表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花は散り急ぐ  作者: 夏冬春秋
君の花 僕の花
19/48

一応六月内のお話です。理由は少しあります。

最初の間と二つ目の間は二週間ぐらい時が経ってます。と、紹介しましたが、事情が変わったので、忘れてください。

原点回帰を目指しました。

でもあまりそうではないかもしれない。

天秤の話は軽く流してください。



 私は色の無い人が嫌いだ。透明で何も染まっていない人。そんなつまらない人が嫌いだ。


 世の中はそういうものだ。何かと色がある。それは人によっては様々だ。赤い人もいれば青い人もいる。黒い人もいれば白い人もいる。


 でも、そうではない人がいる。透明なのだ。真っ白とは違う。透き通っていて、色がない。そう。透けている。見えない。その人を見る事が出来ない。何か色があれば「ああ、あの人だ」と認識が可能だ。でも、それが出来ない。


 だから、色が必要なのだ。それは何でもいい。黄色でも紫でもなんでもいい。だけど、その色と言うのはどのようにして手に入れるのだろうか。文房具店で絵具を買ってそれを塗ってもそれは意味のない事。根本的に違う事。


 私は透明な人が嫌いだ。何もない人。存在する意味もない人。


 透明な人は誰にも見てもらえない。認識してもらえない。孤独なのだ。そしてその唯一の味方である自分でさえも、自分の姿を確認する事が出来ない。色がないから。誰の目にも止まってくれないのだ。


 それはとても空しくて虚しい。空虚。


 そんな人は世の中に何人か存在する。そして、透明なまま溶けて消えていく。ひっそりと。こっそりと。静かに。終わっても。終わった後でさえも。静かで寂しい。静寂。しじま。


 そんな私もその中の一人なのだ。自分の色を知らず、そして染まらずにやがて消えていく。だから私はそんな人たちの仲間から、グループから、離れる。離脱するのを夢見ていた。


 そして私はようやくそれを見つける事が出来たのだ。そう。色を見つけたのだ。自分にあった色が。


 私は満足だ。






 ハナが泣きながらリビングに入って来た。フウカが心配そうにハナの元へ向かった。ハナは四つん這いになりながら、しくしくと泣いていた。フウカがどうかしたのかと尋ねるとハナは足を挫いたといった。オレは少し納得した。


 先ほど、廊下の方から盛大に落ちる音がしたのだ。どごんと。多分、階段を使うのを横着し、二階から飛び降りたのだろう。それで今に至るわけだ。


「バカじゃない?」


 コトリはため息交じりにそう言っていた。オレは言葉を返さなかった。


 オレは仕方なくハナに肩を貸してあげる事となる。ハナは苦悶の表情でオレに抱き付く。肩を貸してあげるだけだったのに、何故かおんぶしていた。ハナは涙をオレの服で拭いていた。


 オレはソファーにハナを座らせた。ハナは「痛い」とめそめそしていた。オレはフウカに華の様子を見てもらう事にし、救急箱を探した。確かシップがあったはずだ。


「救急箱って、どこだっけ?」


 オレは頭を掻きながら、質問した。恥ずかしいことに場所が分からなかった。


「あそこのひきだしのウエからニばんめ」


 と、コトリが教えてくれたのだ。オレはコトリの言った通りの場所を開けた。すると、そこにあった。オレはコトリに礼を言って、救急箱をあけた。そこからシップを取り出し、ハナの足につけた。


「バカな真似はしないで、ちゃんと階段を使えよ」オレはハナにそう教えた。ハナは「うん」と頷いた。


「やれやれ」とコトリは肩をすくめた。


「まあ、助かったよ」


「というか、なんであたしがしってんのにセーイチローはしらないの?」


「面目ないな。よく知ってたな」


「コトリちゃんはよく家の中をあさっていたので、それでだと思います」


 フウカが説明した。


「なるほどな。でも、あまり感心しないな」


「なに? いかがわしいホンでもあるの?」


「そういう事じゃない。まあ、コトリもこの家の住人だから別にいいんだけどさ」


「じゃあ、あんたのヘヤ、あさってもいいと?」


「……片付けろよ?」


「いいわけね」


 コトリは鼻で笑った。


「まあまあ。家族でも、プライバシーというものはありますから。ね」


「しらない」


 コトリはフウカの車いすをよじ登る。そしてフウカの頭の上に乗ると、飛んだのだった。そしてコトリはテーブルに着地した。結構な距離があるのに、見事だった。それで、コトリはテーブルに座った。ハナの目の前でだ。ハナはまだ泣いていた。鼻をすすっていた。


「そんなにイタいわけ?」


 コトリは頬杖をついた。ハナは口をとがらせてこくりと頷いた。


「やれやれ。イタいって、いやなもんだね。ドーブツのいやなところ。なくていいのにね」


「でも、痛みは身体の危険信号なのですから、それは嫌ですけど、あった方がいいと思いますよ。気づかぬうちに大変なことになった、なんて笑えませんから」


「いうても、あたしとフウカにはないけどね」


「それもそうですが」


「コトリは羨ましいのか?」


「あたしはそういうヘンタイじゃない」


「そういう事を言っているんじゃない」


「ようするに、普通でありたいのか、ということですか?」


「少し語弊はあるが……そんな感じか」


「なに? イヤミ?」


「そういう訳ではないが……」


 オレが言葉に困っていると、ハナがコトリを掴んだ。そして、遠くに放り投げた。コトリは壁にぶつかった。そして床に転がった。


「イタッ……くはないけどなにするの?」


「コトリ、羨ましい。言った。だから……」


「ヒトコトもいってない。それにだからっていきなりナげることはないじゃない?」


 コトリはハナに文句を言いに走っていく。ハナはコトリを鷲掴みする。コトリは手の中で暴れるが、逃げ出せない。そしてハナはコトリを上下に振り始めた。「やめろ!」とコトリは言うのだが、ハナは面白いのか、やめなかった。


 その様子をオレとフウカはただ見ているだけだった。その光景が少し面白かったからこのまま見ていようと思った。


「まあでも、煩わしいものではありますが、無いとそれはそれで困るものですよね。例えば、失ってこそ気づく、そんな風に感じます」


「フウカは、感じないのが嫌なのか?」


「痛覚……というより、私は触覚が働きません。要するに、刺激がありません。前に、似たようなことを言った気がしますが、私は薄いですよね。感覚が。生きているというその感覚が。そう、例えるなら……色が薄くなってしまったというのでしょうか。それが私は嫌……ですかね」


「ふーん。そうか」


「でも、それでも、このように暮らしていけるので。障害があっても、大丈夫なのですよ。多分」


「そこはあくまでも多分か。しかし、皮肉なものだな……」


「なにがですか?」


「いや……。独り言だ。忘れてくれ」


「気になりますね」


 オレはハハハと笑って適当にごまかした。


「ああ。そういえば、ルナがラーメン屋で働き始めたって言ってたよな。みんなで見に行くか?」


「誤魔化しましたね。でも、忙しそうですからよろしいのでしょうか?」


「ラーメン⁉ なにそれ⁉ にく⁉」


 ハナが食いついてきた。コトリを抱きしめ、飛び跳ねる。それは元気なことに。というか、足はもう治ったのだろうか。


「まあ……なくはないけど、そういうのではないな」あるとしてチャーシューだけだし。


「なんだ。がっかり」


「そんなことより、おろせ」


 コトリがハナの腕の中で暴れていた。しかし、ハナは離さなかった。


「まあでも、大丈夫じゃないか?」


「うーん……そうですかね?」


「フンイキが、みてみたい。ルナのはたらくとことか」


 コトリがそう言った。


「じゃあ、行ってみるか。少し遅い時間に行ってみるか。そっちの方がこんでなさそうだしな」


「そうですね」


 オレ達はルナのお店へ行くことになった。その後の事は、語る必要もあるまい。






 僕はある人が好きだった。その人は僕を惹きつけた。会ったのは一度だけ。たったの一度だけだ。それだけでも、僕の心をゆれ動かすには十分だった。


 その人はなんというか……例えるなら色があった。独特な、見たことが無い、不思議な色をしていた。


 人は誰にだって色というものがある。僕はそれを眺めるのが好きだった。それを観察するのが好きだった。様々な人と出会い、自分色に染めていく。そしてそれは年月が経つにつれて変化していくのだ。もちろん、変わらない人だっている。大体は途中で色が変化しなくなる。それがその人の本当の色なのだ。でも、その色は時と場合によって、変わってしまう。綺麗な色になるか汚い色になるかは分からない。でも、どちらにころんでも僕は好きなのだ。


 人は色を作っている。それは無意識に。例えば、本当の自分の色は藍色なのに、周りには朱色だと思わせていたりする。僕はそれを好ましく思わない。なぜなら、楽しくないからだ。汚いのだ。そういう人に限って。色が。僕はそういう人が嫌いだ。


 だから、僕はその人たちを許せなかった。汚い色を見せるその人たちに激しい嫌悪感を覚える。


 それもその人の大切な色であるが、見るに堪えない。スカッとしていない。そう。僕が思うにつまらない人生なのだ。


 僕には好きな色がある。見ていて楽しい色がある。だったら、その人をその色に染めてあげたいと僕は考えた。


 だから僕は、それを目指して行動した。


 そんなある日、ある人と出会った。僕は最初、その人も汚い色をしているんだ。そう思っていた。だから僕好みの色にしてあげようと思っていた。しかし、僕はその人に惹かれた。その色に惹かれてしまった。なぜなら、その人は今まで見たことがなかった色だったからだ。


 僕は望む。もう一度あの人にあの色に出逢いたい。


 でももう……会えない。


 僕は探す。もう一度出逢うために。僕は探し続ける。






 私は母子家庭だった。私の本来の父は私が母親のおなかの中にいた頃に、逃げて消えていってしまったのだ。よくある話。私の父親は私という存在を否定したのだ。私は認めてもらえなかったのだ。


 私は母親に感謝はしている。私をこの世に産んでくれたのだから。一人で私を育て上げようと決心してくれたのだから。そのおかげで今、私が私としていられる。この世に存在していられるのだ。


 でも、私はそれについて感謝をしているだけ。そう。しているだけなのだ。産んでくれた、というその一点だけ。


 確かに、私が大きくなるために養ってくれてはいた。毎日毎日ごはんを作ってくれたり、洗濯物やら、私の身の回りの事をやってくれた。パートでお金を稼ぎながら。短い時間の中で、私を育ててくれた。でも、私は嫌だった。


 なぜなら私は母親にとっていらない存在だからだ。


 あれは幼稚園の頃か。そう。私が三歳ぐらいになってからだ。母親が私に対して冷たくなっていったのは。


 母親は暴力こそは振るわなかったが、ねちねちと嫌みをいうようになっていった。


 ロクに苦労もせずに、日々を過ごせて。それを感謝せずに、当たり前だと思っているお前が嫌いだ。


 私が最初に言われた言葉だ。


 私はそんなつもりはなかった。母親には感謝していた。一生懸命私を養おうとしていた。その努力は分かっていた。


 しかし、私は力不足なのだ。一人では生きていけない。こうやって、親という存在にすがらなければ生きていけないか弱い生物だったのだ。


 それから私はなるべく自分の身は自分でやるようにした。母親を少しでも楽にしてあげられるように、と。


 しかし、要領が悪かった。というか、知らなかった。というのが正しいのか。私は見様見真似で洗濯とかアイロンとか、料理とかをやった。


 でも、私は怒られた。余計なことだったのだ。母親を楽にしてあげようと考えた結果の行動だったが、それは逆に母親の仕事を増やす結果となってしまった。


 洗濯物はぐちゃぐちゃ。料理はもうすぐで火事寸前。アイロンで母親が大事にしていた服を焦がし、また火事寸前騒動。


 母親は私を叱る。血相を変えて。鬼のように恐い表情で。私を怒鳴る。母親は暴力を振るわなかった。寸前のところで我に返る。振り上げたその手を振りおろす前に、ハッと気づく。そして手をひっこめる。


 母親は力の暴力には訴えなかったが、別の所で私を虐める。そう。それは言葉。だ。それはある意味暴力だ。それを私にぶつける。


 本音と言うのは普段、心の奥底でとどめておくべきものだ。それはその人を気遣ってせき止めてあげているのだ。もしかするとそれはその人を否定するかもしれない事だから。


 本音を言うのはどういうときか。それは、これは傷つかないだろう、と思った時。完全に傷つけようと思った時。その人に全く関係のない事の時。などと、様々な事がある。


 しかし、本音とはいっても歪曲しているに過ぎない。何かで塗り固めて、本質を誤魔化そうとしているだけに過ぎない。どれもこれもそうだ。


 じゃあ、本当はどういう時か。それは理性がなくなり、感情が昂ぶっているとき。あらぶっている時。そういう時に言い放つ台詞こそが人の本音というものだ。ブレーキが利かなくなるのだ。抑えつけていたはずの想いが決壊する。そこから水が溢れだす。そしてその勢いは強くなり、堤防をぶち壊す――。




 そういえば……私、母親に一度も「好き」と言ってもらったことがないな。


 この一六年間で全く。ただ言われてきたのは「嫌い」だという事だ。


 よく、好きの反対は無関心。だから「嫌い」があるだけマシ。的な事を言われるが果たして本当にそうなのかな? 私は嫌悪だと思う。つまるところはそれが「嫌い」だという事。好きと嫌いの境目に無関心がある。出会い、そこから針がどちらかに揺れ動く。そう。天秤だ。好きの方に重りが沢山乗れば、天秤がそちらに傾く。逆もまたしかり。そうやって好みというものが変動し、感情を決めていくのだ。


 私が思うに、重りが何も乗っていない人が赤の他人であり、好きと嫌いの重りがいくつも乗っかり、それが均衡して保っている状態が友情。それから好きに傾いていくのが愛情。それから嫌いに傾いていくのが憎悪。そうだと考える。はたしてそれが正しいのかは分からないが、私はそう……考える。


 私の母親は嫌いの方に天秤が傾いているのだ。だからそこに好意があったとしても嫌悪でしかない。


 母親は私の事が嫌いだ。母親は私が嫌いだ。


 産むべきではなかった。――それは父親が私の存在の所為で消失してしまったから。


 いっその事、死産でもしておくべきだった。――そうすればこの世に認識される前に私という存在が消えるから。


 育てるのではなかった。――そうすれば母親は自分の為のお金。自分の為の時間を作れた。残していけた。


 生きている価値は無い。――それは……分からない。


 事故でも何でもいいから死んでくれ。――それは……できない。


 図々しい。厚かましい。いなくなってしまえ。私の目の前から消えてなくなってしまえ。そうすれば自分は救われるのだ。あんたがいるせいで、男ができない。みんな、子持ちの女は嫌なんだ。汚らわしい他人の子供を育てたくないのだ。養いたくないのだ。邪魔なんだ。あんたという存在が。だから死ね。生きている価値もないあんたは死んでしまえ。――どうして?


 あんたは生きてはいけない存在なんだ。――じゃあなんで……?


 なんで私は生きているの?


 誰か……教えてほしい。私が私であるという事を。


 母親は言う。私は透明なのだ。色が無い。つまらない。薄い存在。ただ母親の話を飲み込むだけ。それから行動はしない。うずくまっているだけ。


 私はそれが何となくだが理解できた。


 だから私は自分と同じ人が嫌いだった。






「楽しい」


 ハナはオレと腕を組んでいた。オレは少々それが厄介だった。歩きづらくて、面倒くさかった。


 オレはハナと散歩している。夕方にだ。学校から帰宅してすぐにハナに誘われた。食べる目的ではなく、単に夕方の街を歩きたかったそうだ。珍しいこともあるものだ。コトリとフウカは家に置いてきた。二人とも、遠慮した。


 雨は降っておらず、晴れていた。しかし、ジメジメとした暑さは変わらない。オレ達は広い公園で遊んでいた。遊具でハナは遊ぶ。その様子を近くで見守っていた。よくわからないけど、子供とも仲良くなっていた。ハナより年下の子たちであったが、精神年齢的には大体あっていたと思われる。


 陽が落ちはじめ、子供たちは家に帰っていった。そこでオレはハナとベンチに座りアイスを食べる事にした。


 ハナはがつがつと勢いよく食べていた。そして想像通りに、頭を抱えてうずくまった。


「アイスをそう食うと、頭がキーンとなっていたくなるんだよ」とオレはハナに教えた。


「でも、美味しい。冷たい」


「そうだな」


 オレは一口食べた。もう溶け始めているようで、指に冷たさが伝わって来た。オレはそれを啜り、食べるペースを早める。


「なんか、書いてある」


「ああ。あたりか」


 ハナが棒を差し出す。そこにはアタリと書いてあった。オレがもう一本タダで貰える、と説明すると、ハナは「やった」と喜んでいた。


「セイイチ、溶けてる」


 ボトリ、とアイスの塊が地面に落ちてしまった。ハナは「あー!」と叫んだ。オレは落ちたそれをただただ眺めていた。ハナがそれを拾うとしたので、オレは「やめろ」とハナの頭を軽く叩いた。


 その時だった。


「きゃあ!」という悲鳴が上がったのと同時に、上から人が降って来たのだ。そしてその人はベンチの背もたれの部分に背中を思いっきり強打するのだった。


 オレは唖然とした。言葉が出なかった。ハナも口をポカーンとさせていた。


 オレ達の後ろに木が立っていた。そこに登っていたようで、足を踏み外したのかなんなのかは知らないが、そこから落ちたのだ。


 オレと同い年ぐらいの少女だ。制服を着ていて、地面に転がってのたうち回っていた。


「いい~いい~!」


 と叫んでいた。オレは「大丈夫か?」と少女に駆け寄った。色々気になる所はあるが、ともかく安否を確かめるのが先決だった。


「ああ。誰っすか?」


 寝転がったまま腰を押さえて白い歯を見せていた。


「それはこっちのセリフだけど、大丈夫?」



「全然! むしろいいっすよ!」


 勢いよく立ち上がり、背伸びをした。オレは目をしばたかせる。


「セイイチ、こいつ、変」


 ハナがオレの背中に隠れた。ハナがそう言うのだから、そうなのだろう。いや、実質そうだ。


「ごめんっすね。ちょっと木登りしてたら真下にあんた達が来ちゃった所為で、降りるに降りれなくなちゃって。そうしたらこの子が叫んだ所為で、驚いて落ちちゃったっす」


 少女は照れくさそうに笑った。


「あ、うん。なんかそれはすまないな」


 面倒くさい。そう思った。オレの苦手なタイプだ。


「いいっすよ。結果オーライだったすから」


「結果オーライ?」


「ああ。うち、よく変わっているって言われているんすけど、そんな感じです」


「まあ……そりゃあ……ねえ。何言っているか分からない所が」


「うちの趣味っすよ」


「木登りが?」


「いやいや。痛めつけるのがっす」


 オレの頭の上にクエスチョンマークがいくつも浮かんだ。なんか、もう帰りたかった。その気持ちはハナも同じのようで、何度もオレの裾を引っ張っていた。


「まあ、驚かせて悪かったっす。じゃあ!」


 少女はそういい残すと、そそくさとどこかへ行ってしまった。オレはおいおいと、彼女の後姿を見送った。


 いくつもの謎を残しながら、オレ達は公園に取り残されるのだった。


「なに?」


 ハナが尋ねる。オレも聞きたかった。


「まあ、帰るか」


「……うん」


 何なんだろうなと、頭を掻きながら、ハナと手をつなぎ、帰る事にした。







 「幸せだ」これは彼女が最後に言った言葉だ。嘘偽りのない言葉。真実の言葉。本当に、心の底から言っていた。そう言った彼女は幸せそうだった。


 僕は不思議だった。どうして、こんな顔をしているのか。僕は彼女と会話をしていた。その内容から理由は分かっていた。彼女は本気で言っていた。真偽がそれで証明された。


 僕は彼女の顔に触れる。熱があった。暖かかった。


 僕は自分の額と彼女の額をくっつけた。熱が伝わってくる。これが彼女のぬくもりだっ

た。僕は願った。自分勝手だとは思う。でも、僕は祈った。


 彼女は徐々に冷たくなっていく。温もりが失せていく。


 僕と彼女の距離がどんどん離れていく。僕は彼女の手を掴もうとする。でも、その手は届かない。


 僕はくちづけをする。


 よくある話だ。眠りのお姫様は王子様のキスによって目が覚める。


 僕はありえない。そう思っていた。でも、もしかしたら、という気持ちが心の奥に存在した。僕はそれにかけた。


 しかし、彼女が目覚める事はなかった。


 僕は泣く。ひそやかに。空虚な空間の中で。独りで。




 死は平等ではあるが生は不平等だ。生きているものに死は訪れるそれは必然だ。それが善良な人であろうと悪人だろうと。罪を犯したことが無い人でも何十人と殺してきた人でも。死は訪れる。しかし、生は違う。自分という存在は何億という犠牲の上でようやく誕生したのだ。何億というモノが殻を目指し息絶える。その中で唯一その殻に辿り着いたものがその権利を得るのだ。例えその権利を得たとしても、それで終わりではない。月日をかけて準備をしなければならないのだ。そういった期間を得てようやく、生が誕生するのだ。しかし、それも失敗することもある。誕生する前に消えてなくなることもある。


 よく命は大切にしようという話をする。僕は納得する。犠牲の多い長旅をえて産まれたこの命は大切にするべきなのだ。


 生きているという事を感謝すべきなのだ。


 しかし、たいていの人はそうではない。それを淡々と無意味に過ごしている。何か特別なことをする訳ではなく、淡々と死へ歩いていく。


 それでは駄目なのだ。汚いのだ。


 そういう人に限って、他人を利用するのだ。自分は何もしようとはせずに。


 それでは駄目なのだ。つまらない。


 だから僕は決起する。無意味な人生は毒だ。せっかく勝ち取った命を無駄にすることが。だったら、僕がさばいてやる。僕が正しいのだ。




 死は平等だ。それは誰にでも訪れるものだ。そしてそれは同じ色をしている。みんながその色に染まるのだ。


 僕はその色が好きだ。だから平等を与えよう。その色へ変えてあげよう。






 私は段々と生きているという感じがしなくなっていった。薄くなっていった。私はこのまま生きていくのが苦痛でしかなかった。でも、私には死ぬ勇気もないから淡々と日常を過ごしていくだけに過ぎない。


 何を持って楽しめばいいのかも分からなくなっていってしまった。そう。あっと驚くようなこと、そう。刺激だ。それは趣味だ。何か……例えば音楽を始めるとか絵を描いてみるとか、そういったことに興味を持つ。そうすることで、楽しみを得られる。


 でも、そういうのは無駄だった。無気力だった。何も興味はわかなかった。


 何か自分が興味を持つ事はないだろうか。私はそれを模索するが一向に見つからない。


 もう何も感じない自分が嫌で嫌で仕方がなかった。友達との会話にも面白味が見当たらなかった。私は淋しい人間。面白くない人間。何も感じない人間。そんな風に成り下がってしまった。


 そんなある日だ。私は事故った。


 そうは言っても車に轢かれたとかそういった物騒なものではない。学校の階段で、足を踏み外して、盛大に転げ落ちたのだ。


 私は全身を打撲し、脳に激痛が走り回った。全身を駆け巡る痛み。私はその痛みに悶える。あちこちから痛みが湧き出てきた。私は泣いた。味わったことのない痛みから。それを紛らわすかのように。


 私は体験したことのない痛みの渦の中ふと思い至った。


 私の中に潜んでいたこの感情はいったい何なのか。それが今湧き出している。私は体験したことのない苦痛にある閃きが浮かんだのだ。


 私は何もなかった。何も感じられなかった。しかし、今ここに痛みと言う感覚を覚えているのではないか。


 痛み……それはいわゆる刺激だ。


 私は感銘を受けた。痛みだ。それは簡単に手に入れられるものだ。それは辛いものだ。でも、普通の人は好まない。でも、こうもあっさりと収穫できる刺激はそうそうない。


 私は見つけた。生きる。生きたいと思える道標を。それは簡単なことだったのだ。この刺激だ。何もないわけではなかった。これが希望だったのだ。私は今まで気づかなかった。そうだ。近いからこそ気づかないもの。それだ。




 世の中には私と似たように生きる希望を持っておらず、ただつまらない人生を送っている人が沢山いる。私はそんな人たちと同じではありたくなかった。私は自分と同じ人間が嫌いだからだ。


 私は早くそのグループから姿を消したいと思っていた。私はようやく見つけたのだ。その手段が。


 透明のまま消えてなくなることはないのだ。それに怯える事は無いのだ。私は色を見つけた。それはそう……色といってもいいかもしれない。私の人生に色がついたのだ。私はそれが嬉しくてたまらなかった。


 これでようやく……普通の仲間入りだ……。


説明口調になるのをなんとか直したいけど無理だな。

次の投稿は、ヘタしたら来週かも

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ