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花は散り急ぐ  作者: 夏冬春秋
花は枯れることを知った郎女は何を思うか
22/48

あの日の後のお話

「されど月影の色を知る」の続きのお話です。


また加筆しました。たびたびすみません。

「やあ」


 オレ達が山から下りて、神社を出ようとした時だった。ルナが、立っていた。そして軽い声で話しかけてきた。


「どうしてここに?」


 オレは驚いた。ルナは家にいるはずだったからだ。


「悪いわね。聞かせてもらったわ。別にフウカは責めないでね」


 フウカに聞いてここまで来たようだ。


「それと、さっきの山でのやりとりもね」


「……」


「私に隠していたのね。そのハナの事を」


「いや……」


 オレは返答に困った。どのようにして切り抜ければよいのか考える。


「しかし、それにしても驚いたわ。まさかハナがそんな事をするなんて……」


 ルナは歩きだした。歩きながら話をするつもりのようだ。


「初めてではないわね。人を襲ったのは今月で……今回合わせて三回目ね」


「どうしてそれを?」


「臭いでね。時々、同じ匂いがしたの。私とセイイチロウが初めて会ったとき、貴方は血を出していたわね。口の中が切れていた。その時の血の臭いが、時々ハナの口から臭ったの。貴方の時とは比べられないほどの。私はその時から疑念を抱いていた。もしかすると、と。そして案の定ね。死体だけど人を食べた」


「ルナ、おこってる?」


「どうでしょう?」


 ルナはニッコリと笑った。


「この星の……どこでも共通することだけど、殺す、というのは犯罪よ。でも、あることは許されているわ。それも共通している事。わかるかしら?」


「いや……」


 オレはコトリに聞いてみる。しかし、コトリも分からないようで首を横に振った。ハナも当然ながら知らなかった。


「セイイチロウは、豚や牛を食べても、問題になると思う?」


「いや」


「そうね。普通にスーパーで売っているわ。当然のことよ。だって、人ではないのだから。別の種族なのだから、当たり前だわ。殺しても、大体は問題にならないわ。それは大体の星に共通するわ。そうやって生きていくのよ」


「何が言いたいんだ?」


「簡単な話よ。貴方たち……少なくともセイイチロウとハナ。貴方たちはヒトというものを、そういうものと認識してしまっているという事よ」


「……」


「私はね、セイイチロウ。殺す事が当たり前。罪を犯すことが当たり前。そういう風に命の存在の尊さを忘れて、自分しか考えられない奴がとても大っ嫌いなの」


 ルナは研ぎ澄まされた刃のように鋭く、全てを切り刻んでしまうのではないかというぐらいに酷なものであった。


「特に私が一番嫌いなのは罪を犯して、同族を殺し、のうのうと生きていることよ。そう。まさに貴方の事」


 オレは黙った。何も言えなかった。


「私は、本当に気分が悪いわ。許せない」


 誰も、何も、言えやしなかった。ルナの怒りに震える声を、奥歯を噛みしめて聞いているだけしか出来なかった。


「それにセイイチロウ。あなたは家族を殺したそうね」


「……ああ」


「事情はわかっている。でもね、どんな理由があろうとも、家族だけは殺してはいけないわ。それだけはしてはいけない」


 ルナの声は冷たかった。


「自分が大きくなるために、成長する為にその「親を殺す」というのは大切だわ。越えなくてはいけない存在なのだから。でも、貴方は間違った成長をしてしまった。肉体的に殺してしまった。後を考えずに、自分だけのために。まるで……。いえ、コレは言う必要は無いわね」


「……」オレは黙った。


「あの女の子もそうよ。貴方と同じで、間違った道を進んでしまった」


「でも、ルナ……」


 コトリが反論しようとした。


「だけど、正していく事は出来るわ。それが……」ルナはまた言葉を止めた。「まあ、私にはもう関係ないわね。だけど、本当にあの子は理解できているのかしら? 誰かを導くためには、自分自身がその道をしらなければならない。互いに協力してその道を歩んでいくという場合もあるけれどもね。まず貴方たち自身も道をわかっていない。そして、今のままでは道を歩いていく事なんて叶わない」


「……」


「貴方たちは殺すという事を本当に理解できて? 命を喰らうという事を分かっているのかしら?」


 オレはやはり何も答えられなかった。それはこの場にいるもの全員に言えたことだった。


 ルナはため息をついた。それは深いものだった。なにか、失望したような、そんな意味が含まれているようだった。


「私は、家を出ていくわ」


「なっ……」


 オレ達は絶句した。


「思う事はたくさんあるけど、それが一番いいわ。……私にとっても。私はあなたたちに家族を求められると思ったけど、もう無理だから。一応、これまでの事は目をつぶってあげるわ。恩義があるからね。だけど、それ以降の事は、駄目よ」


「……どうして?」


 ハナはショックを受けていた。思わず言葉が漏れ出していた。


「どうもこうもないわ。私があなたたちといたくない。それだけよ」


 オレは目を伏せた。憤りを感じていた。わなわなと拳をふるわせていた。


 どうして、ルナはオレ達を認めてくれなかったのか。


 それは、まだ、オレにはわからなかった。ただ、自分がやってはいけないことをやっているのは理解できている。だけれども……。


「ああ、そうそう。本当はここまで言う義理はないのだけど、私のとある仮説を話させてもらうわ」


「仮説?」


「ええ。なに。簡単な事よ。しかし、その簡単なことさえも間違いかもしれない。

 私とハナはヒトであり、人ではない。だから、ヒトではない、人なら食べてもいいのかもしれない。それこそ、人が豚や牛を食べるように。別の種族なのだから、仕方のない事。生きる為に。仕方のない事なのかもしれない。それがある意味、この子の真理であり、価値なのかもしれない」


「言っている意味がよくわからない」


「宇宙を見て回っているとあるものにであうことがしばしばあるの。これはとても奇妙なものでね、他の星の種族の料理があるのよ。同じヒトの形をした。それを細切れにしたりして食べやすくはしてあるけど。だけど、これは条例に反する場合がある。でも、認められている所もある。もちろん。私は取り扱いたくないから、それは認めていない」


 ルナはハナを見る。そして、フッと笑った。


「この子は、貪る者。何を飢えているのかしらね。なにか食さなければならない大事な事情があるのかしら?」


「……」ハナは難しい顔をして首を傾げた。眉をひそめる。


「ハナには、何があるっていうんだ?」


「この子には記憶がないのでしょう? だから、きっと本能かなにかが原動力となっているのかしらね。そこまでは私には分からないわ。ハナの種族がそういう種族なのかもしれないからね」


「ま、待ってくれ。さっきからルナの物言いはまるで……」


「ええ。そうよ。でも、これはあくまでも私の推測。考察。それよ。だから参考までにしておくといいわ。

 ハナはね、私と同じで、この地球以外で生まれた、別の星で生まれた、生物。宇宙で生まれた生き物。そう。この地球からしたら宇宙人……地球外生命体。それよ」


「……!」


 ルナの衝撃的な発言はこの場にいる誰もを動揺させた。目を大きく見開く。ハナの正体がわかったことによる喜びなどは一切なかった。気分が悪いどろどろとした塊が胸の中でうごめいていた。そしてそれはすくすくと大きくなっていく。それを潰そうとしても、外側からではそれをどうするもなかった。


「だから、人を襲う罪悪感もないのかもしれないわね。でも、あなたは地球にいる、ということを忘れないことね」


 ルナはふう、とため息をついて、横を向いた。


「セイイチロウは「別」というのは分かっていて? もちろん、ハナがやっていることも、正しいとはいえないけど。

 ハナは人の中では罪となる。そこの所を深く考えてはいかが? そう。人の肉の味を覚えた熊が人に駆除されるように、人を襲うヒトもまた、人に駆除されるのよ。

まあ、もう私には関係のない事であるけど。私はあなたたちとはもう関わらないつもりはないわ。罪を犯すことになんの罪悪感も抱かないあなたたちとは」


「ま、まって! ルナ! ハナは……!」


「私の勝手な解釈よ。だから、忘れてもいいわよ。人も人を食べるし。それよりも、あなたの記憶、とりもどせるといいわね。コトリも」ルナはほほ笑む。「それじゃあね。今まで楽しかったわ」


 ルナはそう言うと踵を変える。そして、どこかへ行ってしまった。


 その後をハナとコトリは追いかけようとするのだが、途中で止まった。


 オレはその2人の背中をただただ眺めているだけしか出来なかった。



どうも。

じつは、あの話にいれる予定だったのですが、ルナを抜けさせるか否かを考えて、結論が出なかったので抜きました。

色々試行錯誤したうえで、こうしました。

まあでもちょっと抜けるのはおかしいかな? とは思いますが、その辺はなんとかします。

ではでは

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