ツキハのお話 秋
ものすごくお久しぶりです。とにかく、年内には、ツキハのお話だけは……
私は久子を連れ出した。
楽しかった。普段とは違う状況で違う場所で、久子と遊ぶのは。あの家から離れて。わたしは公園とか、久子を連れていける程度の範囲内で遊んだが、普段見ている景色ががらりと変わった。特別のような気がした。私がいつも見ている景色が綺麗に輝いて見えるのだから、初めて見る景色ばかりの久子にとっては、それはなんとも形容しがたいものが目に移って見えているのかもしれない。
久子は笑顔だった。普段よりも数段笑っていた。こんな顔は初めて見た。
わたしは久子が見たことのない世界を見せて、喜んでくれて、嬉しかった。
意味のあるものだったと、実感した。
あー、連れ出してよかった。満足に浸っていた。
「ふざけるな」
パシンと叩かれた。
二人で家に帰った後だった。
ものすごい形相の久子の父親が帰ってきたわたしを迷うことなく叩いた。
久子は帰る前。この話を父親にしよう、そう嬉しそうに話していた。だが、言葉に詰まって、じっとおびえていた。
「……」
ジンジンと痛む頬をそっと抑えた。わたしは、唖然としていた。
「パパ……! どうして叩いたの!?」
久子が震える声を必死に張り上げた。
「うるさい! だまれ!」
久子は目を見開いて驚いた。
初めて、言われたのだろう。そのショックは大きいものだったようで、次第に大粒の涙となって表れ始める。
久子の父親は顔を真っ赤にしている。そして、私の胸ぐらをつかむ。
「なんで勝手に連れ出した! 人の娘を! 勝手に外へ連れ出すなんて何を考えているんだ!」
声を荒げる久子の父親にわたしは反発した。
「どうしテ? わたしは外を見ない久子の為を思って、ヤッタ。それがどうしてダメなの?」
「会ってたった数日しかないお前に久子の気持ちなんかわかるか!!!!!」
「ワカル! わかるヨ! 久子は庭を見ていた。だけど、庭じゃなくて、その奥の塀の向こう側! 外を眺めていたんだ。外へ漏れていた久子の歌声は、まるで、彼女の想いそのもののようデ……」
「この……!」
久子の父親は、私の襟をつかみ、引っ張る。そして、玄関まで引っ張られ、投げられた。
「もう二度とここへは来るな!」
ぴしゃりと閉められる。 玄関の外へ放り出されたわたしは立ち上がり、にらみつける。
ただ、それだけしかできなかった。
わたしは高ぶる感情を抑えることができなかった。だけど、その感情をどこにぶつければいいのかがわからなかった。
わたしは怒りの足取りで家を去った。
歩いているうちに、感情が整理され始めた。
わたしがしたことは正しかったのか、そういう反省もできるようになった。
しかし、わたしは思う。久子は、あそこにいたままではかわいそうだ。と。
でも、久子はあの父親が好きなんだ。久子にとって欠かせない唯一無二の存在。かけがえのないもの。大切なもの。
わたしの胸がずきりと痛む。暗い眼窩がうずく。
わたしでは……。
わたしは振り返る。
わたしは、この際だから父親に言わなければと思った。
わたしはそれが久子の為だと信じて疑わない。
久子の家に戻った。
せめて、一言。そして久子を……。
わたしは庭に入る。最初に久子と会った時と同じように。今度の場合はばれないように静かに、だが。
物音を立てずに、あいつに気付かれぬように。久子に会おうとする。
わたしは恐る恐る家の奥へ進んでいく。
「?」
なにかおかしな物音がした。
台所の方だ。わたしは歩みを進める。
すると、そこには、信じられない光景があり、私の目に飛び込んできた。
「ひ……、ひさ……こ……?」
そう。それは久子だった。で、あったのだ。
「久子!」
私は飛びつき、その小さくなった体を抱きかかえる。
「……ぅ……ぁ……」
必死に何かを伝えようとする。
声にならない言葉が嗚咽となって漏れる。
どうして……?
久子は喉をつぶされたのか、言葉を発せないでいた。
耳から、血があふれ出ている。私の声はとどいていないのか。
そして……空洞となった瞳から、わたしはもはや映っていない。
「どうしてって?」
わたしはバッと振り返った。
そこには狂気の瞳をやどした久子の父親が立っていた。
ボロンと、目玉が手元から落ち、床に転がる。
机に置いてあったキリを手に取りそのとがった先をわたしに向けた。
「お前のせいだよ……。何もかも……お前の……!」
雄たけびを上げ、わたしに襲い掛かってきた。
ホント、時間がないというか、あれです。やる気があれです。
でもなんか、あれなんでがんばっていきたいです。とにもかくにも、この章だけでも平成が変わる前に、なんとか終わらせたらなと思います。
ホント、書かなくてすみません。




