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花は散り急ぐ  作者: 夏冬春秋
花は枯れることを知った郎女は何を思うか
37/48

ツキハのお話 夏

ずいぶんと期間が開いて申し訳ありません。

「ねえ。月羽、楽しいお話を聞かせて」

 わたしはいつものように久子の家にいた。初めて会ってから3日ぐらいが過ぎた。もう、毎日のように会っている。

 久子はわたしのお話を聞くのが楽しみだそうだ。

 久子はずっと庭を見ることや父親と会話をするぐらいしかないぐらいだから、いい刺激になっていいらしい。

 わたしは面白い話など持っていない。しかし、わたしの「家族」のお話が彼女にとって「面白い話」だそうだ。だから、わたしは故郷の話をする。

「うーん」

 さて。今日はどの話にしようかな・

 わたしがぱっと思い浮かんだ話は「姉」だった。今は旅に出て行ってしまい、行方は知らないが、数多くの兄妹の中で一番親しくしていた「姉」だ。

 今日はそんなお話をしよう。

「えっと」

 私は話し始めた。

 

 わたしはほかの兄妹とうまくなじめていなかった。何故かっていうと、私は拾われた子だったからだ。私の本当の親は私を置いてどこかへ消えていってしまった。

 独り身になったわたしはどこのだれか知らない人のところへ行かされた。

 幼いながらも自分の身に迫る危険は察ししていたつもりだ。

 子売りで、奴隷にされるのも覚悟の上だった。

 しかし。拍子抜けだった。いや、うれしいことではあるけれども。

 わたしは環境は違えど、何不自由のない生活を送ることができた。広い家、来たことのない高い服。とても素晴らしくおいしい食事。新しくできた親という存在はとても優しく、素晴らしいものに見えた。

 新しくできた兄弟は一人娘だった私にとって新鮮なものだった。だから、勝手がわからなかった。

 新しい兄弟が入ってくるのは珍しいことではないようだ。だから。彼らは気にしていない様子だったが、あらかじめできているコミュニティの輪の中に入ることの難しさや否や。

 私は不安と緊張でおびえて、うまくなじめなかった。

 しかし、そんなわたしはある人と仲良くなる。

 その人は最近入ってきたらしい。とはいっても、ある程度の年月は経っているが。

 気が合ったのか、本当にすぐに仲良くなった。

 わたしはその人を本当の姉のように慕うようになった。

 姉はきれいで、博識で、料理がとても上手だった。

 姉と打ち解けることができるようになってから、わたしはほかの兄妹たちと仲良くできるようになった。それからは本当に楽しくて、世界が変わったようだった。仲良くなったきっかけがあるのだけど。姉はよく空を、特に星空を眺めるのが好きなようだった。

 ある日姉は私を彼女の秘密の場所へ連れて行ってくれた。他の誰にも教えていないところらしい。わたしはその特別な感じがうれしくってしょうがなかった。

 姉はそこで私に空に満面に輝く星空を見せてくれた。

 建物や、他の誰もいない、自然にあふれ、ありのままの世界を見れた気がした。互いの呼吸音が聞こえるほどに静かで、私たちだけの世界。こんなにも広くあるのに、全てをわたしたちが独占しているような気がした。

 その時に姉が言った言葉を今でも覚えている。

――あなたはずっとうつむいてずっとしたばかりを見ていた。でもたまにはこうして空を見上げてみなさい。世界の広さをキッと知れるから。それはうつむいていては知りえないこと。

 私はなんだか頑張れるような気がした。


「へえ素敵なお姉さんね」

「デショ?」

 わたしはにっこりと笑う。

「わたしは、私の世界はここまでしかないけれど」

 久子はうつむく。私はハッとした

「ゴメン」

「ううん。謝らなくていいよ。変なこと言っちゃったね」

 笑う。

「でもここに居てもいいことはあったよ。だって月羽が来てくれたんだもん。そして、外のお話をしてくれて。まるで私も外を体験したような感じがしてとても楽しいの」

「そう……」

 わたしは立ち上がる

「ねえ。ちょっとそとへ出て、みなイ?」

「えっ……それは……」

 困った顔をする。

「でも、パパが怒るし。それに、約束もあるじゃない?」

「大丈夫だって。私からも言うから」

「どうしよう」

 久子はおどおどとしていた。

「ダメに決まっている」

 いったのは久子の父親だった。

「いじわるで言うんじゃないぞ。久子のためを思って言っているんだ。この子が外に出てみろ、周囲の奇異の目に耐えられない」

「そんな、わからないデショ?」

「お前には何を言っても納得しないだろうから、最後に一度だけ言う。ダメだ」

 わたしはにらみつける。向こうもにらみ返す。

「やめて!」

 久子が声を荒げた。

「ごめんね。月羽。私は、外に出なくていいよ。ここで、こうしていることでも、十分楽しいから」

「……」

 わたしは唇を尖らせて、こくんと頷いた。


 翌日。

 わたしはいつものように久子に会いに来た。

「あれ? 父親は?」

「ちょっと出かけているみたい」

 わたしはピンと閃く。

「ねえ。出かけてみない?」

 久子は驚く。そして、「ダメだよ」という、

「久子は、本当はどうなの? 父親がどうとかじゃなく、久子は外へ出てみたいの?」

「……」

 久子はうん、という。

 わたしは「行こう」と久子を連れだす。 

 わたしは、この時の選択を後悔することになる。


この章が終わるのは、あと、16話ぐらい。

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