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花は散り急ぐ  作者: 夏冬春秋
花は枯れることを知った郎女は何を思うか
31/48

ハナのお話 後

これで三分の一が終わります。

ハナのお話


 ハナが、自室へ向かっていた時だった。ハナはツキハが浩二郎の部屋へ入っていくのを見た。 ツキハの部屋はルナが使っていたところだ。普段ならスルーするのだが、今回だけは何故かツキハへ声をかけにいった。


「なに、してる?」


「あ、ウン」


 突然声をかけられたツキハはびっくりしていた。ツキハはハナの問いに答えなかった。ただ沈黙して写真立てを眺めていた。そして、ハナにそれを指さした。ハナは近寄り、それを見る。何が言いたいのか不思議で仕方なかった。写真とツキハを交互に見た。


「……わらってる」


 ツキハは笑っていなかった。氷のように冷たい表情で淡々と言う。


 ハナは首を傾げるだけだった。


 ハナは二つの写真をじっと見る。そこに写っているのは誠一郎と弟の浩二郎。赤ん坊を抱く誠一郎の写真と、砂浜で肩を並べて映るその二人がいた。


「こんなところに入ってはダメだぞ」


 誠一郎は注意する。開いているドアをノックする。誠一郎は二人に近づく。


「うー。ごめん」


「何を見ているんだ?」


「写真」


 誠一郎はそれを見た。誠一郎は「出ていった」と言って、二人の背中を押した。その時に、誠一郎はその写真立てを伏せた。


 そして、三人は部屋を出ていった。





 タロウの飼い主が見つかったのは、ツキハが家に来た日から二日後の土曜日だった。張り紙を見てきたようだ。発見した瞬間にここへ電話をかけたのだ。


 今誠一郎たちの家にいる。お昼に近い頃だ。


 飼い主は女性だった。二十代半ばの若い女性。アパレル関連の職についているそうだ。今日は休暇で、タロウを探しに歩いていたら、たまたま張り紙を発見したようだ。彼女は高峰綾子という名前だ。


「どうもご迷惑をおかけいたしました」


「いえいえ。こちらも楽しかったので。全然いいです」


 玄関先でそんな話をする。綾子はタロウを撫でた。そして抱き付く。再会を喜ぶ。その姿をハナは遠くから残念そうに眺めていた。フウカはそんなハナをなぐさめていた。


「うー。タロウ、いっちゃう?」


 ハナは誠一郎の裾を引っ張り尋ねた。誠一郎はこくりと頷いた。


 ハナは、タロウに飛びついた。今生の別れのように泣きわめく。


「なんだか、申し訳ないわね」


「結構仲良くしていましたから」


 誠一郎は髪をかいた。


「……大ゲサ」


 ツキハは嘆息する。


「気持ちぐらいは理解してあげてください」


「ウン。ソレは、わかる」


 ツキハはこの2,3日で日本語をある程度マスターした。宇宙船で勉強していたのが、活きたようだ。しかし、まだ完全なものではない。鉛が目立つ。言葉を早口で話されると聞き洩らす。しかし。このペースで学び続けていれば今月末までには完成している事であろう。


「それにしても、あなたたちは四人兄妹なのね。にぎわっているわね」


「そうでもないですよ」


 誠一郎は頬を掻く。苦笑を漏らした。


「高峰さんは、ご兄弟はいらっしゃるんですか?」


「妹がいるわね。十個以上歳は離れているわね」


「そうなんすか」


 誠一郎は目線を外す。ハナを見る。ハナはまだタロウとの別れを名残惜しくしていた。それを見て、綾子はもらい泣きしそうだった。


「大切に思ってくれてありがとう」


「うー」


 ハナは目を真っ赤にする。ツキハが前に出る。かがみ、ハナに囁く。


「マタ……あえる。……デショ?」


「う? ツキハ?」


「そうよ。ただ離れるだけだわ。いつでもタロウに会えるわよ。家も近いし。いつでも遊びに来られるわよ。歓迎するわ」


「……うん」


 ハナはうなづく。この言葉で元気が出たようだ。涙をぬぐう。


「そう、だね。さびしいけど、遊びに、いく。いい?」


「当然よ」


 そんな約束をした。そう。いつでも遊びに行ける。会いに行ける。ハナは、それだけで救われた気がした。


「つきはちゃん……だっけ? 良いこと言うわね」


「……ウン」


「肌の色だけだけど、最近君に似た人と会ったわ。多分、あの人も君と同じことを言うかもしれないわね」


 ツキハは、口を一の字にした。目を斜めに動かした。返す言葉を探していた。ツキハは考える。普通は適当に流すべきところだが、変に生真面目なツキハは気の利く言葉を言おうとしていた。ツキハはそれにかどわかされていた。


「さて。お礼はまた後日渡しに行くわ。ありがとうね」


 綾子は深々と頭を下げる。誠一郎たちはそれにつられる。


 タロウのリードを引っ張る。


 ハナは腰を上げる。「バイバイ」と手を小さく振った。その時のハナは笑っていた。笑顔で送り出すべき。そう判断したのだ。タロウは、「わん!」と吠える。タロウも別れを告げたのだ。


 タロウは綾子と共にこの家を去る。元の家にようやく帰れるのだった。


 玄関の扉が閉じた時、ハナは誠一郎の胸に飛び込んだ。誠一郎は「よしよし」と慰める。フウカは、優しい言葉を駆ける。ツキハは「マタ……あえる」そう囁く。その時のツキハの表情は印象的で寂しそうで、哀しそうな、そんな表情だった。


 ツキハが地球に来た理由は、人探し。自分の星を離れてまでもこんな遠くの土地に出向く。どのような覚悟を持ってきたのかは誰にもわからない。さらに、宇宙船の墜落により、星に帰る手段が無いに等しい。もう、諦めているのかもしれない。絶望しているのかもしれない。


 ツキハの心中はこの時、まだ誰にも分らない。そして、この言葉がどういう意味を持ったものか、この時はまだ誰も本当の意味で解っていなかった。





 吉報が届いたのは翌日の昼間だった。昼食を取っているときに、それを知らせる電話が一本泣くのだった。誠一郎たち(特にハナ)にとっては、嬉しい知らせだ。だが、彼らの知らぬ裏のお話では、悲しい知らせにしか過ぎなかった。


 コトリが帰ってくる。ハナは喜ぶ。ずっとそれを願っていたのだから。


 しかし。それは一つの死によって叶えられた願いとは、ハナは知る由もなかった。


 誠一郎は電話を取り、話を聞き、察しがついた。素直には喜べなかった。誠一郎はコトリの事が心配だった。心に何か深い病みを抱えなければいいが、と。


 電話の相手の父親はお礼を何度も言っていた。娘の願いを、幸せを、わずかな時間だが、与えてくれて、ありがとう、と。しかし、誠一郎はこの言葉を受け取らなかった。なぜなら、それはコトリが受け取るべきものだから。自分たちは何もしていない。その言葉はもらう資格などありもしない。


 誠一郎は受話器を置く。コトリは一,二時間後に届く。フウカとハナにその旨を伝える。迎える準備を始める。


 ツキハはどこかへ出かけていた。ある程度知識もついてきたので、余計な事はしないことと、一七時には帰るという条件をつけて外出を許可した。ツキハは、この街並みを深く知りたいようだ。


 三人だけでコトリの到着を待った。ハナはソワソワしていた。落ち着けていなかった。


 ハナが外で待とうと言いだす。外で待つのも、中で待つのもさほど大差ないので、そうすることにした。座って、外でコトリを待つ。


 やがて、一つの車が止まる。そこからフランス人形を抱えた男性がおりた。


 ハナは一目散に飛び出していった。コトリに抱き付く。そして、何度もコトリに謝罪をする。


「無事。よかった。コトリ。ごめん。ハナ、わかった」


「ハンセーしているならそれでいいよ」


 コトリは頷く。ハナがしっかりと学べたことが少し嬉しかったようだ。


 男性は誠一郎たちにお礼を言い、去っていった。


 コトリを連れて家に戻る。コトリにとって久々の我が家だ。そして、久しぶりに、このメンバーがそろった。


 コトリは、誠一郎に一つ尋ねた。誠一郎の答えにコトリは救われたような気がした。雲がかかり雨ばかり降っていたコトリの心はその一言で、雨が止む。通り雨は通り過ぎた。やがて雨雲がさけていき、綺麗な青天を見せてくれるだろう。


 ハナは、コトリを抱きかかえて、コトリに自分の決意を話す。


「ハナね、ハナだけじゃ、なくてね。コトリの、気持ちも、考える。みんなのも。だから、わがまましない。コトリ。ハナと、仲良くなって」


 コトリは「どうだかね」と冗談っぽく笑った。少し間を開けて、「これからのハナしだいだね」と言った。


 それから、みんなで再会を祝った。


 ハナは、もう一度会えてよかった。そう心の中で思うのだった。





 ツキハは良い顔をして帰って来た。友達が出来たらしい。それもフウカに似た子らしい。しばらくその女の子と遊ぶそうだ。


 コトリはごく自然に家に入って来た謎の見ぬ少女に面を食らっていた。誠一郎はコトリにツキハの説明をした。コトリは、ため息をついていた。また変わりものか、と。自分も色物なくせに、そうツキハは呟いた。


 ツキハは、コトリを「面白い生物」と認識し、大変興味を抱いた。ツキハはコトリに質問攻めを行う。コトリはキチンと質問に答えていたが、その量の多さに根をあげていた。


 その様子を誠一郎たちは微笑ましく眺めていた。


 質問を終えたツキハは、歩いて、冷凍庫からアイスを取り出した。それをしゃぶる。コトリはぐったりしていた。人形の体でも疲労はやって来るんだ、とツキハは感心していた。


 ツキハは、そういえば、と帰宅途中に見た不思議な出来事を訪ねてきた。


 白黒で、赤いランプを光らせた車が、家の前にとまっていてそれを囲むように人だかりが出来ていた。そう言った。


 なにか事件があったのだろうな、そう解釈する。


 ツキハは更につづけ、頭と腕には服がかぶされていたそうだ。その人が、家から出てきた。数人の男に連行されて。


 ツキハは、その人の特徴を言う。わかったのは、肥満体系ということぐらいだった。


 家の表札の名前を憶えていたらしく、その名前を話す。ただ、漢字が読めなかったので、紙にそれを書いて伝えた。


 ツキハは「立石」とミミズが走ったような字でそうかいた。


 誠一郎はその名前を見て「まさか」と慌てた。だけど、「そんなことはない」と考えを改めなおした。苗字が同じなだけ。そう思いこむようにした。


 しかし、この誠一郎の勘はある程度当たってしまっていた。


 後日、それを知ることになる。



ようやく、といったところでしょうか。

まだ先は長い。ここからが正念場。


次は10月1日の21時

出来ていたら。

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