイイチさんは「わかっているさ」とだけしかおっしゃいませんでした。私は胸が不安に押しつぶされてしまいそうでした。


「ありがとな。相談に乗ってくれて」


 セイイチさんは私の頭を撫でました。しかし、あまり嬉しくはありませんでした。


「お役に立ててなによりです」私は笑います。


 私はたとえどのような結果になっても、それに素直に従うだけですが、私は良い方向に流れてくれるよう期待しています。




「それじゃあ、また、出かけてくるよ」


 夕飯を召し上がってから一時間ぐらいが経った頃でしょうか、セイイチさんはハナちゃんとまたお出かけをなさるのです。


 セイイチさんは、今から加奈ちゃんを襲った犯人と思わしき人たちに襲撃を決行しに向かうのです。私は危ない真似をしてほしくはありませんが、仕方のない事なので、ここは閉口するしかありません。無事に帰って来てくださればそれだけで良いのです。


「わたしもいい?」


「ダメだ」


 加奈ちゃんの要求をあっさりと却下してしまいました。加奈ちゃんは呆れた顔で深いため息をつくのでした。


「気を付けて行ってきてくださいね」


「分かってる。ハナが何とかしてくれるさ」


 セイイチさんはハナちゃんの頭にポンと手をのせました。ハナちゃんはにっこりと笑い

ました。


 セイイチさん達は出かけていきました。私たちはまた、この家に残されてしまいました。


「加奈ちゃん、テレビでも見てようか」


「……うん」


 加奈ちゃんはしょんぼりと肩を落としていました。そして、静かにソファーへ座りました。


「また、退屈だ」


 加奈ちゃんはソファーの上でバタ足をします。ソファーが揺れます。


「今日は、映画の日だから、それで時間をつぶそうね」


「はいはい」


 私は番組表を見て、それにチャンネルを合わせていました。そうしていると、加奈ちゃんが、お手洗いに立ちました。私はリモコンを膝元に置いて、コトリちゃんの髪の毛を撫でていました。


 ガチャリと鍵が開く音がしました。それから、玄関の扉が開く音も聞こえてきました。私はセイイチさんが忘れ物をして戻って来たのだろうと思いました。でも、それは大きな勘違いでした。


 私はいつまで経ってもここの部屋のドアが開かない事に疑問を持ちました。首をひねり、訝しくそれを捉えました。そして私はハッとします。ようやく事を理解しました。


 玄関を開けたのは紛れもなく、加奈ちゃんなのです。鍵穴に鍵を通す時に、その音が聴こえるはずです。しかし、今回はその音がありませんでした。つまり、中から鍵を開けたのです。そしてそれが出来る人物は、加奈ちゃんぐらいしかいやしません。


 私はうなだれました。身動きの取れない私は加奈ちゃんを追いかける術がありません。その自分の無能さに、嫌気がさしました。


 加奈ちゃんはセイイチさんたちを追って、犯人グループの巣へ向かったのです。


フウカの腕と脚が繋がったせいでフウカのアイデンティティが失われてしまい、大変残念ですよね。

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