久子のお話
「私」という存在はいったい何のためにあるのか――
わたしは自分の記憶が曖昧だ。ただ、気が付いた時に私という存在があった、それだけ。
ふと気が付くと天井を眺めていた。そこは、初めて見るものだった。そのはずなのに、知っていた。
――ここは? わたしは?
そう言った時に近くにいた人が答えてくれた。
わたしの名前は久子で、その人は私の父だと。
私は、腕もなければ足もない。そうなった――と。
私は考えなかった。考えずに自分という存在を認識した。それから私の世界が始まった。
一人だけでは何もない。常に「パパ」の手助けが必要で二人だけの家の中を世界として生活した。
私は庭を眺めるのが好きだった。
そこには変化があったから。鳥がやってきたり、植物の成長を眺めたり。
自分が動いていなくとも、私以外の世界は常に動き続けていた。その変化が、何よりも楽しかった。
パパのお話も……好き。
パパは私に色々なお話をしてくれた。絵本ではあるがそこには、夢があった。他にも、パパのお仕事のお話とかも好き。この家から離れたお外のお話がうらやましく、好きだった。
私がそんな生活に馴染み、外を眺め続けていた頃に、ある大きな変化が起きた。
月羽という女の子がやってきた。
見たことない可愛い異人さん。
私たちはすぐに打ち解けた。
私にとっての他人はパパだけだったから。他の、人が来てくれたことに私は嬉しかった。
月羽と会う時間はかけがえのないものだった。
私はパパに久子のお話をしまくった。パパはいつも私の話を楽しそうに聞いてくれるのだが、ちょっと違和感を感じた。しかし、私はそれを気にも留めずに。夢中になって話した。我を忘れてしまうぐらいに。
それぐらいに月羽の存在は大きかった。
月羽と会って五日目の時。
私は月羽につれられて外へ出た。
初めての曽田はすごい発見の数々で、楽しかった。最初は怖かったのに。そんな恐怖はすぐに吹き飛んだ。
私の心は幸せで詰まっていた。でもその幸せは漏れてしまった。
家に帰ったとき。パパがものすごい剣幕で詰め寄った。
そして、月羽をたたき、外へ追い出した。
私は初めて見るパパに畏怖を憶えた。
パパは月羽のことをけなした二度と会うなといった。
私は「嫌だ」と初めてパパには向かった。
こればかりは、譲れなかった。どうしても。何に変えても。
――パシン。
頬がジンジンする。経験のない痛みにひるんだ。
パパは私の髪を引っ張り、台所へ引きずる。
パパは月羽をかばったことに激怒していた。
私は月羽を貶めたことに気分を悪くし、パパに言葉を発した。
パパはまた私をたたく。
そして、今までに聞いたことのない暴言を吐き、そして叩く。
何度も、何度も殴られる。叩かれる。私はこんなショックは初めてだ。
……初めて?
私の脳裏にある記憶がフラッシュバックする。
前にも……。似たような……ことが……?
その時の、私は……? 手が、あって……? 顔をかばって……?
私はこの体験をしたことがある――?
前にも――パパに…………叩かれ……いや?
「パパ……? いや……? お前は、パパじゃない?」
「なんだと!」
拳が飛んできた。
私は思い出した。
そう――
「あんたが……私をこんな姿に……」
私は呼吸が乱れる。
そうだ。こいつは、私を誘拐し、こんな姿にし、監禁していた。
私は、歯を食いしばって、言う。精一杯の抵抗として。
「お前は、大っ嫌いだ!」
喉元を殴られた。
声が出なくなった。
――俺を傷つける声は……いらない。
私は敵意を込めた目をこいつにむける。
そしたら、目をつぶされた。
――俺に慈悲を向けぬ目など、いらない。
私は逃げ惑うが、ただの芋虫みたいにくねくねと動くだけ。
――俺の言うことを聞けぬ耳も……いらない!
何かとがったようなもので耳の奥を刺された。
――……たすけて………………――つきは――………………――
ホントは、前話を秋の時期にやりたかった。
下書きは終わってたけど、書けなかった。
自分は基本的に一回手書きで書いて、打ち込むという感じ。めんどくさい場合は、直接やりますが。
まあ、なるほど。




