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花は散り急ぐ  作者: 夏冬春秋
花は枯れることを知った郎女は何を思うか
29/48

誠一郎のお話 記

7月8日の話が長すぎた。

 誠一郎のお話



 コトリの捜索を続けていたオレ達であったが、時間の関係上打ち切らざるを得なかった。


 タロウは見つける事が出来た。公園で一休みしていたところを捕まえたのだ。ハナの嗅覚は非常に役に立った。それのおかげで、発見することが出来た。だが、コトリだけは見つからなかった。途中までは匂いを終えていたのだが、ある場所からぱったりと匂いの痕跡が消えてしまったようだ。ある場所とは、なんでもない十字路のこと。


 空でも飛んだのか。鳥に捕まったのか。そんな馬鹿なことを考える。でも、なくはない。可能性としてあるなら、車か? それに乗せられたとか。それなら匂いが消えた理由に納得はいくが。


 しかし、いったい誰がそんな事をしたのだろうか。どこかの娘さんに気にいられ、持っていかれたのなら、まあ、納得できる。もしくは女性。だが、男に連れ去られたとしたら。変態な気がする。


 コトリは喋れる、動ける、摩訶不思議な人形だ。もし他人に知られたら、大ニュースになる。最悪、見世物だ。オレの主観ではあるが、もしコトリの立場になって、そういう目に合うのなら、大っ嫌いだ。


 オレ達はそんなこんなで、話し合いながら、家に帰るのだった。


 ハナはまだ肩の荷がおりていないようだ。


 家にはフウカと慧莉が話していた。


 オレは慧莉に「今日は付き合ってもらってすまなかった」と謝った。慧莉も明日はテストだというのに。あ、オレもか。すっかり忘れていた。


「いいっすよ。どうせ勉強はしないっすから」


 余裕の表情だった。


「家まで送ろうか」


「いいっすよ。だって、今日はいっちの家に泊まるって決めたっすから」


「は?」


 オレは思わず声が裏返った。


「だから、泊めてほしいっす。あと、勉強教えてほしいっす」


 にんまりと笑う。


「ちょっと待てよ。突然に。親とかも大丈夫なのか。それと、結局勉強するんかい」


「まあまあ。いいじゃないっすか。うちの親はうちがいなくても何も言わないっすよ。ホラ、今日は協力してあげたじゃないっすか。ねー?」


「しかしだな……」


「ハナ、さとり、とまって、いい」


「いや……えー?」


「ありがとう! さすがはっち! 話が分かる! 大丈夫っすよいっち。着替えは持ってくるっスから」


「だったらそのまま帰ってくれよ」


「へい。はっちを家に連れてきたのは誰っすか? うちがいなかったら、話がややこしくなってませんでしたかい?」


「くそ……。今回だけだぞ」


「よし!」


 慧莉はガッツポーズする。そして、オレに抱き付く。オレは押しのける。


「さとり、泊まる。ハナ、うれしい」


「私もそう思いますよ」


「そうっすよね!」


「はあ……」


 オレはため息をついた。あまり慧莉には知られたくない秘密とかがあるのに。それを考えていっているのか? まあ、今日乗り切ればいい。


「これで明日のテストは大丈夫!」


「オレに期待されても困るんだが? 範囲も違うだろうし」


「うちより下はそうそういないっす」


「威張っていう事ではない」


「いいじゃないっすか」


「とりあえず、やる気は確認できた。変な邪魔はするなよ」


「変な邪魔とはなんすか?」


「もういい」


「あらら……」


 オレはキッチンへ向かった。すると慧莉が「ジュースよろしくっす」と厚かましく言ってきた。麦茶しかないからそれをコップに注いでやった。人数分のコップを用意した。それに全て注ぐ。


 オレはそれを全員に渡した。フウカが「え?」と言ったが、すぐに納得して受け取ってくれた。


「あー。美味しいっす。おかわり」


 慧莉は、一気に飲みほし、空になったコップを突きつけた。


「そろそろ、怒るぞ」


「おう! いいっすよ。むしろ殴ってくれていいっすよ。いっちの欲望を全て受け止めるっすよ」


「言い方。悪いが、君の希望には添えないな。萎えた」


「ふっふ。いけず」


「さとりさん。そういうのはあまり口にするものではないですよ」


「うちは、うちだからいいんですよ」


「フフ。面白い人ですね。あ、そうそう。セイイチさんにお電話が来ていましたよ」


「オレにか?」


 入れが立石かな? と思った。しかし、自宅の電話にかけてくるとは思えないしな。


「えっと、高峰美雨さん。ですね」


 オレは予期せぬ名前に動揺した。思わず手に持っていたコップを床に落としてしまいそうだった。


「いっちの彼女っすか?」


 慧莉が茶化す。


「……」


 オレは心を落ち着かせる。動揺は決して周りには見せない。


「どんな用件だ?」


「申し訳ありません。途中で切れてしまって。用件を尋ねる事が出来ませんでした」


「そうか」


 まあ、大体は想像つく。大方、浩二郎の事だろう。


 あいつは、オレを疑っている。あの時の口火莉もそうだし、電話もその証拠と見ていいだろう。


 フウカが電話に出たのは最悪だった。あいつのオレに対する疑念は深まるばかりだろう。


 家族が行方不明になって数か月で別のダレ丘と暮らしているというのが分かってしまった。……いや、違うか。そこまで情報は入らない。しかし、疑惑は深まる。


 あいつはあいつの都合がいいようにストーリーを書いていくのだろう。


 人は自分の価値観、自分の今までの経験から物事を考える。それから、自分なりの理論を組み立てていくのだ。そこに複雑さはいらない。必要なものは単純さだけ。単純に理解できる。ただこれに尽きる。


 自分がこうであらねばならないと、自分でも気づかないうちに心の中に作り上げるのだ。理論と言うのを。つまりは、自分が信じるものを現実に(そしてそれは真実)仕立て上げるのだ。


 だから、今回の電話の件であいつは、自分自身が納得できる考えを、理論を、組み立てただろう。


 オレとしては面倒くさい。今のオレの日常を破壊されかねない。もしあいつが変な行動を起こして、それらが崩されるようなことがあれば……。


 さて。どう処理していったらいいのかな……。


「どうか……しましたか?」


「あ、いや。何でもない。気にしないでくれ」


「セイイチ、変」


「そうっすね。絶対何かありますね」


 本当、なんでもないよ」


 オレは無理して笑った。そして、フウカの視線に気がついた。眉を潜めていた。オレを訝しく見ていた。まあ、怪しむのも無理もない。オレと目が合うと、フウカはすぐに元の表情に戻した。


「そう。お腹空いたっスよ。うちは」


「あ、ハナも」


「そういえばまだだったな。うん。分かった。大したものはないが、作ろう」


「よっし!いっちの手作りっす! さっすが、出来る男は違うっす」


「バカな事を言うなって」


 オレはため息をついた。冷蔵庫を開けて、何があるかを確認した。使いかけの野菜しかなかった。これで何を作ればいいのか悩んだ。どうせなら買いに行きたいと思った。せっかくだから、買いに行くか。この時間でも開いているスーパーはある。


 オレは、そう呼びかける。そうして、スーパーへ買い出しに行くことになる。そこで夕飯を買う。ついでに、明日の朝食、昼食も買った。


 買い出しも終わり、オレは夕飯の支度にとりかかった。慧莉も手伝うといいだした。オレは「別にいい」と断ったが、後になって、「そっちの方がいいかもな」と考え直し、そうしてもらうように言った。


 ハナとフウカはその間を遊びに使っていた。


 料理の途中、オレはフウカを二階へ連れて行っていった。フウカがそう頼んだからだ。


 フウカが眠っている事にすれば、食べられないのを誤魔化せる。と発案し、それにオレが乗っかった。


 オレは自分の部屋に移動させ、ベッドの上にフウカを寝かせた。ついでに、タロウもこの部屋に招いた。そうすれば、フウカも寂しくはないだろう。


「ありがとうございます」


 フウカは、そう言う。


 オレは、不便な体を持ち、健気なフウカに、心を痛ませた。


 オレは、部屋を出る。廊下を歩く。階段をおりようとした時だった。そこで両親の寝室のドアが開いているのに気がついた。最初は気にも留めなかったが、電気もついていたこともあり、オレは気になった。そうして、部屋に向かう。


 中には誰もいなかった。誰かが点けっぱなしにしたのだろうか? たとえばハナとか。


 オレは首をひねるだけで、まあいいやと流した。


 電気を消そうとした時、ボールがベッドの上にちょこんと置かれていたのに気がついた。野球のボールだ。汚れはなく、新品同様に真っ白で綺麗なボールだ。オレはそれを拾い上げる。手に持ち、それをマジマジと眺めた。


 オレはどうしてこんなものがここにあるのか、疑問を持った。その疑問を解消すべく、フウカに聞きに行った。フウカは「それはそこにあったのですか」と驚いていた。いや、感心していた、が正しいか。宝探しの宝が、このボールだったらしい。いくら探しても見つからなかったものが、そんな簡単なところにあったとは、とフウカはため息を漏らす。


「でも、探した時はありませんでした。それなのに、何故でしょう?」と、不思議に思っていた。


「もしかすると、今日来た誰かが置いたんじゃないか?」


 誰が来たかは未だに判明していない。


「あの、ひょっとするとルナさんかもしれません。寝室にあったから。ルナさんは忘れ物でもしたのではないでしょうか。でも、私たちには会いたくない。だから、こっそり入って、回収しに来た。それで、ボールを発見し、適当なところに置いた。ではないでしょうか?」


「ルナがそんな事をするとは思えないけど。まあ、そういうことにしておくよ」


 オレは肩をすくめ、フウカのその推理を採用した。いくつか指摘したいことがあるが、言い争うのも無駄な事なので、黙る。金品は盗まれていないから、とくに気にすることはない。でもまあ、セキュリティには今後気を付けるとしよう。


 オレはこのボールを元に位置に戻した。


 その後、夕飯を食べ、風呂に入る。そして、慧莉とテスト勉強をする。日付が変わり、眠くなってきたので、切り上げる。慧莉を寝室に案内する。フウカを一階に移動させる。


 そうして、オレは眠りにつくのだった。





 これは、余談となるのだろうが、少しお話しておきたいことがある。


 慧莉との勉強を終えて、フウカをリビングに戻そうと自分の部屋に戻った時だった。


「あの、セイイチさん、聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」とフウカがかしこまっていた。オレは、フウカが聞きたいことを予想できていた。


「高峰美雨という人は、誰ですか?」


 やはり、か。オレはそう言った。


 オレはベッドにこしかけた。フウカに背中を見せる。タロウが寄ってくる。タロウの首元をくすぐるようになでる。そうすると、逃げていった。ドアの前に座った。見張り役を買って出てくれているようだ。


 オレは、乾いた唇を舐めた。下唇をかむ。フウカの方に向き直り、話す。


「浩二郎。つまり、オレの弟の名前だが……」フウカが緊張したのが分かった。「そいつの、友人だな」


「あの……今日、浩二郎さんの部屋に入りました。その時に、写真立てを見てしまいましたが、彼の横に並んで立っていた人が、その高峰美雨さんなのですか?」


「オレは、浩二郎の部屋には入らないから、写真立ての存在は知らない。だが多分、そうじゃないのかな?」


「今まで一度も入ったことがないのですか?」


「一度も……って訳ではないが、あまり入りたく無いものだな」


 そもそも、両親の寝室も入らない。これはあいつらが生きていた頃の話だ。生前、入るだけで叱られたから。だが、今は大丈夫だ。


「セイイチさんは、あの日の事は後悔していないのですよね?」


「ああ。むしろ感謝しているからな」


「もしかすると、天がキチンと向き合えと差し向けてくださったのかもしれませんよ?」


「オレは、もう決着をつけている。フウカは、やはり、オレのこの考えには反対なんだな」


「はい、とも言えませんし、いいえ、とも言えません。ただ、セイイチさんの自己完結で終わってもよろしい問題なのでしょうか、と思うだけです」


「いいんだよ」


 オレはぶっきらぼうにいった。


「フウカは、親に会って話がしたいか?」


「それは……」


「結局のところ、フウカも自己完結しているんじゃないか? このままでいいと思っているんじゃないか?」


「……」


 フウカは口を一の字にする。何も言わない。


「確かに、そうかもしれませんね。その事は頭の中に意識としてきちんと残っているのに、それを見てみぬふりをしています。あっちのことではなく、こっちのことが、心地よいから」


「そうだな」


「ある意味、根本的なところが同じなのかもしれませんね」


 フウカはほほ笑んだ。


 フウカはオレの頬に手を添える。ひんやりしていた。フウカの体温が伝わる。目線を交わらせる。フウカはフッと笑った。それから手を離した。


「湿っぽい話をしてしまいましたね。話しにくいことを聞いて申し訳ありません」フウカはベッドから足を投げ出した。「リビングに連れて行ってください。セイイチさんも眠いでしょう? 明日も早いですから」


 オレはフウカを持ち上げる。車いすに乗せる。フウカをリビングに連れて行く。


「おやすみ」


 リビングでオレは言う。


「おやすみなさい」


 フウカは返した。


 オレは階段をあがり、自分の部屋に戻る。ベッドに入り、ふーと一息ついた時だった。


「ねえ。セイイチ」


 横からハナの声がした。オレが部屋を開けている間に忍び込んだようだ。オレと同じ布団に入っている。


 ハナはオレの手を握りしめる。額をオレの肩にピタリとくっつけた。ハナの温かい体温が伝わる。


「どうした?」


 ハナの息遣いが聴こえる。息がかかる。優しく、甘かった。


「一緒に、寝たい。だから、このまま。いい?」


 オレは薄暗い天井を見た。ハナがこんな事を言うのは初めてだ。今日の出来事を思いだす。ハナはハナなりに思う事があるのだ。


「セイイチ、今日は、迷惑、ごめんね」


「気にするな。いいんだ。もう終わった。他に謝る相手がいるだろう」


「見つかる、と、いい」


「明日も……いや、一応今日か。頑張ろう」


「ハナね、今回、わかった。もっと、みんなと、いたいって。だから、コトリ、も、いてほしい。……ルナも」


「……」


「一番は、セイイチ」


「……どうしてオレなんだ? どうしてオレを選んだんだ? たべなかったんだ?」


「わからない。ただ、初めて会った。その時、この人。そう思った」


「ハナは何でこの家に来たんだ?」


「血の臭い。それが、した」


「あー……」


「ハナ、もう一つ、恐い。ハナ、最初に、会ったの、セイイチ、違ったら、食べてたの?」


「それは、わからないよ。だけど、それでよかった」


「恐い。ハナは、ハナが、わからない。それが、恐い。


「オレはハナに会っていなかった自分を考えることが恐いかな」


「うー?」


「ハナに会って、それだけでオレは心が救われた。もしも、ハナと出会っていなかったら、ずっと世の中を憎んでいただろう。全てが敵だと思っていたままだっただろう。おまえに、出会えて、よかった」


「ハナも、そう。ううん。セイイチで、よかった。そう思いたい」


 ハナのこの言葉の真意は分からない。でも、オレもそうであってほしいと願うだけだ。


「セイイチ、ねむい。このまま……寝て……いい?」


「ああ。お休み」


「うん。ハナが、寝るまで、このまま」


「大丈夫だ。離したりはしない」


 オレは力強く、その手を握りしめるのだった。



一応、言っておきますが、私は殺人を肯定していません。

こんな風に書いていますが、当然ながら否定派です。

まあ、プロットが甘いのでしょうね。



次は、フウカのお話 続 になります。


7月9日の19時です。新キャラ! 


では。


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