第41話
その間にも左右にステップを踏みながら懐に飛び込もうと試みたが、上手く間合いを維持されなかなか思う様には近付けず苛立ちから軽く舌打ちがでた。
「くっくっくっ、避けるだけではどうにもならんぞ?」
始めこそ時間稼ぎの為にわざと槍に翻弄されてるフリするつもりだったのが、予想以上の動きに大きく体勢を崩す。
そこへトドメッ!とばかりに突き刺さしてきた刃先を、残した足を駒のように回転させて躱し、引き戻すタイミングに合わせ一気に地を蹴りジャベリンとの間合いを詰めた。
ーー何時までも翻弄されるかよ!こちとらとっくにバージョンアップ済みだっつーの!
一瞬で距離を詰められた事に驚愕する表情へニヤリと不敵な笑みを返し、地面すれすれに飛び込んだ状態から拳で地面を殴りつけ、無理矢理にしゃがみ込んだ体勢へとす更に両足で地面を蹴りつけ、全身を使ったアッパーを顎下目掛け叩きつける。
「喰らえっ!カエル跳びアッパーーッ!」
拳の先に確かな感触を得ながら空中へと吹き飛ばしたジャベリンの胴体目掛け、追撃に対空砲の様なスマッシュを二撃、三撃と与え更なる高みへと飛ばす。
そのままジャベリンは錐揉み状態で自身の身長以上の高度まで上昇→某星座の戦士の様に顔面から着地した後、ピクリとも動かなくなった。
そこへ毎度な医療班が駆け付け頭の上で両腕交差させ勝利確定!
チラリと後ろを振り返ると自分達の席にはメイアとキースだけが座ってた。
ーーっ、間に合わなかったか。
本来ならもう少し時間を延ばす予定だったが、ジャベリンの実力に余裕も無くし結果として試合を早々と終わらせてしまった事に項垂れかけると、黒毛の人狼が観客席から飛び降り颯爽とこっちに走って来た。
「いや〜はっは〜!ニアの応援にと出向い来てみたら…まさかこんな面白そうな事に巻き込まれるとは思わなかったぜ!」
ニアの知り合い?
マジで?
「無理を承知で頼む。後一人なんだっ。」
「あぁ、あの2人から話は聞いてるから任せとけ!」
「それに同族の礼もあるしな。思いっ切り暴れても構わんのだろ?」
「あぁ、思う存分やってくれ!」
まさかニアの知り合いと会えるなんて。マジで人?任せとは情けないけどお願いしますと頭を下げ急いで審判の方へと走る。
「はっは〜!ニアに変わって俺様の登場だぜっ!」
人狼の宣言に「誰が出て来ようと次が最後だ!」とばかりにサイスが余裕を見せてくれたおかげで、代理人としても承認され3戦目を捨てずに済んた。
「あ~っと、ここで現在負傷中のニア選手に代わり力強い代理人の登場だぁ~~?」
「くっくっくっ、ジャベリン如きが油断しおって。」
「アイツは技も未熟な若輩者ゆえ、仕方ない。」
だ~か~らっ、どこの悪役だよっ!おまえらっ!!
「ここはワシが奴らの希望を根こそぎ狩ってやろう。」
「いやいや、サイス様が出るまでもなくこのレイピアに。」
「ふんっ。そんな細身剣よりここは我がバリソンが切り刻んでくれる。」
ーーへっ、なに?なんで揉めてるのあの人達?え?えぇ〜!?ジャンケンまでしだしたけど本気出すとか言って両手を握って腕を捻りながらなんか隙間見てるし……。
ーー馬鹿なの?ねぇ、馬鹿なの?
………そんなこんなであいこが続いたらしく、暫くしてからバリソンが出てきたけど、レイピアが「後出しだ~」とか後ろから叫ぶのをサイスが宥める姿に絶句。
「え〜、コホン。それでは皆様お待たせ致しました~!長らく続いた団体戦を締め括る最終戦~~!いよいよ開始で〜すっ!!」
バリソンは短剣を右は順手、左を逆手に構え、かなり低く腰を落としたままジリジリと人狼との距離を詰めていくのに対し、人狼は長い舌で上唇?をペロリと舐めると、予備動作無しのロケットダッシュで突っ込んで行った。
ーーは、はやいっ!俺の肉体強化2と同等ぐらいの速度で動いてやがる。
たった一歩で間合いを潰し突っ込んで来た人狼にタイミングを合わせ、刺す様な動きで右手の短剣を振りかざすバリソン。
其れを更に一歩踏み出した足で慣性の法則を無視したように速度を消し、タイミングを崩してから逆にカウンター気味に右手の爪で切り裂きにかかる人狼。
僅か数秒の間の高度な駆け引きはバリソンが更にその上をいき、斬撃で攻撃軌道を変えて人狼の爪を弾く形で引き分けた様に見えた。
だが、人狼はそれが誘いだと言わんばかりに弾かれた腕ごと身体を半回転させ腹部を狙って回し蹴りを放ち、バリソンも更に一歩踏み込み、足が伸びきる前に肘を足裏に打ち込んで防御していた。
ちょ…なんつ~バトルだよっ。
運動神経と反射能力は互角みたいだが、余裕の表情で笑ってる二人を見てると、さっきの攻防が挨拶だと気付かされふと我に返れば、無意識に手を握りしめ立ち上がって戦いを見ていた。
「ヒュー!あんた人間の癖になかなかやるねぇ。」
「へっ、速さ勝負でこのバリソンが獣人如きに遅れを取るわけねぇだろ。」
バリソンは口元に笑みを貼り付けたまま更に速度をあげ、強化してる俺の眼でも姿がブレて見えたかと思った瞬間、右手の短剣を横薙ぎに斬りつけ、反対側から左の短剣を突き刺す様に動かし、更にはタクトを振る様な動きで右手の短剣を頭上から降り下ろす準備にと、息つく暇もない連続攻撃を繰り出してきた。
しかも力まず流れる様に短剣を操る無駄の無いその動きは、一種の舞のような優雅な雰囲気さえ醸し出している。
最初は見切っていた筈らしい人狼も、四方八方から不規則に切り付けてくる刃に、少しづつ体毛を切られたり薄皮を切られたりしていく。
「ヒュー、まさかここまで速いとはね~。」
防御しきれないと考えたのか、後ろに大きく跳んで距離をとって対峙し直す人狼。
タンッ、タンッ、と踵を地面につけずボクサーの様な動きでに上下のリズムを取りながらバリソンを睨みつけ、牙を剥き出しベロリと鼻先を舐めると此方も笑みを浮かべる。
「そろそろ、本気で…いっくよ~っ。」
なぜに女言葉?
掛け声をあげて一際高く跳ぶと、空中で壁でも蹴ったのかと思える程の急な反転で身体をねじり、バリソンの頭上目掛けて落下してくる。
「甘いわっ!!」
バリソンも叫ぶと両腕を顔の前で交差させながら短剣を持ち直し、防御の体勢をとりつつ腕の隙間から人狼を見上げる。
そこへ吸い付くように落下してきた人狼は、両足からもの凄い速さの連続蹴りを繰り出し、それに呼応する様にバリソンも腕が残像で何本にも見えるような追撃を繰り出す。
ーーす、すげぇ〜。
両者の攻防に只々感心しながら視力に意識を集中させると、僅かに人狼の蹴りの方が速いらしく器用に剣先に足の爪を合わせ突きを防ぎ、剣の腹を足の指で弾いたりと更に驚愕する事実を見せつけられた。
そのまま速度も落ちず繰り出す連続蹴りの連弾を上半身に叩き込み、防ぎきれなかったバリソンを台がわりに地面に跳ぶと、一瞬の着地から跳び上がり綺麗な回し蹴りがバリソンの頸動脈に決まった。
数秒…、痙攣しながら両手に持っていた短剣を落とすと、そのまま前倒しに土下座の格好で倒れていく。
「試合~~しゅ~りょ~~だ~!勝~者っは、ヒ~ロ~~ズ!!」
審判すら口を挟めなかった猛攻を制した人狼が片腕を天高く突き上げると、それに反応したかのように一斉に大歓声がおこり、紙吹雪を舞い飛ばしながら観客席は総立ちになりながら拍手が鳴り響いた。
こうして最後の最後で人頼みになった団体戦も無事に終わり、緊張の糸が切れたようにその場で椅子に座り込み思いっ切り深く息を吐く。
その後は団体戦の優勝式が盛大に終わると退場口に集まっていた人集りに囲まれ、揉みくちゃ状態にされながらもホテルまでなんとか辿り着き、入口で待機してたらしい警備員に護衛されながら中に入る。
「お帰りなさいませ。ニア様が司祭様と共にお部屋へお戻りになっております。」
執事メンのいつも通りな丁寧な言葉使いに軽く頷き返し、俺達は急いでニアの部屋に向かった。
バンッ
「ニア、体調はどうだ?」
「……来たわよ馬鹿が。」
勢いよく扉を開け過ぎたみたいで派手な音をたててしまい、サシャがうんざりしたような呟きを吐きだし目を覚ましていたニアは俺を見て苦笑する。
「怪我の具合はどうなんだ?」
「当然完治よ!私達寺院の医療班が威厳をかけて即日治療済み!」
キースには普段通り接してるサシャをジト目でみるが、澄ました顔で無視された。
「すまない……私が油断したばかりに。」
「気にすんな。結果、完全勝利したし。」
「……はぁ?」
サシャがニアとの会話に割り込んで来ると、襟首を掴んで部屋の隅に引っ張る。
「ニアちゃん、ちょっとコイツ貸してね。」
ニアには柔和な笑顔、俺には睨みつける様な眼光でヒソヒソと話し掛けてきた。
コロコロと忙しく態度かえる奴だなぁ。
「ちょっと、完全勝利ってどういう事?」
「……いや、言葉のまんま。」
「はぁ?特別枠にアンタ以外も勝てたって言うの?」
「リリアと人狼が勝ったけど?」
「はぁ~~?何よそれ?」
思わず出たらしい大声に、ベットの上から怪訝な表情を向けてくるニアに慌てて笑顔で取り繕うサシャ。
「あ、こっちの話だから。なっ、なんでも無いから、ねっ♪」
ーーやっぱ忙しい奴…。
んで、サシャの話を簡単にすると特別枠の選手が決まった時点でチームとしての勝ちは無くなったと勝手に思いこんでいた事が解り、次の対策を立てるべくニアに付き添いと言う形で俺を待ってたらしい。
「相手は寺院の中でも異端者狩り…殺しのプロよ。それに無傷で三人も勝ったって言うの?」
ーーえ?何その設定?異端者狩りとか恐すぎなんですけど。
「あぁ、確かにリリアは無傷だったな。」
「アンタも怪我してる風じゃ無いじゃない?」
「いやいや、ここ切られたし。」
槍で切り付けられた頬を指差すと、拳が飛んできました。
「もう、あれこれ心配した私はなんだったのよ?個人戦もどうせ余裕なんでしょ?」
「かもな。はははっ。」
渇いた笑いでごまかし、二人で改めてニアの傍へと戻ると代理で戦ってくれた人狼の話をしてみた。
「そういえば、ニアの応援に来たって人狼が居たんだが知ってる?」
「私の応援に人狼?」
「知り合いじゃ無いのか?」
「そいつの特徴を教えてくれ。」
ニアは訳が判らないといった表情で聞き返してきたので、上半身剥き出しの狼男的な外見を簡単に説明すると黙ってしまった。
「確かに狼族の血縁者なら村に数人はいるが………誰だろう?」
ニアが招待したわけじゃ無いのか?
なら彼奴は一体、誰だったんだ?
とりあえずは考えこむニアに今日は一日用心の為にも養生するように言い含め、キースには薬を取りに部屋へ戻ってもらうと、メイアとサシャが引き続き看病するからとそのまま残った。
ーーあれ、そういえば…リリアはどこ行った?
「あれ?リリアは?」
「さっきまで私の横に居ましたけど…そういえば、本当に何処にいったんでしょう?気付きませんでした。」
メイアも不思議そうに小首を傾げ通路を見に行ったが、何処にも見当たらなかったらしい。
そのままニアの部屋を出て下に降りて執事メンにも聞いてみたが、見掛けて無いと言われ部屋に戻った。
ーーまぁ、いつもの行動と言えばそれまでだけど…本当どこ行ったんだ?
行方不明なのは気になるが、リリアの事だから大丈夫だろうと、さほど心配もせずベットに寝転がるとすぐに爆睡してしまい、翌朝全身を襲う筋肉痛に悶えながら食堂に行ってみると、キースが決勝戦での俺とリリアの武勇伝を宿泊客等にさも自分の事の様に語ってるのが見えた。
それを面白半分で扉の横からニヤニヤと眺めていたら、メイアが不思議そうな顔で横を通り過ぎ、キースの言動に気付き説教をしだした。
ーーありゃりゃ〜。キースってば将来、絶対尻に敷かれるタイプだな。
「……で、結局リリアは帰って来なかったのか?」
「随分とあの女にユージはご執心だな。」
何故か朝から声のトーンを落としジト目で見つめてくるニアに内心小首を傾げた。
「居ないから心配してるだけ、なんだけど……。なんかあったのか?」
「……別に。」
何とは無しにピリピリとした雰囲気を纏うニア若干困惑していると、さっきメイアに説教されてたキースがワインを注いでくる。
「ま、まぁ今日は個人戦の最終日だし。全員で応援に行くから頑張れよ。」
「ああ、全力は尽くすよ。」
軽く応えながら大皿に乗ってた厚切り肉の固まりを頬張る。
昨日の団体戦の優勝祝いとしてホテルからのささやかなサービス品らしいが、これがまたピリ辛で絶妙な甘さがあり旨味が後をひき、試合前だというのに結構な量を食べてしまった。




