ツキハのお話 春
期間があきました。
まだ、ツキハの話は続きます。
ツキハを漢字で書くと、月羽です。そういう感じ。
ハナは花
フウカは風香
コトリは小鳥
まあ、だからなんだという話。
1
あたしはある事情でこの星にやって来た。色々とあったけど、これで最後だ、と思えば気は楽になる。早く、故郷の星へ戻り、会いたいな。
「調子はいいみたいですね」
フウカが、あたしに話しかけてきた。あたしは「ウン」と頷いた。
「今日、どこかへ、出かけたイ」
「そうですね。ちゃんと家に帰れます?」
「多分」
「ふーん。そうなんですか。でも、散歩で、出かけるのもいいんじゃないですか?」
「ウン。一人で、出かける。何か、いいことあるカモ」
「かもしれませんね。よければ、私も着いていきますよ。この辺りなら多少は詳しいですから」
あたしは、「イイ」といって断った。フウカは少し残念そうな顔をしていた。
あたしは一人で出かけた。見かけない街を一人で歩く。故郷と全然違う街並みにあたしは好奇心をかきたてる。
ここのルールはある程度記憶した方だと思う。例えば、道を歩くにしても歩道を歩かなければならない、とか。道を横切りたい場合には、横断歩道と言う白い線が引いてある目印の上を歩かなければならないとか。信号と言うのがあり、赤は止まれ。青は進め。などと。
あたしの住む地域は、交通ルールというのはなかった。そういう概念が存在しなかった。
あたしは横断歩道を渡る。左右を見渡しどこへ行こうかと考える。あたしは真っ直ぐ進むことにした。
しばらく行くと、右手側に狭い路地があった。あたしは面白そうだと思ってその道を使う。
古い一軒家の隙間を抜けていく。体を横にしなければ前へ進めなかった。
ようやく抜ける。見知らぬ世界がまた広がった。家並みは変わらないけど、雰囲気は違う。住む人によって、周囲に漂う雰囲気が異なっていくのだろう。
あたしは適当に進んでいく。
すると、何か歌声が聞こえた。女の子の声。あたしは耳を澄ませる。歌の方は上手いとお世辞にも言えないが、心が温まるような声だ。あたしは胸がスーッとすっきりする。だから、その声の元を探す。目を閉じて耳に神経を尖らす。
やがて、一つの平屋に辿り着いた。家を隠す塀の向こう側から声が聴こえる。あたしは塀をよじ登り、顔を覗かせる。
古い木造建築の家があった。あたしが覗かせたところは庭のようだ。一本の大きな松の木が印象的だった。あたしは声の主を発見する。
あたしは目を見開いた。つばを飲み込んだ。
歌を歌っていたのは十歳ぐらいの女の子。縁側に腰を下ろしている。柱にもたれ掛り、楽しそうに声に音程をつけている。
「……あ」
向こうがあたしの存在に気がついたようだ。彼女は眉をピクリとあげる。顔が強張る。しかし、すぐに笑顔になる。
「ねえ。暇?」
小首を傾げる。
「うん。暇だヨ」
あたしは身を乗り上げる。塀の上に乗る。そして、そのまましゃがみ込んだ。
「わたしね。ずっと、ここにいるの。理由は分かるでしょ?」
「ウン」
「パパぐらいしか、お話の相手がいないの。だから、わたしと仲良くしてほしいの」
あたしは彼女の体をサッと見る。彼女には腕が無かった。そして、足もなかった。一人では身動きが取れない。普通の人間とは異なった存在。まるで、ダルマのようだった。
あたしは失った片目を抑える。
「もしかして……イヤ?」
彼女はものすごく哀しい顔をする。あたしは首を横に振る。
「あたしの名前は、月羽。えっと、君ハ?」
「わたしは、ひさこ。よろしく。えっと、月羽さん?」
「月羽でいいヨ。ひさこ」
「うん」
こうして。あたし達は出逢ったのだ。
ひさこは人懐っこい性格で、すぐに馴染むことが出来た。あたしはお姉さんの気分を味わっているようでうれしい。
ひさこの話を聞き、彼女の事をある程度は理解した。
この家には父親と二人で暮らしているようだ。父親は物書きの仕事をしているため、この家にいつもいるそうだ。きっと、いつでもひさこを介護できるように、という配慮からだろう。
ひさこは数年前に事故で腕と脚を切断しなければならなくなる。その時に運悪く記憶も失ってしまったそうだ。
友達は当然出来ない。ずっと家に引きこもっているから。いつも縁側から見える庭の景色だけが友達のようだ。いつも話したり、歌を聞いてもらっているそうだ。植物にも心があり、言葉が伝わるというから、それを実践している。
「わたし、月羽とお話できて本当にうれしいの」
本心から出ている言葉だ。
ひさこは年が近い(?)同性の子と話したことがない。だから、この嬉しいという感情は本物なのだろうね。
「あたしモ。こっちに来たばかりデ。ひさこと会えてうれしイ」
あたしたちは他愛もない話をして盛り上がる。
「わたしは、ずっと。ここにいるけど、外はどんな世界か、月羽はわかる? わたしは、灰色の壁しか見えない。あの壁の向こうには、どんな世界が広がっているのかな」
あたしは、似たような景色が広がるだけだよ、と言いたかったが、ひさこの心地よい夢を潰してはならない。そう考え、この言葉をぐっとこらえた。
「あたしが、連れて行ってあげようカ?」
「本当に!?」
ひさこは飛び跳ねた。嬉しさがそうさせた。ひさこは体をねじったことで、バランスを崩す。縁側から、身体ごと落ちそうになる。あたしは必死にひさこの体を支える。ひさこは、受け身を取れない。だから、あたしがひさこの体を抑えなければ、顔面を地面にぶつけていただろう。あたしはひやひやした。
「ごめん。ありがとう」
「ううん。気を付けてネ」
あたしはほほ笑む。ひさこは眉を落とした。
「わたしって、本当に不便だね。一人では何も出来ないって、不便だね」
あたしは、ひさこのこの言葉に何も言えなかった。
あたしは何気なく庭へ出る。一本の松の木へ行き、触れてみる。この木は一つの体で立ち続けている。しっかりとした足がある。そうして自分を支えている。あたしはひさこを見る。地に足をつけないひさこはどうだろうか。やはり……。
あたしは、木の横にじょうろがあることに気が付く。首をかしげる。ひさこが遠くから「パパの置忘れだね」と説明した。あたしは頷く。
じょうろの中に水が残っていた。あたしはそっと覗き見る。すると、中に小さな生き物がいた。たしか、芋虫、とかいう生き物だったか。その虫は溺れているのか、体をねじらせ激しく暴れていた。人間のように、ほかの虫のように手足が外に大きく飛び出していないため、この水の中から逃れるすべを持たない。
「どうしたの?」
「いや、虫が、あばれてル」
「助けてあげないの?」
「必要は、アル?」
「だって、かわいそうでしょ? 生きているんだから」
「……」
あたしは、虫をつまみ、助けてあげた。木にこの虫をつけた。
あたしは、ひさこの元へ戻った。
「ふふ、ありがとう」
あたしがなぜ礼を言われたのか。
「一寸の虫にも五分の魂だよ。どんなものだって、生きているんだから助けてあげなきゃ」
「ふーん」
「それに、かわいそうだよ。苦しむのは」
「まあ、誰だって嫌ヨ?」
「ねえ……」
「ウン?」
「……いや、なんでもない」
あたしは首をかしげる。あたしが疑問になっているときに、ひさこの父がやってきたのだった。
「なんか、声がすると思ったら。誰だい? 君は」
「あ! パパ!」
ひさこはえくぼを崩す。大きく嬉しそうに声をあげた。
「ドウモ」
あたしは、軽く会釈をする。久子の父親は、あたしを怪しむ目で見ている。危険人物でも見ているようだった。
「この子は、月羽っていうの。さっき友達になった」
ひさこはあたしの説明をする。
「だけど、勝手に人様の家に上がり込むのは失礼じゃないか? 常識に欠けると思うが」
「パパ。月羽を悪く言わないで。わたしが無理を言って、呼んだの。だって、話せる同い年の友達が欲しかったから」
父親は困惑している。ひさこを溺愛しているから、ひさこを叱れないでいるのか、ひさこのごく当たり前の欲求の要求に、胸を痛めているのか。すぐに折れた。
「しょうがないな。だけど、月羽……ちゃんでいいのかな? 久子へ会いに行くのは許可しよう。ただし。誰にも言わないと約束できるか? 久子を……久子の体をあまり他人に見せたくないんだ。分かるよな?」
あたしは、こくりと頷いた。
「それはそうと。君、学校は行ってないのか? この時間は、普通は授業を受けているはずだが」
あたしは首を傾げる。あたしは、何を言っているのか理解に苦しんだが、そういえば、あいつが毎朝同じ服を着てでかけているのを思いだした。そうか。学校へ行っているのか。と納得した。
あたしはどうごまかすのがベストか、考える。まあ、下手なことは言わずに、首を振っておけば、向こうが勝手に解釈してくれるだろう。あたしはそれにかけて、首を振ってみた。すると、あたしの思惑通りに事が進み、父親は自己解釈を行った。
あたしは、完璧に納得はされていないが、この家に出入りする許可を得た。
これで、またひさこと会う事が出来る。あたしは喜ぶ。
しかし……。懸念材料はある。だけど、ひさこだから……大丈夫か? そう信じるとしよう。
「そうだ。パパ。今日のお昼は何?」
「そうだな。何が食べたい?」
「パパが作るものならなんでも美味しいから、なんでもいいよ」
「はは。照れるな」
父親は顔を赤らめる。父親はあたしを流し目で見る。その目はいつまでいるんだ、とあたしに訴えかけていた。あたしはため息をついて、帰ろうとする。
「え? 月羽はもう帰っちゃうの? よかったらお昼一緒に食べようよ?」
「……」
あたしは父親を見る。つられて、ひさこも父親を見た。
「いいよ。たべてきな」
父親はため息をついた。どうやら、ひさこにものすごく弱いようだ。
あたしは父親の態度に釈然としないが、お昼を一緒に食べる事にした。
あたしは、お昼がいらないことを家へ連絡しようと考えたが、面倒くさかったのでやめた。
ひさこの父親の名前は、宮崎康之というそうだ。名前なんかはどうでもよかったけど、聞いておいて損はないかもしれない。
この人は丸眼鏡をかけている。頭の髪の毛がすっきりとしているが、ファッションであろう。たしか、スキンヘッドという名前だったか。少々いかつそうなところもあるけれど、優しそうに笑う人だ。あたしにたいしては、不機嫌さが色濃く残っているが、ひさこへ見せる柔らかい表情は本物だ。
ひさこは、この人を心の底から親愛している。あたしはひさこと父親の様子を静かに傍観していて、そう感じた。自分の全てを受け止めてくれる、だから、この人の全てを受け止められる。そう思っているから、こうして、心を許して、自分を偽ることなく出せるのだろう。
……それが親と子の深い情愛。本人同士には決して気づくことのない、絆という強く太い糸。これは中々切れぬものだ。
「どうしたの? 月羽? 考え事?」
「ウウン」
今日のお昼はそうめんというものらしい。夏の定番といえば、そうめんらしい。あたしは、知らない。白い糸の束をはしに絡めて、黒色の液体につけて食べる。ひんやりしている。この糸は単体では美味くはないが、液体をこれに絡める事で味に変化が起き、あたしに美味いといわせる程に進化する。
なるほど。この液体が、この料理の肝なのか。
「ちょっと、美味しいなっておもっタ」
「だって」
「まあ、現代の力だ」
現代が手料理をするの? と疑問に思ったが、そっと胸にとどめる。もしかすると、あたしが知らない意味が含まれている言葉なのかもしれない。
ひさこは、自力では食べる事が出来ない。だから、父親が、ものをひさこの口元へわざわざ運んであげている。ひさこはそれを吸い込むように口の中へ入れ、咀嚼する。
父親がひさこの汚れた口元を拭く。ひさこは「ありがと」と言う。
「ずいぶんとおかしな表情をしているね」
あたしは父親にそう言われて、ハッとした。あたしは気がつかぬうちに同情の目をひさこに向けていたのだ。
「別ニ」
「ちょっと。パパ。月羽に絡まないでって、言ってるでしょ?」
「ごめんね」
「……」
あたしは、ため息をついた。
この人があたしを嫌っているのがすぐに分かる。態度が露骨だし。でも、過保護になるのは当然か。
あたしは、無い方の目を抑えた。
「あたしが、住んでいた国は、危険な場所だっタ。身内にも……。貴方の気持ちは、分かるヨ」
気まずい雰囲気になる。父親は申し訳ないと言った顔になる。
「月羽って、日本人じゃないの?」
「まあ、家庭の(・)事情で、ここへ来たから」
「あ、ふーん。なんか、凄いね。遠路はるばるここへやってきた。いいなぁ。わたしも海を越えたその先にある大陸を見てみたいよ」
「いつか、連れて行ってあげるよ」
父親は、ひさこの頭を撫で、額にキスをした。ひさこは照れ笑いをする。
あたしは背もたれに寄りかかる。遠くの物を見るように二人の様子をうかがう。
「まあ、確かに、知らない土地へ行くというのはいいものだヨ。だけど、寂しくなるヨ。だって、一人だもノ。ひさこのように誰も面倒を見てくれないサ」
あたしは変なことを言ったのだろう。いや、言った。だから、父親は眉間に皺をよせるし、ひさこでさえ、怪訝な面持ちになる。
ひさこは表情を変える。口元だけを緩める。そして、こう言う。
「だけど、その先に、良い出会いがあるかもしれないよ」
あたしは、父親の顔を見る。父親は目を背けた。あたしはひさこの言葉に対して、何も言い返さなかった。
それからひさこといくつか話をしていたら空が暗くなった。ひさこの父親から、暗くなるから帰りなと言われ、あたしはしぶしぶ帰る事になった。ひさこはまた遊ぼうとあたしに言ってくれた。だからあたしはまた明日と、約束を取り付ける。
あたしは来た道を戻っていく。その途中に、気になることがあった。
人が集まっている。ガヤガヤとやかましかった。あたしは何があったのか気になった。
人がたくさんいる場所はとある一軒家だ。そこに白と黒の車がある。上にランプが赤く光っている珍しい車だ。
あたしは興味本位でそこへ近づいた。多分、みんなはこういった興味で惹きつけられたのだろう。
あたしは背が小さい。だから、人々が何に注目をしているのかが分かりづらかった。あたしはジャンプやつま先を立てたりして、奥を見る。しかし、あまり見えなかったので、小さいからだを利用して、人々の間をかいくぐり、最前列へ出る。
家の中から誰か人が出てきた。三人の人だ。一人だけ頭に服を被せられていたので顔が見えない。しかし、男であるというのはわかる。体格でそう判断した。
確か、聞いたことがある。逮捕というやつか。
恐らく何かの罪を犯し、捕まったのだろう。
あたしは表札をみる。そこには「立石」と書かれていた。この男は立石という苗字の人である、とわかった。
この男が犯罪者だとすると、男の周囲にいる人は警察と言う奴らなのだろう。あたしはまじまじとその人たちをみる。
奥からさらに二人の警察の人が出てきた。
あたしはハッとした。思わず「アッ!」と声を上げてしまう。周囲の人はあたしを注目する。そして、そいつらもあたしを見た。
新たに出てきた二人の警察の内一人は男性、一人は女性だった。
あたしは慌ててこの場から逃げようとした。
あいつはあたしの存在に気がついた。目が合ってしまった。
あいつはあたしを見て、邪悪な笑みを浮かべた。
あたしはゾッとする。おぞましくなった。かつてのあの過去を思い出しそうになる。唐突に吐き気を催す。胃がキリキリと痛む。汗がブワッと湧き出る。
あたしは人混みをかきわけて、あいつから逃げる。そして、今暮らしている家へ走る。
しかし、途中で体力が尽きる。あたしは激しい鼓動と呼吸をなだめるようにして十字路を歩く。
後ろを振り返るが、誰もいなかった。
あたしは、カーブミラーにうつる自分を見つめた。
険しい表情をしていた。こんな姿、あの人たちに見せられない。
あたしは頬を叩く。先ほどの出来事は忘れよう、そう自分に言い聞かせる。
しかし、一度付いた不安はぬぐえるものではなかった。
だって、気づかれてしまったのだから。
まさか、あいつがここにいるとは思いもよらなかった。
あたしは壁に手を当てて深呼吸する。
今日の良かった出来事を思いだす。ひさことの出逢い、そして話したこと。それを頭に浮かべ続ける。すると、嫌な事を忘れて、口元がほころぶ。
あたしはこの調子だ。と頷く。そして、そのままの調子で家に帰るのだった。
家に帰ると珍しい生き物がいた。いや、生き物と言ってもいいのだろうか。人形が動いて、喋っている。意思を持っている人形だ。あたしは驚愕する。
コトリという子らしい。
あたしはあとでこの子と遊ぶか、と決める。そうして、今日の出来事を話していく。
その途中あたしはあるミスを犯す。あの人だかりの話までしてしまった。あたしは話を切ろうとしたが、切りにくい所まで話してしまったので、仕方なく続けた。
だが、やはり、続けない方が良かったかもしれない。なぜなら、彼の様子がおかしくなったからだ。
あたしは「立石」という名前をだしたことで、態度が一変した。空気が変わったのだ。
彼はその事情を話さなかったが、「立石」と彼に何か関係があるのだろう。そう、考えざるを得なかった。
「お友達が出来ましたか?」
ひさことあった夜に、ふうかが、そう尋ねてきた。あたしは首をひねるだけで、何も言わなかった。ふうかはこう見えて感の良い子である。だから、こんな態度で誤魔化しても、真実を見抜かされるだろう。まあ、あたしとしては、そうであろうと、興味はない。どう転ぼうと、転ぶ方向へ着いていくのみだ。
あたしは、飲み物をリビングのテーブルの上に置いた。ふうかと話をする為に、椅子に腰を下ろす。
今はふうか以外のみんなが寝静まっている時間だ。一応、日付けは変わっていない。
あたしの種族の一日は長い。だが、この星の人間にとっての一日はあたしの一日ではない。住まう環境によるものだろう。だからこそ生じるラグの時間は、ふうかに埋めてもらうしかない。この子は一日とは無関係な位置に存在するから。
「ネエ。ふうかは、本当の家族に会いタイ?」
「え? 急にどうしてそのような事を?」
「チョット……」
「うん、そうですね……。あまり、会いたくありませんね。だって、好きじゃないから……」
「ホント?」
「はい……」
「ウソ、ついていなイ?」
「なぜです?」
「あたしも、似たようなもので、嫌いだっタ。だけど、チョットいろいろあっテ……。まあ、とにかく。一度、きちんと会って話した方がいいよ。後悔、したくないのナラ……」
あたしはふうかの首に腕をまわした。そして、やさしく抱きしめる。ふうかは戸惑っていたが、落ち着いた。あたしはふうかの蒼白く細い首筋にかみついた。冷たく、味がしなかった。
「痛くなイ?」
「噛みましたか? ええ。まあ、そうですね」
「痛みが無いって、いいよね。うらやましい」
「そうでもないですよ」
「そうかナ?」
「それに、痛みが全くないわけではありませんから」
そういってふうかは自分の胸元に手を置いた。
「ここは、痛みます」
「……」
あたしは無言になる。
「悼む心を持っているのだから、心は痛みますよ」
「ソッカ……。だよネ」
あたしは頷いた。
少し、悲しくなった。そして、後悔した。
一気に終わらせようと思いましたが、無理でした。
結構時期があきました。
それなのに、ここまでしかかけていない。
ツキハのお話はまだ、四分の一か、それ未満。
もう、設定とか忘れてしまいそう。
オチは決まっているのに、そこまでいくのが大変。




