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花は散り急ぐ  作者: 夏冬春秋
月の下の美しき人よ
16/48

もう一つのみちの存在に彼らは気づけない

ショートショートのその2。

殴り書きっす。

一話から順を追って読んできた人は先に、次の章を見るのをおすすめします。

特にたいした事はありませんが、それに出てくるキャラを使用している、てだけです。

「おっす。いっち」


 自転車をこいでいると、聞き覚えのある声がした。背中を叩かれた。


「なんだよ。えらく早いな」


「それはそうっすよ。だってテストっすから。それはいっちも同じっしょ?」


「まあな……」


 今日で二日目だった。テストは三日間行われる。その間は帰宅時間が早くなる。午前中で終わるからな。


「今日は苦手な数学があったんすよ。公式とかぐちゃぐちゃでわけわかめっすよ。もう数字に酔ってきてしまうっす。もうしばらくは数字見れないっす」


「あっそ」


 オレは適当に流した。


「いっちはちょっと時間空いてるっすか?」


「テスト勉強したいのだが」


「どうせゴロゴロするっしょ? ゲームやって、気がついたら夜。それから慌ててやり始めるのがお約束っすよ」


「それは君の中だけだろう?」


「あ、それはうちだけなんすか? またまた~。かっこつけようたって無駄っすよ」


「意味が分からないよ」


「今からやってもどうせ煮詰まるんすから、ちょっと息抜きに付き合ってくださいっすよ」


「えー」


 オレは頭を掻いた。確かに、家に帰ってもすぐに勉強するわけではないし、どうせハナに邪魔されるしな。それに、そこまで勉強に力入れているわけでもないし。まあ、少しぐらいはいいだろう。


「まあ、いいよ」


「やった! どうっすか? カラオケ」


「それは断る。オレ、嫌いなんだよ」


「どうしてっすか? 歌うの楽しいっすよ」


「他人にそういう姿を見られたくないの」


「あ、流行りのヒトカラってやつっすね」


「まあ……そうだな」


「うちはいっちと話したいだけっすから、どこでもいいっすよ。どうせなら、ファミレスいくっすか?」


「いや、家に帰ればあるから。適当に公園とかでいいだろう」


「いいっすよ。直射日光が照り付ける真昼の夏の公園のベンチで仲良くお話しするっす」


「含みがあるな。日陰で涼むのもまた楽しいものだぞ」


「そうっすね。うち、暑いのも大歓迎っすから大丈夫っすよ。なんなら激辛ラーメン食べるっすよ」


「見ているこっちが暑くなるから勘弁しろ」


 ハハ、と慧莉は笑った。よくそんな元気があるな、と感心した。





 公園につく。適当な場所に自転車を停める。そしてどこか日陰を探して彷徨う。


 慧莉が何かを見つけたようで「あ!」と指をさす。オレはその指し示す方向を目で追った。そこは一本の巨木があった。そこの真下にベンチがあった。その木がいい感じに日陰の役割を果たしていた。オレはそうしよう。とそこで腰を落ち着かせた。


「暑いな」とオレはシャツをパタパタとさせる。わずかな風だがそれでも心地よかった。額の汗を腕で拭う。


 慧莉はにっこりとしていた。背筋をピンと伸ばして笑っていた。


「いや、暑いっていいっすね。こういうのもまたいいアクセントとなるんすよね」


「あっそ。オレは嫌いだよ」


「いっちは何の季節が好きっすか?」


「定番だな。そうだな……やはり春か。桜とか綺麗だしな」


「おー。そうっすか。うちは夏っすよ。今まさに、この時期が至高っす。一年の中で夏がピークだと思うんすよ。登山で例えると春が登山口から登りで、夏が山頂。秋が下山道。冬は帰宅中。そんな感じっす」


「なんだよ。その例えは」


「ほら、休みが長いじゃないっすか。それも高評価の一つっすよ」


「そうか……。稼ぎ時だしな」


「バイトしてんすか?」


「前にな。今はもうしていないけど」


「そうっすか」


 慧莉は背もたれに寄りかかった。そして天を仰ぎ見た。まばたきをする。そして何か思いにふけっていた。


 オレはため息をついた。風が吹く。木々がそれに揺らされる。葉がこすれ合い、心地のいい音を奏でていた。


 オレ達は涼んでいた。蝉がみんみんとやかしく鳴く木の下で並んで座っていた。


 心地が良かった。なんもしがらみがないような、そんな開放感あふれる気持ちのいい時間、空間だった。


 しばらく、その状態だった。なんだか眠くなった。目蓋が重くなり、それが閉じられようとした時だった。どこからか声が聴こえた。鳴き声だ。セミの鳴き声ではない。そう。子供の泣き声だった。オレはそれに反応して、意識がはっきりとしていった。


 左手側だ。遠かったが、子連れの母親がいた。子供はえんえんと泣いていた。そして、母親がそれをあやしていた。子供は五歳ぐらいだ。


「どうしたんすかね?」


 慧莉がそれに興味を持っていた。


「……さあ? 子供ってよくわからない事で泣くし。転んだでもしたんじゃないか?」


「母親さんが困惑しているっすね」


「子育ては大変だな」


 オレは鼻で笑った。


 その子連れは、子供に怒鳴っていた。とはいっても、「泣くんじゃない!」みたいな感じだ。しつけだ。うん。


「ちょっと、興味……あるっすね。近づいてみますか?」



「興味はまったくないよ。触らぬ神に祟りなし。それで厄介ごとになるのはごめんだ」


 オレはそう言ったが、慧莉はオレの手を引っ張り、無理やり連れていった。オレはしぶしぶ、連れていかれる。


 子供が泣いている原因はなんとなく分かって来た。ただ単に歩くのに疲れて、抱っこをせがんだが、断られたことに泣いているようだった。大した問題ではないだろう。


「ママのケチ。バカ!」と、子供は泣きくじゃって、母親を罵倒していた。


 それが母親の沸点触れたのか、母親は「じゃあ、一人で勝手にして。ずっとそこにいればいい」と言っていた。


「冷たいっすね。いいじゃないっすかね?」


「まあ、そうだね」


「適当っすね」


 オレ達は物陰からその様子をうかがっていた。


 母親はそろそろ限界が近いのか、息が荒くなっていた。


「どうして……わからないのかな? 私だって、疲れているのよ。あんたの為にご飯作ったり、服とかも、色々……。それなのに、どうしてそういう悪口をいうのさ」


 母親の空気が悪くなっていった。怒気をはらんでいった。


「毒ね。毒。私を蝕む毒虫。幸せな家庭を築けると思ったのに、ただ、私を苦しめる。私の視界に入ることすら気持ちが悪い。産むべきじゃなかった。その声も、何もかもがいやなの。死ね。もう……いや」


 母親が子供の肩を掴む。そして、「死んでしまえ」と毒を吐いた。子供は怯えていた。


 空気が怪しくなる。オレは少し、胸が痛んだ。チクリとした。オレは止めるべきか、そう考えた。


「やめて……」慧莉が自分の胸を押さえる。膝から崩れ落ちて、呼吸を乱していた。「聞きたくない」と、耳をふさいだ。


 母親は子供に手を上げた。パシンと。


 子供は叩かれた頬を押さえて、停止していて。そして、遅れて泣く。


 母親は「うるさい!」とまた叩く。頭を叩く。それは止まらなかった。


 慧莉はうずくまる。慧莉が怯えていた。


「やめろ」


 それを見かねたオレは、母親の手を掴んだ。母親は「なによ!」と怒鳴り、その手を振りほどいた。


「いい加減にしたほうがいいだろ? 母親なら、親なら、そういうのをしてはいけないだろ?」


「うるさい! あんたに何が分かるのよ! 学生の分際で! 養われているだけの立場の癖に! 私たちの苦労なんかみじんも感じていないでしょ!」


 オレは思わず手が出そうになる。しかし、抑えた。


 勝手なことだ。そう。自分勝手なことだ。オレは歯を食いしばって殴る衝動を抑える。


「とにかく、やめろ。いいか?」


「何様のつもりよ! ほら、行くわよ」


 母親は子供を無理やり引っ張って、去っていった。オレはその後姿をただ眺めているだけしか出来なかった。


 オレは深呼吸した。気持ちを落ち着かせた。そして、慧莉の傍に駆け寄り、手を差し伸べた。


「大丈夫か?」


「どうもっす。ちょっと……自分を思い出してたっす」


「もしかして……?」


「そうっす。多分、想像している通りっすよ。ああいうの見ると、辛くなるんす」


「そうか」


 オレは何と声をかければいいのか分からなかった。


「まあ、胸糞悪いよな」


 オレも過去の自分を重ね合わせてしまっていたからだ。いやな過去だ。記憶から消し去りたい。


「あの子、大丈夫っすかね」


「さあな」


「どうして、あんなことをしてしまうんすかね?」


「……知らないよ。そんなの」


「愛が……ないからなんすかね?」


 オレ達はとりあえず歩いた。歩きながら話す。


「愛?」


「うっす。悲しい連鎖っすよ。例えば、DV家庭に生まれた子は自分の子供にも同じことをするっすよね?」


「そう聞くな」


「うちが思うに、親から愛を貰えなかったからだと思うんすよ。だから、自分の子供を愛せない。むしろ、子供に愛を求めようとするんすよ。親は子供に愛を与えるべき存在なのに、そうせずに、子供に愛を要求するんす。だから、摩擦が生じる。愛を与えればいつかそれが自分に戻ってくる。それが正しいっす。でも、気づかぬうちに逆をやろうとするから、思い通りにいかなくなるんす。そしてそれが怒り、憎しみに変貌していくんすよ。愛情から憎悪に化けるんっす」


「……なるほどね。盲目となり本当に進むべき道に気づかないんだな」


「そうっす。いっち……もしかしていっちも……?」


 慧莉はオレを見た。


「オレは……まあ、違うと思うよ」


 目をそらし、嘘をつく。


「……そうっすか」


 慧莉は微かに笑った。


 オレ達は少し気まずくなったため、ここで別れる事にした。


 オレは慧莉にメアド交換を強制され、仕方なく教えた。慧莉は毎日メールすると言っていたが、勘弁願いたい。


 そして、オレは家に帰るのだった。




 一週間が経った。オレはリビングでテレビを見ていた。ハナとフウカとコトリは三人でトランプゲームをやっていた。大富豪だ。何度やってもハナが大貧民らしい。ルナは、仕事だ。


 ニュースの時間になり、ぼーっとそれを聞いていた。


 すると、母親が子供を殺害したというニュースが流れた。


 オレは、お茶をすすった。そしてため息をついた。


「誰かがどうしたとしても結果は変わらないんだな」


 オレはそう呟いて、テレビを消した。


どうでもいい小話。

多分、慧莉は本編にあまり関わらないと思います。でも、若干気に入っているので、使いたいという気持ちはあります。

幽香の方も使いたいですが、フウカとかぶるから、使いづらいですよね。

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