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花は散り急ぐ  作者: 夏冬春秋
月の下の美しき人よ
18/48

すくわれて波に揺られる白い輪はうつし夜なれども確かにありけり

この章のラスト。



 七月も終わりに近づいてきたころ。オレは今月の出来事を思い返していた。色々と長く、こい一か月だったような気がしていた。まあ、しかし。そんなことを今はなす気はない。ただ、オレだけが感じておればいい。


 夏休みに入ってから約一週間が過ぎた頃だ。暑さが日に日に増していく。これでもまだピークではないと思うと、気がめいる。


 オレは図書館で勉強をしていた。クーラーが利いたこの公共施設は快適だ。家では電気代がかかるから。ここならタダだ。まあ、今オレがこうしてクーラーによる電気代を節約しようとしても、それを無駄にするやつらが家にいる。まあそんなことはどうでもいいや。


 夏の宿題を早めに終わらせようと躍起になっているが、まあ、集中力がさすがにもたない。もう切れてきている。しかし、このペースなら明日か明後日で終わる量だ。今月中には終わらせられるだろう。邪魔さえされなければ。あと、やる気が残っていれば。


 まあ、そうすればあとは遊ぶだけだしな。来月には旅行に行くし。それでいい。


 オレは背伸びをして立ち上がった。骨がバキバキと鳴った。オレは肩を回して凝った体をほぐす。そして、帰る支度を始めた。もうすぐで五時になる。この後は、夕飯の買い出しだ。今日はオレが担当だ。


 オレは荷物を背負って、歩き始めた。出口まで向かった。


 オレは、「ん?」と気づいた。前に歩いている女性が、財布を落としていた。オレは辺りを見渡す。それを誰も気がついていなかった。財布を落とした人は、気づかずにスタスタと歩いていく。オレはため息をついて、それを拾ってその人に届けてあげた。


「あの、これ落としましたよ」


「あ、すみません。ありがとうございます」


 お礼を言われた。そして、何事もなかったかのように、終わった。


 オレは、頭をかく。ムズムズした。オレはすぐにその感情を忘れさせて、外に出た。


 外に出ると図書館の中の温度差に驚かされた。オレは思わずため息が漏れた。


 オレはスーパーへ向かっていく。意外にここから近い所にある。自転車は利用していなかったので、徒歩で向かう事になる。


 しばらく歩くと、信号に引っかかった。オレは仕方がない、と立ち止まる。信号を待っている人はもう一人いた。杖をついている人だった。サングラスをかけていた。


 信号が青に変わる。オレは歩きだしたが、隣にいた人は歩いていなかった。ここの信号は音が鳴らない。だから、気がついていないのだろう。多分、あの人は盲目なのだろう。だからだろう。動かないのは。


 オレは歩道の途中で立ち止まり、そして、踵を返した。あの人に声をかけに行った。


「あの、青ですよ。よければ、誘導しますよ」


「そうですか。すみません」


 その人はそう言う。オレは自分が言った通りに、その人を誘導する。


「ありがとうございます」


 オレはまたか。と頬を膨らませる。別に、嫌ではないのだが、むずかゆい。


 オレはスーパーへ向かった。


 そこではなんも滞ることなくスムーズに買い物が出来た。セールにも間に合っていたし。善行から、か。と口が裂けても言いたくないようなことを心の中で呟く。


 しかし、ただの運だったのだろう。外へ出ると、土砂降りだった。夕立だろう。どうせすぐ止む雨だろう。


 スーパーでやむのを待つという選択肢はあったが、待っているのは面倒くさかったので、そのまま歩きだした。運よく、折り畳み傘を持っていたからだ。いつも忍ばせてあるから、その用心に助けられた。


 オレは、雨は億劫だ、そんな事を呟く。そうすると、オレの横で段ボールを抱えたおばさんがため息をついていた。車まで持ち運びたいが、濡れてしまうのだろう。オレは仕方がないので、傘を貸してあげた。とはいっても、さしてあげるだけだ。車まで。


 車まで着くと、お礼をまた言われる。そして、ビニル袋から何かを取り出し始めた。リンゴだった。オレは「いいです」と断ったが、まあいいや、と受け取った。五個も貰った。リンゴなら、今のハナでも食べられるだろう。


 オレは、今日は何だか、変な日だなと思う。ずっとガラにもないことを行っている。何をしているのだろうか。


 オレは雨の中歩きながらブツブツと言いながら歩く。


 歩いていると、また、困っている人に出会った。少女だった。小学生低学年ぐらいの女の子だ。その子が、雨宿りをしていた。雨が止むのを待っている様子だった。


 オレは、スルーしようかと思った。傘を貸すにしても、今のご時世、少女と一つの傘に入っただけで通報されかねない。それは冗談だが、傘を貸したら、オレが帰れなくなる。それはこの少女も同じだが、しょうがないことだ。


 オレはどうするか迷った挙句、傘をその女の子に渡してあげた。


「使いなよ。これで帰れるだろう?」


 少女は驚いた眼でオレを見ていた。それもそうだろうな。知らない人に声をかけられたのだから。


「結構です」


 小学校低学年の断り方か? と思ったが口にはしなかった。


「家の人も心配するだろう。だから、さっさと帰った方がいい」


「そうすると、あなたは?」


「いや、オレは急いでないしな。世の中は危険だ。六時になろうとしているが、女の子の一人はこの時間は危険だ」


「そうなの?」


「まあ、多分」


「でも、迷惑になるから、いい」


「……そうか」


 オレは立ち去ろうとした。


「待って」


 そうすると、少女が呼び止めた。


「どうした?」


「ちょっと、時間つぶしに付き合ってくれる?」


「まあ……いいが」


 一人で雨宿りは退屈なのだろう。オレは了解した。


「わたしは、「いちい」っていう。あなたは?」


「いちい?」珍しいな。「オレは誠一郎だ」


「お互いに「いち」がつく」


「そうだな」


「やっぱり、一番が好き? それになりたがる人?」


「どんな質問だよ。そんな事はない。争い事はごめんだ」


「わたしも。めんどうくさい」


「そうだな」


「あなたは、見た所人助けをしなさそうな顔をしているけど、どうして傘を渡そうとしてくれたの?」


「そんな顔をしているといわれたのは初めてだよ。いやなに。今日はどういうわけか人助けが連続していたから。たまたまだよ」


「ふーん」


「いちいちゃんは……」といった所で、「いちいで、いい」と言われた。「いちいは、遊んでいたのか?」


「うん。友達と。そうしたら、雨が降ってきた。わたしは、ここで雨宿りをしていた」


「そうか。でもまあ、すぐ止むと思うぞ」


「止まないよ。永遠に」


「え? どうしてだ?」


「この雨から永遠に抜け出せないんだ」


 急に雰囲気が変わった。オレは彼女が何を言っているのか理解できなかった。


「そうだ。ちょっと面白い話があるんだ。聞いてくれる?」


「ああ……? いいよ」


「この近所でね、私と同じぐらいの子供が、行方不明になったんだって。その子供は、数日後、近くの川で発見されたんだって。男と一緒に」


「男と?」


「うん。どうやら、その男が子供を誘拐して、無理心中を図ったみたい」


「……聞いたことがあるな。でも、何年も前の話だ。古い話だな。最近耳にしたのか?」


「うん。恐いよね」


「そうか……。もしかして、オレがそうだと疑ったのか?」


「まあね」少女ははにかんだ。「でも、 なんか、誠一郎は、それ(・・)はしないな、と思って」


「……そうか」


「発見された時も、雨が降っていたんだって。わたし、聞いたことがあるんだけど、死ぬと、その瞬間を永遠に繰り返すんだって?」


「それは、どちらかといえば、自殺の時かな? まあ、なくはないかもな」


「その子供って、永遠に雨にうたれ続けるのかな? 長年かけて石は水にうたれて形を変えていく。その石が消えるのにはどのくらいの時間がかかるのかな? どれほどの時間うたれ続けなければならないのかな?」


「さあ? 知らないな。だが、消えるのを望むのではなく、綺麗な形へ鮮麗されるのを望んだ方がオレはイイと思うぞ」


「ふふっ」笑われた。「でも、いくら綺麗になったとしても、平べったい石だったら、投げられて捨てられるよ。今度は冷たい川の中で待つしかない」


「だったら、掬えばいいさ。それで雨にも当たらない場所へ置いてもらえばいい」


「ふーん。でも……いや。やめとこ。これこそ永遠に続きそう」


 少女は笑った。


「雨、止まないな」


 オレは空を見た。まだ降り続いていた。


「そうだね」


「傘、使うか? オレは別にいい。止むまで待ち続けていられる」


「うーん……」


 少女は悩んでいた。


「わかった。ありがとう」


 少女は傘を受け取った。


「だけど、この傘、返せないよ? いい?」


「大丈夫。家に帰れば傘ぐらい沢山ある」


「そうだね。不思議と溜まっていくものだもんね。うん。多分、これが正しいんだろうね。ありがとう。使わせてもらうよ」


 少女はオレに握手を求めた。オレはそれにこたえる。そして、少女は手を振って去っていった。良い笑顔で。消えていった。


 オレはもう一度空を眺めた。雨は一向にやまなかった。


 数分待っていると、男が、オレの傍にやってきた。傘をさしていた。オレは、オレと同じで、傘を貸してくれるのかな? と冗談で思った。


「君か?」


「何がです?」


 男がオレを睨み付ける。


「余計な事をしてくれたな」


「はい?」


「彼女はどこへ行った?」


「あっち」


 オレは逆の方向をさした。男はオレの言うとおりにそっちへ向かった。


「セイイチ?」


 男とハナがすれ違いで現れた。男の横をハナが通る。


「おう。ハナか。どうした?」


「フウカが、傘を……」


 ハナの様子は変わっていなかった。


「ありがとう」


「セイイチ、一人で、喋ってた。なんで?」


「いつからいた?」


「なにが? って、いってた」


「……。さっきすれ違った人は?」


「?」分からない。といった表情だ。


「なるほどね。いや。なんでもないよ」


 オレはハナから傘を貰った。


一緒に帰ろうとした時だった。


「あ、雨が止んだ」


俺は空を見上げた。


雨雲が立ち去っていた。


ハナがなんのために来たんだろうという顔をした。


オレはハナの頭を撫でた。そして、二人で、肩を並べて帰るのだった。



この章は、誰も救えませんよ。迷惑ですよ。無意味なものですよ。をテーマにしていました。しかし、大きなことはそうかもしれないが、小さなことは救えますよ。というのが、このお話のつもりです。

まあ、こんな風な終わりでいいかもしれませんね。


今回、短歌に初めて挑戦しましたが、難しいです。というか、黒歴史かも。まあ、いいや。


そんな感じで、終わります。


あと、六月六日は私の誕生日です。はい。


ではでは。

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