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花は散り急ぐ  作者: 夏冬春秋
花は枯れることを知った郎女は何を思うか
26/48

ハナのお話 前

ハナのお話です。


今作は、日付けを決めております。

2015年のカレンダーを使用しています。


誠一郎のお話の「学校帰りのお話」は7月6日。それよりも前のお話は、7月1日~5日の中での出来事です。

ルナのお話は、7月8日です。誠一郎の学校のテスト2日目。

立石のお話は、7月9日。テスト最終日。

それで、今回のハナのお話は、7月8日からです(本当は7日からの予定だったが、面倒くさくなった)。中編も8日。後編は9日~12日。


いまさらですが、確か、前期後期制になってから、テストは夏休み明けての9月辺りにやるんでしたっけ? 忘れてしまいましたが、まあもうどうしようもないので、このままでいきます。


今回は、7月21日までのお話と予定しております。(本来ならば夏休みは実質7月18日からですが、話の関係上7月24日あたりまで引き延ばすつもりです)


とりあえず、こんな感じです。

ハナのお話



 まず、彼女について説明をしなければならない事がいくつかある。これからあげていく事はこれといって重要な事柄ではない。ただ、復習のようなもの。そう。おさらいのようなものだ。ハナという少女がいったい何者なのか。それはいずれ明かされていく事ではあるが、少なくともここではそのような事は話したりすることは決してない。ただ、今まで出ている情報を淡々と、適当にいくつかあげていくだけにすぎない。


 深くは考えなくてよい。そもそも、その必要性はどこにも見当たらない。ただ、「そういうものか」と軽い認識を持ってくれればそれでいい。


 まず、彼女は「ハナ」という名前だ。しかし、これは本名ではない。誠一郎がつけた名前だ。少女ははたしてどこの者なのか。正体は不明である。誠一郎と初めて出会った時の少女は記憶を失い、言葉も失い、不完全な幼子だった。まるで、ただ泣くことしか認知していない生まれたばかりの赤子のように。「人を食べる」ということだけを本能に書き込まれていただけにしか過ぎなかった。


 しかし、だ。人を食べる行為が本能としてあるようなのに、誠一郎だけは食べなかった。むしろ、いう事を大人しく聞く(時々命令を無視したりして勝手はする)。誠一郎とハナが出会ったのは、死が充満している異様な部屋の中だ。そこで唯一生きていた誠一郎と対面し、普通は捕食すると思いきや、そんな事はしなかった。初対面にもかかわらずに、一目惚れをしたかのようになつくのだった。誠一郎も、そこでハナにたいして大層に深謝することになるのだが、これはまた別のお話だ。


 ハナは骨まで砕き、それを食する。これはハナの異常な顎の力と食欲によるものであろう。しかし、そんな少女だが、頭蓋骨は残す。まるで宝物をしまうかのように。注意を受ければそれを食べるが、それ以外では、必ず残す習性を持つ。


 このように人外を疑うかのような少女だが、見た目は普通の少女だ。十歳ぐらいの幼さが残る可愛らしい女の子である。傍から見れば、あくまでも普通なのだ。しかし、いざ少女と関わりを持ったりして、深くまで進んでいくとその異常さに畏怖することになる。だが、これまでに少女を知った人は少女の手によって食い殺されているか、その存在を認めている者しかいなく、畏怖という怖れを感情に現す者はあり得ないのだ。


 何故、少女は人を襲うのか。少女はどこから来たのか。少女が持つ謎の力と能力はなにか。


 その疑問を解く者が一人現れた。とある仮説を提唱し、それをつきつけた。しかし、あくまでも仮説にしかすぎず、それの信憑性は未だ不明である。


 少女の正体は地球外生命体ではないのか。そういったものである。


 はたして、これは本当なのか、それは、まだ誰にも分からない。





「タロウ! わん! して!」


 ハナが犬に向けてそう言うと、犬は「ワン!」と吠えるのだった。尻尾を激しく横に振りながら。ハナは「よくできた」と頬ずりをする。犬はハナの顔を舐めまくり、顔を唾液まみれにする。ハナは喜びを得ていた。嬉しそうに犬のそれを受け入れるのだった。


「タロウはずいぶんとハナちゃんになついているね」


 フウカはそれを微笑ましく眺めていた。


 タロウというのが、この犬の名前だ。首輪にそう名前が刻まれていたからだ。最初はハナが名前の候補をいくつかあげていた。例えば、「ルーク」とか「リム」とか「イチロー」など。様々な案を出していたが、それも無駄になった。名前決めを、頭を捻って楽しそうに考えるハナの姿を知っていた誠一郎たちは、気の毒そうに思っていた。本当の名前を知った時のハナの落胆ぶりときたらそれはまあすごかった。積み上げてきた積木がちょっとした拍子に全て崩れ落ちしてしまい、そこから台無し感を深く味わいしばらく何も考えられないような放心状態に陥るような事態だった。


 しかし。ハナの立ち直りは早く、自分が考えていた名前を、紙を破るようにして捨て、「タロウ」という名前をそこへ書きなおしたのだ。


「にたものどうしだからじゃないか?」


 コトリが頬杖をついて、見守っていた。喋った後、足を投げ出して、フウカの胸のあたりに後頭部をおしつける。白い天井をぼんやりとながめ、深いため息をついた。


「ため息をつくと幸せが逃げるよ?」


 フウカはコトリの頭を優しく撫でながらそう言った。


「シアワセなんてものはないさ。とか、言ってみるけど……あーあ。眠い」


 コトリはため息まじりにそういった。


「眠ることが出来るっていうのも、一つの幸せだよ?」


「まあ、セーリテキヨッキュウの一つだしね。とーぜんだ」


 フウカはコトリを持ち上げ、ぎゅっと抱きしめた。頬をよせて、ハナのようにすりすりと頬をこすり合わせる。


「やめろって」


 コトリは言葉ではそういっているものの、抵抗はしていなかった。


「コトリ! あそぼ!」


 そうしていると、ハナが手招きしていた。コトリは「は?」とハナを威圧していた。しかし、その程度ではハナを物怖じさせるなどできもしないことだった。ハナはひょいとコトリを掴むとタロウの背中に乗せた。


「おい。フクにケがつく」


「いいの!」


「よくないよ!」


 コトリはぶつぶつと文句を言いながらタロウから飛び降りる。服についた毛を払い落とし、小さな足幅で歩く。


「ねえ。ゲームしよ!」


 ハナがみんなにそう提案する。


「いいよ。なにをしましょうか」フウカがうなずく。


「もう。ねむいんで」コトリは首を横に振る。


「お外、でようよ」


「だめだよ。セイイチさんの許可なく外出はいけないって何度も教えられているでしょう? 勝手に出ていったら、怒られるよ。セイイチさんはお昼には帰ってくるから、それまでは家だよ?」


 誠一郎は学校へ行っている。テストという事もあり、帰宅が早くなるのだ。


「えー。いけずー」


 ハナは頬をいっぱいに膨らませた。頬に二つの瘤ができたみたいだった。


「あたしは、とりあえず、パス」


「コトリ、寝るように、なったら、つきあいわるい」


「つきあいがわるいのはもともとだよ。そんなのはカンケーないない」


「まあまあ。少し位ならいいでしょ?」


「……」


「ハナちゃん、お家のなかで遊ぶとして、なにして遊ぶ?」


 ハナは目線を上にあげる。人差し指をあごにチョンと当てて、うねりごえを出す。


「かくれんぼ!」


「はい。キャッカ」


 ハナが言った後すぐにコトリが意地悪をするように拒否した。


「どうして?」


 ハナが尋ねると、コトリはすぐに理由を述べ始めた。


「まず、ゼーインさんかとしても、フウカはかくれるのがむずかしいことと、ハナがおにとして、キュウカクをたよりにしたら、しょうぶにならないし、なによりも、あたしはやりたくない」


「そっか。じゃあ、コトリが、鬼ね」


「なにが「じゃあ」だよ。そもそも、こんなひろいイエでさがすのはほねがおれる」


「そっか。じゃあ、フウカが鬼で」


「ひとのはなしをきけ」


「でも、ハナ、遊びたい」


「いぬとたわむれてろよ」


「まあ、まあ。コトリちゃんも落ち着いて」


 フウカは車いすを動かす。タロウのところでとまり、タロウをなではじめた。


「この子も忘れないでね。タロウも一緒に遊べるようにした遊びをしよう?」


「それ、なに?」


「宝探しゲームとかはどう?」


「たからさがし?」


 ハナが小首を傾げる。


「そうそう。誰かがどこかに、たとえばボールをかくして、それを探しあてるゲーム。ハナちゃんやタロウがその優れた嗅覚を頼りにしてお宝を探すというのは、このゲームを盛り上げる一つのスパイスだと思うよ」


「まあ……だったベツにかくれんぼでもいいようなきがするが……まあ、いいや。いいんじゃない? ならあたしがかくすやくやればねむれるね」


「いいよ。やろう」


 フウカの提案により、そういう遊びをすることになった。誠一郎が帰ってくるまでにハナが外へ出ないようにする暇つぶしとしては十分なものであろう。


「どうやら、コトリちゃんが隠すのをやりたいみたいだけど、どう?」


「いやだ。ハナ、隠す」


「そうすると、アレだぞ。さがすことができなくなるぞ?」


「どうして?」


「いや……え? ……。なんか、メンドくさい。フウカ、よろしく」


「え? 諦めないでよ。まあ、ハナちゃん。他人に見つからないように物を隠す、または探せと鼻を高くしている人の鼻を折るようにそれを見つける、というのがこのゲームの醍醐味なのだから、両方ともその役をやってはつまらなくなるよ」


「ふーん……わかった!」


「ゼッタイわかってないだろう……」


 コトリはため息まじりにそう言うと、ヤレヤレと頭の後ろで手を組んだ。


「隠すものは何にする?」


「テキトーなものでいいだろう。それこそボールでいいだろう」


「うーん。まあ、そうだね。ちょうど、野球のボールがあるし、それでいいよね。じゃあ、問題は誰が隠すかだけど……」


「あたしでいいよ」


「ハナも、それで」


「お? いいのかい? あっさりとおれるなんておまえらしくないな」


「どちらかといえば、さがしたい。だから」


「ふーん……。そっか」


「ジャンケンで決めてもよかったかもだけど、ハナちゃんもコトリちゃんもそれでいいというのなら、いいよね。ところで、二人一組でチームを組んでやってみるのはどうかな? コトリちゃん一人では動きにくいだろうしね」


「なら、フウカとくむよ」


「えー。それ、ハナ」


「うーん……」


 フウカはどうするか悩んだ。


「ハナが、やる」


 ハナはコトリを掴むと、タロウの背中の上に跨らせた。コトリは毛がつくと怒った。ハナは、タロウと組んでという。コトリは少し荒げた声で「なんでだよ。ジブンカッテだな」と怒った。


「まあまあ。二人とも落ち着いて。くじ引きでもして、メンバーを決めよう。それで文句はなくなります」


 フウカは仲介に入り、二人をなだめようとする。コトリは息を吐いて、怒りの矛を収める。


 フウカは一安心し、くじをつくりはじめる。そして、ハナとコトリ、それと自分がそれを引き、チームを決めた。


 結果として、ハナとフウカ。コトリとタロウ。このメンバーに決定した。


 コトリは何か言いたそうだったが、口を噤んでいた。そして、もう、諦めたのか、タロウの上に自ら跨る。


「じゃあ、かくすけど。しばらくまってろ」


 コトリはタロウに前へ進むよう指示する。そして、コトリはリビングからいなくなった。


 リビングにはフウカとハナの二人が残された。


 フウカはハナを見る。ハナはわくわくしていた。コトリがどこに隠すか。それとどうやって見つけるか。それが楽しみで仕方がない様子だった。


 フウカはハナに注意をしてあげようと考えた。でも、この様子でそうするのも野暮な気がしてきた。だけれども、一応言っておいても損にはならないと判断し、いう事にした。


「ねえ、ハナちゃん。自分勝手にコトリちゃんを振り回すのはよくないよ?」


「振るの、楽しいよ」


「多分、ハナちゃんが想像しているものとは違うものと思うけど、とにかく、コトリちゃんの事も考えないとダメだよ。自分ばかりが良いのではなくて、相手も良いと思ってくれるように、行動しなければいけないよ」


「うー? でも、ハナは、楽しい。だから、コトリも、楽しい」


「うーんと、だから、ハナちゃんが楽しいと思っている事が、必ずしもコトリちゃんも楽しいとは限らない……ですよ?」


「どうして?」


 ハナは疑問を投げる。


「じゃあ、ハナちゃんが大好きなお肉を私が全部食べました。それで、ハナちゃんはどう思う?」


「フウカは、食べられないよ?」


 真面目な顔をして返した。


「じゃあ、セイイチさんが全部食べてしまいました。それなら?」


「うー。少し、嫌。ハナも、ほしい」


「食べて満足できたのはセイイチさんだけで、ハナちゃんは満足できないでしょ?」


「うん。セイイチは、ハナと、一緒に、肉を、食べるべき」


「お肉を、他人に分けてあげて、楽しさや満足さを共有するというのが、大事だよ。でも、もし、セイイチさんが好きなものだけどハナちゃんが嫌いな梅干をハナちゃんに分けたら?」


「それは、満足できない。楽しくない」


「他人から貰ったものが必ずしも自分の好きなものとは限らない。ハナちゃんがコトリちゃんにしていることはそれと似たようなもの。わかった?」


「なんとなく」


 しゅんとして、口をとがらせて言った。フウカは、大丈夫かな? と不安な部分もあったが、少しでも分かってくれている、と信じて、その場を終えた。


「そろそろ、コトリちゃんも隠し終えているかな?」


 フウカは車いすを動かす。そして、コトリを呼んだ。すると、コトリは「はいはい」と言って、ドアを開けた。


「もうかくしたよ。じゃあ、あとはテキトーにさがしてくれ」


 コトリはフウカに部屋に運んでくれと頼む。フウカはその通りにする。コトリはベッドに横になる。


「ハナちゃん」


 フウカはハナに合図する。探す前にコトリに何かいうべきではないか、と。ハナはフウカの考えを読み取り、コトリに話しかけた。


「コトリ、ごめんね」


「え?」


 コトリはポカンとしていた。


「へんに、つきあわせて」


「……ど、どうした……?」コトリはフウカを見た。「……。なるほど。まあ、いいよ」


「ハナの、肉、わけてあげる」


 ハナはニッコリと笑いながら言った。


「なんのはなしだよ」


 コトリは首を傾げた。理解が出来ていなかった。


 フウカは「うーん」と頭を捻った。自分の言い方が悪くうまく伝わっていなかったのか、ハナはちゃんと理解をしていたが、それをうまくコトリに伝えられていないのか、を判断しようとするが、なかなか難しかった。


「それじゃ、フウカ、探す」


「わかりました」


 ハナはフウカの車いすを動かす。


「それじゃ」


「コトリちゃん。お疲れ様。ゆっくりお休みになってね」


 コトリは片手をあげて、寝息をたてはじめた。


 そうして、コトリとタロウが隠したボールをハナとフウカが探し始めるのだった。





「ハナちゃん、匂いでわかる?」


 フウカはハナに確認する。ハナは犬のように地面を嗅いでコトリたちが辿った道を探していく。


 ハナはまずここ。と部屋の中に入る。フウカはその後を追って部屋の中に入った。その部屋は一階にあり、応接間だ。


 誠一郎たちはこの部屋を一切使っておらず、埃がたまっていた。ハナ曰く、この部屋にコトリとタロウの匂いがするという話なのだが、ボールは見当たらなかった。ただ、匂いを残すために寄っただけでここに隠したというわけではなかったようだ。


 フウカはテーブルに指先を沿わせる。ツーと。そうすると、埃が指先にべっとりとついた。フウカはそれを払う。そして、掃除をしなければならないなと感じた。でも、自分はそんな事が出来ない。いや、埃を払うことぐらいはできる。フウカは、この遊びが終わったら掃除をすることを決める。


 誠一郎は多分何も言わないだろう。そもそも、滅多に使わない所なのだから。


「ハナちゃん、次の所探しに行こうか?」


「うん」


 ハナは頷いたあと、くしゃみをする。鼻を啜る。フウカがティッシュを取り出して鼻をかませる。ハナはすっきりした顔を浮かべた。


 フウカたちは一階の中を探す。だけど、見つけられなかった。それならば、二階にあると決めて、そこへ向かう。


 だけど、問題があった。フウカは二階に上がれなかった。どうしたものかと考える。ハナにおんぶしてもらえればいい。そういう考えに至った。フウカがそう言う前にハナは行動した。


 ハナは、いったいどうして、車いすごとフウカを持ち上げたのだ。フウカは小さな悲鳴を上げた。そして、ハナは飛んだ。


 この家は玄関の前に階段がある。そして、廊下が吹き抜けとなっており、ジャンプすれば、二階の廊下に辿り着ける。だけど、三メートル以上あるその高さに誰もが挑戦しようとしない。しかし、ハナは無謀にもそれをチャレンジするのだった。しかも、フウカと車いすを抱えながら。


「はい!」


 ハナは飛ぶ。すごい跳躍だ。軽々と手すりの上に足を乗せた。そして、投げるようにしてフウカを廊下に置く。フウカは、「乱暴しないで」と叱る。


 フウカは叱った後、ハナに感心した。身体能力のすごさに。それは前々から知っていたが、ここまでとは思いもよらなかった。


 ハナの身体能力は前から優れていた。でも、初期の時。三か月前に比べると、右肩上がりにそれが上昇している。初期の頃はジャンプをしても、そこまでで、しがみついて、ようやく二階に上がれる程度であったのに、何十キロという重りを持ちながら、それを悠々と飛んでしまうというスゴ技をみせるのだ。


 言語能力も前に比べるとあがっている。ボキャブラリーも増えている。フウカは、ハナの成長を嬉しく思った。見た目も変わってきている。三カ月の間で、一年以上成長したような感じで。


「あまり、こういう事はしちゃ駄目だよ」


「たぶん」


「まあ、気を付けてね」


「はい! それで、こっち。匂いがする」


 ハナは右側を指さした。そちら側は、誠一郎の部屋とは逆にあった。ルナが使っていた部屋(誠一郎の両親の寝室)と弟である浩二郎の部屋がある方向だ。


 二人はその部屋を探す。まず入ったのはルナが使っていた部屋だ。そこは閑散としていて、寂しい雰囲気だけが取り残されていた。今は誰も使っていない。だからこそ感じる哀愁なのかもしれない。


「あるのかな?」


 フウカはクローゼットや机の引き出しの中を探していく。ハナも似たような感じだ。


 とりあえずくまなく探しては見たが何もなかった。


「それじゃあ、次の部屋」


 今度は、浩二郎の部屋へ向かった。ここも今は誰も使っていない。封印された部屋。そこへ侵入する。


 フウカは、薄暗い部屋を明るくさせる為に電気をつけた。かびた様な臭いがする。とりあえず、探してみた。本が沢山あった。漫画本などは一切なく、参考書などが本棚にずらっと並んでいた。四つしたとフウカは聞かされていたので、そのぐらいの歳の子にしては味気がない部屋だなと感じた。


 フウカは適当に一冊を取り出す。埃がたまっていたのでそれを払う。そして、パラパラとめくる。黄色いマークが引いてあったりや、覚え書き、説明などもかかれていた。


 フウカはそれを元に戻そうとすると、あることに気がついた。奥に何か本があった。フウカはそれを取り出す。そうすると、漫画本があった。なるほど。と思った。このようにして親に隠して集めて読んでいたのか。と。よく今までばれなかったなとも思った。親の教育は厳しいと聞いたから、本棚の隅から隅までチェックが入りそうなものだが。いやはや。


 フウカがそんな事をしているとき、ハナは机をあさっていた。ここにコトリの匂いがしみついていたので、ここではないかと考えた。


 ハナは、机の上に置いてあった写真立てを眺めた。その写真立てはブラウンの木製の額縁だ。二面があり、本が開いているように、写真立てが開いており、両面に一つずつ写真が飾られている。一つ目の写真(左側)には誠一郎に似た少年が写っていた。幼く、子供特有の可愛さが残っていた。女の子とのツーショット写真。小学校一年の時の入学式の写真のようだ。笑顔で、写っていた。もう片方には、片側の写真より成長した姿が映し出されていた。こちらの方が誠一郎の面影が色濃く写っていた。集合写真のようだ。八人の友人と仲良く写っていた。浩二郎の隣には、多分、片側の写真と同じ女の子だろう。その子と、肩を並べていた。


 ハナはそれをマジマジと眺めている。自分が食べた人間がそこに写っていたからだ。しかし、特にどうも思わなかった。それは今も昔も。なんも変わらない。


 ハナは、もしも最初に出会ったのが浩二郎だとしたのなら、こちらの方に信頼を寄せて、今の誠一郎のように慕っていたのだろうかと考える。でも、そんなことは分からなかった。そんな「もし」を考えるのが面倒くさくなったからだ。


 ハナは、そういえばどうして誠一郎を慕うようになったのか考え始める。しかし、答えに辿り着けなかった。ただ、あの時は自分の求めているモノに近いモノを選んだにすぎない。それがどういう意味か。彼女はまだ知らない。大切なモノのようで、でも、そこまで重要でもないような。そんなものか。いや、重要ではなくはない。ただ、なんと言ったらいいのか……。かみ合うような言葉が見つからない。しかし、それはどうでもいいことである。それこそ、重要ではないのだから。


 ハナは、あの男の言葉を思いだす。先月に会い、そして食べたあの男の事を。ハナは結局のところあの男の願いは聞き入れなかった。そもそも、食べるのだから、言う事を聞く意味がなかった。


 ハナは、ここで、ど忘れしてしまう。自分は、何を結び付けようとして、あの言葉をふと頭によぎらせたのかと。しばらく考えるが、後程どうでもよくなり、すっかり忘れてしまった。頭の中を空っぽにする。重いものを頭の中に入れるのは大変疲れる事。だから、軽くするために、重いものをすてて、軽くする。


「フウカ、ここ、違う」


「うん。わかった。じゃあ、残るはセイイチさんの部屋だね」


 二人は、そうはなし、この部屋から出ていった。




 ハナとフウカは誠一郎の部屋へ向かう。フウカは誠一郎の部屋に無断で入るのはいいものかと悩む。まあ、どの部屋もそうなのであるが、今現在ここで暮らしている人の部屋へ入るのは少し勝手が違う。その人のプライベートを黙って覗き込むような真似はよろしくはない。そう考えている。


「ここ、匂いする。コトリの。タロウの」


 ハナはお構いなくは言っていく。フウカは、ただ部屋を見るだけなら問題は無いだろう。そう思って、ハナの後に続いた。


 部屋に入り、まずフウカが思った事は、汚い。だった。衣服や、ごみくずが部屋に散らばっていた。ずぼらな人の一人暮らしを見ているようだった。


「掃除ぐらいはちゃんとしましょうよ……」と、フウカは嘆く。


「うー? でも、いつも、きちんとしてる。朝も、綺麗」


 ハナは誠一郎を毎朝おこしに行っている。だから、誠一郎の部屋を毎日見ているわけだ。そのハナが、そういうのだから、普段はキチンとしているのだろう。すくなくとも、朝まではそうだったのだろう。


 しかし、現段階部屋が散らかり放題。それの意味する事は大体一つしかないとフウカは考えた。


「コトリちゃん……」


 ボールを隠す時にコトリがこの部屋に入り、そして、ちょっとした悪戯心でそんな事をしてしまったのだろう(もしくはゲームを盛り上げるため。そうでなければ純粋に嫌いだから日ごろの怨みをぶつけたか)。そう推理した。


「仕方ありませんね。片付けでもしてあげましょう」


 フウカは、ため息をひとつついて、床に散らかったゴミや衣類を片付け始めた。


「ドーン!」


 ハナが突然に暴れだした。ベッドにダイブしたかとおもったら、ゴロゴロ転がり始め、布団を投げ始めた。そして、シーツを引っぺがした。


「散らかしたらダメでしょ!」


 フウカは叱る。ハナは無邪気にこう答える。


「コトリが、散らかした。だったら、ハナもやる!」


 無茶苦茶な理論を展開する。フウカはあきれてものも言えなかった。


「さっき言った事をもう忘れてしまいましたか」


 ため息を大きくついた。あとで、コトリとまとめて叱らなければならない。


 フウカは一生懸命片付けようとするのだが、ハナがそれ以上に散らかして、片付けれらない。


「もう! ハナちゃん。散らかすのが目的じゃないよ」


「うー?」


 フウカの一言でハナはハッとさせられた。どうやら、散らかすことに手いっぱいとなり、本来の目的をど忘れしてしまっていたようだ。


 フウカは散らかしたぶん、片付けようと言う。しかし、ハナは「えー」と嫌な顔をしてやりたがらない。しかし、折れたのか、しぶしぶ片付け始めた。


 フウカは一息ついて、自分も片付け始めた。そうすると、外から自転車がとまる音がした。誠一郎が帰って来たのだ。


 フウカは混乱する。誠一郎がこの部屋の惨状を見たらなんというか……。


 ハナは誠一郎が帰って来たことに気がついて、部屋を飛び出した。フウカはその後を追っていく。呼び止めるつもりだった。


 しかし、フウカはある失態を犯した。慌てていたためか、気がつかなかった。自分一人では階段をおりられないということを。だから、ハナが駆け下りるなか、フウカは階段をいきおいよく飛び出して、転がり落ちていく。悲鳴をあげて。ドタンドタンと。ハナはびっくりする。フウカをかわして、しりもちをついた。


 誠一郎が家に入る。そして、その光景を目の当たりにする。誠一郎も、驚いた。いきなりフウカが階段から転げ落ちてきたのだから。


「大丈夫か?」


 誠一郎は急いで靴を脱いでフウカへ駆けよる。遅れてハナも。


「大丈夫です」


「いや、大丈夫じゃないな」


「え?」


「いや、腕も脚ももげているじゃないか」


 誠一郎に言われて気づいた。自分の四肢が自分の体に繋がっておらずに、あちこちに転がっていた。


「フウカ?」


 ハナは、それを拾って、誠一郎に渡す。


「まあ、縫ってやるよ。ところで、何で二階にいたんだ?」


「ちょっと……遊んでて」


「ハナ、フウカ、運んだ」


「そういうことか。しかし。車いすは使えるかな?」


 誠一郎は倒れた車いすを起こした。少し変形しているが、多分、大丈夫だろう。フウカを抱きかかえてリビングへ持っていく。


 リビングに入るとタロウが誠一郎を出迎えていた。誠一郎は「ただいま」と言った。

「コトリは?」と、コトリの返事がなかったのでフウカにそう聞いた。


「お昼寝中です」


「え? コトリって眠れないんじゃ……?」


「幽香さんの一件以来、眠るようになったのです」


「初耳だぞ」


「ハナ、知ってた!」


「じゃあ、知らなかったのはオレだけかよ。あれから一週間以上経っているって言うのに」


「セイイチ、知らないの?」


「ああ。ふーん……。まあ、そうか。フウカも、コトリのように段々と元の生活に戻ってくるかもな」


「そうだといいですけど」


 フウカははにかんだ。


 誠一郎は慣れた手つきでフウカの身体を縫い合わせていく。雑談を交えながらやっていく。途中、ハナが、お腹が空いたと嘆く。誠一郎はそれをなだめる。


 フウカは、誠一郎の部屋の惨状について話しておくべきか迷った。だけれども、まだ言えずにいた。


 縫い終わり、誠一郎は着替えをしに二階へ向かおうとした。フウカは慌ててそれを止めようとする。怪訝な顔でフウカを眺める誠一郎にフウカは戸惑い、結局何も言えなかった。


 誠一郎はどうしたのだろう? と疑問に持つ。そうして、二階へ向かった。その時にようやく気がつくのだった


 誠一郎は「どういうことだ」と駆け下りる。そして問い詰める。


「あの……すみません」


 フウカが謝る。ハナは知らん顔。


「ちょっと正座しろ」


 誠一郎の説教が始まる。経緯などを聞いてから、コトリを叩き起こす。そして、三人を同時に叱るのだった。


「というか、コトリ。なぜ、散らかしたんだよ」


「なんとなく」


「なんとなくで散らかされたら困るんだよ」


「はいはい」


「いや、お前な……」


「せ、セイイチさん……落ち着いてください。提案したのは私ですから、コトリちゃんばかり責めないでください」


「いや、言うてもな、散らかしたのはコトリだろ。あと、便乗したハナ」


「うー。コトリ、散らかした。だから、ハナもやった。だから、コトリが、悪い」


「そういう事じゃないんだよ。よし。わかった。ハナは昼飯抜き」


「えー!」


 ハナは嫌だと猛抗議する。


「ざまあ。ま、たべられないあたしにはカンケーがない」


「なら、コトリは一日箱に閉じ込めとくとするよ」


「あ? ちょっとまてよ。ごうもんだろそれ。ふざけるなよ。ハナのほうがまだラクじゃないか」


「張本人のお前が言うか。しょうがない。半日で許してやる」


「いや。それでもじゅうぶんサイアクなんだが……」


「だからこそ罰になるんだろうが」


 誠一郎はコトリをつまみあげる。暴れるコトリを抑え込む。そして、段ボールの中に押し込んだ。箱の中で精一杯に暴れていた。そして、叫んでいた。


「フウカは……あまり必要ない気がするが、まあ、テレビ禁止で」


『ち、ちょっとぬるくないか?』


 箱の中のコトリがそういう。


「うるさい」


「はい。わかりました」


「セイイチ。ハナ、お腹空いた」


「ダメだ。夕飯まで我慢しろ」


「嫌だ!」


「まあまあ。ハナちゃん。ご夕飯は食べられますから」


「いや、そういう問題じゃない気がするが」


「……」


 ハナは一言もしゃべらなかった。肩を落として、部屋を出ていった。その後をタロウが追うのだった。



 ハナは一階の応接間の隅でうずくまっていた。どうして、自分が誠一郎に罰を与えられたのかがまだ理解できていなかった。ただ、自分はコトリがやっていたことを真似しただけ。それだけなのに、何故だろうか。


 お腹がぐーとなる。ハナは腹を抑えた。「昼、食べたい」と呟く。


 空腹感と言うのがハナは嫌だった。満たされない。その感情が強く出るからだ。


 食べれば簡単に満足できるからそれ程苦でもないかもしれない。


 だけれども、満たされないものほど、もどかしく悔しく嫌悪なものはない。


 ハナが体育座りで落ち込んでいると、そこにタロウがやってきた。ハナを心配しておって来たのだ。ハナの横にちょこんと座り、ぺろぺろ顔を舐める。


 ハナは、タロウを流し目で見る。それは冷たい目だった。


 そういえば、自分は犬を食べたことがある。と追想する。記憶に残る中で最初に食べたのは、人間である。その次に食べたのが犬だ。誠一郎が用意してくれたものだ。しばらくはそれで我慢していた。


 ハナは、過去を重ね、タロウを見るのだ。


 タロウは、そんなハナの不穏な雰囲気を察したのか、舐めるのをやめ、警戒を始めた。


「食べたい……」


 ハナは、そう呟いた後、ハッとする。違う。と気づいた。


 ハナはタロウの頭を撫でた。


 そう。思いだしたのだ。自分が本当に食べるべきなのは、犬ではない。ということを。


 その理由が何を意味するのか。ハナは理解できないが、それでも、タロウの命を救うには十分な理由だった。


「うー。ありがと」


 ハナは、タロウが自分を心配してくれている。それを今になって気づいた。そして、お礼を言う。


 そういえば、何で、自分はタロウを飼いたい。そう思ったのだろうか。ふと疑問に思う。


「ねえ。タロウ、どうしてだと思う?」


 ハナは、話しかける。


 しかし、タロウは何も答えない。


「そっか。ハナもね、わからない」


 沈黙が流れる。


「……。セイイチ、あれダメ。これダメ。そればっか。ハナ、好きな事したい。でも、ハナ、セイイチ、いないと、ダメ。どうしたらいい?」


 タロウは何も言わない。


「見てほしいな……」


 ハナは、タロウを抱きしめた。


「あ……」


 そこで、閃いた。


「内緒で、散歩、いこう」


 タロウは、散歩と言う単語をどんな意味なのか理解できているのか、尻尾を激しく振って「わん」と吠えた。


「うん。コトリも、連れてく」


 ハナは立ち上がった。そして、出ていく準備を始める。


 部屋を出る。リビングに恐る恐る入る。誠一郎は二階にいるようで、そこにはフウカと段ボールに詰められたコトリだけだった。


「ハナちゃん。どうしたの?」


「……」


 無言で、段ボールを開け始めた。フウカはそれを止めようとする。しかし、出来なかった。


「ハナ? どうしたん?」


 コトリは外に出られた解放感を得られる前に、困惑を得た。


 ハナはにっこりと笑う。そして、飛び出していった。


 玄関を開けて外に出た。タロウのリードを引っ張り、コトリを乱暴に持ちながら。





「おい、ハナ。おまえなにしてんの?」


 コトリが、呆れた風で言った。


「散歩!」


 笑いながら言った。


「いや。それはしっているよ。ただ、なにかってなことをやっているのかってきいてんの」


「うー? 勝手、違う」


「どこがだよ。キチンとわかるようにセツメーしてくれ」


「えっとね。セイイチ、ダメ。言ったから、コトリを、やれば、困る。だから、タロウを連れて、散歩してるの」


「ゴメン。あたしがわるかった」


「えっへん。認めた」


「いや。……まあいいけど。あのさぁ、ジブンがなにをしたかわかっている?」


「散歩」


「ゴメン。あたしがバカだった。いちおうな、あたしだってハンセーはしているんだ。だから、あまんじてあのハコにはいってた」


「そうかな?」


「そうだよ。だから、あんたも、おしおきはうけるべきなんだよ。それなのに、こんなことをして……。それがダメなんだよ。ジブンカッテ」


「うー。コトリにいわれたくない」


「はいはい。そりゃ、あたしもひとのこといえないよ? だけど、すくなくともいまのあんたよりマシだ。ひとりでのがいしゅつはキンシされているし。それにくわえてあたしとタロウをソトへつれだしたんだぞ? セーイチローのいうことをがんムシじゃないか」


「うー。でも……」


「でももヘチマもない。そもそも、イッショにがいしゅつするほどあたしたちはなかよくないでしょ?」


「それは……コトリだけ。ハナは、イイと思う」


「あっそ。はやくもどろーぜ。あたしはいえにいたいの」


「外へ、でたくないの? いってたよ? コトリは」


 ハナは、最初にコトリが言っていた言葉をここで言った。


「あれは……。なんか、イミがちがう」


 顔をふさぎ込ませて言った。そして、首をふった。


「?」


 ハナは、どういうことだろう? そう疑問を浮かばせ、首を傾げた。


「まあ、いいじゃん」コトリは、話をおいておく。「それで、かえろうぜ」そして、話を元に戻した。


「やだ。帰らない」


「なぜに?」


 ハナは、ふくれっ面になる。コトリはやれやれと肩をすくめた。


「セーイチローおこってるぜ」


「ふーんだ」


「……あっそ」


 コトリは、ハナの心理を読み取れないでいた。だから、もう面倒になり、それを諦めた。


「で? どこまでいくんだい?」


「どこか、遠く」


「かえりたいなぁ」


「ハナと、タロウと、遊ぼう!」


「それがいやなの」


 ハナはコトリを持ち上げた。コトリは、今までタロウの背中に跨っていた。それをハナが取った。コトリは、下ろせと言う。でも、ハナはいう事を聞かずに走り出した。


 風を切っていた。ぐんぐんと風を追い越していく。ハナは無邪気に笑いながら、走り続ける。疲れは知らないようだ。ハナは体を動かす気持ちよさに虜になっていた。しかし、そんなハナをよそにして、「きもちわるい」とコトリが悲鳴をあげていた。


「あ!」


 ハナはあるものを見つけたようだ。ハナたちは河川敷を疾走していた。そこで何かを発見したようだ。


 急ブレーキをかけたことにより、タロウが止まれなかった。そして、ハナはその勢いに負けて、転んだ。そして、緩やかな傾斜を転がるのだ。


「アハハ!」


 ハナは転がりながら笑っていた。それを楽しんでいたようだ。そして、転がるのが終わると、勢いよく立ち上がり、傾斜を登り、もう一度同じことを繰り返す。どうやら、はまったようだ。服に草が沢山ついていた。土もだ。服の汚れをまったく気にしないハナは、無邪気にはしゃぐ。


「あ」


 ハナはそういえばと思いだす。面白いものを見つけたことを。それは、ただの蝶々であった。黄色い羽を持った小さな蝶々を発見し、ハナは立ち止まったのだ。見つけた所へ駆けつけたが、見当たらなかった。逃げてしまったのだ。


 ハナはがっくし、と肩を落とした。


「あーあ。残念。コトリ……?」


 ハナは、ここでようやく気がついた。自分がしでかしたことに。


 コトリがどこにもいなかった。ことりだけではなく、タロウも。コトリは、転んだ拍子にどこかへ飛んでいってしまったのだろう。タロウは、リードを離してしまったから、それで逃げ出してしまったのだろう。


 ハナは困惑する。そして、自分がしてしまった事の重大さに気がついた。気がついて、狼狽する。目をぱちくりさせ、気が動転する。


「どうしよう……」


 ハナは、指をかむ。それはしゃぶる形になる。そして、蒼白になった顔であたりを見渡す。


 コトリを探してもどこにも見当たらない。ハナはパニック状態に陥り、正常な判断が出来ていなかった。


「どうしよう」


 ハナは、もう一度呟いた。冷や汗をかく。


 そして、その場に座り込み、頭を抱えるのだった。


どうも。

最初の方長く書きすぎた。その所為で、前中後になってもうた。


まだストックは溜まっていませんが、とりあえず出します。


次は6月30日の16時となります。

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