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花は散り急ぐ  作者: 夏冬春秋
されど月影の色を知る
12/48

短いです。



「実は私、ストーカーに狙われているんです」


 ファミレスでドリンクバーを注文し、コーラを飲んでいた時、幽香ちゃんが打ち明けたのだ。オレは少し咽てしまった。


「いつから?」


「昨日からです。思い過ごしなんかじゃありませんよ。確かに、後ろにいたんです」


 幽香ちゃんは縮こまり怯えていた。


「昨日って、もしかして電話をくれたとき?」


「はい」


 こくりと頷く。


「何でその時に言わないんだよ」


「だって……家に着いちゃったから……」


「そういう問題じゃないだろうに。今日はどうなのさ?」


「今日はまだそういった気配はしませんが……協力してくれますか?」


「いいけど、捕まえればいいのか?」


「いいえ。私を家に送ってくれればいいです。家にいれば安心ですから」


「その安心の元が分からない。かえって危険だよ。その家が」


「とりあえず、今はそれでいいです。まだ……ちゃんとした核心はありませんから……。もしその核心をつけたら、ちゃんとした協力をお願いしたいのですが」


「だから、それじゃあ遅いんじゃないのか? 何かあってからだともう遅いよ」


「ただ、昨日だけなのかもしれませんので。不安なので、今日、様子を見てください。怪しい人物がいたら、問い詰めましょう」


「まあ……そうだな。分かった。とりあえず君の家まで見送るよ」


「はい。よろしくお願いします」


 とりあえず今日は、家まで送り届ける事にした。




 しかし、特に変わったことはなかった。後をつけている気配もなければ怪しい人物なども見かけなかった。やはり、思い過ごしだったのか。


 オレは幽香ちゃんの家の前までやって来た。坂を上った所にその家があった。まだ誰も帰って来ていないのか、日は沈んでいるにも関わらず、電気は消えたままとなっていた。それを彼女に聞くと、「帰ってくるのが遅いんです」といっていた。


「……なるほどな」


 オレは深呼吸した。幽香ちゃんに「どうしたんですか?」と聞かれたが、「何でもない」と答えた。


「とりあえず今日は大丈夫でした」


 幽香ちゃんはホッとして表情だった。


「でも、まだ分からないからしばらくは送ってくよ」


「いいんですか? ありがとうございます」


「いいよ。暇だし」


「すみません。こういうのにつき合わせてしまって、でも、頼れるのが誠一郎さんぐらいしかいなくて」


「まあ、大丈夫だ」


「本当だったら家でお茶でもふるまうべきなのでしょうが、すみません。親に、他人は家にあげるなって言われているんで……」


「真面目だな。いいよ。オレもお邪魔する気はないから」


「あの、また明日お願いします」



「ああ。わかった。それじゃあな」


「はい。ありがとうございました」


 オレは彼女が家に入るまで見送っていた。玄関の扉が閉じ、部屋に明かりがついたのを確認してから、歩き出した。






「ぶしつけな質問ではありますが、セイイチさんは彼女が出来たのですか?」


 オレはフウカの突然の質問に水を吹き出してしまった。盛大にテーブルに飛ばした。ハナはそれをけらけらと笑っていた。コトリは「キモイ」と言ってその場から離れ、家に向かった。しかし、一人ではそこに登る事が出来なかったのでフウカの膝の上で落ち着いた。


「どうしたんだよ。いきなり」


「いえ。えっと……」フウカは目線を下に移した。「最近、着信が来て携帯をいじることが多くなってきましたし、帰りも遅くなってきているので、もしやと思って質問させていただいたのですが……図星ですか?」


「違う。断じてな。ただの友人だ」


「ユージンいたんだ」


「……一応な」


「でも、良かったですよね。前まではそういう事一切ありませんでしたから」


「やっぱり、ユージンいないんだ」


「フウカは余計なことを言うな。とりあえず、そういう事だ」


 なんだか、身体が熱くなってきたような気がした。あまりいい気分ではない。


「そのコに、なんの、ソーダン、うけたの?」


「人助けをしているのですか。それはとても良い事だと思いますよ」


「ま、ヤクにタたないだろうね」


「コトリよ。少しきついぞ」


「めんご」


 謝る気は毛頭ないという感じだった。


「まあ、オレ一人で解決できる。ハナも必要になるかもしれないがな」


 オレは一つ間を置く。オレはとある考えに至った。


「少し話すよ。実はさ、とある知り合いの女の子がストーカーにあっているらしくてさ。どうすればいいかね、て話だ」


「カンタンじゃん。つかまえろ」


「それが一番楽といえばそうですが……」


「すとーかーて?」ハナが首を傾げる。


「要するに、人のあとをしつこく追ってくるようなやつだ」


「わるい?」


「そりゃあな」


「じゃあ、ハナ、くう!」


 ハナは元気よく言った。


「そうだ。だけど、信憑性が薄いんだよな」


「もしかして、被害妄想かもしれない、という事ですか?」


「その線もなくはないし……」


「ナマエは? そのオンナの?」


「ん? まあ……柊幽香という子だ」


「あっそ。ゆ……か……ひい……らぎ……」


 コトリの様子が一変した。最初はどうでもよさげだったが、急に無言になり頭に手をのせて考え始めた。目が動く。カタカタと。熟考していた。長いこと。


「どうしたの? コトリちゃん」


「ちょっと……そいつに、会えない?」


「会う? 一体どうしたっていうんだ?」


「何か……知っているような……そんな感じが。もしくは、家……そう。家まで、行けば……」


 オレとフウカは顔を見合わせた。そして同時に頷いた。


「じゃあ、明日……いや、今からでもいいか。行ってみるか?」


「……じ、じゃあ……今から……」


「分かった。行こう。一応家は知っているからな」


 思いがけないコトリの記憶への手掛かり。オレはルナにメールで家を空けるという旨をつたえる。鍵はいつもの所にかくしてある、という事もメールで伝えた。


 オレ達は急いで、彼女の家に向かうのだった。





 コトリの記憶の糸は細々と伸びていたのだ。オレ達はそれをたぐる。今にもちぎれそうなその糸を慎重に。糸の先には大きな箱があった。それは遠くてここからでは点でしかない。いくら引っ張り続けていてもその箱は点のままだった。引けている感覚はある。しかし、それがどの距離なのかが分からない。箱は相変わらず点だ。


 その箱はいつになったら手にする事が出来るのだろうか。


 そしてその箱の中身には何が詰まっているのだろうか。

 箱の大きさ、形、中身を想像しながら、糸を手繰り寄せ続ける。やがてそれに変化が起きた。点だと思っていたそれがみるみるうちに輪郭を露わにしてきたのだ。立方体。黒い点ばかりだと思っていたそれはいくつもの色を持ち、事あるごとに色が変化していた。


 まだ手には出来ない。でもあと少しなのだ。それを手に入れるのは。


「あれだ。あれは見たことがある」


 坂の上に小さな神社がある。コトリがそれを指さす。鳥居をくぐると、中に遊具があった。子供の遊び場としても使われているようだ。コトリは「あのブランコ、やったきがする」と言った。石畳の上を歩いて奥へ進んでいくと、賽銭箱があった。でかい本坪鈴があった。


「よく、アソんだような……キがしなくもない」


 コトリはフウカの頭の上に立ち、ぐるりと体を一周させる。暗い神社で人形が動くというのは面妖なものだった。


「サイセン」


 コトリは金を出せと言ってくる。オレはしぶしぶ財布から五円玉を取り出し、コトリの手に握らせた。コトリはその五円玉を投げる。しかし、フウカの足元にそれは落ちた。


 オレは五円玉を拾い上げ、コトリにもう一度握らせた。そして、コトリを持ち、賽銭箱の前に持ってくる。コトリは邪魔をするなと言っていたが、黙って見ていられないものだった。


 コトリは文句を言いながら五円玉を投げる。カランと鈴を鳴らした。手こずっていて、鈴緒を六回ぐらい振ってようやく一回鳴ったのだ。それも弱かったが。


「二礼二拍手一礼な」


 オレはコトリを賽銭箱の前に置いた。「うるさい」とコトリは怒鳴る。そして言った通りの事を実践する。しばらく願い事をしてからフウカの元へ駆けていった。フウカの足によじ登り、膝の上で座る。


「よう、すんだから。いこう」


 フウカの太ももをたたく。フウカは「はいはい」と苦笑しながら車いすを動かす。


 ちなみに、参拝をするなら、入り口にある御手洗で手を清めてから、拝殿前で軽くお辞儀して、賽銭を入れて鈴を鳴らす。それから二礼二拍手一礼。そのあと軽くお辞儀して退くのが神社の参拝の仕方らしい。まあ、憶えていても使う機会は初詣ぐらいしかないから、どうだってよいのだが。


「コトリちゃんは何をお願いしたの?」


「おしえたらイミがない」


「それもそうだね。お願いしたように記憶、戻るといいよね」


「あ……なんで……?」


 コトリは口元を抑えた。案外わかりやすいやつだった。


「バカ!」


 ハナが嬉しそうに言った。


「バカのアンタに、バカとはいわれたくない」


「まあまあ。でも、私もそう願っているよ」


「フウカ……」


「セイイチさん、ここが当たりのようですね」


「みたいだな。という事は、どこかにコトリの家があるはずだ」


 まだ幽香ちゃんの家には着いていなかった。行く途中にこのようにコトリが見覚えのある場所に寄り道しているからだ。それが記憶を取り戻すよい行動に繋がっているのだから文句は言いまい。


「でも、ホントにそうか?」


「というと?」


「あたしの、オモいスごしのような、そんなキが」


「心配はないだろう。それが何かしらに繋がっていくんだからな。例えば、神社がいいヒントだ。お前は神社の中のブランコで遊んだ記憶があるといったが、ここではなかったとしても、その神社は限られてくるだろ? そこからさらに絞り込めば、有益な情報を手に入れられるってものだ」


「ふーん。ま、そうだね」


「その……幽香さんという人とお知り合いなのかもしれないでしょ? もしかして、あのブランコで遊んだとか?」


「アイマイ。わからない。でも、ダレかと、オンナのコといた、キがしなくもない」


「とりあえず、行ってみようぜ。もうすぐだ」


 オレ達は記憶の糸を引っ張り続ける。箱までもう少しで手が届きそうだった。


 そしてとうとうその箱を掴んだのだ。


 箱は固い鎖で固められていた。鍵穴があり、鍵がなければその中身を開けられないのだ。壊せそうでも壊せなかった。


「ここ……キたことある。このイエ」


 幽香ちゃんの家の前でコトリがそう言った。二階に明かりがついていたので、まだ起きているのが分かる。


「もしかして……あたしの……イエ?」


「どうする? 行ってみるか?」


 オレはコトリに尋ねる。コトリはゆっくりと首を横に振った。


「まだ……カクシンがないし……コワい」


「しかし、行ってみてもいいんじゃないか?」


「セイイチさん。どういう風に説明をするのですか? それを今、考えていますか?」


「い、いや……」


「とりあえず、ここが分かった。今日の所はそれだけでいいじゃないですか。またここに来ればいいのですよ。手掛かりは掴んだのですから」


「そう……アセりはキンモツ」コトリは空をさした。「ルナ、いってた。ソラをみろと。あたしはあせらない。ゆっくりいく」


「わかったよ。それよりも、他にコトリに関しての手掛かりがあるかもしれないから、もう少しこの辺を見て回ろうか」


「そうですね」


 鍵がここにある。それがわかっただけでも、大きな一歩であるだろう。

次は明日です。

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