立石のお話 湖
お久しぶりです。
すぐに読めます。
立石のお話
「夏休みにどこか行こうぜ」
学校の休み時間に俺は友人の里井に誘われた。俺は「いいぞ」といった。俺以外にも中村、島崎、川井も来るそうだ。そいつらを呼び、どのようにして遊ぶかと話し合う。
「海行こう」「外国行こう」「日本のどこか行こう」とかとか。そんな話で盛り上がる。
「あ、そうそう。商店街で福引やっているじゃん? アレの一等賞が確か旅行券だったんだよ。なんなら、やってみようぜ」
「そういや、そうだったな。帰りにやってみるか?」
「運が良ければ、な」
俺達は放課後に商店街へ行くことに。
商店街へ行き、福引をする。全員でやってみるが、外れてしまった。みんな残念がっていた。だが、そこまで悔しくはなかった。なぜなら、楽しかったから。外れたのはそれは残念だが、何事も過程までが楽しい。その間に起きたドキドキなどが結構いいのだ。
俺達はその後にファミレスへ食べに行くことに。
俺は楽しかった。友人たちとこうやって遊ぶ時間が。自分が今まで人と関わって来た所為か。人とのつながりというのは中々切れない。俺はそうであると信じている。
友人たちと別れ家に帰った。家に帰り、風呂に入り、自分の部屋で寝ようとした。そうしたら、二階のトイレから兄貴が出てきた。目が合う。だが、すぐに目をそらす。何事もなかったかのようにそれぞれの部屋に戻った。
部屋で俺は兄貴の顔を思い返していた。あいつは何かを思いつめたような顔をしていた。あの顔は久しぶりに見た。あれは秘密を抱えている時の顔だ。幼い頃、兄貴にべったりだった俺は良く知っている。誰も見えていない所であの顔をするんだ。オレを見ると耳と眉を動かし、普通の顔に戻ろうとする。そう言った癖がある・
あいつはたしか、まえにどこかへと腕をしていた。その時に何かをやったのか。まあいいや。とりあえず厄介にならなければいい。それだけだ。
日曜日友達と遊んでいた。夕方になり、家に帰ることに。
その時。誠一郎のあの犬の事が気になったので、誠一郎にメールをした。誠一郎は毎度の事で返信が遅い。だが、今日は早かった。メールの内容からは犬は返すことが出来たようだ。あと探し斧を発見できたようだ。
一安心だ。良かったなと思いながら家の前にきた。すると、なにやら人だかりが出来ていた。俺は何事だと思った。パトカーが赤いランプをチカチカさせて、家の前にとまっていた。俺は呆然とした。家から兄貴が警察の人に連行されて出てきたのだから。
親から電話がきた。頭の中が真っ白で何も考えられなかった。
俺の足元が崩れるような気がした。オレの築き上げてきた全てが終わった気がした。
「ねえ。聞いた? あいつって例の事件の……」「人殺しがよく街中を歩けるよな」「どうせ、あいつも人殺しなんだろ?」「えんがちょ」「目がやばいわ。いかにもやりそう」「死んで詫びろ。クズ」
俺は何もしていない。だけれど、周りからは、あたかも俺がやったかのような態度で扱われる。町をただ歩くだけで後ろ指を差され、罵倒される。近所の仲も最悪だ。誰も話しかけようとはせずに、距離を置く。
兄貴は誘拐、殺人の容疑をかけられた。S山にて、死体の一部が発見されたことが事の始まり。腕と脚。それらが土に埋められていたそうだ。それで、様々な情報を元に、もっとも有力な犯人として検挙されたのが俺の兄貴。自供はしていない。今はしつこく取り調べを受けているだろう。真相はいかに、だが、兄貴がやっているような気がしてならない。
俺は学校へ行く。複雑な心境だが、休むわけにはいかない。もし休んだら、やましいことがある、と疑われるし、逃げたような気がするのだ。
胃がキリキリと痛む。学校へ行くだけで、みんながひそひそと陰口をしているような。みんなが敵に見える。俺の悪口を言っている。そんな疑心暗鬼に。だが、それはリアルだ。現にそうだ。みんな、「あれって……」という冷めた目で見ている。
教室に入る。そうすると、賑やかだった教室が一気にシンと静まり返った。養豚場の豚を見るかのような冷たい目でみんなが俺を見る。投石されているような、やりでつつかれているような、そんな痛みを体感する。
俺はいつものように自分の席に座る。その様子をみんなが見守っている。監視されているかのようだった。
俺は隣の席の川井に声をかけた。だが、聞こえなかったのか反応がなかった。
俺はどうして? と思った。昨日あんなに楽しく笑って遊んでいたというのに……。
他の連中にも声をかけてみた。だが、無反応。俺を死んだような扱いをする。幽霊になったようだ。
俺は、ここで理解した。自分の立場というのを理解した。そして、関係というものはどういうものか、理解した。
そう。人間関係は一本の細い糸で出来ていて、そんなものはか細く、簡単に切れてしまうものなのだ。
こんな……たった……こんなことで……!
俺が何かしたか? 何もしていない。それなのに、どうして……?
俺は仲間外れにされた。俺を穢れとして扱う。汚れているんだ。他人によって泥をかぶされただけで、それだけなのに、汚物扱いされる。
誠一郎が教室に入ってくる。俺はあいつにも声をかけようとした。あいつなら、大丈夫のような気がした。
だけど、声はかけなかった。もし、俺がこのまま誠一郎に話して、誠一郎が受け答えをしたらどうなる? 俺はあいつに泥を被せるような真似をすることになるのでは?
いや、あいつも、みんなと同じ反応をするのでは?
様々な憶測から湧き出る恐怖にあらがえなく、俺は怯え、結局何も出来なかった。
針の筵のようだった。肩身が狭い。居づらい。そんな一日を俺は送ることになった。
結局それはこれからずっと続くことになる。俺はこれからずっと、まともな生活を送れないんだ。
家に帰る。そうすると、塀にスプレーで落書きがあった。「人殺し」とか、「死ね」とか。そんなあほらしい落書きが。だが、そんな幼稚なものでも俺の心を抉るには十分だった。家の中に入ると、母親が泣いていた。俺は慰める。
いたずら電話がくる。罵倒されるだけされて、一方的に切られる。
石が投げられ、窓ガラスが割れる。
俺達はこれから、こんな生活を強いられるのか。いつまで続くんだ。
俺達は無関係だ。やったのは、あいつだ。それなのにどうして、俺達が被らなければ……?
人の命にあれこれいう訳じゃない。どれも重い命。奪った事は……それはいけないこと。だが、奪ったのは、あくまでもあいつで、どうして家族も償わなければ?
連帯責任とでもいうのか? 家族とは共同体?
ふざけるな! ふざけるな!
俺は怒りが沸々と湧いてくる。
俺は兄貴を許さない。絶対にだ。
殺してやる……。殺意が湧いてきた。
俺達をこんな目に合わす、あいつは……絶対に許さない!
どうでもいい小話。
そもそも、自分は家族が嫌いなんですがね。ある意味誠一郎が家族を殺したのは、私のその想いからなのかもしれないですね。というか、第一話の下書きを書き始めたあの頃は色々と病んでて、殺しかねなかったですが。
では。次は3の22時




