ツキハのお話 冬
はい、終わり。
どうして……こんなことに……?
私は家の中を駆け回る。
必死に逃げ惑う。
「にげるな! どこに隠れやがった!」
奴の声が私の耳を刺激する。
いったい……どうすればいい?
久子を救い、自分も助かる方法は?
私は台所へ向かい、久子を抱く。
「大丈夫だヨ……久子」
この声は………届いていないだろうが……。
私はか弱い力で久子を連れていく。引きずる形になるが、この際、仕方ない。
安全な所へ逃げようとするが、奴にそれを見つかる。
私はそこら辺にあるものを投げつける。
ひるんだところをついて、逃げる。
ダメだ……。私一人では、久子もつれて逃げ出せない。
「ハッ………!」
私はピンと閃く。電話だ!
ここの家にもあった。
私は必死に電話番号を思い出す。
とにかう、人でさえいれば……。
私はセーイチローに電話を掛けた。
プルル……プルル……。
早く、早く!
この時間は気の遠くなるようなものだった。
――つながった!
「もし」声を遮り、私は急いで要件を言う。
「助けテ! 今、あの子の家! ……えっと……」
私はもっと情報を言おうとするが、包丁が飛んできた。
「キャッ!」
私は紙一重でそれをよける。
電話が床に転げ落ちる。
「テメッ! どこに電話した!」
私は包丁を手にする。そして、刃先を奴に向ける。
にらみ合いがしばらく続く。
「どうしテ? こんなことを?」
「それは、こっちのセリフだ。何故俺から久子を奪った!?」
「奪っただなんて……わたしは、ただ、久子と仲良くしていただけで……」
「それをなぜかと聞いたんだ! あいつは俺だけのモノ! 俺だけの愛する「娘」だ!」
「久子は、久子だよ! 誰のモノでも、ない!」
「うるさい!」
ハンマーを振り下ろしてきた。
私はその攻撃をよける。床がへこむ。
薙ぎ払う。壁がへこむ。
「お前さえいなければ……すべて……幸せだったんだよ!」
「あんただけが幸せで、それでいいの!?」
「はあ?」
「わたしは、久子がうらやましかった。あんな幸せそうな顔をできることが、うらやましかった。そしてその顔が好きだった。それなのに、もう。そんな顔は見られない。あんたに、つぶされた。久子は、見ることも、しゃべることも聞くこともできない。あるのは苦を感じることだけ。それであんたはよかったの?自分の幸せだけがあれば他はどうでもよかったの!?」
「うるさい!」
奴はハンマーを振る。私はよけるが、そのすきをつかれ、体当たりされる。私は倒れこむ。それで包丁を落としてしまった。
私は必死にそれを取ろうと手を伸ばすが、馬乗りにされ、阻止される。
奴は私の顔をなぐりつける。何度も。
痛くて、涙が出た。
だけど、この程度で、私はひるまない。
必死にもがく。逃れようとあがく。一発逆転のための、包丁を手に取ろうとする。そのために手を伸ばす。
「お前はこれが欲しいのか?」
奴が包丁を手にする。
「なら、くれてやるよ」
わたしに刃先を振り下ろす。
私は左腕でガードする。
ぐしゃっと突き刺さる。
刃は腕を貫く私の目前で止まる。
グググ……と刃はどんどんとわたしにちかづいてくる。わたしはあしを蹴り上げる。
金的。
奴はひるんだ。両足で奴を蹴り飛ばす。
私は即座に立ち上がり、腕に深く食い込んだ包丁を引き抜いた。血がブシャーと飛散する。私は自分の地でまみれた包丁を再び奴に向ける。
ただ、向けるだけで、精一杯だった。奴は、まだ痛みにもがいていたが、わたしから視線を外さずに機を狙っていた。
互いに硬直する。
先にどちらが動くか。おそらく、先に動いた方が――負ける。
その時――。
「警察だ!」
そういって第三者が乱入してきた。
あいつは、警察にとらえられた。
「大丈夫か? ツキハ」
セーイチローだ。
私はうんと頷く。
わたしはハッとなり、久子の元へ向かう。
「久子……! 久子……!」
ぐったりとする久子を抱き上げ、わたしは泣き崩れた。
――幸せを得られない生は苦痛でしかない
――何もできないダルマは、叩きつぶされて壊される方が幸せなんだよ
果たして、久子はわたしがきてよかったのだろうか。わたしがきたことによって、こんな目にあった。彼女は、幸せだったのか。
「久子は、このままなんですか?」
久子は誘拐された子だった。あいつは、誘拐犯で、久子をさらって、四肢を切断し、記憶喪失になったことを利用して、父親のふりをして、親子のふりをしていたのだった。
本当の父親と母親は窓越しに久しく見た我が子に絶望していた。
彼女は、幸せだったのか?
疑問が沸き上がる。
あのまま飼われ、生きているようで死んでいる生を続けていた方が、よかったの……?
久子は、他人の勝手の――象徴だ。
わたしは……わたしは……――!
こんな感じになりました。
ここで、男の供述に戻ってみてください。
鬼畜ゆうとんのは、事情聴取してるモブ警官です。はい。
どうでもいいけど、四肢切断好きだね。
ちなみに、男は、妻に裏切られ、失墜の末に山へ行ったら、死ぬ勇気がなく、フラッと登山道で歩いてたら、久子、に声を掛けられ、元気をもらいます。それで、その子にホの字になりました。それでものすごい執念で久子を探し出し、誘拐します。誘拐して監禁しますが、「嫌い嫌い大っ嫌い」的な暴言を吐かれ、暴れだされ、それに逆切れして、四肢切断します。それで、死んだかな、と思ったので処理をしようとしたら、実は生きてて、さらには記憶喪失になってたのでこれはチャンスだと思い、本当の家族だと、刷り込み、現状に至る、という感じです。
なんだかなぁ。
かわいそうにね。




